「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性(3)
ステロイド抵抗性については、
「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性
「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性(2)
と既に2回記しました。
抵抗性と依存性の違い(イメージ図)は→こちら。
1999年に東京都が製作した「アレルギー疾患ガイドブック」では、既に依存性と抵抗性とは区別して記されています。筆者の現横浜国大皮膚科教授の池澤善郎先生の炯眼に敬意を表します(→こちら)。
さて、今回紹介する文献は、
1)Induction of corticosteroid insensitivity in human PBMCs by microbial superantigens.
Hauk PJ, J Allergy Clin Immunol. 2000 Apr;105(4):782-7.
2)Superantigen profile of Staphylococcus aureus isolates from patients with steroid-resistant atopic dermatitis.
Schlievert PM, Clin Infect Dis. 2008 May 15;46(10):1562-7.
の二つです。以下のサイトから無料でダウンロードできます。
http://www.jacionline.org/issues
http://cid.oxfordjournals.org/content/46/10/1562.full.pdf
1)は、「塗っても効かない-ステロイド抵抗性」のLeung先生の論文で引用されているグラフのオリジナルが掲載されている論文です。
リンパ球に黄色ブドウ球菌が産生するスーパーアンチゲンを作用させて、活性化を見ているのですが、これがステロイドの添加によって抑制されない、ということが示されています。黄色ブドウ球菌が皮膚表面に繁殖してスーパーアンチゲンを産生して炎症を増幅させている状況では、ステロイドを外用しても治まりにくいということですね。
「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性
「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性(2)
と既に2回記しました。
抵抗性と依存性の違い(イメージ図)は→こちら。
1999年に東京都が製作した「アレルギー疾患ガイドブック」では、既に依存性と抵抗性とは区別して記されています。筆者の現横浜国大皮膚科教授の池澤善郎先生の炯眼に敬意を表します(→こちら)。
さて、今回紹介する文献は、
1)Induction of corticosteroid insensitivity in human PBMCs by microbial superantigens.
Hauk PJ, J Allergy Clin Immunol. 2000 Apr;105(4):782-7.
2)Superantigen profile of Staphylococcus aureus isolates from patients with steroid-resistant atopic dermatitis.
Schlievert PM, Clin Infect Dis. 2008 May 15;46(10):1562-7.
の二つです。以下のサイトから無料でダウンロードできます。
http://www.jacionline.org/issues
http://cid.oxfordjournals.org/content/46/10/1562.full.pdf
1)は、「塗っても効かない-ステロイド抵抗性」のLeung先生の論文で引用されているグラフのオリジナルが掲載されている論文です。
リンパ球に黄色ブドウ球菌が産生するスーパーアンチゲンを作用させて、活性化を見ているのですが、これがステロイドの添加によって抑制されない、ということが示されています。黄色ブドウ球菌が皮膚表面に繁殖してスーパーアンチゲンを産生して炎症を増幅させている状況では、ステロイドを外用しても治まりにくいということですね。
下図は、上と同じ実験を、SEB(スーパーアンチゲンの一つ)とPHA(スーパーアンチゲンではないがリンパ球を非特異的に活性化させる物質。ステロイドの添加により作用が抑制される)の濃度を変えて確認した結果です。リンパ球活性化の効果自体は容量依存的ですが、SEBがステロイドの影響を受けないという点は、毒素の量に関わりません。
下図のBはスーパーアンチゲンを作用させたリンパ球のGRβ(ステロイドレセプターβ:機能しないレセプターで、これの発現の多いリンパ球は、ステロイドに反応しにくくなる)を染色したものです。SEBに接触することで、リンパ球のGRβが増加することを視覚的に示したものです。
下図は、PHAとSEBによるGRβ発現細胞の増加数が、抗IL-4抗体の添加によってどう変るかをみたものです。PHAによってもある程度はGRβは増加する(ステロイド抵抗性が出現する)が、それはIL-4の産生を介していること、および、SEBによるGRβの誘導は、IL-4以外の介在物質によって、行われるようだ、ということを示しています。
次に2)の文献です。Group1は、ステロイド抵抗性アトピー性皮膚炎患者(12日間のステロイド外用による重症度の改善率が35%未満であった症例)由来の黄色ブドウ球菌、Group2は、健康な女性の膣から採取された黄色ブドウ球菌、Group3は、アトピー性皮膚炎患者一般(ステロイドへの反応性は検討されていない)から採取された黄色ブドウ球菌、です。SEA~TSST-1は、黄色ブドウ球菌が産生するさまざまな毒素です。
このうちスーパーアンチゲンと呼ばれるリンパ球活性化能のある毒素の産生能を、Group1~3で比較してやると、下表のようで、Group1と2、1と3ではp<0.001で有意差ありですが、Group2と3ではNSすなわち有意差無しです。ステロイド抵抗性アトピー性皮膚炎患者の皮膚表面には、スーパーアンチゲン産生能の高い黄色ブドウ球菌が存在する、ということがわかります。
下図は、Aの□がステロイド抵抗性アトピー性皮膚炎患者からの黄色ブドウ球菌の培養後のコロニー数を計測したもの、Cの■はSEB、▲はSEC、□はSEAの量で、菌数が増えれば、それに応じてスーパーアンチゲンも増えることを示しています。
2008年の2)の論文は、2000年の1)の論文を受けて、実際にステロイド抵抗性のアトピー性皮膚炎患者の皮膚表面には、スーパーアンチゲンを産生するブドウ球菌が多いのか?を調べたものです。アトピー性皮膚炎の患者の皮膚には黄色ブドウ球菌が多い、ということはわかっており、ステロイド外用剤抵抗性という現象に関係するであろうという推測はされていましたが、それは単純に菌量の問題だけなのか、個々の株の毒素産生能の問題なのか、という検討はされていませんでした。2008年の論文は、個々の株の毒素産生能が関係しているという点をあきらかにしたものといえます。
それでは、皮膚の黄色ブドウ球菌対策として、どのような方法を取ればいいか?というと、「塗ってもきかない― ステロイド抵抗性」の記事の後半部分に記した通りなのですが、Leung先生は、これに加えて、「頻回に入浴する」ことで、表在菌を洗い流す、という提案というか、実際にそういう治療をしている(た?:1996の時点では)ようです(→こちら)。
Leung先生のステロイド抵抗性への対処(というよりも黄色ブドウ球菌への対処)は、頻回に入浴することで黄色ブドウ球菌を洗い流し、そのうえで、ステロイド外用剤で抑える、というものです。
このあたりを見ると、Leung先生、抵抗性への造詣は深いけれども、依存性への認識はどの程度あるのか、私にはよくわかりません。
依存性というのは、ステロイド外用剤を中止すると、外用により表皮バリアが破綻してしまっていたためにリバウンドを生じ、止めるに止められない、といった状態をいうので、抵抗性とは全く異なるものです。
私は、イソジン消毒薬を用いた表皮ブドウ球菌対策を軸に置いていたわけですが、これは、イソジン消毒薬を塗って5分くらい経ってからシャワーで洗い流す、という作業です。今回の論文を読みながら思ったのですが、除菌もさることながら、「洗い流す」ということにも意味があるのかなあ?とも思います。産生されたスーパーアンチゲン毒素が、皮膚から真皮に入ってリンパ球を活性化させるというメカニズムを考えたとき、例えば抗生剤で静菌・殺菌しても、すでに産生されたスーパーアンチゲンは消えるわけではないです。入浴や、イソジン消毒のあとのシャワーで皮表を洗い流す作業で、スーパーアンチゲン毒素も洗い流されるのかもしれません。
ステロイド外用治療中で、「効きが悪くなってきた、依存か?」と不安になった方は、いったん、しっかり入浴して皮表を洗い流す方法で菌数を減らし(+毒素を洗い流す)て、その上でステロイド外用剤の効きを確認してみると良いのかもしれませんね。もしそれでまた普通に「効く」なら、それは抵抗性であって、とりあえず依存に陥ったわけではないということでしょう。
☆ーーーー☆ーーーー☆ーーーー☆ーーーー☆
以下は、ステロイド抵抗性の最近の論文を読んで、わたしなりに考えたこと、というか、想像です。仮説といってもいいです。はっきりした根拠に由来する話ではないので、軽く読み流してください。
「ステロイド抵抗性」には四つのステージがあるのではないか?と思います。
1)まず、正常な状態では、PHAによる刺激でみられるようにリンパ球の活性化(増殖)とともに、GRβが一定数発現します。これはIL-4を介する経路、すなわちTh2系によってもたらされます。しかしGRα(ステロイドに反応するレセプター)のの発現のほうが優位なので、リンパ球はステロイドによって負のフィードバックを受けます。GRβの発現には、何らかの生理的意味があるのでしょう。
2)黄色ブドウ球菌のスーパーアンチゲンによって、IL-4を介しない経路でGRβが誘導された場合、これは、強力でGRαよりも優位となり、そのリンパ球はステロイドに不応性となります。このリンパ球は、アトピー性皮膚炎では、当初は皮膚あるいは皮疹部に局在しているはずです。 スーパーアンチゲンとの接触の場であるからです。
3)皮膚あるいは皮疹部が、何らかの抗原刺激を受ければ、リンパ球は活性化します。GRβ優位、すなわちステロイド不応性のリンパ球が、全身を駆け巡るわけです。この状態では、血液中の単核球(多くはリンパ球)のGRβ発現率は上昇しているでしょう。Hägg先生の報告した「アトピー性皮膚炎のステロイド抵抗例」です(→こちら)。
この状態では、ステロイド外用のみならず、内服や注射などステロイド全身投与にも反応が悪くなっているはずです。喘息で報告されている「ステロイド抵抗性」と同じ状態です。
また、抗原刺激と同時に、局所にステロイドを外用すれば、GRα優位のリンパ球は抑えられ、GRβ優位のリンパ球だけが活性化されます。ということは、ステロイド外用剤の使用は、ステロイド抵抗性を助長します。
4)ステロイド不応性のリンパ球というのは、ステロイドによる負のフィードバックを受けないということですから、働き続け、ついには「過労死」してしまうと思います(ここは私の想像です)。生体の細胞というのは、一定回数の分裂増殖をすると、寿命で死んでしまいます。GRβ優位に転換させられたリンパ球というのは、決死隊のようなものです。働きに働いて、ついには死滅してしまうでしょう。
すると、そのあとに何が残るかというと、GRαもβも発現の悪い、言ってみれば鈍くてマイペースなリンパ球です。これらのリンパ球は最初からステロイドに不応です。おそらくスーパーアンチゲンに対する反応も弱く、また、たくさん集まらないと、働きにならないのだと思います。これが集まって結節状の病変を作っている状態が、乾先生の報告した特殊な一例ではなかろうか?と考えます。
まあ、これは、繰り返しますが、わたしの想像(イメージ)です。若干の根拠はあることなので、空想や妄想とまでは言いませんが。話半分に読んでおいてくださいね。
2011.12.05
それでは、皮膚の黄色ブドウ球菌対策として、どのような方法を取ればいいか?というと、「塗ってもきかない― ステロイド抵抗性」の記事の後半部分に記した通りなのですが、Leung先生は、これに加えて、「頻回に入浴する」ことで、表在菌を洗い流す、という提案というか、実際にそういう治療をしている(た?:1996の時点では)ようです(→こちら)。
Leung先生のステロイド抵抗性への対処(というよりも黄色ブドウ球菌への対処)は、頻回に入浴することで黄色ブドウ球菌を洗い流し、そのうえで、ステロイド外用剤で抑える、というものです。
このあたりを見ると、Leung先生、抵抗性への造詣は深いけれども、依存性への認識はどの程度あるのか、私にはよくわかりません。
依存性というのは、ステロイド外用剤を中止すると、外用により表皮バリアが破綻してしまっていたためにリバウンドを生じ、止めるに止められない、といった状態をいうので、抵抗性とは全く異なるものです。
私は、イソジン消毒薬を用いた表皮ブドウ球菌対策を軸に置いていたわけですが、これは、イソジン消毒薬を塗って5分くらい経ってからシャワーで洗い流す、という作業です。今回の論文を読みながら思ったのですが、除菌もさることながら、「洗い流す」ということにも意味があるのかなあ?とも思います。産生されたスーパーアンチゲン毒素が、皮膚から真皮に入ってリンパ球を活性化させるというメカニズムを考えたとき、例えば抗生剤で静菌・殺菌しても、すでに産生されたスーパーアンチゲンは消えるわけではないです。入浴や、イソジン消毒のあとのシャワーで皮表を洗い流す作業で、スーパーアンチゲン毒素も洗い流されるのかもしれません。
ステロイド外用治療中で、「効きが悪くなってきた、依存か?」と不安になった方は、いったん、しっかり入浴して皮表を洗い流す方法で菌数を減らし(+毒素を洗い流す)て、その上でステロイド外用剤の効きを確認してみると良いのかもしれませんね。もしそれでまた普通に「効く」なら、それは抵抗性であって、とりあえず依存に陥ったわけではないということでしょう。
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以下は、ステロイド抵抗性の最近の論文を読んで、わたしなりに考えたこと、というか、想像です。仮説といってもいいです。はっきりした根拠に由来する話ではないので、軽く読み流してください。
「ステロイド抵抗性」には四つのステージがあるのではないか?と思います。
1)まず、正常な状態では、PHAによる刺激でみられるようにリンパ球の活性化(増殖)とともに、GRβが一定数発現します。これはIL-4を介する経路、すなわちTh2系によってもたらされます。しかしGRα(ステロイドに反応するレセプター)のの発現のほうが優位なので、リンパ球はステロイドによって負のフィードバックを受けます。GRβの発現には、何らかの生理的意味があるのでしょう。
2)黄色ブドウ球菌のスーパーアンチゲンによって、IL-4を介しない経路でGRβが誘導された場合、これは、強力でGRαよりも優位となり、そのリンパ球はステロイドに不応性となります。このリンパ球は、アトピー性皮膚炎では、当初は皮膚あるいは皮疹部に局在しているはずです。 スーパーアンチゲンとの接触の場であるからです。
3)皮膚あるいは皮疹部が、何らかの抗原刺激を受ければ、リンパ球は活性化します。GRβ優位、すなわちステロイド不応性のリンパ球が、全身を駆け巡るわけです。この状態では、血液中の単核球(多くはリンパ球)のGRβ発現率は上昇しているでしょう。Hägg先生の報告した「アトピー性皮膚炎のステロイド抵抗例」です(→こちら)。
この状態では、ステロイド外用のみならず、内服や注射などステロイド全身投与にも反応が悪くなっているはずです。喘息で報告されている「ステロイド抵抗性」と同じ状態です。
また、抗原刺激と同時に、局所にステロイドを外用すれば、GRα優位のリンパ球は抑えられ、GRβ優位のリンパ球だけが活性化されます。ということは、ステロイド外用剤の使用は、ステロイド抵抗性を助長します。
4)ステロイド不応性のリンパ球というのは、ステロイドによる負のフィードバックを受けないということですから、働き続け、ついには「過労死」してしまうと思います(ここは私の想像です)。生体の細胞というのは、一定回数の分裂増殖をすると、寿命で死んでしまいます。GRβ優位に転換させられたリンパ球というのは、決死隊のようなものです。働きに働いて、ついには死滅してしまうでしょう。
すると、そのあとに何が残るかというと、GRαもβも発現の悪い、言ってみれば鈍くてマイペースなリンパ球です。これらのリンパ球は最初からステロイドに不応です。おそらくスーパーアンチゲンに対する反応も弱く、また、たくさん集まらないと、働きにならないのだと思います。これが集まって結節状の病変を作っている状態が、乾先生の報告した特殊な一例ではなかろうか?と考えます。
まあ、これは、繰り返しますが、わたしの想像(イメージ)です。若干の根拠はあることなので、空想や妄想とまでは言いませんが。話半分に読んでおいてくださいね。
2011.12.05