「自然治癒」のメカニズム
今回記しますことは、アトピーとは直接関係ありません。「自然治癒」のメカニズムが分子生物学的に、ある皮膚疾患(魚鱗癬のある特殊なタイプ)において解明された、というお話です。「アトピーは自然治癒傾向のある疾患だ」とは、よく言われますし、わたしもそう思います。しかし、この「自然治癒」とは何か?ほんとに治るのか?再発しないのか?再発可能性が否定できないなら、「治癒」なんて言葉おかしいじゃないか?と感じる人は多いでしょう。その疑問に対する解説です。 出典はnature newsの2010年8月号です。
http://www.nature.com/news/2010/100826/full/news.2010.434.html
もっともこれは、Scienceの330,94(2010)の原著をわかりやすく報じたものですので、原著論文読んでみたい方は、こちらをどうぞ。
http://www.sciencemag.org/content/330/6000/94.abstract
魚鱗癬といのは、いくつものタイプがあり、その中には明らかな遺伝子異常であることが判明しているものもあります。ここで示されているのは、その中でも特殊なタイプで、年齢を経るにしたがって、パッチ状に正常皮膚に置き換わっていく、というものです。(写真の白い部分が正常化した皮膚)
http://www.nature.com/news/2010/100826/full/news.2010.434.html
もっともこれは、Scienceの330,94(2010)の原著をわかりやすく報じたものですので、原著論文読んでみたい方は、こちらをどうぞ。
http://www.sciencemag.org/content/330/6000/94.abstract
魚鱗癬といのは、いくつものタイプがあり、その中には明らかな遺伝子異常であることが判明しているものもあります。ここで示されているのは、その中でも特殊なタイプで、年齢を経るにしたがって、パッチ状に正常皮膚に置き換わっていく、というものです。(写真の白い部分が正常化した皮膚)
このタイプは、17番染色体の長腕に異常があり、それは優性遺伝形式をとる、すなわち、染色体には母方と父方の二つの相同染色体があるわけですが、そのどちらか片方にこの異常があると発症してしまう、ということがわかっています。
表皮細胞というのは、表皮の中にパラパラと分散している表皮幹細胞が、絶えず細胞分裂して、細胞レベルでの新陳代謝を繰り返しています。この細胞分裂にあたっては、染色体はまったく同じクローンの細胞が複製されていくだけです。したがって、相同染色体の片方に異常がある表皮は、通常いつまでたっても異常なままです。
しかし、ときに、突然変異のメカニズムの一つである、遺伝子組み換えが起こります。これは、頻度は低いものの、一定の率で起こります。このときに組み替え部分に遺伝子の異常部位が含まれていると、通常は、
(異常+正常)→(異常+正常)+(異常+正常)
とクローンのように同じ細胞が増えていくはずのところ、 (異常+正常)→(異常+異常)+(正常+正常)
となります。すなわち、二本とも正常な相同遺伝子の細胞が、突如出現することとなります。(原著で用いられている図で示すと、下図のようです。)
表皮細胞というのは、表皮の中にパラパラと分散している表皮幹細胞が、絶えず細胞分裂して、細胞レベルでの新陳代謝を繰り返しています。この細胞分裂にあたっては、染色体はまったく同じクローンの細胞が複製されていくだけです。したがって、相同染色体の片方に異常がある表皮は、通常いつまでたっても異常なままです。
しかし、ときに、突然変異のメカニズムの一つである、遺伝子組み換えが起こります。これは、頻度は低いものの、一定の率で起こります。このときに組み替え部分に遺伝子の異常部位が含まれていると、通常は、
(異常+正常)→(異常+正常)+(異常+正常)
とクローンのように同じ細胞が増えていくはずのところ、 (異常+正常)→(異常+異常)+(正常+正常)
となります。すなわち、二本とも正常な相同遺伝子の細胞が、突如出現することとなります。(原著で用いられている図で示すと、下図のようです。)
写真のパッチ状の正常皮膚は、それぞれの部位を担当する表皮幹細胞が、相同染色体組み換えを起こした結果と考えられています。遺伝子疾患でありながら、時間経過とともに自然治癒がおきたわけです。「自然治癒」のメカニズムを理解するヒントになる話だと思います。
アトピー性皮膚炎の場合は、もっと複雑で、単一遺伝子異常ではなく、なおかつ環境的な後天要因も関係することが観測されているので、上の魚鱗癬(のそれも特殊なタイプ)のようには明快に説明はできませんが、「遺伝要因があるからといって、自然治癒しないというものではないかもしれない」という点は、希望を与える要素です。
少し話がそれますが、わたしは、アトピー性皮膚炎という疾患における遺伝と環境の意義というのは、統合失調症におけるそれに良く似ていると思います。
統合失調症もまた、遺伝と環境二つの要因によって発症するとされています。それは、一卵性双生児において片方が統合失調症を発症した場合に、他方も発症する率が50%(一般的な発症率は1%なので、はるかに高い、しかし100%ではないので、遺伝だけではない)という事実で裏付けられています。
また、統合失調症の場合も、脆弱遺伝子といって、その遺伝子異常があると発症しやすい、という遺伝子がいくつも見つかっていますが、単一遺伝子疾患ではありません。この点もアトピー性皮膚炎の構造によく似ています。
くれぐれも誤解のないよう、アトピー性皮膚炎と統合失調症とはまったく異なる疾患です。遺伝と環境の疾患との関わり方が似ているというだけのことです。また、統合失調症で自然治癒が起きるということは、アトピー性皮膚炎においてほどには言われていないように思います。
今回、お伝えしたかったのは、遺伝的要因が関与しているからといって、そのことは即「自然治癒」の可能性を否定するものではないということです。それは、魚鱗癬におけるメカニズムが示してくれています。
しかし、アトピー性皮膚炎の「自然治癒」メカニズムの解明は、多くの要因が関与していそうなので、なかなかむつかしいかもしれません。そしてこういう複雑な構造の疾患というのは、アトピーに限らない、たとえばまったく異なる疾患である統合失調症もそうであるように、決して珍しい病態というわけではないのだ、ということです。
2011.02.18
アトピー性皮膚炎の場合は、もっと複雑で、単一遺伝子異常ではなく、なおかつ環境的な後天要因も関係することが観測されているので、上の魚鱗癬(のそれも特殊なタイプ)のようには明快に説明はできませんが、「遺伝要因があるからといって、自然治癒しないというものではないかもしれない」という点は、希望を与える要素です。
少し話がそれますが、わたしは、アトピー性皮膚炎という疾患における遺伝と環境の意義というのは、統合失調症におけるそれに良く似ていると思います。
統合失調症もまた、遺伝と環境二つの要因によって発症するとされています。それは、一卵性双生児において片方が統合失調症を発症した場合に、他方も発症する率が50%(一般的な発症率は1%なので、はるかに高い、しかし100%ではないので、遺伝だけではない)という事実で裏付けられています。
また、統合失調症の場合も、脆弱遺伝子といって、その遺伝子異常があると発症しやすい、という遺伝子がいくつも見つかっていますが、単一遺伝子疾患ではありません。この点もアトピー性皮膚炎の構造によく似ています。
くれぐれも誤解のないよう、アトピー性皮膚炎と統合失調症とはまったく異なる疾患です。遺伝と環境の疾患との関わり方が似ているというだけのことです。また、統合失調症で自然治癒が起きるということは、アトピー性皮膚炎においてほどには言われていないように思います。
今回、お伝えしたかったのは、遺伝的要因が関与しているからといって、そのことは即「自然治癒」の可能性を否定するものではないということです。それは、魚鱗癬におけるメカニズムが示してくれています。
しかし、アトピー性皮膚炎の「自然治癒」メカニズムの解明は、多くの要因が関与していそうなので、なかなかむつかしいかもしれません。そしてこういう複雑な構造の疾患というのは、アトピーに限らない、たとえばまったく異なる疾患である統合失調症もそうであるように、決して珍しい病態というわけではないのだ、ということです。
2011.02.18