なぜ、ステロイドは酒さ(様皮膚炎)を起こすのか?
顔面にステロイドを長期外用すると酒さ(様皮膚炎)を生じます。
治療はステロイドからの離脱であり、ステロイド依存(Steroid addiction)の典型ですが、酒さが起きるメカニズムはどうなっているのでしょうか?
ステロイドは血管を収縮させます。ステロイド外用剤の強さの判定に、皮膚に外用した際の血管収縮(皮膚が白くなる)の程度を用いるくらいです。
そのような血管収縮能を持つ薬剤を繰り返し外用していれば、だんだん血管の反応が悪くなって(タキフィラキシー→こちら)、同時に血管が拡張してしまい、ステロイド中止と共に反動で顔は真っ赤に腫れ上がるだろう。酒さが発症するメカニズムは、ステロイドの持つ血管収縮能が関係しているに決まっている、昔は皆がなんとなくそう考えていました。
しかし、それでは説明のつかない事実が浮かび上がってきました。プロトピック軟膏もまた、酒さ(様皮膚炎)の原因になりうる、という現実です(Tacrolimus-induced rosacea-like dermatitis: a clinical analysis of 16 cases associated with tacrolimus ointment application.Teraki Y, Dermatology. 2012;224(4):309-14)。
プロトピック軟膏には、血管収縮能がありません。
また、プロトピック軟膏には、皮膚を萎縮させるという副作用もありません。血管収縮能や皮膚(表皮)萎縮とは別に、ステロイドとプロトピックに共通な、酒さを誘導するメカニズムがどうもありそうです。
その前に、酒さ(様皮膚炎)とはどんな状態なのか、アトピーの顔面の湿疹とどこが違うのか?のまとめです。
拡大して血管網を観察する方法が、いちばん解りやすいように思います。
治療はステロイドからの離脱であり、ステロイド依存(Steroid addiction)の典型ですが、酒さが起きるメカニズムはどうなっているのでしょうか?
ステロイドは血管を収縮させます。ステロイド外用剤の強さの判定に、皮膚に外用した際の血管収縮(皮膚が白くなる)の程度を用いるくらいです。
そのような血管収縮能を持つ薬剤を繰り返し外用していれば、だんだん血管の反応が悪くなって(タキフィラキシー→こちら)、同時に血管が拡張してしまい、ステロイド中止と共に反動で顔は真っ赤に腫れ上がるだろう。酒さが発症するメカニズムは、ステロイドの持つ血管収縮能が関係しているに決まっている、昔は皆がなんとなくそう考えていました。
しかし、それでは説明のつかない事実が浮かび上がってきました。プロトピック軟膏もまた、酒さ(様皮膚炎)の原因になりうる、という現実です(Tacrolimus-induced rosacea-like dermatitis: a clinical analysis of 16 cases associated with tacrolimus ointment application.Teraki Y, Dermatology. 2012;224(4):309-14)。
プロトピック軟膏には、血管収縮能がありません。
また、プロトピック軟膏には、皮膚を萎縮させるという副作用もありません。血管収縮能や皮膚(表皮)萎縮とは別に、ステロイドとプロトピックに共通な、酒さを誘導するメカニズムがどうもありそうです。
その前に、酒さ(様皮膚炎)とはどんな状態なのか、アトピーの顔面の湿疹とどこが違うのか?のまとめです。
拡大して血管網を観察する方法が、いちばん解りやすいように思います。
(Videocapillaroscopic alterations in erythematotelangiectatic rosacea. Rosina P et al, J Am Acad Dermatol. 2006 Jan;54(1):100-4.)
Aは正常な顔面皮膚、B,Cは酒さで、Dは脂漏性皮膚炎です。臨床像などから皮膚科医が診断(鑑別)したものを、このように拡大して血管網をみてみると、酒さでは、血管で囲まれた多角形の区画が鮮明であり、血管も太く、はっきりと血管網全体が拡張している感じです。脂漏性皮膚炎では、多角形は鮮明でなく、血管は部分的に拡張して縮れたような形になっています。
後で記しますが、酒さの場合は、はっきりと血管を新生させる因子が産生された結果であり、脂漏性皮膚炎(アトピー性皮膚炎も同じ)では、そのような因子の産生は起きておらず、ただ、炎症反応の一環として血管が反応性に拡張している、ということだと私は解釈します。
もうひとつ重要な酒さについての最近の知見は、erythematotelangiectatic rosacea (ETR、紅斑・毛細血管拡張型)と、papulo-pustular rosacea (PPR、丘疹・膿疱型)と、大きく二つのサブタイプに分けて考えられるようになってきた、という点です。
Aは正常な顔面皮膚、B,Cは酒さで、Dは脂漏性皮膚炎です。臨床像などから皮膚科医が診断(鑑別)したものを、このように拡大して血管網をみてみると、酒さでは、血管で囲まれた多角形の区画が鮮明であり、血管も太く、はっきりと血管網全体が拡張している感じです。脂漏性皮膚炎では、多角形は鮮明でなく、血管は部分的に拡張して縮れたような形になっています。
後で記しますが、酒さの場合は、はっきりと血管を新生させる因子が産生された結果であり、脂漏性皮膚炎(アトピー性皮膚炎も同じ)では、そのような因子の産生は起きておらず、ただ、炎症反応の一環として血管が反応性に拡張している、ということだと私は解釈します。
もうひとつ重要な酒さについての最近の知見は、erythematotelangiectatic rosacea (ETR、紅斑・毛細血管拡張型)と、papulo-pustular rosacea (PPR、丘疹・膿疱型)と、大きく二つのサブタイプに分けて考えられるようになってきた、という点です。
(Advances in understanding and managing rosacea: part 1: connecting the dots between pathophysiological mechanisms and common clinical features of rosacea with emphasis on vascular changes and facial erythema. Del Rosso JQ et al. J Clin Aesthet Dermatol. (2012) )
川崎ステロイド訴訟の、川島眞東京女子医大教授の鑑定書(→こちら)を思い出してください。川島氏は、膿疱の存在を酒さの診断の必須条件として、原告の顔面の皮疹には膿疱が生じていたとのカルテ記載がないから、原告は酒さ(様皮膚炎)に陥っていたとは言えない、という内容の証言をしましたが、この考え方(鑑定)は誤りであったということです。
酒さ(様皮膚炎)の本質(共通項)は血管の新生であり、丘疹や膿疱は、これらを随伴するタイプとそうでないタイプがある、ということです。
Dr. Rapaportは、Red burning skin syndromeの概念を提唱するに当たって、「ステロイドは血管内皮のNO(一酸化窒素)産生を抑える。抑えられたNOはステロイド中止と共に大量・持続的に産生されることとなり、これが持続的な血管拡張をもたらし、顔面では酒さ、全身的にはRed burning skin syndromeを起こす」と考えましたが、それだと、上述した、プロトピックによる酒さが説明つきません。プロトピックには血管収縮作用が無いからです。
最近では酒さの成立メカニズムは、以下のように考えられているようです。
川崎ステロイド訴訟の、川島眞東京女子医大教授の鑑定書(→こちら)を思い出してください。川島氏は、膿疱の存在を酒さの診断の必須条件として、原告の顔面の皮疹には膿疱が生じていたとのカルテ記載がないから、原告は酒さ(様皮膚炎)に陥っていたとは言えない、という内容の証言をしましたが、この考え方(鑑定)は誤りであったということです。
酒さ(様皮膚炎)の本質(共通項)は血管の新生であり、丘疹や膿疱は、これらを随伴するタイプとそうでないタイプがある、ということです。
Dr. Rapaportは、Red burning skin syndromeの概念を提唱するに当たって、「ステロイドは血管内皮のNO(一酸化窒素)産生を抑える。抑えられたNOはステロイド中止と共に大量・持続的に産生されることとなり、これが持続的な血管拡張をもたらし、顔面では酒さ、全身的にはRed burning skin syndromeを起こす」と考えましたが、それだと、上述した、プロトピックによる酒さが説明つきません。プロトピックには血管収縮作用が無いからです。
最近では酒さの成立メカニズムは、以下のように考えられているようです。
(Advances in understanding and managing rosacea: part 1: connecting the dots between pathophysiological mechanisms and common clinical features of rosacea with emphasis on vascular changes and facial erythema. Del Rosso JQ et al. J Clin Aesthet Dermatol. (2012) )
TLR(Toll様受容体)というのは、Wikipediaにも解説があるので御参照いただくとわかりやすいですが(→こちら)、原始的・非特異的な免疫メカニズム(innate immunityと言います)の一環で、細菌表面のリポ多糖などをパターン認識して、生体に「警告」を発するレセプターです。Cathelicidin(カテリシジン)も同じくinnate immunityの担い手です。KLK-5は、カテリシジン前駆体のhCAP18を活性化する酵素で、活性化したカテリシジンはLL-37となって抗菌作用を発揮します。
このLL-37に、血管新生作用があります。
ここに、ステロイドがどう関与するかですが、現時点では、以下のように考えられています。
TLR(Toll様受容体)というのは、Wikipediaにも解説があるので御参照いただくとわかりやすいですが(→こちら)、原始的・非特異的な免疫メカニズム(innate immunityと言います)の一環で、細菌表面のリポ多糖などをパターン認識して、生体に「警告」を発するレセプターです。Cathelicidin(カテリシジン)も同じくinnate immunityの担い手です。KLK-5は、カテリシジン前駆体のhCAP18を活性化する酵素で、活性化したカテリシジンはLL-37となって抗菌作用を発揮します。
このLL-37に、血管新生作用があります。
ここに、ステロイドがどう関与するかですが、現時点では、以下のように考えられています。
(Glucocorticoids enhance Toll-like receptor 2 expression in human keratinocytes stimulated with Propionibacterium acnes or proinflammatory cytokines. Shibata M et al. J Invest Dermatol. 2009 Feb;129(2):375-82)
どうも、P. acnes(アクネ桿菌)が関係しているようです。それで顔面に生じやすいのかもしれません。
P. acnesはTLRに認識されて、TLR2 gene expression(TLR2遺伝子発現、カテリシジンのupregulationも含まれる)へと至るわけですが、このときMark pathway→p38という抑制経路が存在します。カテリシジンなどが過剰に発現しないように制御しています。アクセルとブレーキと両方が効いているということですね。
ステロイド(GC) は、MKP-1を介してp38を抑えます。すなわち、ブレーキを外してしまいます。結果カテリシジンは過剰に発現し、血管が新生します。
TLRは原始的なパターン受容体ですから、P.acnesでなくてもいいはずですが、酒さが顔面に生じることを念頭において、顔面のありふれた常在菌であるP.acnesで、この論文の著者は実験したのでしょう。
いろいろ示唆に富んでいますが、innate immunityというのは、原始的な免疫というか、生体の警告システムですが、あくまで初期防衛であり、過度に発現せず、すみやかに高等な免疫システムへ伝達して、それだけの役に留まるように、ブレーキがかかっていると考えられます。ステロイドは、高等な免疫システムを抑制すると同時に、innate immunityのブレーキを外します。
innate immunityだけで頑張ってくれ、って感じです。その副産物(副作用)として、酒さが成立するというメカニズムです。
また、このメカニズムは、ステロイドというのは、直接遺伝子発現させないペプチドをも、このような形で間接的に発現させることがある、という例でもあります。ステロイドはカテリシジンを直接発現させませんが、間接的にカテリシジンを大量発現させます。
上の上の図で出てきた「Serine protease (kallikrein5、KLK5)」に見覚えはないでしょうか? Dr. Corkの表皮バリア仮説(→こちら)のところで出てくるプロテアーゼ(SCCE)が、同じカリクレインファミリーのKLK7です。これらの関係は以下のようになっています。
どうも、P. acnes(アクネ桿菌)が関係しているようです。それで顔面に生じやすいのかもしれません。
P. acnesはTLRに認識されて、TLR2 gene expression(TLR2遺伝子発現、カテリシジンのupregulationも含まれる)へと至るわけですが、このときMark pathway→p38という抑制経路が存在します。カテリシジンなどが過剰に発現しないように制御しています。アクセルとブレーキと両方が効いているということですね。
ステロイド(GC) は、MKP-1を介してp38を抑えます。すなわち、ブレーキを外してしまいます。結果カテリシジンは過剰に発現し、血管が新生します。
TLRは原始的なパターン受容体ですから、P.acnesでなくてもいいはずですが、酒さが顔面に生じることを念頭において、顔面のありふれた常在菌であるP.acnesで、この論文の著者は実験したのでしょう。
いろいろ示唆に富んでいますが、innate immunityというのは、原始的な免疫というか、生体の警告システムですが、あくまで初期防衛であり、過度に発現せず、すみやかに高等な免疫システムへ伝達して、それだけの役に留まるように、ブレーキがかかっていると考えられます。ステロイドは、高等な免疫システムを抑制すると同時に、innate immunityのブレーキを外します。
innate immunityだけで頑張ってくれ、って感じです。その副産物(副作用)として、酒さが成立するというメカニズムです。
また、このメカニズムは、ステロイドというのは、直接遺伝子発現させないペプチドをも、このような形で間接的に発現させることがある、という例でもあります。ステロイドはカテリシジンを直接発現させませんが、間接的にカテリシジンを大量発現させます。
上の上の図で出てきた「Serine protease (kallikrein5、KLK5)」に見覚えはないでしょうか? Dr. Corkの表皮バリア仮説(→こちら)のところで出てくるプロテアーゼ(SCCE)が、同じカリクレインファミリーのKLK7です。これらの関係は以下のようになっています。
(Degradation of corneodesmosome proteins by two serine proteases of the kallikrein family, SCTE/KLK5/hK5 and SCCE/KLK7/hK7.Caubet C et al, J Invest Dermatol. 2004 May;122(5):1235-44.)
Dr.Corkの論文のイラストにはKLK7すなわちSCCEしか出てきませんでしたが、実はコルネオゾーム破壊に働くプロテアーゼにはほかにKLK5もあります。また、KLK5は上図のようにKLK7を活性化します。
以前、ステロイドは、直接にはKLK7などの遺伝子発現に働かなさそうだという論文を見つけて、ひょっとしたらDr.Corkの説は正しくないかもしれないといった内容の記事を書きました(→こちら)が、カテリシジンへの間接的作用のように、KLK5やKLK7が直接ではなく間接的にupregulateされているのなら、話は合います。
ややこしい経路図の話ばかりで、なじみのない人には頭がこんがらがるばかりかもしれませんが、わかる人にはわかる、というか、かなりこれ、面白い話なんです。
生体にinnate immunityという原始的な免疫システムが残っていて、ステロイドを外用することによって、これのブレーキが外されて、ステロイドで高度な免疫システムが抑えられている代わりに活躍(?)し、その副作用として酒さが生じるわけです。
プロトピックで酒さが生じる理由も、高度免疫が抑制されてinnate immunityが活性化された結果だと考えれば、いかにも合目的的であり合点がいきます(プロトピックについては、まだ論文は出てはいません。合点がいくというだけです)。
治療としてミノマイシンやビブラマイシンなどの、それも抗菌作用を生じない程度の少量投与が有効、という理由も、これらの薬剤がinnate immunityの経路を抑える効果によるということです。
抗生物質というのは、もともと細菌が産生していた物質が原型です。テトラサイクリンは、1948年に放線菌から分離されました。細菌が原始生物のinnate immunityのバリアを破ろうとして作り出した古い武器を、いま、人類は酒さの治療に応用しているというわけですね。
さて、以上のような、酒さの成立機序を鑑みたとき、中間分子量ヒアルロン酸で酒さは防止できないような気がします・・
表皮の萎縮が関係するステロイド依存の予防にはなるはずです。中間分子量ヒアルロン酸を用いながらステロイドを顔面に用いた場合、長期的には、酒さを予防は出来ないが、ステ中止後のリバウンドは起こさない、という結果が予想されます。
中間分子量ヒアルロン酸は、表皮の分裂増殖を促し、厚くするわけですから、ひょっとしたら、酒さについても、どこかでinnate immunityの抑制に働いて防止できるのかもしれませんが、少なくとも現時点で、積極的に「酒さを防止できそうだ」とは言えません。
「これをつけておけば、ステロイドをいくら塗っても大丈夫なんだわ」と思い込む方がいるとまずいので、アナウンスしておきます。
酒さを防止するには・・ステロイド外用と同時にミノマイシンなどの少量服用を開始するといいのかな?あるいは、アクネ桿菌(酒さ形成のトリガーになる)対策として、消毒系のスキンケア併用もいいかもしれません。強酸性水やイソジン消毒療法(→こちら)です。
消毒系の療法は、ステロイド抵抗性の防止にもなるから、一石二鳥ですね。
しかし、本当を言えば「顔にはステロイドを使わない」が、いちばん正解なのかもです。いまさらそんなことを言われても困る、聞きたくない、という方もいらっしゃるでしょうが・・。
酒さの成立までには、数か月はかかりますから、そういった長期間の連続使用だけは、頑張って控える、を目標に置くだけでも、間違いではないと思います。ステロイドを塗っても治まらない赤みやにきびのようなものが出来てきたら離脱するということです。離脱前まで、中間分子量ヒアルロン酸をしっかりつけていれば、酷いリバウンドはおこさず済むのではないか?というのが私の仮説です。
昔の私の著書にも書きましたが「これは酷いリバウンドを起こしそうだ」と思っても、意外とすんなりとたいしたリバウンド無く離脱してしまう症例はあります。そういう方は、酒さ=血管新生は起こしていても、皮膚萎縮=依存・リバウンドは起こしにくい元もとの肌質ということなのかもです。中間分子量ヒアルロン酸の併用はそういう肌質を目指すということですね(続く)。
酒さへの効果について追記→こちら。ひょっとしたら効くかもしれません。
それも、もし刺激を感じる(酒さの人は何をつけても過敏なことが多い)ようなら、精製水で10倍に薄めて(0.2%で)用いても良いかもです。
2013.04.10
Dr.Corkの論文のイラストにはKLK7すなわちSCCEしか出てきませんでしたが、実はコルネオゾーム破壊に働くプロテアーゼにはほかにKLK5もあります。また、KLK5は上図のようにKLK7を活性化します。
以前、ステロイドは、直接にはKLK7などの遺伝子発現に働かなさそうだという論文を見つけて、ひょっとしたらDr.Corkの説は正しくないかもしれないといった内容の記事を書きました(→こちら)が、カテリシジンへの間接的作用のように、KLK5やKLK7が直接ではなく間接的にupregulateされているのなら、話は合います。
ややこしい経路図の話ばかりで、なじみのない人には頭がこんがらがるばかりかもしれませんが、わかる人にはわかる、というか、かなりこれ、面白い話なんです。
生体にinnate immunityという原始的な免疫システムが残っていて、ステロイドを外用することによって、これのブレーキが外されて、ステロイドで高度な免疫システムが抑えられている代わりに活躍(?)し、その副作用として酒さが生じるわけです。
プロトピックで酒さが生じる理由も、高度免疫が抑制されてinnate immunityが活性化された結果だと考えれば、いかにも合目的的であり合点がいきます(プロトピックについては、まだ論文は出てはいません。合点がいくというだけです)。
治療としてミノマイシンやビブラマイシンなどの、それも抗菌作用を生じない程度の少量投与が有効、という理由も、これらの薬剤がinnate immunityの経路を抑える効果によるということです。
抗生物質というのは、もともと細菌が産生していた物質が原型です。テトラサイクリンは、1948年に放線菌から分離されました。細菌が原始生物のinnate immunityのバリアを破ろうとして作り出した古い武器を、いま、人類は酒さの治療に応用しているというわけですね。
さて、以上のような、酒さの成立機序を鑑みたとき、中間分子量ヒアルロン酸で酒さは防止できないような気がします・・
表皮の萎縮が関係するステロイド依存の予防にはなるはずです。中間分子量ヒアルロン酸を用いながらステロイドを顔面に用いた場合、長期的には、酒さを予防は出来ないが、ステ中止後のリバウンドは起こさない、という結果が予想されます。
中間分子量ヒアルロン酸は、表皮の分裂増殖を促し、厚くするわけですから、ひょっとしたら、酒さについても、どこかでinnate immunityの抑制に働いて防止できるのかもしれませんが、少なくとも現時点で、積極的に「酒さを防止できそうだ」とは言えません。
「これをつけておけば、ステロイドをいくら塗っても大丈夫なんだわ」と思い込む方がいるとまずいので、アナウンスしておきます。
酒さを防止するには・・ステロイド外用と同時にミノマイシンなどの少量服用を開始するといいのかな?あるいは、アクネ桿菌(酒さ形成のトリガーになる)対策として、消毒系のスキンケア併用もいいかもしれません。強酸性水やイソジン消毒療法(→こちら)です。
消毒系の療法は、ステロイド抵抗性の防止にもなるから、一石二鳥ですね。
しかし、本当を言えば「顔にはステロイドを使わない」が、いちばん正解なのかもです。いまさらそんなことを言われても困る、聞きたくない、という方もいらっしゃるでしょうが・・。
酒さの成立までには、数か月はかかりますから、そういった長期間の連続使用だけは、頑張って控える、を目標に置くだけでも、間違いではないと思います。ステロイドを塗っても治まらない赤みやにきびのようなものが出来てきたら離脱するということです。離脱前まで、中間分子量ヒアルロン酸をしっかりつけていれば、酷いリバウンドはおこさず済むのではないか?というのが私の仮説です。
昔の私の著書にも書きましたが「これは酷いリバウンドを起こしそうだ」と思っても、意外とすんなりとたいしたリバウンド無く離脱してしまう症例はあります。そういう方は、酒さ=血管新生は起こしていても、皮膚萎縮=依存・リバウンドは起こしにくい元もとの肌質ということなのかもです。中間分子量ヒアルロン酸の併用はそういう肌質を目指すということですね(続く)。
酒さへの効果について追記→こちら。ひょっとしたら効くかもしれません。
それも、もし刺激を感じる(酒さの人は何をつけても過敏なことが多い)ようなら、精製水で10倍に薄めて(0.2%で)用いても良いかもです。
2013.04.10