アトピーが精神的ストレスで悪化するわけ(メカニズム)
アトピー性皮膚炎と言うのは、精神的ストレスでも悪化します。ストレスで悪化する皮膚疾患というのは、アトピー性皮膚炎に限らないのですが、アトピー性皮膚炎では特にその傾向が高いです。
今回は、そのメカニズムについてのお話です。これが実はステロイドによる皮膚萎縮やバリア破壊と密接に関係しているのです。
Glucocorticoid blockade reverses psychological stress-induced abnormalities in epidermal structure and function. Choi EH, et al. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2006 Dec;291(6):R1657-62
(無料で公開されています。http://ajpregu.physiology.org/content/291/6/R1657.long)
この論文はマウスを使った動物実験なのですが、どのようにストレスをかけたかというと、透明な箱に入れて、48時間、光と音で周りから刺激しています。その前後で皮膚を採取して、組織学的な変化を調べたものです。
下に結果を一部引用します。PCNAというのは、細胞分裂の活発さを示すもので、表皮基底層の核が濃染しているのが、表皮細胞の分裂増殖を表して います。Controlはストレスをかけていないマウス、RU486は、ステロイドレセプターの阻害薬を投与したマウス、 Stress+Veh(vehicle)は阻害薬の基剤のみを投与したマウスです。FILはフィラグリンで表皮最外層のバリア機能を担う蛋白質です(最外層の濃染している部分)。
今回は、そのメカニズムについてのお話です。これが実はステロイドによる皮膚萎縮やバリア破壊と密接に関係しているのです。
Glucocorticoid blockade reverses psychological stress-induced abnormalities in epidermal structure and function. Choi EH, et al. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2006 Dec;291(6):R1657-62
(無料で公開されています。http://ajpregu.physiology.org/content/291/6/R1657.long)
この論文はマウスを使った動物実験なのですが、どのようにストレスをかけたかというと、透明な箱に入れて、48時間、光と音で周りから刺激しています。その前後で皮膚を採取して、組織学的な変化を調べたものです。
下に結果を一部引用します。PCNAというのは、細胞分裂の活発さを示すもので、表皮基底層の核が濃染しているのが、表皮細胞の分裂増殖を表して います。Controlはストレスをかけていないマウス、RU486は、ステロイドレセプターの阻害薬を投与したマウス、 Stress+Veh(vehicle)は阻害薬の基剤のみを投与したマウスです。FILはフィラグリンで表皮最外層のバリア機能を担う蛋白質です(最外層の濃染している部分)。
ストレスを与えたマウス(Stress+Veh)では、表皮細胞の分裂能が低下し、フィラグリンの形成も弱くなっていることがわかります。ステロイドレセプターの阻害薬を投与しておくと、ストレスによるこの効果が消失しています。
ストレスにさらされると、マウスも人も、ステロイド(コルチゾール)を分泌します。これは、脳の視床下部からのCRT分泌→下垂体からのACTH分泌→副腎からのコルチゾール分泌、と順を追いますが、ここで重要なことは、ステロイド(コルチゾール)を産生する臓器は副腎だけではないという事実です。表皮細胞や真皮繊維芽細胞もまた、コルチゾールを産生します(→こちら)。
のみならず、皮膚局所でのコルチゾール産生には、正のフィードバック機構が存在します(→こちら)。どういうことかというと、副腎から産生されたコルチゾールによって血液中コルチゾール濃度が高まると、受動的に皮膚組織のコルチゾール濃度も高まりますが、それを引き金として、皮膚はそれ自身コルチゾールの産生を始めるため、皮膚局所のコルチゾール濃度は急上昇します。このメカニズムは11βHSD1という酵素によって引き起こされます。11βHSD1が存在する臓器は、肝臓・脂肪・皮膚・脳です。ですから、これらの臓器は、コルチゾールによる強い制御下にあると言えます。
したがって、ストレス→副腎からのコルチゾール産生→血液中コルチゾール濃度上昇→皮膚局所でのコルチゾール上昇、となります。表皮細胞はACTH受容体も持っているようなので、ひょっとしたら、直接ACTH→皮膚局所でのコルチゾール上昇、も成り立つのかもしれません。とにかく、ストレスによって皮膚局所のステロイド(コルチゾール)は増加します。
するとどういうことになるかというと、表皮細胞はステロイドに反応して分裂増殖が低下しますから、表皮は萎縮するし、フィラグリン・インボルクリン・ロリクリン・デスモグレイン1といった表皮バリアに関係するたんぱく質は軒並み減少します。この論文ではTEWL(表皮バリア機能を示す)も測定されていますが、やはりストレスによって上昇(機能低下)し、ステロイドレセプター阻害薬によって回復しています。
ストレスにさらされると、マウスも人も、ステロイド(コルチゾール)を分泌します。これは、脳の視床下部からのCRT分泌→下垂体からのACTH分泌→副腎からのコルチゾール分泌、と順を追いますが、ここで重要なことは、ステロイド(コルチゾール)を産生する臓器は副腎だけではないという事実です。表皮細胞や真皮繊維芽細胞もまた、コルチゾールを産生します(→こちら)。
のみならず、皮膚局所でのコルチゾール産生には、正のフィードバック機構が存在します(→こちら)。どういうことかというと、副腎から産生されたコルチゾールによって血液中コルチゾール濃度が高まると、受動的に皮膚組織のコルチゾール濃度も高まりますが、それを引き金として、皮膚はそれ自身コルチゾールの産生を始めるため、皮膚局所のコルチゾール濃度は急上昇します。このメカニズムは11βHSD1という酵素によって引き起こされます。11βHSD1が存在する臓器は、肝臓・脂肪・皮膚・脳です。ですから、これらの臓器は、コルチゾールによる強い制御下にあると言えます。
したがって、ストレス→副腎からのコルチゾール産生→血液中コルチゾール濃度上昇→皮膚局所でのコルチゾール上昇、となります。表皮細胞はACTH受容体も持っているようなので、ひょっとしたら、直接ACTH→皮膚局所でのコルチゾール上昇、も成り立つのかもしれません。とにかく、ストレスによって皮膚局所のステロイド(コルチゾール)は増加します。
するとどういうことになるかというと、表皮細胞はステロイドに反応して分裂増殖が低下しますから、表皮は萎縮するし、フィラグリン・インボルクリン・ロリクリン・デスモグレイン1といった表皮バリアに関係するたんぱく質は軒並み減少します。この論文ではTEWL(表皮バリア機能を示す)も測定されていますが、やはりストレスによって上昇(機能低下)し、ステロイドレセプター阻害薬によって回復しています。
表皮バリア機能が低下すれば、皮膚は刺激を受けやすくなりますから、アトピー性皮膚炎は悪化します。もっとも、コルチゾールには、表皮バリア破壊と同時に、炎症を抑える作用もあるわけですが、精神的ストレスによるコルチゾール分泌のパターンにおいては、表皮バリア破壊>炎症抑制、ということなのでしょう。
実際、私自身、精神的ストレスはコルチゾール(ステロイド)上昇をきたすはずなのに、なぜアトピーが悪化するのか?は昔から不思議でした。今回紹介した論文で、その点が整理されてすっきりしました。
さて、この実験事実を脱ステロイドの臨床にどう応用するかですが、まず、ステロイドを外用している場合よりも、ステロイドを外用していない場合の方が、精神的ストレスによる悪化をきたしやすいことの説明になると思います。外用ステロイドを使用している場合には、最初から皮膚局所のステロイド濃度は上がっているので、変動が生じにくいです。なおかつ、炎症(免疫)抑制レベルまで、皮膚局所のステロイド濃度を上げているということでしょう。
この論文の著者のDr.Choiは、Veteran Affairs Medical Center San Francisco and Department of Dermatology and Medicine, University of California San Francisco (UCSF) の所属なのですが、この教室は、表皮バリアに関する興味深い論文をいくつも発表しています。以前紹介したDr.Kaoの論文(→こちら)もそうです。
実際、私自身、精神的ストレスはコルチゾール(ステロイド)上昇をきたすはずなのに、なぜアトピーが悪化するのか?は昔から不思議でした。今回紹介した論文で、その点が整理されてすっきりしました。
さて、この実験事実を脱ステロイドの臨床にどう応用するかですが、まず、ステロイドを外用している場合よりも、ステロイドを外用していない場合の方が、精神的ストレスによる悪化をきたしやすいことの説明になると思います。外用ステロイドを使用している場合には、最初から皮膚局所のステロイド濃度は上がっているので、変動が生じにくいです。なおかつ、炎症(免疫)抑制レベルまで、皮膚局所のステロイド濃度を上げているということでしょう。
この論文の著者のDr.Choiは、Veteran Affairs Medical Center San Francisco and Department of Dermatology and Medicine, University of California San Francisco (UCSF) の所属なのですが、この教室は、表皮バリアに関する興味深い論文をいくつも発表しています。以前紹介したDr.Kaoの論文(→こちら)もそうです。
その同じUCSFの皮膚科学教室から、最近また別の新しい論文が上梓されました。低分子ヒアルロン酸は表皮細胞の分裂増殖に働き、高分子のものはフィラグリン産生などに働くというものです。この1~2年のヒアルロン酸の分子量別の作用に関する論文は本当に多いです。UCSFの上記のヒアルロン酸の論文は、これまた非常に興味深いので、また稿を改めて記事にします。
2013.07.21
2013.07.21
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