アレルギー疾患ガイドブック(1999 東京都)
今日紹介するのは、東京都が1999年に製作した冊子です。
アトピー性皮膚炎でのステロイド外用剤使用に関する記述部分(p55~58)をpdfにして掲示しました(→こちら) 以下は、そこからの抜粋です。
ーーーーー(ここから引用)-----
第7章 治療 1 ステロイド軟膏の使い方
(1)ステロイド軟膏の副作用
使用上問題となるステロイド軟膏の副作用は、皮間科領域において早くから次の第1~第3のことが指摘されている。
第1に、皮膚に対する直接作用に起因して生じる通常の中長期的な非アレルギー性の副作用には以下のものがある。
①ステロイド潮紅
②毛細血管拡張(酒さ)
③ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎=口囲皮膚炎)
④ステロイドざ瘡
⑤皮膚萎縮
⑥線状皮膚萎縮
⑦ステロイド紫斑
⑧ステロイド緑内障
⑨多毛・色素沈着
第2に、皮膚に対する間接作用に起因して生じる非アレルギー性の副作用に以下のものがある。
①非定型的な毛のう炎・せつ・よう・カンジダ・白癬などの皮膚感染症の誘発
②減量・中止に伴う「リバウンド現象」としての顔面頚部病変の発赤腫脹浸潤化・中毒性紅斑・汎発化などの急性悪化
③特に長期大量使用による副腎皮質機能低下がある。
第3に、アレルギー性の副作用として、接触アレルギー性のステロイド皮病炎などがある。そのため、先に述べたステロイド潮紅・毛細血管拡帳・ステロイド酒さ・ステロイドざ瘡などが生じやすい顔面ではステロイド軟膏の使用は原則禁忌とすること、直接作用による副作用の比較的少ないステロイド軟膏の開発、また、症状に合わせてできるだけ使用ステロイド軟膏使用量を減量するなどの対策がとられてきた。しかしながら、ADにおいてはこのような問題点とその対策が喚起されていたにもかかわらず、次のような事例が増加傾向にある。
①ステロイド軟膏の減量・中止に伴う「リバウンド現象」としての急性増悪例(ステロイド依存例)
②ステロイド軟膏が効かなくなる例(ステロイド抵抗例)
③主剤のステロイドに接触アレルギーを示すステロイド皮膚炎の例(ステロイドアレルギー例)
④ステロイドアレルギーはないのに赤くなって悪化する例
⑤ステロイド軟膏使用との直接的関係は不明であるがその関連が疑われている難治性の顔面を含む頭頚前胸上背部の紅斑苔癬化の例など
さらに、こうした症例がマスコミで大きく取り挙げられた結果、ステロイド軟膏によく反応して軽快し容易に減量中止できる例(ステロイド反応例)まで患者の不安感からその使用に対して過剰な拒否反応を起こして、いたずらに著明な悪化を来す例もまた今日の大きな問題になっている。
ーーーーー(ここまで引用)-----
注目すべきは、1999年の時点で「ステロイド依存例」と「ステロイド抵抗例」とが分けられている点です。本ブログでも紹介したLeungのSteroid resistanceの論文(→こちら)が2005年ですから、1999年には、あくまで臨床的観察から「依存例と抵抗例とがあり、分けて考えたほうがいいんじゃないか?」と推測されていたということです。
ーーーーー(ここから引用)-----
(5)ステロイド軟膏の使用上の注意点と対策
第1に、AD患者におけるステロイド剤感受性の個体差に注意して患者別の個別指導を強める。具体的には、ステロイドアレルギー群とステロイド抵抗性群では即座に中止し、ステロイド依存性群ではできるだけ減量中止にもっていくようにし、その主な治療対象をステロイド感受性群とする。このステロイド感受性の症例群については、どうすれば軽快と再燃を繰り返す慢性例でなく長期寛解例となるかは、以下の点に留意してステロイド軟膏を使用する。
第2に、ステロイド外用剤の減量や離脱を念頭に置いて使用する。
第3に、副作用の出やすい顔面は原則として避ける。
第4に、ステロイド軟膏の減量と離脱を可能にするために、難治例では、ステロイド外用剤だけに頼った治療をしないで、食餌療法、環境改善、抗アレルギー薬、抗真菌剤や抗菌剤の併用、心因性反応に配慮した掻爬対策などの原因療法やステロイド外用療法以外の病態.・対症臓法を徹底する。
第5に、ステロイド軟膏の減量・離脱とドライスキンのスキンケアのために、非ステロイド軟膏・尿素軟膏.ヒルドイド軟膏、アズノール軟膏.白色ワセリン.その他のスキンケア軟膏を使用する。
第6に、痂皮.鱗屑病変や苔癬化病変には効果的な治療効果とステロイド外用剤の減量効果がある亜鉛華難膏による重層法や2重塗り、また、尿素軟膏.ヒルドイド軟膏、アズノール軟膏・白色ワセリンなどの症状に合わせた各種スキンケア軟膏などによる2重塗りを併用する。
第7に、中途半端なステロイド外用剤の使用は、再燃を起こしやすく効きにくい。また、効いていないステロイド外用剤でも中止すると「リバウンド現象」を起こすため、あまり効かないステロイド外用剤をダラダラと使わないように心掛けたい。その場合、強力なステロイド外用剤に変更するなど、メリハリの効いた治療を実施する。
第8に、ステロイド外用剤の長期使用により、その効果は低下する。その場合体薬することによりステロイド剤の効力が回復する。
第9に、皮疹の掻爬部における2次感染対策としてイソジン・ヒビテン・強酸性水による消毒療法を併用する。なお、ステロイド軟膏の接触皮膚炎(カブレ)と思われていた例がしばしばステロイド軟脅だけでなく、スキンケア軟膏に含まれるラノリンのアレルギーによることが最近増えている。参考までにラノリン含有軟膏を表1に表示する。
ーーーーー(ここまで引用)-----
2010年の今読み直しても、非常に納得のいく記述です。ただし、「ステロイド依存性群」「ステロイド抵抗性群」「ステロイド感受性群」といっても、これらは臨床経過からの分類であって、たとえばパッチテストのような、明快な判別方法があるわけではありません。 この文章を記されたのは、池澤善郎(現横浜市大教授)先生です。ネットで検索すると、1997年のModern Physicianという雑誌にもほぼ同内容が記されています(→こちらとこちら)。
残念ながら、その後池澤先生が、この分類を元に、新しい見解を発信なさった形跡を、わたしはまだ見つけておりません。例えば接触皮膚炎におけるパッチテストのように「塗るのをやめると(強く)悪化する」「塗っても効かない」といった現象に、な客観的な判別方法が確立できればよいと思うのですが、なかなか難しいのかもしれないし、他の理由があってこの問題から離れたのかもしれません。
分類としては正しいが、果たしてある患者が依存性群にあたるのか感受性群なのかは、結局のところ止めてみなければ解らないのではないかなあ、というのが、当時わたしがこの本を読んだときの率直な感想でした。
いずれにせよ、この時期の池澤先生の文献は、臨床的事実としての「ステロイド依存例」や「ステロイド抵抗例」の存在に、気が付く皮膚科医は気が付いていた、という証拠になります。何しろ東京都が発行していたガイドブックに採用されていたんですから。当時の日本の皮膚科の医学水準から、ステロイド依存例や抵抗例の存在に気付くのは無理があった、という弁解に対する反論として将来活用できるかもしれません。また、2000年に発表された日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」作成委員たちが、依存例や抵抗例についての記述と対策を、意図的に怠ったということの証拠でもあります。
2010.07.01
ーーーーー(ここから引用)-----
第7章 治療 1 ステロイド軟膏の使い方
(1)ステロイド軟膏の副作用
使用上問題となるステロイド軟膏の副作用は、皮間科領域において早くから次の第1~第3のことが指摘されている。
第1に、皮膚に対する直接作用に起因して生じる通常の中長期的な非アレルギー性の副作用には以下のものがある。
①ステロイド潮紅
②毛細血管拡張(酒さ)
③ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎=口囲皮膚炎)
④ステロイドざ瘡
⑤皮膚萎縮
⑥線状皮膚萎縮
⑦ステロイド紫斑
⑧ステロイド緑内障
⑨多毛・色素沈着
第2に、皮膚に対する間接作用に起因して生じる非アレルギー性の副作用に以下のものがある。
①非定型的な毛のう炎・せつ・よう・カンジダ・白癬などの皮膚感染症の誘発
②減量・中止に伴う「リバウンド現象」としての顔面頚部病変の発赤腫脹浸潤化・中毒性紅斑・汎発化などの急性悪化
③特に長期大量使用による副腎皮質機能低下がある。
第3に、アレルギー性の副作用として、接触アレルギー性のステロイド皮病炎などがある。そのため、先に述べたステロイド潮紅・毛細血管拡帳・ステロイド酒さ・ステロイドざ瘡などが生じやすい顔面ではステロイド軟膏の使用は原則禁忌とすること、直接作用による副作用の比較的少ないステロイド軟膏の開発、また、症状に合わせてできるだけ使用ステロイド軟膏使用量を減量するなどの対策がとられてきた。しかしながら、ADにおいてはこのような問題点とその対策が喚起されていたにもかかわらず、次のような事例が増加傾向にある。
①ステロイド軟膏の減量・中止に伴う「リバウンド現象」としての急性増悪例(ステロイド依存例)
②ステロイド軟膏が効かなくなる例(ステロイド抵抗例)
③主剤のステロイドに接触アレルギーを示すステロイド皮膚炎の例(ステロイドアレルギー例)
④ステロイドアレルギーはないのに赤くなって悪化する例
⑤ステロイド軟膏使用との直接的関係は不明であるがその関連が疑われている難治性の顔面を含む頭頚前胸上背部の紅斑苔癬化の例など
さらに、こうした症例がマスコミで大きく取り挙げられた結果、ステロイド軟膏によく反応して軽快し容易に減量中止できる例(ステロイド反応例)まで患者の不安感からその使用に対して過剰な拒否反応を起こして、いたずらに著明な悪化を来す例もまた今日の大きな問題になっている。
ーーーーー(ここまで引用)-----
注目すべきは、1999年の時点で「ステロイド依存例」と「ステロイド抵抗例」とが分けられている点です。本ブログでも紹介したLeungのSteroid resistanceの論文(→こちら)が2005年ですから、1999年には、あくまで臨床的観察から「依存例と抵抗例とがあり、分けて考えたほうがいいんじゃないか?」と推測されていたということです。
ーーーーー(ここから引用)-----
(5)ステロイド軟膏の使用上の注意点と対策
第1に、AD患者におけるステロイド剤感受性の個体差に注意して患者別の個別指導を強める。具体的には、ステロイドアレルギー群とステロイド抵抗性群では即座に中止し、ステロイド依存性群ではできるだけ減量中止にもっていくようにし、その主な治療対象をステロイド感受性群とする。このステロイド感受性の症例群については、どうすれば軽快と再燃を繰り返す慢性例でなく長期寛解例となるかは、以下の点に留意してステロイド軟膏を使用する。
第2に、ステロイド外用剤の減量や離脱を念頭に置いて使用する。
第3に、副作用の出やすい顔面は原則として避ける。
第4に、ステロイド軟膏の減量と離脱を可能にするために、難治例では、ステロイド外用剤だけに頼った治療をしないで、食餌療法、環境改善、抗アレルギー薬、抗真菌剤や抗菌剤の併用、心因性反応に配慮した掻爬対策などの原因療法やステロイド外用療法以外の病態.・対症臓法を徹底する。
第5に、ステロイド軟膏の減量・離脱とドライスキンのスキンケアのために、非ステロイド軟膏・尿素軟膏.ヒルドイド軟膏、アズノール軟膏.白色ワセリン.その他のスキンケア軟膏を使用する。
第6に、痂皮.鱗屑病変や苔癬化病変には効果的な治療効果とステロイド外用剤の減量効果がある亜鉛華難膏による重層法や2重塗り、また、尿素軟膏.ヒルドイド軟膏、アズノール軟膏・白色ワセリンなどの症状に合わせた各種スキンケア軟膏などによる2重塗りを併用する。
第7に、中途半端なステロイド外用剤の使用は、再燃を起こしやすく効きにくい。また、効いていないステロイド外用剤でも中止すると「リバウンド現象」を起こすため、あまり効かないステロイド外用剤をダラダラと使わないように心掛けたい。その場合、強力なステロイド外用剤に変更するなど、メリハリの効いた治療を実施する。
第8に、ステロイド外用剤の長期使用により、その効果は低下する。その場合体薬することによりステロイド剤の効力が回復する。
第9に、皮疹の掻爬部における2次感染対策としてイソジン・ヒビテン・強酸性水による消毒療法を併用する。なお、ステロイド軟膏の接触皮膚炎(カブレ)と思われていた例がしばしばステロイド軟脅だけでなく、スキンケア軟膏に含まれるラノリンのアレルギーによることが最近増えている。参考までにラノリン含有軟膏を表1に表示する。
ーーーーー(ここまで引用)-----
2010年の今読み直しても、非常に納得のいく記述です。ただし、「ステロイド依存性群」「ステロイド抵抗性群」「ステロイド感受性群」といっても、これらは臨床経過からの分類であって、たとえばパッチテストのような、明快な判別方法があるわけではありません。 この文章を記されたのは、池澤善郎(現横浜市大教授)先生です。ネットで検索すると、1997年のModern Physicianという雑誌にもほぼ同内容が記されています(→こちらとこちら)。
残念ながら、その後池澤先生が、この分類を元に、新しい見解を発信なさった形跡を、わたしはまだ見つけておりません。例えば接触皮膚炎におけるパッチテストのように「塗るのをやめると(強く)悪化する」「塗っても効かない」といった現象に、な客観的な判別方法が確立できればよいと思うのですが、なかなか難しいのかもしれないし、他の理由があってこの問題から離れたのかもしれません。
分類としては正しいが、果たしてある患者が依存性群にあたるのか感受性群なのかは、結局のところ止めてみなければ解らないのではないかなあ、というのが、当時わたしがこの本を読んだときの率直な感想でした。
いずれにせよ、この時期の池澤先生の文献は、臨床的事実としての「ステロイド依存例」や「ステロイド抵抗例」の存在に、気が付く皮膚科医は気が付いていた、という証拠になります。何しろ東京都が発行していたガイドブックに採用されていたんですから。当時の日本の皮膚科の医学水準から、ステロイド依存例や抵抗例の存在に気付くのは無理があった、という弁解に対する反論として将来活用できるかもしれません。また、2000年に発表された日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」作成委員たちが、依存例や抵抗例についての記述と対策を、意図的に怠ったということの証拠でもあります。
2010.07.01