ガイドライン作成委員の責任(その2)
(その1)の続きです。
さて、こういうブログで自説をとなえて不特定多数に向けて発信しているだけでは効率が悪いと思うので、2009年改訂版ガイドラインの際の委員のかた9名に宛てて、以下のようなお手紙を書いてみました。
謹啓、時下ますますご清栄の段、大慶に存じます。 突然に、このようなお便りを申し上げる非礼を、お許しください。
さて、わたしは、日本皮膚科学会に所属する一医師でありますが、先日、有志数名とともに、添付のような要望書を、日本皮膚科学会あて、提出いたしました。
アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインに、ステロイド外用剤の副作用として、依存・リバウンドを明記して欲しいと訴えるものです。要望書で引用いたしました関連文献と、最近出版いたしました拙著「ステロイド依存2010-日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎診療ガイドラインを修正せよ」を同封申し上げます。
本状は、2009年改訂版のガイドライン作成委員会の委員の先生9名に送付申し上げております。どうか、よろしくご検討ください。
2004年のAADのGuidelines of care for atopic dermatitis (JAAD p391- 2004)を見ますと、まず冒頭がDisclaimer(免責)から始まっております。これは、どういうことかというと、拙著p146-にも記しましたが、かってアメリカでは、患者から訴えられた医師が、ガイドラインに従った対処であることを主張して反論したが敗訴し、のみならず、そのときの判決で「ガイドラインの内容が医学的に不適切な場合には、ガイドライン作成者は責任を負う」ということが明示されたからです。 日本では2009年改訂版において、「本ガイドラインを参考にした上で、医師の裁量を尊重し、患者の意向を考慮して、個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい」と、付言されてはいますが、まだ「免責」とまでは明記されてはおりません。30年以上前から臨床的事実として観察され、2006年以降、機序も明らかにされつつある「ステロイド依存」や「リバウンド」に、現時点で言及しないことは、ガイドライン作成上の不作為として、将来、委員である先生がたの法的責任問題に発展する可能性すら否定できないと、愚考します。
どうか、先生がたにおかれましては、先生がたの代で、ガイドライン上のこの重要な問題を解決してください。後年において、皆が名誉ある英断だと讃えることと存じます。 謹白
委員の先生がたは、下記の通りです。(敬称略)
古江増隆(委員長) 九州大学大学院医学系研究科皮膚科学
佐伯秀久(副委員長) 東京大学大学院医学系研究科皮膚科学
古川福実 和歌山県立医科大学皮膚科学
秀道広 広島大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学
大槻マミ太郎 自治医科大学皮膚科学
片山一朗 大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学
佐々木りか子 りかこ皮フ科クリニック
須藤一 順天堂大学医学部皮膚科学
竹原和彦 金沢大学大学院医学研究科皮膚科学
今回、要望書を提出するにあたって、仲間の先生がたに呼びかけたところ「そんなことをしても意味(実効性)がない。握りつぶされるだけだ」と、おっしゃった先生がいました。わたしは、そうは思いません。学会内部から2010年3月に異論があがった、という記録は厳然と残るからです。委員の先生がたが修正しなければ「修正しなかった」という事実が歴史に記録されます。後年、もしもアトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用剤依存の問題が、薬害として問題化した場合には、決定的に不利な材料となるはずです。
また、ガイドラインは日本皮膚科学会が作成したものであり、わたしもまた、日本皮膚科学会の会員です。「おかしい」と思いながら何もしないことは、私自身の不作為であり、学会員としての責を免れないと思います。
今回、要望書を提出することで、私自身は、肩の荷が下りたというか、すがすがしい気持ちです。そして、私の肩の荷が降りた分、要望書を受け取った先生方の責任は大きくなったはずです。
2010.03.12
3/16追記
東京新聞3/13朝刊に、今回の要望書提出の記事が載りました。(↓URLクリックすると拡大します)
http://www.tclinic.jp/blog/tokyoshinbun.pdf
さて、こういうブログで自説をとなえて不特定多数に向けて発信しているだけでは効率が悪いと思うので、2009年改訂版ガイドラインの際の委員のかた9名に宛てて、以下のようなお手紙を書いてみました。
謹啓、時下ますますご清栄の段、大慶に存じます。 突然に、このようなお便りを申し上げる非礼を、お許しください。
さて、わたしは、日本皮膚科学会に所属する一医師でありますが、先日、有志数名とともに、添付のような要望書を、日本皮膚科学会あて、提出いたしました。
アトピー性皮膚炎の診療ガイドラインに、ステロイド外用剤の副作用として、依存・リバウンドを明記して欲しいと訴えるものです。要望書で引用いたしました関連文献と、最近出版いたしました拙著「ステロイド依存2010-日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎診療ガイドラインを修正せよ」を同封申し上げます。
本状は、2009年改訂版のガイドライン作成委員会の委員の先生9名に送付申し上げております。どうか、よろしくご検討ください。
2004年のAADのGuidelines of care for atopic dermatitis (JAAD p391- 2004)を見ますと、まず冒頭がDisclaimer(免責)から始まっております。これは、どういうことかというと、拙著p146-にも記しましたが、かってアメリカでは、患者から訴えられた医師が、ガイドラインに従った対処であることを主張して反論したが敗訴し、のみならず、そのときの判決で「ガイドラインの内容が医学的に不適切な場合には、ガイドライン作成者は責任を負う」ということが明示されたからです。 日本では2009年改訂版において、「本ガイドラインを参考にした上で、医師の裁量を尊重し、患者の意向を考慮して、個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい」と、付言されてはいますが、まだ「免責」とまでは明記されてはおりません。30年以上前から臨床的事実として観察され、2006年以降、機序も明らかにされつつある「ステロイド依存」や「リバウンド」に、現時点で言及しないことは、ガイドライン作成上の不作為として、将来、委員である先生がたの法的責任問題に発展する可能性すら否定できないと、愚考します。
どうか、先生がたにおかれましては、先生がたの代で、ガイドライン上のこの重要な問題を解決してください。後年において、皆が名誉ある英断だと讃えることと存じます。 謹白
委員の先生がたは、下記の通りです。(敬称略)
古江増隆(委員長) 九州大学大学院医学系研究科皮膚科学
佐伯秀久(副委員長) 東京大学大学院医学系研究科皮膚科学
古川福実 和歌山県立医科大学皮膚科学
秀道広 広島大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学
大槻マミ太郎 自治医科大学皮膚科学
片山一朗 大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学
佐々木りか子 りかこ皮フ科クリニック
須藤一 順天堂大学医学部皮膚科学
竹原和彦 金沢大学大学院医学研究科皮膚科学
今回、要望書を提出するにあたって、仲間の先生がたに呼びかけたところ「そんなことをしても意味(実効性)がない。握りつぶされるだけだ」と、おっしゃった先生がいました。わたしは、そうは思いません。学会内部から2010年3月に異論があがった、という記録は厳然と残るからです。委員の先生がたが修正しなければ「修正しなかった」という事実が歴史に記録されます。後年、もしもアトピー性皮膚炎患者におけるステロイド外用剤依存の問題が、薬害として問題化した場合には、決定的に不利な材料となるはずです。
また、ガイドラインは日本皮膚科学会が作成したものであり、わたしもまた、日本皮膚科学会の会員です。「おかしい」と思いながら何もしないことは、私自身の不作為であり、学会員としての責を免れないと思います。
今回、要望書を提出することで、私自身は、肩の荷が下りたというか、すがすがしい気持ちです。そして、私の肩の荷が降りた分、要望書を受け取った先生方の責任は大きくなったはずです。
2010.03.12
3/16追記
東京新聞3/13朝刊に、今回の要望書提出の記事が載りました。(↓URLクリックすると拡大します)
http://www.tclinic.jp/blog/tokyoshinbun.pdf