クロフィブラート軟膏のパイロットスタディ・ケース9、10
4週間の試用を終えた9例目の方のケースレポートです。 40才台女性、ステロイド外用歴40年、中止後10ヶ月。
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【診断】依存・リバウンド。
【使用した軟膏】
0 week →2 weeks白色ワセリン50g
2 weeks →4 weeksクロフィブラート入り軟膏130g
【VAS判定】
患者側 0 week : 30、 2 week : 25、 4 week : 18
医師側 0 week :40、 2 week : 35、 4 week : 35
【総合判定】
白色ワセリン奏効(クロフィブラート軟膏も奏効)。
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この方は、ステロイド外用歴が長く、離脱してまだ10ヶ月で、全身紅皮症の状況です。
離脱時の皮疹のタイプとしては、「潮紅局面型」(→こちら)で、重症なタイプではありません。ステロイド外用期間は長いですが、どっぷりと漬かっていたというわけでは無かったためかもしれないし、もともとの肌質によるのかもしれません。
実のところ、全身をぱっと見た印象としては、0週、2週、4週後と、著変を感じませんでした。しかし、本人は、とても楽になったとおっしゃいます。とくに2週目→4週目の軟膏によって「腫れが退いて痒みが少なくなった」そうです。確かに、足首あたりの写真で比較すると、改善傾向があるのかな?と思われます。ですので、判定としては、0週→2週の白色ワセリン「有効」、2週→4週のクロフィブラート軟膏「有効」としておきます。
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【診断】依存・リバウンド。
【使用した軟膏】
0 week →2 weeks白色ワセリン50g
2 weeks →4 weeksクロフィブラート入り軟膏130g
【VAS判定】
患者側 0 week : 30、 2 week : 25、 4 week : 18
医師側 0 week :40、 2 week : 35、 4 week : 35
【総合判定】
白色ワセリン奏効(クロフィブラート軟膏も奏効)。
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この方は、ステロイド外用歴が長く、離脱してまだ10ヶ月で、全身紅皮症の状況です。
離脱時の皮疹のタイプとしては、「潮紅局面型」(→こちら)で、重症なタイプではありません。ステロイド外用期間は長いですが、どっぷりと漬かっていたというわけでは無かったためかもしれないし、もともとの肌質によるのかもしれません。
実のところ、全身をぱっと見た印象としては、0週、2週、4週後と、著変を感じませんでした。しかし、本人は、とても楽になったとおっしゃいます。とくに2週目→4週目の軟膏によって「腫れが退いて痒みが少なくなった」そうです。確かに、足首あたりの写真で比較すると、改善傾向があるのかな?と思われます。ですので、判定としては、0週→2週の白色ワセリン「有効」、2週→4週のクロフィブラート軟膏「有効」としておきます。
この方も、2週間の休薬による再燃の有無の確認ののち、クロフィブラート長期(一年)外用を始めることにしました。
もうお一人、10人目の方は、40代男性、ステロイド外用歴16年、中止後15年、中止時のリバウンド歴「有り」です。
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【診断】アトピー性皮膚炎(ステロイド忌避)
【使用した軟膏】
0 week →2 weeks白色ワセリン45g
2 weeks →4 weeksクロフィブラート入り軟膏10g、スプレー100ml
【VAS判定】
患者側 0 week : 40、 2 week : 45、 4 week : 45
医師側 0 week :30、 2 week : 30、 4 week : 30
【総合判定】
白色ワセリン無効(クロフィブラート軟膏も無効)。
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もうお一人、10人目の方は、40代男性、ステロイド外用歴16年、中止後15年、中止時のリバウンド歴「有り」です。
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【診断】アトピー性皮膚炎(ステロイド忌避)
【使用した軟膏】
0 week →2 weeks白色ワセリン45g
2 weeks →4 weeksクロフィブラート入り軟膏10g、スプレー100ml
【VAS判定】
患者側 0 week : 40、 2 week : 45、 4 week : 45
医師側 0 week :30、 2 week : 30、 4 week : 30
【総合判定】
白色ワセリン無効(クロフィブラート軟膏も無効)。
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ほとんど変化がありません。
この方は、白色ワセリンが合わなかったようで、そのため、2週→4週のクロフィブラート外用の期間には、エマルジョンスプレーも差し上げました。ひょっとしたら、これがあだになったのかもしれないのですが、2週→4週では、スプレーを主に使っており、とくに顔面に使うときには、まず手のひらに吹き付けて、それを顔に塗る、といった使い方をされていたようです。そういう使い方をすると、クロフィブラートは油性ですから、手のひらにくっついて、お顔には移行しにくいと思われます。お顔は濡れて薬がついたように感じますが、そのほとんどは水分で、あまりクロフィブラートが外用されていなかった可能性があります。
この点、確認を要するので、一応の判定としては「白色ワセリン無効、クロフィブラート軟膏無効」ですが、しばらくお休みしたあと、冬にもう一度、今度はスプレーではなく十分量のクロフィブラート軟膏で追試したいと考えます。
さて、この方は、「ステロイド忌避」の方ですが、15年前に経験したのは、おそらく依存・リバウンドであっただろうと私は推測します。
というのは、彼のほかの部位を診ますと、
この方は、白色ワセリンが合わなかったようで、そのため、2週→4週のクロフィブラート外用の期間には、エマルジョンスプレーも差し上げました。ひょっとしたら、これがあだになったのかもしれないのですが、2週→4週では、スプレーを主に使っており、とくに顔面に使うときには、まず手のひらに吹き付けて、それを顔に塗る、といった使い方をされていたようです。そういう使い方をすると、クロフィブラートは油性ですから、手のひらにくっついて、お顔には移行しにくいと思われます。お顔は濡れて薬がついたように感じますが、そのほとんどは水分で、あまりクロフィブラートが外用されていなかった可能性があります。
この点、確認を要するので、一応の判定としては「白色ワセリン無効、クロフィブラート軟膏無効」ですが、しばらくお休みしたあと、冬にもう一度、今度はスプレーではなく十分量のクロフィブラート軟膏で追試したいと考えます。
さて、この方は、「ステロイド忌避」の方ですが、15年前に経験したのは、おそらく依存・リバウンドであっただろうと私は推測します。
というのは、彼のほかの部位を診ますと、
手首付近に脱色素斑が見られます。これは、強い皮膚炎があった名残です。また、皮膚の萎縮や一部肥厚があり、分布が、古典的なアトピー性皮膚炎のものとは異なります(肘膝裏に強くはないということ)。おそらく、ケース7の方やケース8の方が、あと数年、自然沈静を待ったとしたら、この方のような感じに落ち着くと思います。
足首あたりには、脱色素斑と、一部湿疹が出ています。これは、リバウンドではなく、通常のアトピー性皮膚炎の皮疹です(昔のリバウンドの名残と重なってはいますが)。依存・リバウンドでも、部分的にしつこく残ることはありますが(→こちら)、どう違うかというと、依存・リバウンドが部分的にしつこく出る場合は、肉芽状にぼこぼこと出ます。こういう風に落屑で覆い固められるという感じではありません。
さて、ここまで(n=10)のまとめです。
(1) 0週→2週(二重盲験)
白色ワセリン 有効 1 無効 4
クロフィブラート軟膏 有効 4 無効 1
(2) 0週→2週が白色ワセリンで無効であったうち、2→4週(クロフィブラート軟膏)で有効であったもの
4例中1例(有効率1/4)
一番気になるのは、(1)のクロフィブラート軟膏の有効率(5例中4例有効=80%)と、(2)の「4例中1例有効=25%」との乖離です。
「5例中4例有効」の中には、実は基剤の白色ワセリンが奏功したのかもしれないケース9のような症例が含まれているかもしれません。その率は、80%-25%=55%と計算されます。しかし、白色ワセリンが効く例が、そんなに多いとは考えられないです。実際(1)で、白色ワセリンの有効率は、5例中1例=20%です。20%と55%、これまた合致しません。
このあたり、どう考えたらいいのでしょうか?
おそらく(2)に問題があるのだと思います。
それは、
a) 最初に白色ワセリンが当たった人は「あまり効かない」という印象のため、外用量が少なくなる。それは2週以後のクロフィブラート外用においても続く。外用が少なければ、改善もしにくい。
b) 最初にクロフィブラート軟膏に当たった人は、4週間クロフィブラート軟膏を外用した後の効果が確認できるが、最初白色ワセリンに当たった人のクロフィブラート効果判定は2週間後である。外用期間に違いがあるので比較できない
といったことが考えられるからです。
ですから、(2)のような計算は、そもそも意味が無いのかもしれません。
とりあえず、(1)の二重盲検で2×2表のカイ自乗検定で有意差があるか?(今のところありそうです)で、クロフィブラート軟膏は基剤である白色ワセリンよりも有効かどうかが確認できます。しかし、それ以上のことを、あれこれ数字をひねくって考えるべきではないような気がしてきました。
10人すなわち半分が終わりました。あと10人の治験を終えたら、再び私は冬眠に入ります。
クロフィブラートの有効性を確認するのが、今回私が患者を再び診ることにした理由ですが、その目的は予定通り20人くらいで達せられそうです。それ以上、無制限に、この作業を続けることは、私にとって負荷が大きすぎます。
ただし、治験参加いただいた方の経過は、最低1年は追う予定です。
(2)で、「クロフィブラート無効」と仮判定(上記の理由から「仮判定」とします)した3人のうち、ケース3の方(→こちら)は、その後、予想通り、全身に皮膚炎が拡大して、9月はじめに一週間ほどステロイド内服のお世話になったそうです。これは、0→2週の白色ワセリン外用時の皮疹の流れから予想できたことであり、クロフィブラートによる悪化でも、これを止めたことによるリバウンドでもありません。数ヶ月すれば、落ち着くでしょうから、その上でもう一度、クロフィブラートが効くか効かないか、再確認の予定です。
ケース4の方(→こちら)は、近々クロフィブラートのエマルジョンスプレーの試用の予定です。それが効かなければ、1)香港から取り寄せているPPARγ軟膏の試用、2)いったんステロイド外用で抑えた後にクロフィブラート軟膏に移行、3)2→4週のクロフィブラート軟膏を「すこし効く気がする」と評価した点に注目して、クロフィブラート奏効例の方々と同じく、一年間長期外用でを試みる、のいずれかとなります。本人の意向を尊重して決めます。
ケース10の方は、上に記した通りです。
また、0→2週がクロフィブラート軟膏で、判定が「無効」であったケース5の方(→こちら)は、その後わたしが差し上げたステロイド外用剤によって、体の湿疹はほぼ治まったそうです。ただ、顔のにきび状の湿疹が治まらないそうで、現在「お米断ち」に取り組んでいます。近々「ステロイド外用剤で抑えた後、クロフィブラート軟膏に移行」を試みる予定です。悪化要因探しと重なって、解釈には慎重を要しますが、臨床研究である限り仕方がありません。
ケース7(→こちら)、ケース8(→こちら)、ケース9、ケース10の方々、皆さんそれぞれ仕事に就いておられ(ケース9の方は最近辞められたそうですが)、また、家庭をお持ちです。ケース3の方は、リバウンド真っ盛りで大変だろうし、現在休職中で、クロフィブラートも効かなくて、辛いでしょうが、リバウンドというのはいずれは収まりますから、今は焦らず時間が過ぎるのを待ってください。その代わり、ある程度復活したら、社会復帰に向けてめげずにチャレンジしてください。そのとき、そのための一時的なステロイド使用は怖れる必要はありません。有効な武器にもなり得ます(使わなければならないということではないです、念のため)。
皆さん、今回のクロフィブラート軟膏治験にご参加いただいたことで、他にも自分と似たような重症なかたがいて、それぞれに頑張っているのだなあ、と、精神的な励みになれば幸いです。
2012.09.07
さて、ここまで(n=10)のまとめです。
(1) 0週→2週(二重盲験)
白色ワセリン 有効 1 無効 4
クロフィブラート軟膏 有効 4 無効 1
(2) 0週→2週が白色ワセリンで無効であったうち、2→4週(クロフィブラート軟膏)で有効であったもの
4例中1例(有効率1/4)
一番気になるのは、(1)のクロフィブラート軟膏の有効率(5例中4例有効=80%)と、(2)の「4例中1例有効=25%」との乖離です。
「5例中4例有効」の中には、実は基剤の白色ワセリンが奏功したのかもしれないケース9のような症例が含まれているかもしれません。その率は、80%-25%=55%と計算されます。しかし、白色ワセリンが効く例が、そんなに多いとは考えられないです。実際(1)で、白色ワセリンの有効率は、5例中1例=20%です。20%と55%、これまた合致しません。
このあたり、どう考えたらいいのでしょうか?
おそらく(2)に問題があるのだと思います。
それは、
a) 最初に白色ワセリンが当たった人は「あまり効かない」という印象のため、外用量が少なくなる。それは2週以後のクロフィブラート外用においても続く。外用が少なければ、改善もしにくい。
b) 最初にクロフィブラート軟膏に当たった人は、4週間クロフィブラート軟膏を外用した後の効果が確認できるが、最初白色ワセリンに当たった人のクロフィブラート効果判定は2週間後である。外用期間に違いがあるので比較できない
といったことが考えられるからです。
ですから、(2)のような計算は、そもそも意味が無いのかもしれません。
とりあえず、(1)の二重盲検で2×2表のカイ自乗検定で有意差があるか?(今のところありそうです)で、クロフィブラート軟膏は基剤である白色ワセリンよりも有効かどうかが確認できます。しかし、それ以上のことを、あれこれ数字をひねくって考えるべきではないような気がしてきました。
10人すなわち半分が終わりました。あと10人の治験を終えたら、再び私は冬眠に入ります。
クロフィブラートの有効性を確認するのが、今回私が患者を再び診ることにした理由ですが、その目的は予定通り20人くらいで達せられそうです。それ以上、無制限に、この作業を続けることは、私にとって負荷が大きすぎます。
ただし、治験参加いただいた方の経過は、最低1年は追う予定です。
(2)で、「クロフィブラート無効」と仮判定(上記の理由から「仮判定」とします)した3人のうち、ケース3の方(→こちら)は、その後、予想通り、全身に皮膚炎が拡大して、9月はじめに一週間ほどステロイド内服のお世話になったそうです。これは、0→2週の白色ワセリン外用時の皮疹の流れから予想できたことであり、クロフィブラートによる悪化でも、これを止めたことによるリバウンドでもありません。数ヶ月すれば、落ち着くでしょうから、その上でもう一度、クロフィブラートが効くか効かないか、再確認の予定です。
ケース4の方(→こちら)は、近々クロフィブラートのエマルジョンスプレーの試用の予定です。それが効かなければ、1)香港から取り寄せているPPARγ軟膏の試用、2)いったんステロイド外用で抑えた後にクロフィブラート軟膏に移行、3)2→4週のクロフィブラート軟膏を「すこし効く気がする」と評価した点に注目して、クロフィブラート奏効例の方々と同じく、一年間長期外用でを試みる、のいずれかとなります。本人の意向を尊重して決めます。
ケース10の方は、上に記した通りです。
また、0→2週がクロフィブラート軟膏で、判定が「無効」であったケース5の方(→こちら)は、その後わたしが差し上げたステロイド外用剤によって、体の湿疹はほぼ治まったそうです。ただ、顔のにきび状の湿疹が治まらないそうで、現在「お米断ち」に取り組んでいます。近々「ステロイド外用剤で抑えた後、クロフィブラート軟膏に移行」を試みる予定です。悪化要因探しと重なって、解釈には慎重を要しますが、臨床研究である限り仕方がありません。
ケース7(→こちら)、ケース8(→こちら)、ケース9、ケース10の方々、皆さんそれぞれ仕事に就いておられ(ケース9の方は最近辞められたそうですが)、また、家庭をお持ちです。ケース3の方は、リバウンド真っ盛りで大変だろうし、現在休職中で、クロフィブラートも効かなくて、辛いでしょうが、リバウンドというのはいずれは収まりますから、今は焦らず時間が過ぎるのを待ってください。その代わり、ある程度復活したら、社会復帰に向けてめげずにチャレンジしてください。そのとき、そのための一時的なステロイド使用は怖れる必要はありません。有効な武器にもなり得ます(使わなければならないということではないです、念のため)。
皆さん、今回のクロフィブラート軟膏治験にご参加いただいたことで、他にも自分と似たような重症なかたがいて、それぞれに頑張っているのだなあ、と、精神的な励みになれば幸いです。
2012.09.07