コールタールがアトピー性皮膚炎に作用するメカニズム
日本ではおよそなじみが無いと思いますが、タール系の外用剤というのは、世界中で乾癬やアトピー性皮膚炎に広く用いられてきました。経済的な理由で皮膚科にかかることの出来ない患者や、ステロイド外用に忌避感を抱く患者にとっては、今でも有用な外用剤です。(タール系外用剤についての当ブログ過去記事は→こちらとこちらとこちら)
( http://www.dermnet.com/topics/atopic-dermatitis/treatment/ より)
経験的に有効であることは知られていても、なぜ有効なのか、メカニズムの論文はあまりありませんでした。
クロフィブラートの記事でも記しましたが(→こちら)、薬剤の研究と言うのは、新薬として特許を取って売り出した場合に、採算が取れそうなものの研究は進みますが、そうでない場合は研究しようという人が少ないです。
今回紹介する論文は、珍しく、その古い外用薬であるコールタールの作用機序をしっかり研究したオランダ発の論文です(下記リンクから全文が無料で読めます。著者のEllen先生が所属するnijmegen center for molecular life scienceのHPは→こちら)。
Coal tar induces AHR-dependent skin barrier repair in atopic dermatitis
J Clin Invest. 2013 February 1; 123(2): 917–927.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3561798/
経験的に有効であることは知られていても、なぜ有効なのか、メカニズムの論文はあまりありませんでした。
クロフィブラートの記事でも記しましたが(→こちら)、薬剤の研究と言うのは、新薬として特許を取って売り出した場合に、採算が取れそうなものの研究は進みますが、そうでない場合は研究しようという人が少ないです。
今回紹介する論文は、珍しく、その古い外用薬であるコールタールの作用機序をしっかり研究したオランダ発の論文です(下記リンクから全文が無料で読めます。著者のEllen先生が所属するnijmegen center for molecular life scienceのHPは→こちら)。
Coal tar induces AHR-dependent skin barrier repair in atopic dermatitis
J Clin Invest. 2013 February 1; 123(2): 917–927.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3561798/
WTは健常人、FLG-/+はフィラグリン遺伝子の片方に異常があるアトピー性皮膚炎患者の表皮細胞を培養したもので、controlは無処置、Coal tarは2%のコールタールを添加したもの。
フィラグリン遺伝子異常のあるアトピー患者の培養皮膚にコールタールを作用させると、フィラグリンの発現が増強しています(赤く染色されている部分)。
(フィラグリン遺伝子異常についての当ブログ解説は→こちら。)
フィラグリン遺伝子異常のあるアトピー患者の培養皮膚にコールタールを作用させると、フィラグリンの発現が増強しています(赤く染色されている部分)。
(フィラグリン遺伝子異常についての当ブログ解説は→こちら。)
上図は、実際に患者に2%コールタール軟膏を外用して3日、7日めに、フィラグリン・ホルメリン・ロリクリン・インボルクリンといった表皮・角層構成タンパク質が増加している様子。
論文中の解説図。黒矢印はプラスの作用、赤の止め線はマイナス(抑制)作用を示します。
この論文では、コールタールの作用経路としては、2つが考えられています。
1 AHR、ARNTを介して直接フィラグリンなどの発現に働く(培養表皮=in vitroの場合)。
2 Nrt2、Nqo1を介してTh2サイトカインによる酸化ストレスに拮抗し、「Th2サイトカイン→STAT6→フィラグリン発現低下」の経路を抑制する(in vivoの場合=1に2が加わる)。
ステロイドはというと、直接的には、フィラグリン遺伝子の発現に作用します(→こちら)。
一方、ステロイドは免疫系をTh2系へとシフトさせますから、間接的にはフィラグリン発現抑制に働くことになります。
コールタールでは、直接・間接ともにフィラグリン産生増加に作用しますが、ステロイドの場合は直接には産生増加、間接的には低下に働くということです。二面性があります。
日本人でも、アトピー性皮膚炎患者の27%でフィラグリン遺伝子異常を認めたという報告がありますが、フィラグリン遺伝子異常と言うのは、以前にも記したように、オリーブ油、ツバキ油、ローズマリー油や、PPARリガンド(→こちら)、read-through(読み飛ばし)を生ぜしめる薬剤(→こちら)など、「自然治癒」というか、後天的にリカバリーできる余地があるもののようです。
たぶん、こういった遺伝子異常のリカバリーを後天的に促すものを、私たちは経験的に「自然治癒に導く」と言っているのだと思います。ただし、真贋の見極めは非常に難しく、いわゆるアトピービジネスもどきの悪質な情報も多いとは思いますが。
今回紹介したオランダの論文を読むと、コールタール外用剤の使用や、タール系の入浴剤、温泉などでの療養も、フィラグリン発現のUpregulateメカニズムによって、そういった「自然治癒」に導き得るものなのかなあ、と感じます。
実のところ、AHR(Aryl Hydrocarbon Receptor,芳香族炭化水素受容体→こちら)の経路というのは、あまり良いイメージがありません。というのは、AHRの代表的なリガンドはダイオキシンであり、ダイオキシンは代謝されにくく長期間体内にとどまり、AHR系を介して有害作用を生体にもたらすからです。しかし、論文の著者は、このあまり良いイメージの無いAHR系を介して、コールタールが皮膚炎を改善するという事実は、リガンドの選択次第で、有用な新しい治療法に結びつくかもしれないと考えているようです。良いイメージが無く注目されていなかったところにお宝が隠されているかもしれないという発想です。ダイオキシンのように代謝されにくく体内に留まり、しかしダイオキシンとは異なり、長期間フィラグリンなどの発現持続を保ってくれるという良い作用のみをもたらす物質が実はあるのかもしれません。
2%コールタール軟膏や入浴剤・シャンプーは、最近は、日本でも海外からの個人輸入の形で簡単に入手できるようになってきました。楽天ショップにもあります(→こちら)。
また、タール系の温泉で、アトピーに良いと言われているところがありますが、同じメカニズムと考えられます。
北海道の豊富温泉のお湯、表面に原油分が浮いている。
※Medscape Dermatologyという皮膚科医向けの読み物(英語)でもこの論文が取り上げられていました(→こちら)。
2013.02.17
※Medscape Dermatologyという皮膚科医向けの読み物(英語)でもこの論文が取り上げられていました(→こちら)。
2013.02.17
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