ステロイド依存例はリバウンド無くプロトピックに移行できるのか?
Safe and Effective Treatment of Refractory Facial Lesions in Atopic Dermatitis Using Topical Tacrolimus following Corticosteroid Discontinuation. T Kawakami M Mizoguchi et al. Dermatology 2001;203:32–37
プロトピック軟膏とリバウンドとの関係については、いくつかのテーマが考えられるので、整理しておきます。
1)ステロイドをプロトピックに置き換えるときにリバウンドは起きるのか?
2)ステロイドをプロトピックに置き換えてから長期間経たあとで、プロトピックを中止したとき、リバウンドは起きるのか?(プロトピック使用によってステロイド依存例はリバウンドを回避できるのか?)
3)プロトピックの長期連用で依存・リバウンドは起きるのか?
この3つになると思います。
表題の論文は、このうちの1)に関してもので、18-63才までの47人の患者で、うち38人はプロトピック使用直前まで、少なくとも4週間以上ステロイド外用剤を使用していた群(グループ1)で、9人はステロイドを使用していなかった群(グループ2)です。
プロトピック軟膏とリバウンドとの関係については、いくつかのテーマが考えられるので、整理しておきます。
1)ステロイドをプロトピックに置き換えるときにリバウンドは起きるのか?
2)ステロイドをプロトピックに置き換えてから長期間経たあとで、プロトピックを中止したとき、リバウンドは起きるのか?(プロトピック使用によってステロイド依存例はリバウンドを回避できるのか?)
3)プロトピックの長期連用で依存・リバウンドは起きるのか?
この3つになると思います。
表題の論文は、このうちの1)に関してもので、18-63才までの47人の患者で、うち38人はプロトピック使用直前まで、少なくとも4週間以上ステロイド外用剤を使用していた群(グループ1)で、9人はステロイドを使用していなかった群(グループ2)です。
皮疹の重症度(Severity index)、痒みスコア(Pruritus score)とも、グループ1、2とも同じように低下しているので、ステロイドからプロトピックに移行する際のリバウンドはありませんでした。 ちなみに論文中では、このように記述されています。
-----(ここから引用)-----
After abrupt discontinuation of prolonged use of corticosteroid ointment, exacerbation of AD often occurs within several days. This condition, which is occasionally associated with facial swelling, is referred to as a rebound phenomenon.
(長期間ステロイド外用剤を使っていた患者が急に中止すると、数日内にアトピー性皮膚炎の悪化が起きることが多い。時に顔面の腫脹をきたすこともあるこの状態は、リバウンド現象と呼ばれている)
<中略>
Although group 1 patients were treated with tacrolimus ointment immediately after corticosteroid discontinuation, there was no evidence of a rebound phenomenon in any of the patients during this study period.
(グループ1の患者は、ステロイド外用剤中止直後からプロトピックに置き換えられたが、この観察期間においては、誰一人としてリバウンド現象が起きなかった)
-----(ここまで引用)-----
著者は聖マリアンナ医大の先生方です。聖マリアンナ医大で脱ステロイドを行っているということは聞いたことがないのですが、脱ステロイドをやっていらっしゃらない先生方の中にも、依存やリバウンドには問題意識を持っておられる方はいらっしゃるようで、そのことがこういう文章中に表れるのでしょう。
同じようなテーマに言及した論文は他にもあります。
Tacrolimus ointment: Its place in the therapy of atopic dermatitis BR Allen
Journal of Allergy and Clinical Immunology, Volume 109(2002), Issue 3, Pages 401-403
これは総説ですが、その一節に、
-----(ここから引用)-----
The rebound effect sometimes seen after topical corticosteroid withdrawal was not seen after tacrolimus therapy was stopped. In this study, patients applied 0.1% tacrolimus ointment until 7 days after improvement of the lesions and then restarted therapy whenever new lesions occurred.
(ステロイド外用剤離脱後に時にみられるリバウンド現象は、プロトピック中止後にはみられなかった。この研究では、0.1%のプロトピック軟膏を湿疹が消失したあと7日間塗り続け、あたらしい皮疹が生じたら、その都度外用を再開した)
-----(ここまで引用)-----
とありました。
「この研究」というのは、またまた別の論文のことです。引用文献にあげられていました。
Safety and Efficacy of 1 Year of Tacrolimus Ointment Monotherapy in Adults With Atopic DermatitisSakari Reitamo etc. for the European Tacrolimus Ointment Study Group ARCH DERMATOL/VOL 136, AUG 2000:999-1006
です。 この論文の出た2000年ころは、プロトピックの発売直後で、日本・アメリカ・ヨーロッパそれぞれが、Study Groupを組んで、それぞれの地域で臨床試用がなされていました。そのうちのヨーロッパグループの報告です。非常に興味をもって、読んでみました。
研究デザインとしては、18才以上の患者316人の6ヶ月(200人)または1年(116人)の経過観察です。患者は、ステロイドを一切やめ、プロトピックのみに切り替えています。
-----(ここから引用)-----
After abrupt discontinuation of prolonged use of corticosteroid ointment, exacerbation of AD often occurs within several days. This condition, which is occasionally associated with facial swelling, is referred to as a rebound phenomenon.
(長期間ステロイド外用剤を使っていた患者が急に中止すると、数日内にアトピー性皮膚炎の悪化が起きることが多い。時に顔面の腫脹をきたすこともあるこの状態は、リバウンド現象と呼ばれている)
<中略>
Although group 1 patients were treated with tacrolimus ointment immediately after corticosteroid discontinuation, there was no evidence of a rebound phenomenon in any of the patients during this study period.
(グループ1の患者は、ステロイド外用剤中止直後からプロトピックに置き換えられたが、この観察期間においては、誰一人としてリバウンド現象が起きなかった)
-----(ここまで引用)-----
著者は聖マリアンナ医大の先生方です。聖マリアンナ医大で脱ステロイドを行っているということは聞いたことがないのですが、脱ステロイドをやっていらっしゃらない先生方の中にも、依存やリバウンドには問題意識を持っておられる方はいらっしゃるようで、そのことがこういう文章中に表れるのでしょう。
同じようなテーマに言及した論文は他にもあります。
Tacrolimus ointment: Its place in the therapy of atopic dermatitis BR Allen
Journal of Allergy and Clinical Immunology, Volume 109(2002), Issue 3, Pages 401-403
これは総説ですが、その一節に、
-----(ここから引用)-----
The rebound effect sometimes seen after topical corticosteroid withdrawal was not seen after tacrolimus therapy was stopped. In this study, patients applied 0.1% tacrolimus ointment until 7 days after improvement of the lesions and then restarted therapy whenever new lesions occurred.
(ステロイド外用剤離脱後に時にみられるリバウンド現象は、プロトピック中止後にはみられなかった。この研究では、0.1%のプロトピック軟膏を湿疹が消失したあと7日間塗り続け、あたらしい皮疹が生じたら、その都度外用を再開した)
-----(ここまで引用)-----
とありました。
「この研究」というのは、またまた別の論文のことです。引用文献にあげられていました。
Safety and Efficacy of 1 Year of Tacrolimus Ointment Monotherapy in Adults With Atopic DermatitisSakari Reitamo etc. for the European Tacrolimus Ointment Study Group ARCH DERMATOL/VOL 136, AUG 2000:999-1006
です。 この論文の出た2000年ころは、プロトピックの発売直後で、日本・アメリカ・ヨーロッパそれぞれが、Study Groupを組んで、それぞれの地域で臨床試用がなされていました。そのうちのヨーロッパグループの報告です。非常に興味をもって、読んでみました。
研究デザインとしては、18才以上の患者316人の6ヶ月(200人)または1年(116人)の経過観察です。患者は、ステロイドを一切やめ、プロトピックのみに切り替えています。
脱落せずにフォローされた患者群においては、月数を重ねる毎に、重症度や皮疹面積が低下しているのがわかります。 わたしの関心は、リバウンドは本当に生じなかったのか?です。まず、脱落例(Withdrawal from the study)のまとめを見ますと、
6ヶ月の群で23.5%、1年の群で20.7%が脱落しています。その理由にAdverse eventというのがあって、それぞれ4.0%と4.3%です。 Adverse eventの内訳は、
なのですが、このうち、Maculopapular rash, Pustular rashなどは、皮疹の多様性から考えて、リバウンドでが疑われると私は思います。 本文の記述には、
-----(ここから引用)-----
Folliculitis, maculopapular rash, and pustular rash are suspected to be related to the occlusive properties of the ointment. Because lack of drug effect and skin infection were not localized to the treated area, these events probably represent a generalized flare-up of the disease.
(毛嚢炎、紅斑と丘疹の混ざったような皮疹、膿疱を伴う皮疹、は、軟膏が皮膚を密封してしまうことと関係あるかもしれない。薬が効かないという訴えや、皮膚表在感染症は、プロトピック治療部位に限局していないという点を考えると、アトピー性皮膚炎そのものの全身的悪化であると考えられた)
-----(ここまで引用)-----
とあり、ますます、リバウンドを思わせます。リバウンドの皮疹は勢いが強く、それまで皮疹が出ておらずステロイド外用もしていなかった部位へも拡大して全身性の紅皮症になることは珍しくありません。皮疹要素も多彩(紅斑、丘疹、膿疱など)です。
-----(ここから引用)-----
There were 5 serious adverse events for which a causal relation with the study drug was unknown or considered possible; all were associated with hospitalization. These constituted 1 patient who experienced a severe flare-up of atopic dermatitis, 1 who experienced a Staphylococcus superinfection of the skin, 1 with eczema herpeticum (the patient had a long history of relapses), 1 with varicella, and 1 with cellulitis. All but cellulitus were present on the application site.
(プロトピックとの関連が不明もしくは関連の可能性のある、5例の重篤なケースがあった。全例入院を要した。1人はアトピー性皮膚炎の重篤な悪化を起こし、1人は黄色ブドウ球菌の表在性感染症であった。1人は疱疹状皮膚炎(この患者はもともと再燃をくりかえしていた)で、1人は水痘、1人は蜂窩織炎であった。蜂窩織炎以外は、プロトピック外用部位に生じた)
-----(ここまで引用)-----
このうち「アトピー性皮膚炎の重篤な悪化」は、ステロイド外用中止に伴うリバウンドであった可能性が高いと思います。 プロトピック軟膏は、その抗炎症効果をステロイドに当てはめると、それほど強いクラスではありませんから、それまで強いステロイドを連用して依存状態にあった患者が、ステロイド外用剤を中止してプロトピックに置き換えれば、プロトピックで抑えきれずにリバウンドを生じてしまうケースが、無いと言うほうが不自然です。 このことは、取りも直さず、プロトピックのステロイド依存への活用の限界をも示すと言えます。プロトピックにリバウンド無く置き換えられる程度の、軽いステロイド依存患者に対してしか、プロトピックを用いたソフトランディングによる離脱は出来ないということです。 表題の聖マリアンナ医大の先生がたの論文の患者群は、依存を起こしていたとしても、その程度の軽い依存であったということだと、わたしは考えます。
ステロイドの長期連用による依存がある程度以上強ければ、まったく無傷での離脱はありえない、そういう依存患者を治療するためには、結局、脱ステロイドが培ってきたノウハウを応用して対処するしかないのだと思います。
2009.10.22
-----(ここから引用)-----
Folliculitis, maculopapular rash, and pustular rash are suspected to be related to the occlusive properties of the ointment. Because lack of drug effect and skin infection were not localized to the treated area, these events probably represent a generalized flare-up of the disease.
(毛嚢炎、紅斑と丘疹の混ざったような皮疹、膿疱を伴う皮疹、は、軟膏が皮膚を密封してしまうことと関係あるかもしれない。薬が効かないという訴えや、皮膚表在感染症は、プロトピック治療部位に限局していないという点を考えると、アトピー性皮膚炎そのものの全身的悪化であると考えられた)
-----(ここまで引用)-----
とあり、ますます、リバウンドを思わせます。リバウンドの皮疹は勢いが強く、それまで皮疹が出ておらずステロイド外用もしていなかった部位へも拡大して全身性の紅皮症になることは珍しくありません。皮疹要素も多彩(紅斑、丘疹、膿疱など)です。
-----(ここから引用)-----
There were 5 serious adverse events for which a causal relation with the study drug was unknown or considered possible; all were associated with hospitalization. These constituted 1 patient who experienced a severe flare-up of atopic dermatitis, 1 who experienced a Staphylococcus superinfection of the skin, 1 with eczema herpeticum (the patient had a long history of relapses), 1 with varicella, and 1 with cellulitis. All but cellulitus were present on the application site.
(プロトピックとの関連が不明もしくは関連の可能性のある、5例の重篤なケースがあった。全例入院を要した。1人はアトピー性皮膚炎の重篤な悪化を起こし、1人は黄色ブドウ球菌の表在性感染症であった。1人は疱疹状皮膚炎(この患者はもともと再燃をくりかえしていた)で、1人は水痘、1人は蜂窩織炎であった。蜂窩織炎以外は、プロトピック外用部位に生じた)
-----(ここまで引用)-----
このうち「アトピー性皮膚炎の重篤な悪化」は、ステロイド外用中止に伴うリバウンドであった可能性が高いと思います。 プロトピック軟膏は、その抗炎症効果をステロイドに当てはめると、それほど強いクラスではありませんから、それまで強いステロイドを連用して依存状態にあった患者が、ステロイド外用剤を中止してプロトピックに置き換えれば、プロトピックで抑えきれずにリバウンドを生じてしまうケースが、無いと言うほうが不自然です。 このことは、取りも直さず、プロトピックのステロイド依存への活用の限界をも示すと言えます。プロトピックにリバウンド無く置き換えられる程度の、軽いステロイド依存患者に対してしか、プロトピックを用いたソフトランディングによる離脱は出来ないということです。 表題の聖マリアンナ医大の先生がたの論文の患者群は、依存を起こしていたとしても、その程度の軽い依存であったということだと、わたしは考えます。
ステロイドの長期連用による依存がある程度以上強ければ、まったく無傷での離脱はありえない、そういう依存患者を治療するためには、結局、脱ステロイドが培ってきたノウハウを応用して対処するしかないのだと思います。
2009.10.22