ステロイド外用による表皮の萎縮が意味すること
自分の腕に2週間デルモベートを外用して皮膚を採取し、組織学的な変化(萎縮)を確認して(→こちら)、ふとひらめいたことがあります。
皮膚(表皮細胞)というのは、自身ステロイド(コルチゾール)を産生しています(→こちらやこちら)。産生されたコルチゾールは、自身あるいは周辺の表皮細胞に作用して、過度な細胞分裂を抑制し、あるいはアポトーシスを誘導して、表皮の厚さを自律的に調節しています。
ステロイドの全身投与を長期継続すると、副腎の萎縮が起こります。副腎皮質はステロイドを産生する臓器であり、外部からステロイドが供給されると、役目が無くなるので廃用萎縮するわけです。
皮膚(表皮)を、ステロイドを産生する臓器と考えたとき、大量長期のステロイドが供給されるとどうなるでしょうか?
副腎の場合、ステロイド全身投与が一過性であると、抑制も一時的です。連用が続くと、それに応じて回復に時間がかかるようになります。長期間大量投与が続いていた場合には、回復にも数年かかります。
これと同じことが、表皮のステロイド産生能にも、言えるのではないか?と考えました。
表皮のステロイド産生が低下して、外部からの供給も無くなる、すなわちステロイド長期連用後に離脱した患者においては、ステロイド(コルチゾール)不足の結果、表皮は肥厚し、フィラグリン産生は低下するでしょう。これは脱ステロイド後の、肥厚した、しかし機能的には不完全な表皮に合致します。
(注)副腎は萎縮すると小さくなりますが、表皮は自己のコルチゾール産生能が低下すると形態的には肥厚します。この肥厚した表皮を「ステロイド産生に関して萎縮した表皮」と、ここでは表現しています。
このような表皮に、ステロイドを外用すれば、欠乏していたコルチゾールが外部供給されるわけですから、表皮は正常に近くまで薄くなります。リンパ浸潤の少ない(Th2サイトカインの多くない)場合には、フィラグリンも増加するかもしれません。
しかし、これは、治しているように見えて、実は治しているのではない、ということは明らかです。副腎でいうと、ちょうど萎縮した副腎をおぎなうべく、コルチゾールの補充療法を行っている状況です。
私は、昔、医者になって最初の2年間は内科で過ごしました。そこから皮膚科に転じたのですが、その理由は、膠原病を専門とする先生の下についていたからです。当時、膠原病というのは、皮膚に症状が現れる内科的疾患として、私の出身校である名市大では内科で、旧帝大である名大では皮膚科で診られていました。それでかなりの数の膠原病の患者さんの診療に携わりました。
膠原病にもいろいろありますが、多くはステロイドの内服でコントロールします。ほとんどの方は、ステロイドを継続的に服用し、その期間は数十年にわたります。当然副腎は萎縮し、そのため病勢がほとんど治まってしまっているのではないか?と考えられるケースでも、補充療法的に1日1~2錠の内服を延々と続けるというケースが多かったです。
アトピー性皮膚炎で、乳幼児期から非常に長期大量のステロイド外用を続けてきて、成人後脱ステロイドを試みるも、なかなか回復がはかばかしくない、という方の表皮というのは、発症後数十年間にわたってステロイド内服を続けてきて、症状が落ち着いたあとも補充療法的にステロイド少量内服を続けている膠原病の患者さんの副腎に例えられます。
脱ステロイドで、リバウンドを経てやや改善し、しかしその後も肥厚した皮膚が続き、ステロイドを外用すれば落ち着くのだが、止めるとまた元に戻ってしまう、という方は、これまでは、「ステロイド皮膚症からは脱したが、もともとのアトピー性皮膚炎に戻っていて、それがなかなか治まらない状態」と解釈し、アレルゲンなど悪化因子探し・対策を勧めてきたのですが、実はそうではなく、表皮のステロイド産生能が低下した状態が回復していない状態、副腎で言うと萎縮した状態に当たるのかもしれません。
もし、そうだとしたら、その状態をすぐに改善させることが出来るのは、残念ながら、ステロイドだけだということになります。アトピー性皮膚炎の治療というよりも、ステロイド産生に関して萎縮してしまった表皮に対する補充療法といった意味合いでもって、外部から供給するしかない、ということになります。
萎縮した副腎が、いつかは回復するように、ただただステロイドを断ち続けることで、表皮が回復する、ということももちろん期待できるはずだし、治癒を目指すためにはそうすべきですが、日々の生活を考えたとき、自分は一生ステロイドの補充療法で行こう(行くしかない)と患者が判断したとしても、必ずしも間違いではないと考えられます。
別に私が宗旨替えをしたわけではないです。皮膚がステロイドを産生する臓器であって、ステロイド外用剤の長期連用によって、ステロイド産生に関して「萎縮」してしまった場合に、副腎萎縮の補充療法と同じ考えでもって、ステロイド外用を続けていく(続けざるを得ない)という状況・解釈はありうるだろうなあ、ということです。
裏を返せば、ステロイド離脱後すぐの強いリバウンドを超えたあとも、かなりの長期間、ステロイドを使わないことで、いわゆる「自然治癒」が成立するメカニズムの解釈でもあります。「自然治癒」とは、表皮のコルチゾール産生に関する自律的調節の回復を意味している、ということになります。
(注)ステロイドを外用しなければ、正常な表皮(の薄さ)を保てないという意味で、まさにこれは「ステロイド依存性表皮」と言えるかもしれません。インスリンを絶対的に必要とする「インスリン依存性糖尿病」と似た言葉の用法です。インスリン依存性糖尿病との違いは、「ステロイド依存性表皮」の場合は、産生細胞が死滅しているわけではないですから、回復する可能性がゼロではない、という点です。
患者さんにとって問題なのは、自分が、1)表皮のステロイド産生能が回復していないから治癒が遅れているのか? 2)何か気がついていない悪化要因があって回復が遅れているのか?が、わからない点です。
もし2)だとすれば、諦めて「補充療法」に移行したとしたら、実にもったいない話です。副腎機能の場合はACTH負荷試験を行うことで、副腎機能の回復状況が確認できますが、皮膚(表皮)のステロイド産生能を確認する良い方法は無いものでしょうか?
病勢の推移は参考になるはずです。かなり良くはなるのだが、ときどき酷く悪化して元に戻ってしまうようなケースでは、悪化要因が何かあると考えられるし、ほとんど症状に変化が無く、悪い状態のまま安定して推移している場合には、表皮の回復の遅れが疑われます。ただし、例外は有り得ます。たとえば、悪化要因に慢性的に晒されていれば、悪い状態のまま安定しているように見えるでしょう。
以前記した、11βHSD1/2の染色のパターンなどは、ひょっとしたらこの問題解決に役立つかもしれません(→こちら)。表皮の11βHSD1の発現が弱く11βHSD2が亢進していれば、それは、表皮のコルチゾール産生能が低下していることを示唆するからです。
2013.11.13
皮膚(表皮細胞)というのは、自身ステロイド(コルチゾール)を産生しています(→こちらやこちら)。産生されたコルチゾールは、自身あるいは周辺の表皮細胞に作用して、過度な細胞分裂を抑制し、あるいはアポトーシスを誘導して、表皮の厚さを自律的に調節しています。
ステロイドの全身投与を長期継続すると、副腎の萎縮が起こります。副腎皮質はステロイドを産生する臓器であり、外部からステロイドが供給されると、役目が無くなるので廃用萎縮するわけです。
皮膚(表皮)を、ステロイドを産生する臓器と考えたとき、大量長期のステロイドが供給されるとどうなるでしょうか?
副腎の場合、ステロイド全身投与が一過性であると、抑制も一時的です。連用が続くと、それに応じて回復に時間がかかるようになります。長期間大量投与が続いていた場合には、回復にも数年かかります。
これと同じことが、表皮のステロイド産生能にも、言えるのではないか?と考えました。
表皮のステロイド産生が低下して、外部からの供給も無くなる、すなわちステロイド長期連用後に離脱した患者においては、ステロイド(コルチゾール)不足の結果、表皮は肥厚し、フィラグリン産生は低下するでしょう。これは脱ステロイド後の、肥厚した、しかし機能的には不完全な表皮に合致します。
(注)副腎は萎縮すると小さくなりますが、表皮は自己のコルチゾール産生能が低下すると形態的には肥厚します。この肥厚した表皮を「ステロイド産生に関して萎縮した表皮」と、ここでは表現しています。
このような表皮に、ステロイドを外用すれば、欠乏していたコルチゾールが外部供給されるわけですから、表皮は正常に近くまで薄くなります。リンパ浸潤の少ない(Th2サイトカインの多くない)場合には、フィラグリンも増加するかもしれません。
しかし、これは、治しているように見えて、実は治しているのではない、ということは明らかです。副腎でいうと、ちょうど萎縮した副腎をおぎなうべく、コルチゾールの補充療法を行っている状況です。
私は、昔、医者になって最初の2年間は内科で過ごしました。そこから皮膚科に転じたのですが、その理由は、膠原病を専門とする先生の下についていたからです。当時、膠原病というのは、皮膚に症状が現れる内科的疾患として、私の出身校である名市大では内科で、旧帝大である名大では皮膚科で診られていました。それでかなりの数の膠原病の患者さんの診療に携わりました。
膠原病にもいろいろありますが、多くはステロイドの内服でコントロールします。ほとんどの方は、ステロイドを継続的に服用し、その期間は数十年にわたります。当然副腎は萎縮し、そのため病勢がほとんど治まってしまっているのではないか?と考えられるケースでも、補充療法的に1日1~2錠の内服を延々と続けるというケースが多かったです。
アトピー性皮膚炎で、乳幼児期から非常に長期大量のステロイド外用を続けてきて、成人後脱ステロイドを試みるも、なかなか回復がはかばかしくない、という方の表皮というのは、発症後数十年間にわたってステロイド内服を続けてきて、症状が落ち着いたあとも補充療法的にステロイド少量内服を続けている膠原病の患者さんの副腎に例えられます。
脱ステロイドで、リバウンドを経てやや改善し、しかしその後も肥厚した皮膚が続き、ステロイドを外用すれば落ち着くのだが、止めるとまた元に戻ってしまう、という方は、これまでは、「ステロイド皮膚症からは脱したが、もともとのアトピー性皮膚炎に戻っていて、それがなかなか治まらない状態」と解釈し、アレルゲンなど悪化因子探し・対策を勧めてきたのですが、実はそうではなく、表皮のステロイド産生能が低下した状態が回復していない状態、副腎で言うと萎縮した状態に当たるのかもしれません。
もし、そうだとしたら、その状態をすぐに改善させることが出来るのは、残念ながら、ステロイドだけだということになります。アトピー性皮膚炎の治療というよりも、ステロイド産生に関して萎縮してしまった表皮に対する補充療法といった意味合いでもって、外部から供給するしかない、ということになります。
萎縮した副腎が、いつかは回復するように、ただただステロイドを断ち続けることで、表皮が回復する、ということももちろん期待できるはずだし、治癒を目指すためにはそうすべきですが、日々の生活を考えたとき、自分は一生ステロイドの補充療法で行こう(行くしかない)と患者が判断したとしても、必ずしも間違いではないと考えられます。
別に私が宗旨替えをしたわけではないです。皮膚がステロイドを産生する臓器であって、ステロイド外用剤の長期連用によって、ステロイド産生に関して「萎縮」してしまった場合に、副腎萎縮の補充療法と同じ考えでもって、ステロイド外用を続けていく(続けざるを得ない)という状況・解釈はありうるだろうなあ、ということです。
裏を返せば、ステロイド離脱後すぐの強いリバウンドを超えたあとも、かなりの長期間、ステロイドを使わないことで、いわゆる「自然治癒」が成立するメカニズムの解釈でもあります。「自然治癒」とは、表皮のコルチゾール産生に関する自律的調節の回復を意味している、ということになります。
(注)ステロイドを外用しなければ、正常な表皮(の薄さ)を保てないという意味で、まさにこれは「ステロイド依存性表皮」と言えるかもしれません。インスリンを絶対的に必要とする「インスリン依存性糖尿病」と似た言葉の用法です。インスリン依存性糖尿病との違いは、「ステロイド依存性表皮」の場合は、産生細胞が死滅しているわけではないですから、回復する可能性がゼロではない、という点です。
患者さんにとって問題なのは、自分が、1)表皮のステロイド産生能が回復していないから治癒が遅れているのか? 2)何か気がついていない悪化要因があって回復が遅れているのか?が、わからない点です。
もし2)だとすれば、諦めて「補充療法」に移行したとしたら、実にもったいない話です。副腎機能の場合はACTH負荷試験を行うことで、副腎機能の回復状況が確認できますが、皮膚(表皮)のステロイド産生能を確認する良い方法は無いものでしょうか?
病勢の推移は参考になるはずです。かなり良くはなるのだが、ときどき酷く悪化して元に戻ってしまうようなケースでは、悪化要因が何かあると考えられるし、ほとんど症状に変化が無く、悪い状態のまま安定して推移している場合には、表皮の回復の遅れが疑われます。ただし、例外は有り得ます。たとえば、悪化要因に慢性的に晒されていれば、悪い状態のまま安定しているように見えるでしょう。
以前記した、11βHSD1/2の染色のパターンなどは、ひょっとしたらこの問題解決に役立つかもしれません(→こちら)。表皮の11βHSD1の発現が弱く11βHSD2が亢進していれば、それは、表皮のコルチゾール産生能が低下していることを示唆するからです。
2013.11.13
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