タール剤(その2)
Anti-inflammatory action of pale sulfonated shale oil (ICHTHYOL pale) in UVB erythema test J. Warnecke and A. Wendt Inflamm. res. 47 (1998) 75–78
前章で、グリテールの話を書いたので、同じタール剤であるイクタモールの文献を探してみました。イクタモールがはじめて皮膚病に用いられた報告は1882年だそうです(Unna PG Aphorismen uber Schwefeltherapie und Schwefelpraparate. IV. ICHTHYOL. Monatsheft Praktische Dermatologie 1882;1:328–33)。ちょっと読んでみたいような気もします。
1998年のこの論文は、UVB(紫外線)によってボランティアの健常人皮膚に軽いやけどをおこし、その炎症(紅斑)が、ステロイドまたはイクタモールでどの程度抑えられるかを比較したものです
前章で、グリテールの話を書いたので、同じタール剤であるイクタモールの文献を探してみました。イクタモールがはじめて皮膚病に用いられた報告は1882年だそうです(Unna PG Aphorismen uber Schwefeltherapie und Schwefelpraparate. IV. ICHTHYOL. Monatsheft Praktische Dermatologie 1882;1:328–33)。ちょっと読んでみたいような気もします。
1998年のこの論文は、UVB(紫外線)によってボランティアの健常人皮膚に軽いやけどをおこし、その炎症(紅斑)が、ステロイドまたはイクタモールでどの程度抑えられるかを比較したものです
上表でPSSOはイクタモールのことです(Pale sulfonated shale oil)。PlaceboやIrradiated controlに比べて、イクタモールやステロイド(Hydrocortisone)では、赤さが低下し、紅斑が抑制されていることがわかります。
上の表の見方なのですが、この実験は、紫外線照射量を、MED(最小紅斑量)の×1、×1.25、×1.6、×2の4段階について行っています。外用剤はコントロールを含めて5種類ですから、合計5×4=20個種類の実験を行っています。それで、統計的な有意差検定をするにあたって、4段階づつを一度に分散分析(ANOVA)で出しています。そのp値が表にしてあるわけです。 たとえば、横軸のPlaceboと縦軸のPSSO4%の交差を見るとp=0.0001ですから、Placebo群×1、×1.25、×1.6、×2(MED)と、PSSO4%群×1、×1.25、×1.6、×2(MED)の比較において、p=0.0001レベルで有意差があったということになります。 Hydroc.0.5%とPSSO4%を比較すると、p=0.5169ですから、p=0.05レベルでも有意差が無さそうです。ということは、イクタモール4%軟膏には、ハイドロコートン0.5%軟膏と同程度の紅斑抑制効果が認められる、ということになります。 ハイドロコートン0.5%相当というのは、抗炎症作用として、かなり弱いです。「この程度で意味あるのかな?」と思われるかもしれませんが、プラセボより効くことははっきりしてますし、何よりもステロイド外用剤と異なり依存やリバウンドにつながりません。もし、ステロイド外用剤に、依存やリバウンドの副作用がみられなければ、私だって、イクタモールのような弱い薬に見向きもしないでしょう。脱ステロイドの向かう先は、プロトピックなどの新薬開発と同時に、タール剤のような、ステロイド剤に席巻されて、忘れ去られてしまった古い薬の薬効を再検討する作業でもあります。
この論文は、ドイツで市販されているIchthosinという4%イクタモール軟膏に関してのもののようです。「Neurodermatitis」(アトピー性皮膚炎のことです)と赤字で印刷されていますね。
この論文は、ドイツで市販されているIchthosinという4%イクタモール軟膏に関してのもののようです。「Neurodermatitis」(アトピー性皮膚炎のことです)と赤字で印刷されていますね。
わたしは、皮膚科医であった頃は、海外にいくと、その国の薬局で売られている、市販の外用薬で面白そうなものがあると、買ってくるのが趣味でした。イクタモール軟膏も各国で売られています。コレクションの一部を紹介しましょう。
これは中国製です。500g容器ですが、10gチューブのものもあって、数十円で買えます。
これはロシアのものです。25gで20円くらいです。
アメリカ(ハリウッド)のドラッグストアで売られていたものです。値札が付いています。2~3$です。こういった、安価なタール系の外用剤が、日本で絶えてしまったのは残念なことです。
イクタモールについて補足ですが、上記論文は、あくまでUVB紅斑を抑える作用において比較したものであって、イクタモールには、このほかに、抗菌作用(ステロイド外用剤にはありません。「抵抗性」の話のときに記したように、抗菌作用は黄色ブ菌対策になり、それだけでもアトピー性皮膚炎に有用です)や、LTB4抑制作用(ケラチノサイトから放出されるLTB4は、かゆみの原因の一つです)などもあるので、それらの作用の総合としてアトピー性皮膚炎の皮疹を抑えるのに有効なのだと考えられます。
2009.10.21
イクタモールについて補足ですが、上記論文は、あくまでUVB紅斑を抑える作用において比較したものであって、イクタモールには、このほかに、抗菌作用(ステロイド外用剤にはありません。「抵抗性」の話のときに記したように、抗菌作用は黄色ブ菌対策になり、それだけでもアトピー性皮膚炎に有用です)や、LTB4抑制作用(ケラチノサイトから放出されるLTB4は、かゆみの原因の一つです)などもあるので、それらの作用の総合としてアトピー性皮膚炎の皮疹を抑えるのに有効なのだと考えられます。
2009.10.21