タール剤(その3)
Inhibitory Effects of Shale Oils (Ichthyols) on the Secretion of Chemotactic Leukotrienes From Human Leukocytes and on Leukocyte Migration BM Czarnetzki J Invest Dermatol 87: 694-697(1986)
イクタモールの薬理作用の追加です。LTB4(ロイコトリエンB4)への作用をかなり詳しく調べた論文がありました。 LTB4は、痒みに深く関係のある物質で、表皮細胞から産生されます。 表題の論文は、白血球においてですが、イクタモールには、LTB4の産生を抑えたり、活性を抑える作用があることを報告しています。 表皮細胞に対しても同様の作用があるならば、イクタモールの止痒作用の説明になるのかもしれません。
実験にはBoyden Camberという道具を使います。
イクタモールの薬理作用の追加です。LTB4(ロイコトリエンB4)への作用をかなり詳しく調べた論文がありました。 LTB4は、痒みに深く関係のある物質で、表皮細胞から産生されます。 表題の論文は、白血球においてですが、イクタモールには、LTB4の産生を抑えたり、活性を抑える作用があることを報告しています。 表皮細胞に対しても同様の作用があるならば、イクタモールの止痒作用の説明になるのかもしれません。
実験にはBoyden Camberという道具を使います。
左図の青色の四角はフィルターで、ここに小さな穴があいています。下の黄色い部分に試験液(図ではLTB4)を入れて、フィルターの上には、白血球など遊走能を持った細胞を入れておきます。試験液に白血球遊走能の高い物質があると、上の部屋(Chamber)の細胞は、小孔をくぐって遊走してきてフィルター裏面に張り付きます(左図)。
実験には、Calcium ionophore A 23187 という物質も使います。これを白血球に加えると、細胞膜に取り付いて、カルシウムイオンを強制的に流入させるようで、その結果、白血球からはLTB4などの物質が放出されます。LTB4には、上に記したような痒みを起こす作用のほかに、白血球を遊走させる作用もあります。生体内では、白血球は、LTB4を放出することによって、他の白血球を呼び寄せるわけですね。
実験には、Calcium ionophore A 23187 という物質も使います。これを白血球に加えると、細胞膜に取り付いて、カルシウムイオンを強制的に流入させるようで、その結果、白血球からはLTB4などの物質が放出されます。LTB4には、上に記したような痒みを起こす作用のほかに、白血球を遊走させる作用もあります。生体内では、白血球は、LTB4を放出することによって、他の白血球を呼び寄せるわけですね。
上の表は、Boyden chamberの上室に、PMN(好中球)、下室にイオノフォアで刺激したPMNまたはLMB(単核球)および様々な濃度のイクタモールを入れて、上室からのPMNの遊走が、イクタモール添加で何%阻害されるかをみたものです(CF Release)。たとえばPMN+イクタモールの場合、濃度に応じて55→77→100%と阻止率が上がっています。いちばん右は、そのときの下室液中に実際に産生されたLTB4を測定し、イクタモールを加えない場合に比べて、どれくらい産生が低下しているか、を示したものです。 PMN+イクタモールをみると、0→0→100%ですから、55→77→100%と食い違いが出ており、イクタモールによる遊走阻止は、LTB4産生阻止に加えて、ほかに何かあることが推定できます。
これは、下室にLTB4を含有する液+様々な濃度のイクタモール(lightとdarkは異なる2種類のイクタモールで確認したということ)を入れて、上室にはPMNを入れ、遊走能をみたものです。イクタモールはLTB4の作用を濃度依存的に阻害しています。 これがおそらく上の実験の「ほかに何かある」で、イクタモールは、白血球のLTB4放出を阻害すると同時に、LTB4の作用自体をも阻害します。
これは、おまけですが、上室(Above)と下室(Below)を、様々なイクタモール濃度にして、上室からのPMNの遊走能をみたものです。イクタモールはそれ自体に白血球遊走を抑える働きもあることがわかります。
これは、上室にはPMN、下室には、あらかじめ様々な時間イクタモールを加えてインキュベートしたPMNに、イオノフォア処理して遊走率をみたものです。イオノフォア処理するときには培地はイクタモールを含まないものに交換されています。イクタモールによるPMNからのLTB4放出抑制には、最低15分かかるということがわかります。
これはちょっとわかりにくいんですが、イオノフォアでPMNを刺激した培養液(左)と、2種類のイクタモールを加えた場合の培養液とを、液体クロマトグラフにかけたものです。イクタモールを加えると、LTB4およびその代謝産物である20-OH-LBT4、20-COOH-LTB4ともに、液クロのピークが減少しています。左の棒グラフは、液クロ各フラクションで、RIA法によりLTB4を測定した結果(上段)と、遊走能を確認した結果(下段)です。代謝産物の、20-COOH-LTB4で、遊走能が高いことがわかります。イクタモールを加えた真ん中と右では、LTB4自体も遊走能も認められませんでした。
この論文が記された1986年には、まだ、表皮細胞が産生するLTB4が痒みに強く関係することは判っていなかったので、考察としては、イクタモールの止痒作用には言及されていないですが、現在の解釈としては、イクタモールには、arachidonate-dependant,lipoxygenase-drivenに、LTB4を介して痒みを抑える機序があるのかもしれない、と言っていいのでしょう。 古い論文の実験結果を、いまの知識で解釈しなおすと、いろいろ興味深い発見があるという一例だと思いました。
2009.10.21
この論文が記された1986年には、まだ、表皮細胞が産生するLTB4が痒みに強く関係することは判っていなかったので、考察としては、イクタモールの止痒作用には言及されていないですが、現在の解釈としては、イクタモールには、arachidonate-dependant,lipoxygenase-drivenに、LTB4を介して痒みを抑える機序があるのかもしれない、と言っていいのでしょう。 古い論文の実験結果を、いまの知識で解釈しなおすと、いろいろ興味深い発見があるという一例だと思いました。
2009.10.21