デルモベートを2週間外用した前後の表皮細胞のステロイド産生酵素の変化について
以前、私自身の腕の皮膚に二週間ステロイド(デルモベート)を外用した前後で、表皮の萎縮の程度を確認してみた結果を供覧しましたが(→こちら)、今回、ステロイド産生にかかわる酵素のいくつかについて、同じように免疫染色してみました。
今回は少し細かくスケジュールを組んで皮膚を採取しました。すなわち、下記のように、ステロイド外用前(Day0)および外用後2、5日(Day2,5)、二週間外用後(day14)、終了5日後(Day19)、14日後(Day24)の6回皮膚を採取しました。
今回は少し細かくスケジュールを組んで皮膚を採取しました。すなわち、下記のように、ステロイド外用前(Day0)および外用後2、5日(Day2,5)、二週間外用後(day14)、終了5日後(Day19)、14日後(Day24)の6回皮膚を採取しました。
ステロイド産生にかかわる酵素は下記の通りです。今回はこのうちCPY17,19および11βHSD1,2の4種類について免疫染色しました。
まず11βHSD2です。これは、活性型のステロイドであるコルチゾールを不活性型のコルチゾンに変換する酵素で、ステロイド外用前は表皮の基底細胞層に染色が強かったですが、外用後は徐々に全層に発現してくるようになり、ピークはDay14でした。外用中止とともに活性が低下し、Day28には元にもどっています。外用で過剰になったステロイドを表皮が不活化しようとしていると考えられます。
注:文献的には表皮のHSD2は顆粒層付近の上層でよく染まると報告されています(→こちら)が、実際には基底層で染まる例のほうが多いようです(→こちら)。
注:文献的には表皮のHSD2は顆粒層付近の上層でよく染まると報告されています(→こちら)が、実際には基底層で染まる例のほうが多いようです(→こちら)。
次に11βHSD1です。この酵素は11βHSD2の逆に働くものですが、全経過を通じて、変化は少なかったです。
次にCYP17です。コレステロールからの合成の二番目に働く酵素です。当初から全層にうっすらと染色されるのですが、Day19すなわちステロイドを二週間外用して中止5日後に一過性に亢進しました。
これと逆のパターンがCYP19で見られました。CYP19 はコルチゾールではなく、性ホルモン産生に働く酵素です。表皮上層(顆粒層付近)で染色されていたものが、Day19に一過性に減弱しています。経路をコルチゾール産生に傾かせるために、発現が低下したと解釈できます。
以上、興味深い結果でした。コレステロールからのコルチゾール産生経路においては、ステロイドを外用して中止したあとで、一過性にコルチゾール産生にかかわる酵素が増加する=表皮のコルチゾール需要が高まる、ということになります。
予想と言うか、私の仮説においては、ステロイド外用によってステロイド産生系の酵素が低下し、その回復が遅れるために表皮が一過性に厚くなるのではないか?ということであったのですが、今回の結果から考える限り、そうでも無さそうで、表皮のステロイド産生系は2週間のステロイド外用中も平然と通常の機能を保っており、しかし中止後は、それまで外用されていたステロイドを補おうとするがごとく、一過性に産生が亢進する(コルチゾール産生へと傾く)ようです。
イラストで示すと、私の仮説は、
予想と言うか、私の仮説においては、ステロイド外用によってステロイド産生系の酵素が低下し、その回復が遅れるために表皮が一過性に厚くなるのではないか?ということであったのですが、今回の結果から考える限り、そうでも無さそうで、表皮のステロイド産生系は2週間のステロイド外用中も平然と通常の機能を保っており、しかし中止後は、それまで外用されていたステロイドを補おうとするがごとく、一過性に産生が亢進する(コルチゾール産生へと傾く)ようです。
イラストで示すと、私の仮説は、
であったのですが、実際には、
であったということです。
これをどう解釈するか?ですが、まず、私の皮膚は健常であり、ステロイド外用は短期(2週間)であったので、当然依存には陥っていないということを思い出す必要があります。そのような皮膚では、表皮細胞自身のステロイド産生系というこは、結構強靭で、外用として強力なステロイドが投与されても、それはそれ、これはこれで、いつも通り産生を続ける、と考えたほうがよさそうです。というか、そう考えざるを得ません。
その一方で、ステロイド中止後、表皮は一過性に肥厚します。これは実験的事実であり、なぜこのようなことが起きるのだろう?リバウンドと何か関係があるのではないか?という考えから、私は上のイラストのような仮説を考えました。ステロイド中止後の一過性の表皮の肥厚は、表皮細胞のステロイド産生低下が遷延した結果と考えるとうまく説明できるのですが、そうではなくて、何か別の要因によって肥厚するようです。表皮細胞由来のステロイドは、むしろ肥厚を抑えて元に戻そうと産生が増加すると解釈した方が自然です。
この「何か別の要因」とは何かですが、例えば表皮細胞の分裂増殖に関わる成長因子が考えられます。代表的なものはEGF(epidermal growth factor)です。
EGFをイラストに書き加えて新たな仮説を立てると、下図のようになります。
これをどう解釈するか?ですが、まず、私の皮膚は健常であり、ステロイド外用は短期(2週間)であったので、当然依存には陥っていないということを思い出す必要があります。そのような皮膚では、表皮細胞自身のステロイド産生系というこは、結構強靭で、外用として強力なステロイドが投与されても、それはそれ、これはこれで、いつも通り産生を続ける、と考えたほうがよさそうです。というか、そう考えざるを得ません。
その一方で、ステロイド中止後、表皮は一過性に肥厚します。これは実験的事実であり、なぜこのようなことが起きるのだろう?リバウンドと何か関係があるのではないか?という考えから、私は上のイラストのような仮説を考えました。ステロイド中止後の一過性の表皮の肥厚は、表皮細胞のステロイド産生低下が遷延した結果と考えるとうまく説明できるのですが、そうではなくて、何か別の要因によって肥厚するようです。表皮細胞由来のステロイドは、むしろ肥厚を抑えて元に戻そうと産生が増加すると解釈した方が自然です。
この「何か別の要因」とは何かですが、例えば表皮細胞の分裂増殖に関わる成長因子が考えられます。代表的なものはEGF(epidermal growth factor)です。
EGFをイラストに書き加えて新たな仮説を立てると、下図のようになります。
すなわち、ステロイド外用によってEGFの発現は低下し(これについては示唆する文献があります→こちら)、そのあとの離脱によってEGFが急増し、内因性のステロイドは、この急増したEGFによって肥厚する表皮を抑えるべく、産生が亢進する、と考えると、今回の私の皮膚の染色結果は合点がいきます。
ただし、同時に、なぜステロイドを中止するとEGFが急上昇するのか?という新たな疑問が生じます。結局は出発点の「なぜステロイド中止後に表皮が肥厚するのか?」の答えにはなっていません。
ちなみに中間分子量(10万付近)のヒアルロン酸は、ステロイド外用による表皮の萎縮に拮抗しますが、そのメカニズムとしてEGFの増加が関係していることは、以前紹介したBarnesらの論文中で示されています(→こちら)。
したがって、ステロイド外用時にヒアルロン酸を外用することで表皮細胞のEGFは保たれます。すると、そのあとの離脱後の表皮の肥厚(および内因性ステロイドの産生)は、ヒアルロン酸を使用しない時よりも軽く済むのでしょうか?ここは判りません。次の実験課題です。
ただし、同時に、なぜステロイドを中止するとEGFが急上昇するのか?という新たな疑問が生じます。結局は出発点の「なぜステロイド中止後に表皮が肥厚するのか?」の答えにはなっていません。
ちなみに中間分子量(10万付近)のヒアルロン酸は、ステロイド外用による表皮の萎縮に拮抗しますが、そのメカニズムとしてEGFの増加が関係していることは、以前紹介したBarnesらの論文中で示されています(→こちら)。
したがって、ステロイド外用時にヒアルロン酸を外用することで表皮細胞のEGFは保たれます。すると、そのあとの離脱後の表皮の肥厚(および内因性ステロイドの産生)は、ヒアルロン酸を使用しない時よりも軽く済むのでしょうか?ここは判りません。次の実験課題です。
(上の?はヒアルロン酸(HA)によって離脱直後の肥厚が回避されない場合、下の?は回避される場合を示しています)。
私は、離脱直後の表皮の肥厚が、リバウンド現象に関係しているかもしれないと考えました。もしそうであれば、ステロイド外用時のヒアルロン酸の併用によって、これを回避できる可能性が出てきます。リバウンド現象が、離脱直後の表皮の肥厚とはまったく関係の無い他のメカニズムによるのであれば、ヒアルロン酸はリバウンドの予防にはならないでしょう。ヒアルロン酸はステロイド外用中の表皮萎縮は食い止めますから、この間のバリア機能は高めてはくれますが。
以上は、健常者である私の皮膚に、たかだか2週間ステロイドを外用した際の皮膚の反応であるので、長期にステロイドを外用していたアトピー性皮膚炎患者、とくに依存患者において、表皮が内因性のステロイド産生に関して機能不全に陥っているという可能性は依然としてあります。ですから、最初の私の仮説が否定されたというわけではありません。もしも依存患者でステロイド外用中止後の一過性の表皮のステロイド産生が出来なくなっていれば、表皮の肥厚は暴走するだろうし、それがリバウンドに関係するのかもしれません。
今回の結果は、健常な表皮は、ステロイド外用に対しては11βHSD2の亢進によってこれを不活性化し、ステロイド中断に際しては、一過性に産生亢進に傾いて、恒常性維持に働くというダイナミックな機能を有している、という事実を垣間見るものでした。このような表皮のステロイド産生という自律機能の破綻が、果たしてステロイド依存症患者で生じているのかいないのか、これは患者に協力してもらって、私と同じようにデルモベートを一部分に2週間外用して、前後の皮膚を採取するという実験が出来なければ判りようのないことです。しかし、これに協力してくれる患者は、なかなか居ないだろうなあ・・。もしもOKです、という方いらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。お礼として、クロフィブラートの臨床試用のときと同じように、その後一年間は病状・治療に関するアドバイスも含めて、しっかり無料で診させていただきます。
2014.06.23
私は、離脱直後の表皮の肥厚が、リバウンド現象に関係しているかもしれないと考えました。もしそうであれば、ステロイド外用時のヒアルロン酸の併用によって、これを回避できる可能性が出てきます。リバウンド現象が、離脱直後の表皮の肥厚とはまったく関係の無い他のメカニズムによるのであれば、ヒアルロン酸はリバウンドの予防にはならないでしょう。ヒアルロン酸はステロイド外用中の表皮萎縮は食い止めますから、この間のバリア機能は高めてはくれますが。
以上は、健常者である私の皮膚に、たかだか2週間ステロイドを外用した際の皮膚の反応であるので、長期にステロイドを外用していたアトピー性皮膚炎患者、とくに依存患者において、表皮が内因性のステロイド産生に関して機能不全に陥っているという可能性は依然としてあります。ですから、最初の私の仮説が否定されたというわけではありません。もしも依存患者でステロイド外用中止後の一過性の表皮のステロイド産生が出来なくなっていれば、表皮の肥厚は暴走するだろうし、それがリバウンドに関係するのかもしれません。
今回の結果は、健常な表皮は、ステロイド外用に対しては11βHSD2の亢進によってこれを不活性化し、ステロイド中断に際しては、一過性に産生亢進に傾いて、恒常性維持に働くというダイナミックな機能を有している、という事実を垣間見るものでした。このような表皮のステロイド産生という自律機能の破綻が、果たしてステロイド依存症患者で生じているのかいないのか、これは患者に協力してもらって、私と同じようにデルモベートを一部分に2週間外用して、前後の皮膚を採取するという実験が出来なければ判りようのないことです。しかし、これに協力してくれる患者は、なかなか居ないだろうなあ・・。もしもOKです、という方いらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。お礼として、クロフィブラートの臨床試用のときと同じように、その後一年間は病状・治療に関するアドバイスも含めて、しっかり無料で診させていただきます。
2014.06.23