ネオーラル(免疫抑制剤)によるアトピー性皮膚炎治療について(2)
この図を見ていて、思い出した症例があるので、お伝えしたいと思って記します。2002年3月21日 第219回日本皮膚科学会東海地方会で、私が、学会報告したものです。
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アトピー性皮膚炎のステロイド離脱経過
深谷元継(国立名古屋)
28才男、ステロイド外用・内服およびサンディミュン内服併用されていた。
ACTH負荷試験に反応せず、3年間かけて離脱。
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サンディミュンというのは、ネオーラル以前に用いられていたシクロスポリン製剤で、ネオーラルは、血中濃度が安定するよう改良されたものです。同じ薬と考えていいです。
学会報告のスライドと手書きの原稿が残っていたので、そのままUPします。
======ここから======
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アトピー性皮膚炎のステロイド離脱経過
深谷元継(国立名古屋)
28才男、ステロイド外用・内服およびサンディミュン内服併用されていた。
ACTH負荷試験に反応せず、3年間かけて離脱。
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サンディミュンというのは、ネオーラル以前に用いられていたシクロスポリン製剤で、ネオーラルは、血中濃度が安定するよう改良されたものです。同じ薬と考えていいです。
学会報告のスライドと手書きの原稿が残っていたので、そのままUPします。
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症例は、初診時28才男性です。乳児期からアトピー性皮膚炎があり、ステロイド外用治療を続けていました。3年前よりある大学病院でステロイド内服が開始されました。外用では症状が抑えきれなかったためとのことです。2年前からはシクロスポリン内服も追加されました。
当科初診は97年10月です。皮疹的には一見きれいにコントロールされているのですが、
Rapid ACTH test にて副腎機能を確認いたしますと、注射前の午前中安静時、正常4から20μg/dlのところ、0という価でした。ACTH注射後、正常ですと2倍または10μg/dlの上昇があるのですが、ほとんど反応しません。副腎機能不全の状態にあります。
患者が来院した目的は、ステロイドからの離脱の適否についての私からのセカンドオピニョンでした。私としては、この場合は副腎機能不全の状態にあるので、少なくとも急な離脱には向かない、ということを説明し、現在の主治医と相談しながら漸減していくべきことをすすめました。
患者が来院した目的は、ステロイドからの離脱の適否についての私からのセカンドオピニョンでした。私としては、この場合は副腎機能不全の状態にあるので、少なくとも急な離脱には向かない、ということを説明し、現在の主治医と相談しながら漸減していくべきことをすすめました。
患者は一年後の99年11月に再び来院しました。患者の話によれば、この一年間ステロイドもシクロスポリンも減量されることがなく、担当医が替わってしまい、今後の治療方針について後の担当医に尋ねてもはっきりした答えが得られず、自分で外用を減らしてみたら皮疹が悪化したため来院したとのことでした。
この時点でのrapid ACTH testです。一年前同様副腎機能不全にあります。
以降、当院での離脱経過を示します。
以降、当院での離脱経過を示します。
これは、患者自身が減量の過程を日記としてワープロで打ってきたものです (注:99年11月のものです。「サンデミュ」はシクロスポリンの錠数、「コルソン」は内服ステロイドです。内服ステロイドは前医での処方はたしかリンデロンだったと思いますが、まずは、より半減期の短いハイドロコートン(コルソン)に換えます。副腎機能不全の補充療法の定石です)。
副腎機能不全がありますので、内服ステロイドの減量は慎重にして、外用ステロイドおよびシクロスポリンの減量から取り組むべきと考え説明しますが、あとは患者自身の辛さとの闘いになりますので、減量のペースは基本的に患者の自主性に委ねます(注:この患者は、まず外用ステロイドの中止→シクロスポリンの中止という段階的離脱を選んだということです)。
「近藤さん、林さんを紹介してもらった」とありますが、同じような離脱経過にある患者同士の交流は非常に励みになります。
副腎機能不全がありますので、内服ステロイドの減量は慎重にして、外用ステロイドおよびシクロスポリンの減量から取り組むべきと考え説明しますが、あとは患者自身の辛さとの闘いになりますので、減量のペースは基本的に患者の自主性に委ねます(注:この患者は、まず外用ステロイドの中止→シクロスポリンの中止という段階的離脱を選んだということです)。
「近藤さん、林さんを紹介してもらった」とありますが、同じような離脱経過にある患者同士の交流は非常に励みになります。
1月、離脱開始3ヶ月目の日記です。シクロスポリン(サンディミュン)は完全に切れました。浸出液や痛み・リンパ腺腫脹などの訴えがあります。
1月、離脱開始3ヶ月目の日記です。シクロスポリン(サンディミュン)は完全に切れました。浸出液や痛み・リンパ腺腫脹などの訴えがあります。
2月の臨床像です。典型的なリバウンドによる紅皮症です。
3月、離脱5ヶ月目です。「症状が好転、しかしイライラする」とあります。
この時期のrapid ACTH testの結果です。副腎機能は回復しました(注:コルソンは半減期が短いため、副腎は間欠的に刺激されることとなり、コルソンに置き換えることによって回復します)。そこで、さらに内服ステロイドの離脱をすすめます。
4月の皮疹です。
99年10月、離脱開始から一年の皮疹です。この頃までステロイド内服が断続的に続いていましたが、以降ほぼ完全に中止しました。
2000年2月です。10月の状態より悪化しています。内服中止に伴うリバウンドです。
離脱開始から2年後です。
2年半後。
離脱開始から3年半後、ステロイド内服完全中止から2年半後です。もちろん外用もしていません。
ステロイドというのは、処方して皮疹を抑えてやるだけなら誰でも出来ます。
しかし離脱させることはしばしば並大抵の作業ではありません。脱ステロイドは皮膚科専門医のもとで安全に行われるべきであります。
======ここまで======
先回の記事で、「ネオーラル内服を利用して、依存からの離脱(脱ステロイド)を行うことは、理論的には可能だと思います」と記しました。一方、「ステロイド依存や脱ステロイドの経過をよく知っている医師の下で、はっきりと脱ステロイド目的として使用するべき。でなければ、患者が混乱して、うまくいかないだろう」とも記しました。
ネオーラルは、様々な疾患に対して、良好な治療成績を有する優れた薬です。しかし、アトピー性皮膚炎の治療で、この薬が必要になる病像というのは、わたしは、ステロイド依存しか思いつきません。発売元のノバルティスのサイトの解説図もまた、ステロイド依存そのものです。
ステロイドというのは、処方して皮疹を抑えてやるだけなら誰でも出来ます。
しかし離脱させることはしばしば並大抵の作業ではありません。脱ステロイドは皮膚科専門医のもとで安全に行われるべきであります。
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先回の記事で、「ネオーラル内服を利用して、依存からの離脱(脱ステロイド)を行うことは、理論的には可能だと思います」と記しました。一方、「ステロイド依存や脱ステロイドの経過をよく知っている医師の下で、はっきりと脱ステロイド目的として使用するべき。でなければ、患者が混乱して、うまくいかないだろう」とも記しました。
ネオーラルは、様々な疾患に対して、良好な治療成績を有する優れた薬です。しかし、アトピー性皮膚炎の治療で、この薬が必要になる病像というのは、わたしは、ステロイド依存しか思いつきません。発売元のノバルティスのサイトの解説図もまた、ステロイド依存そのものです。
しかし、ステロイド外用剤依存の患者に、ただネオーラルを投与すれば、問題は解決するかというと、そんなことはありません。今回紹介した患者では、ステロイド外用剤のみではコントロールがきかなくなってステロイド内服が開始され、さらにシクロスポリンが加えられました。原因がステロイド外用剤依存であったことは、その後離脱して回復した経過から明らかです。しかし、原因がステロイド外用剤依存にあるなら、これから離脱せずに内服ステロイドや免疫抑制剤を追加しただけでは問題は解決しません。
「とりあえず薬で抑えていればいつか良くなって止められるかもしれないね。」
という、無責任で根拠の無い非科学的な楽観論のつけを払わされるのは患者です。
「とりあえず薬で抑えていればいつか良くなって止められるかもしれないね。」
という、無責任で根拠の無い非科学的な楽観論のつけを払わされるのは患者です。
上図(ノバルティスのサイトにある「服用期間の例」という図です)を見ると、ネオーラル服薬で皮疹が治まった後は、中止してもしばらくは、よい状態が維持されるかのような印象を与えますが、そんなことはありません。そういう患者は、そもそもステロイド外用剤だけでコントロール可能であったはずで、ネオーラルの適応ではありません。現実は、下図のようになるはずです。
アトピー性皮膚炎の治療において、ステロイド依存・離脱の知識無しに、ネオーラルという薬を真に使いこなせるとは、わたしにはどうしても思えません。患者にどんどん薬を処方して皮疹を抑えるだけなら誰にでも出来ます。その先の治療計画が無ければ、単に薬漬け患者を増やして問題を複雑化・深刻化させるだけでしょう。約十年前にわたしが学会報告したこの症例がまさにそうでした。
追記:ステロイド依存からの離脱にネオーラルが使えるかもしれないというのは、図にすると下のようなイメージ(治療計画)になります。ステロイド依存を認めない立場からは「ステロイド外用剤は使わない」ことの理由付けが出来ませんから、外用も継続使用することになり、依存から抜け出すことが出来ません。
2011.12.01
追記:ステロイド依存からの離脱にネオーラルが使えるかもしれないというのは、図にすると下のようなイメージ(治療計画)になります。ステロイド依存を認めない立場からは「ステロイド外用剤は使わない」ことの理由付けが出来ませんから、外用も継続使用することになり、依存から抜け出すことが出来ません。
2011.12.01