フィラグリン遺伝子の異常について(1)
まず、フィラグリンがどういうものかを、まとめてみました。
フィラグリンというのは、顆粒層のケラトヒアリン顆粒内で、まずプロフィラグリンとい大きな分子として作られ(C図の下)、これが分解されてフィラグリンとなり、角層細胞内のケラチンパターンの構成要素となります。さらに皮膚のターンオーバーが進むと、角層細胞は壊れて放出され、最終的に天然保湿因子となります。そういう蛋白質です。
フィラグリン遺伝子異常は、これまで、下図の赤矢印で示す部分での、DNA塩基の配列異常がわかっていました。ヨーロッパの患者と日本の患者とでは、異常の部位が異なります。
フィラグリン遺伝子異常は、これまで、下図の赤矢印で示す部分での、DNA塩基の配列異常がわかっていました。ヨーロッパの患者と日本の患者とでは、異常の部位が異なります。
J Invest Dermatolの2012年1月号に、このような塩基配列異常とは異なるフィラグリンの遺伝子情報が、アトピー性皮膚炎に関係していることが報告されました。フィラグリン遺伝子異常をはじめて報告したダンディー(Dundee)大学のDr.McLeanらのグループの仕事です。
Intragenic Copy Number Variation within Filaggrin Contributes to the Risk of Atopic Dermatitis with a Dose-Dependent Effect. Brown SJ et al; J Invest Dermatol 132: 98-104
(http://www.nature.com/jid/journal/v132/n1/pdf/jid2011342a.pdfで無料公開されています)
それはどういうものかというと、プロフィラグリンは上図Cのように、10~12個のフィラグリン分子の繰り返しで、遺伝子情報も同じく繰り返しなのですが、この10~12個という点に注目したわけです。
Intragenic Copy Number Variation within Filaggrin Contributes to the Risk of Atopic Dermatitis with a Dose-Dependent Effect. Brown SJ et al; J Invest Dermatol 132: 98-104
(http://www.nature.com/jid/journal/v132/n1/pdf/jid2011342a.pdfで無料公開されています)
それはどういうものかというと、プロフィラグリンは上図Cのように、10~12個のフィラグリン分子の繰り返しで、遺伝子情報も同じく繰り返しなのですが、この10~12個という点に注目したわけです。
10個よりも12個のほうが、フィラグリンはたくさん生成されるはずです。そこで、塩基配列の遺伝子異常の無いことが確認された患者群と、健常者群とで、フィラグリンの繰り返しの数の比較をしました。
上表がその結果ですが、塩基配列異常の無いアトピー性皮膚炎患者528人、対照824人を比較した結果です。遺伝子というのは一対(2個)あるので、たと えばアトピー性皮膚炎患者だと、10 Repeats,11Repeats,12 Repeatsの合計は、410+497+149=(528×2)個です。また組み合わせとしては、フィラグリン分子数で10+10=20個が最少で 12+12=24個が最多となるので、20~24までの5通りが考えられます。上表の右下部分が結果ですが、アトピー性皮膚炎の患者では、繰り返しが有意 に少ないです。
上図は、実際のDNAの電気泳動の結果で、フィラグリン遺伝子1個がだいたい1000bp弱なので、その間隔で三本のラインのどこが染色されるかで判定し ています。一番左の患者は11/12なので5000と6000、次は10/11で4000と5000、次は11/11なので5000のみの1本です。わかりやすいですね。
ということで、フィラグリン遺伝子に塩基配列レベルの異常がなくても、繰り返し(リピート)数が少なければ、アトピー性皮膚炎を発症しやすい、という結果 です。日本人での報告もいずれ調べられるでしょう。そうすると、現在はフィラグリン遺伝子異常が関係する患者は20数%ですが、繰り返し異常を含めると、 もっと多いということになるかもしれません。
それはそれで一つの事実なのですが、ロンドンのKing’s collegeのDr.McGrathは、JID誌の同じ号で、この論文の結果について、興味深いコメントをしています。すなわち、この結果は、見方を変えれば、フィラグリンの量を5~10%増やしてやれば(すなわち20リピートの患者であれば21か22リピートに相当する程度にUpregulateしてやれば)、アトピー性皮膚炎の発症をかなりの患者で抑えられる可能性がある、ということを意味する、ということです。いやあ、楽観的っていうか、指摘されてみれば確かにそうですが。
Profilaggrin, Dry Skin, and Atopic Dermatitis Risk: Size Matters. McGrath JA ; J Invest Dermatol 132: 10-11
(http://www.nature.com/jid/journal/v132/n1/pdf/jid2011360a.pdf
で無料で読めます)
Dr.McGrathの指摘は、気休めではなくて、実際にフィラグリンの発現を増やしている論文を、「たとえばこういうものがある」と、引用してくれています。
Simultaneous effect of ursolic acid and oleanolic acid on epidermal permeability barrier function and epidermal keratinocyte differentiation via peroxisome proliferator activated receptor-alpha. Lin SW ; J Dermatol 34:625–34
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1346-8138.2007.00344.x/abstract
です。
どういった内容かというと、ヘアレスマウスというネズミを使った実験なのですが、これにウルソール酸やオレアノール酸といった物質を外用してやると、フィラグリンの発現が増えることが報告されています。
上図で、Cはコントロール、UAはウルソール酸、ONAはオレアノール酸、OAはオレイン酸、WyはWy-14643で、以前紹介しました(→こちらとこちら)PPARαリガンドです。UA,ONA,OA,Wyのいづれでも、フィラグリンは増加しています(図の右中)。ウルソール酸やオレアノール酸は、ローズマリーに多く含有されるようで、ローズマリー油は各種化粧品成分として0.15~0.5%配合されているものが既に市場にあるようですし、オレイン酸はオリーブ油やツバキ油の成分です。これだけあるなら、フィラグリン産生増やす物質は、ほかにも色々あるのではないかなあ。
アトピー性皮膚炎の自然治癒っていうのは、フィラグリン遺伝子は変化しなくても、これをUpregulateするメカニズムが体内にあって、それがこういった物質の助けを借りなくても起動し始める、っていうことなのかもしれませんね。
こういったオイルを使って、乾燥肌気味の赤ちゃんのスキンケアをしてやると、アトピーの発症は防げるのかもしれません。石けんを使わず、お湯で洗って、フィラグリンを増やす系のオイルで保湿し、ステロイドは仮に使うとしても最小限に済ます、というのが、賢い対処法だと思います。
追記:「filaggrin」と「upregulation」で検索してみたら、イギリスのAcquaCellという化粧品(→こちら)の説明に「 AcquaCell upregulates filaggrin by 123%(AcquaCellはフィラグリンを123%まで高める)」とありました。ほかにもまだまだありそうです。
2011.12.19
アトピー性皮膚炎の自然治癒っていうのは、フィラグリン遺伝子は変化しなくても、これをUpregulateするメカニズムが体内にあって、それがこういった物質の助けを借りなくても起動し始める、っていうことなのかもしれませんね。
こういったオイルを使って、乾燥肌気味の赤ちゃんのスキンケアをしてやると、アトピーの発症は防げるのかもしれません。石けんを使わず、お湯で洗って、フィラグリンを増やす系のオイルで保湿し、ステロイドは仮に使うとしても最小限に済ます、というのが、賢い対処法だと思います。
追記:「filaggrin」と「upregulation」で検索してみたら、イギリスのAcquaCellという化粧品(→こちら)の説明に「 AcquaCell upregulates filaggrin by 123%(AcquaCellはフィラグリンを123%まで高める)」とありました。ほかにもまだまだありそうです。
2011.12.19