プロトピックの発癌性について(その2:2010年3月22日の新聞報道)
プロトピックについて、(2010年の)3月22日に、新聞報道があったようで、私が参加する医師のML(メーリングリスト)でも話題に上がりました。
ーーーーー(ここから引用)-----
アトピー薬:使用の子46人がん 多くが用法を守らず--米国
【ワシントン共同】日本でも販売されているアステラス製薬の「プロトピック」(一般名・タクロリムス水和物)など2種類のアトピー性皮膚炎治療薬を使った米国の子どもが、2004年1月~09年1月の5年間に計46人、白血病や皮膚がんなどを発症し、このうち4人が死亡したと米食品医薬品局(FDA)に報告されていることが21日分かった。適応対象外の子どもに使ったり、長期間使い続けたりするなど、使用法が守られていないケースが多いという。因果関係は明確ではないが、発がんと関連する恐れがあるとして、FDAは、薬の添付文書改訂を検討する。もう一つの薬はノバルティス社(スイス)の「エリデル」(日本未発売)。いずれも塗り薬で免疫抑制作用がある。FDAによると、0~16歳でプロトピックを使った15人、エリデルを使った27人、両方を使った4人の計46人が皮膚がんやリンパ腫、白血病を発症した。うち50%は、添付文書で「使うべきでない」とされている2歳未満。41%は、安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の長期使っていた。
ーーーーー(ここまで引用)-----
これは、少なからず誤解を招きやすい報道だと思うので、とりあげて解説することにします。
まず大切なのは、この種の報道は、伝聞ということになるので、元のソースを確認することです。元ソースはFDAですからHPを見つけて検索します。
FDAのページ
該当文書
アメリカにはAdverse Event Reporting System (AERS)という副作用報告システムがあるようで、そこに上がってきた全症例をまとめたもののようです。簡単なケースシリーズを含んでおり、それ自体は興味深いものなのですが、このレポートを読むと、結論としては、
「報告のあがった患者には、添付文書上「使うべきでない」とされている2才未満に使用した例や、0.03%が推奨されている2~16才に0.1%を使った例が多いので、添付文書に、これら幼小児には適応がないということを強調すべきだ」
ということになっています。非常に誤解されやすい表現ですが、この文書で問題とされていることは、
「副作用報告を通じて幼小児への適応外使用が広く行われていることが明らかになった」
ということであって、
「幼小児で癌が多発した」
ということではありません。なぜ「幼小児で癌が多発した」とは言えないかというと、この報告には母数が無いからです。自然発症の幼小児の発癌率を超えているのかどうか?は、46人という数字からはわかりません。
たとえば、今回の報告書では2004~2009の5年間にプロトピックを使用後にリンフォーマを発症したとして副作用報告があがったのは5例です。一方、アメリカでの、15才以下の幼小児のリンフォーマ発症率は、15.4人/100万人です。この2つは比較のしようがありません。前者の母数がわからないからです。
もう一度、新聞記事を読み直すと、たしかに間違ったことは書かれてはいないことがわかります。しかし、どうでしょう?この新聞記事を読んで「大変だ、プロトピックで危惧されていた発がん性がいよいよ現実のものとなったのか!」と心配したひとのほうが、「幼小児で認められていない適応外処方がまかり通っているのはゆゆしいことだ」と、解釈したひとよりはるかに多かったと思います。
プロトピックの発がん性については以前記しました(→こちら)。このとき引用した論文の表には、母数がありました。健康保険請求のデータベースを用いたものだからです。29870人/年の処方に対し、リンフォーマの発症は10人で、一見高そうです。しかし、皮膚炎はあるがプロトピックの処方を受けていない人や、ステロイド外用剤の処方を受けた人とを比較した結果は、プロトピックが発症率をあげたとは言えない、ということを、解説しました。
どうも、このテーマを記すのは、誤解を招きそうで気が重いです。くれぐれも誤解して欲しくないのは、プロトピックをはじめとしたカルシニューリン阻害剤は、用量依存性の明らかな発癌物質であり、経皮吸収されて一定期間血中濃度が上がれば、ある割合の患者は必ず発がんするということは、紛れも無い事実だということです。わたしは、これを否定しようとか、ごまかそうなんて気は毛頭ないです。
さらに、カルシニューリン阻害剤のひとつであるシクロスポリンにいたっては、ある血中濃度においてはリバウンドを起こしたり、なんとアトピー性皮膚炎の発症因子とさえなりうることがわかっています(→こちらやこちらやこちら)。
しかしその一方で、全部が成功するわけではないですが、ステロイド依存からの離脱にあたって、プロトピックが有用な場合もありそうです(→こちらやこちら)。
たとえが、適切かどうかわかりませんが、覚醒剤を止めようと禁断症状に苦しむ人が、たばこを吸って気を紛らわすようなイメージです。たばこは確実な発癌作用があって有害です。しかしこれを利用して覚醒剤を止められるのであれば、認めざるを得ない、っていうか、その人の自由だって気がするわけです。
もうひとつ、この話題に触れるのが気が重い理由は、わたしの昔の脱ステ医仲間のひとたちには、プロトピックは発癌性が明らかなので、絶対反対!患者に使用させるべきではない!という医師が多い点です。彼ら彼女らと内輪揉めみたいな形になりたくありません。実際、彼ら彼女らの姿勢は、医師としてひとつの正しいあり方かもしれません・・。しかし、それでは、プロトピックの使用を選択した患者を排除することになるではないか?というのが私の言い分ですが・・。現に患者を診ていないわたしには、強い口調では言えません。
それでも、この話題に触れておくべきだ、と考える理由は、二つあります。ひとつは、もちろん患者への情報提供です。今回の記事に不安になって、わたしの考えを確認しておきたいとこのブログを覗いた患者もいると思います(一度もお会いしたことは無いが、わたしの文章を参考になさっているあなた、わたしは、文章を書きながら、あなたを診ているつもりで記しています)。もうひとつは、脱ステ医の側が、今回の報道をきっかけに「プロトピックはやはり危険だ」と情報発信はじめたら、それまで中立であった良識ある先生がたが、「やはり脱ステ医なんてものは、信用ならんな。まだ現れてもいないプロトピックの発癌例をあるぞあるぞと騒ぎ立てる。ステロイド依存だのリバウンドだのといったものも、本当はどうせ存在しないのだろう。」と、判断するかもしれない。これが一番嫌です。
プロトピックに発がん性はありますが、あきらかな因果関係の報告例はまだありません(血中濃度が一定期間高くなるほど、患者が塗らないからか?)。しかし、ステロイド依存やリバウンドに苦しむ患者は、非常に多いです。その意味では両者は比較になりません。
ところで、なぜ2歳未満や16歳未満の患者に適応外処方が、なされるのでしょうか?これは結局、ステロイド外用剤治療の限界・破綻を示しているのだとわたしは思います。アメリカでは、FDAが強く警告しなければならないほど、幼小児への適応外処方が広まってきた、ということだと推測します。海外論文を読んでも、幼小児への安全性確認の報告というか、少なくともステロイドよりはましだ、というものが多いです(→こちら)。
製薬会社にとっても、新薬であるカルシニューリン阻害剤は利益が大きいでしょうから、その影響力を無視はできません。 しかし、乳幼児に用いる場合に、ステロイドであれば、依存性のために止めるに止められなくなるケースがかなりの数ありますが、プロトピックであれば、皮膚萎縮の機序による依存性が無いので、自然治癒とともにすんなり薬を止められるかもしれません。 もちろんどちらの薬も使わないに越したことはありませんよ。そのような選択をしたひとが、周囲のひとたちから「ちゃんとお医者さんでお薬をもらって治したほうがいいんじゃないの?」と無理解な言葉を投げかけられないように、患者から社会に情報を発信し、私たち医師も(皮膚科学会の会員は特に)ガイドライン修正に働きかけていく必要があります。 「薬の使用にはこういうデメリットがあるからなるべく使わないようにしているのだ」と、周囲にも、わが子にも、はっきり説明できるお母さんであり、患者であってください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(2010.3.25追記)プロトピックのリバウンドについて
当初本文中に下記のような記述を入れていたのですが、削除することにしました。この部分に関して、お二人の皮膚科専門医のかたから指摘を受けたからです。
-----(ここから削除した内容)-----
また、何と言っても、プロトピックはステロイド外用剤のような依存性が無さそうです。すなわち、皮膚の萎縮やコルネオデスモゾームの破壊をきたさず、中止後のリバウンドが起きません。ですから理論的には、止めようと思えばいつでも止められます。そういう意味では、十分な情報提供と患者の同意のもとに、使用(というか利用)を認めていいような気がわたしはします。
-----(ここまで削除した内容)-----
-----(ここからA先生のコメント)-----
プロトピックはステロイド外用剤のような依存性が無さそうですの部分は違和感を覚えます。ステロイドをプロトピックに変えれば、簡単だというイメージがありますが、必ずしもそんなことはありません。
臨床の現場では、しっかり依存性が発現している状態を観察できます。例えばの話ですが、ステロイドはホルモン剤で全身に広汎に影響を与え、、プロトピックはホルモン剤でないからそういうことはないという問題ではなく、アトピー性皮膚炎の炎症を強力に抑制するということで、両者に共通した副作用であるリバウンドが出現します。長期使用すると、プロトピックも、リバウンドは避けられないので、止めようと思えばいつでも止められますとは言えません。エヴィデンスを調査しなければなりませんが、長期連用の場合は、リバウンドの程度に差はないように思います。短期間使用の場合は、リバウンドがどちらが起きやすいかということについていえば、印象としては、 ステロイド≧プロトピック です。プロトピックを使うことにより、特に長期間使用することにより、かえって寛解から遠ざかる印象を抱いています。今後、開業医のレベルで出来る、ケースコントロール研究によるエヴィデンスを調査しなければいけないと考えています。
-----(ここまでA先生のコメント)-----
-----(ここからB先生のコメント)-----
先生もご存知のことと思いますが、国内でもタクロリムスによる酒さ様皮膚炎の報告は増えており、タクロリムス単独投与(ステロイドの前投与がない)の症例であっても中止後にリバウンドがみられることが報告されています。
「タクロリムス軟膏連続塗布により発症した酒さ様皮膚炎」皮臨(0018-1404)46巻6号 Page901-905 などがあります。
私も同様の経験が数例あり「プロトピックには依存性がなさそう」とはいえません。ただ中止したときのリバウンドはステロイドに比較して軽い印象でしたが、外用していた期間も数か月以内と短く何ともいえません。
発売後10年以上経過し、顔面にはタクロリムスしか外用したことがない患者さんも増えてくると思うので、長期外用後の依存やリバウンドについてはこれから、明らかになっていくと思われます。深谷先生が言うようにステロイドに比較して離脱が容易であれば、大変有用な薬剤であることに異論はありません。
発癌性については、現在の使用基準で血液なり皮膚なりの発癌の頻度を高めるかどうかは、このさき長期に経過を追わないと誰もわからないと思います。
-----(ここまでB先生のコメント)-----
プロトピックは、皮膚萎縮やコルネオデスモゾームの破壊をきたしませんし、動物実験でもステロイド外用剤のようなリバウンドのモデルがありません。ですので、プロトピックによるリバウンドは、ステロイド外用剤によるのとはまた別の機序で起こるのかなあ?と思います。 コメント頂いた先生がた有難うございました。
2010.03.24
ーーーーー(ここから引用)-----
アトピー薬:使用の子46人がん 多くが用法を守らず--米国
【ワシントン共同】日本でも販売されているアステラス製薬の「プロトピック」(一般名・タクロリムス水和物)など2種類のアトピー性皮膚炎治療薬を使った米国の子どもが、2004年1月~09年1月の5年間に計46人、白血病や皮膚がんなどを発症し、このうち4人が死亡したと米食品医薬品局(FDA)に報告されていることが21日分かった。適応対象外の子どもに使ったり、長期間使い続けたりするなど、使用法が守られていないケースが多いという。因果関係は明確ではないが、発がんと関連する恐れがあるとして、FDAは、薬の添付文書改訂を検討する。もう一つの薬はノバルティス社(スイス)の「エリデル」(日本未発売)。いずれも塗り薬で免疫抑制作用がある。FDAによると、0~16歳でプロトピックを使った15人、エリデルを使った27人、両方を使った4人の計46人が皮膚がんやリンパ腫、白血病を発症した。うち50%は、添付文書で「使うべきでない」とされている2歳未満。41%は、安全性が確立していないと注意喚起されている1年以上の長期使っていた。
ーーーーー(ここまで引用)-----
これは、少なからず誤解を招きやすい報道だと思うので、とりあげて解説することにします。
まず大切なのは、この種の報道は、伝聞ということになるので、元のソースを確認することです。元ソースはFDAですからHPを見つけて検索します。
FDAのページ
該当文書
アメリカにはAdverse Event Reporting System (AERS)という副作用報告システムがあるようで、そこに上がってきた全症例をまとめたもののようです。簡単なケースシリーズを含んでおり、それ自体は興味深いものなのですが、このレポートを読むと、結論としては、
「報告のあがった患者には、添付文書上「使うべきでない」とされている2才未満に使用した例や、0.03%が推奨されている2~16才に0.1%を使った例が多いので、添付文書に、これら幼小児には適応がないということを強調すべきだ」
ということになっています。非常に誤解されやすい表現ですが、この文書で問題とされていることは、
「副作用報告を通じて幼小児への適応外使用が広く行われていることが明らかになった」
ということであって、
「幼小児で癌が多発した」
ということではありません。なぜ「幼小児で癌が多発した」とは言えないかというと、この報告には母数が無いからです。自然発症の幼小児の発癌率を超えているのかどうか?は、46人という数字からはわかりません。
たとえば、今回の報告書では2004~2009の5年間にプロトピックを使用後にリンフォーマを発症したとして副作用報告があがったのは5例です。一方、アメリカでの、15才以下の幼小児のリンフォーマ発症率は、15.4人/100万人です。この2つは比較のしようがありません。前者の母数がわからないからです。
もう一度、新聞記事を読み直すと、たしかに間違ったことは書かれてはいないことがわかります。しかし、どうでしょう?この新聞記事を読んで「大変だ、プロトピックで危惧されていた発がん性がいよいよ現実のものとなったのか!」と心配したひとのほうが、「幼小児で認められていない適応外処方がまかり通っているのはゆゆしいことだ」と、解釈したひとよりはるかに多かったと思います。
プロトピックの発がん性については以前記しました(→こちら)。このとき引用した論文の表には、母数がありました。健康保険請求のデータベースを用いたものだからです。29870人/年の処方に対し、リンフォーマの発症は10人で、一見高そうです。しかし、皮膚炎はあるがプロトピックの処方を受けていない人や、ステロイド外用剤の処方を受けた人とを比較した結果は、プロトピックが発症率をあげたとは言えない、ということを、解説しました。
どうも、このテーマを記すのは、誤解を招きそうで気が重いです。くれぐれも誤解して欲しくないのは、プロトピックをはじめとしたカルシニューリン阻害剤は、用量依存性の明らかな発癌物質であり、経皮吸収されて一定期間血中濃度が上がれば、ある割合の患者は必ず発がんするということは、紛れも無い事実だということです。わたしは、これを否定しようとか、ごまかそうなんて気は毛頭ないです。
さらに、カルシニューリン阻害剤のひとつであるシクロスポリンにいたっては、ある血中濃度においてはリバウンドを起こしたり、なんとアトピー性皮膚炎の発症因子とさえなりうることがわかっています(→こちらやこちらやこちら)。
しかしその一方で、全部が成功するわけではないですが、ステロイド依存からの離脱にあたって、プロトピックが有用な場合もありそうです(→こちらやこちら)。
たとえが、適切かどうかわかりませんが、覚醒剤を止めようと禁断症状に苦しむ人が、たばこを吸って気を紛らわすようなイメージです。たばこは確実な発癌作用があって有害です。しかしこれを利用して覚醒剤を止められるのであれば、認めざるを得ない、っていうか、その人の自由だって気がするわけです。
もうひとつ、この話題に触れるのが気が重い理由は、わたしの昔の脱ステ医仲間のひとたちには、プロトピックは発癌性が明らかなので、絶対反対!患者に使用させるべきではない!という医師が多い点です。彼ら彼女らと内輪揉めみたいな形になりたくありません。実際、彼ら彼女らの姿勢は、医師としてひとつの正しいあり方かもしれません・・。しかし、それでは、プロトピックの使用を選択した患者を排除することになるではないか?というのが私の言い分ですが・・。現に患者を診ていないわたしには、強い口調では言えません。
それでも、この話題に触れておくべきだ、と考える理由は、二つあります。ひとつは、もちろん患者への情報提供です。今回の記事に不安になって、わたしの考えを確認しておきたいとこのブログを覗いた患者もいると思います(一度もお会いしたことは無いが、わたしの文章を参考になさっているあなた、わたしは、文章を書きながら、あなたを診ているつもりで記しています)。もうひとつは、脱ステ医の側が、今回の報道をきっかけに「プロトピックはやはり危険だ」と情報発信はじめたら、それまで中立であった良識ある先生がたが、「やはり脱ステ医なんてものは、信用ならんな。まだ現れてもいないプロトピックの発癌例をあるぞあるぞと騒ぎ立てる。ステロイド依存だのリバウンドだのといったものも、本当はどうせ存在しないのだろう。」と、判断するかもしれない。これが一番嫌です。
プロトピックに発がん性はありますが、あきらかな因果関係の報告例はまだありません(血中濃度が一定期間高くなるほど、患者が塗らないからか?)。しかし、ステロイド依存やリバウンドに苦しむ患者は、非常に多いです。その意味では両者は比較になりません。
ところで、なぜ2歳未満や16歳未満の患者に適応外処方が、なされるのでしょうか?これは結局、ステロイド外用剤治療の限界・破綻を示しているのだとわたしは思います。アメリカでは、FDAが強く警告しなければならないほど、幼小児への適応外処方が広まってきた、ということだと推測します。海外論文を読んでも、幼小児への安全性確認の報告というか、少なくともステロイドよりはましだ、というものが多いです(→こちら)。
製薬会社にとっても、新薬であるカルシニューリン阻害剤は利益が大きいでしょうから、その影響力を無視はできません。 しかし、乳幼児に用いる場合に、ステロイドであれば、依存性のために止めるに止められなくなるケースがかなりの数ありますが、プロトピックであれば、皮膚萎縮の機序による依存性が無いので、自然治癒とともにすんなり薬を止められるかもしれません。 もちろんどちらの薬も使わないに越したことはありませんよ。そのような選択をしたひとが、周囲のひとたちから「ちゃんとお医者さんでお薬をもらって治したほうがいいんじゃないの?」と無理解な言葉を投げかけられないように、患者から社会に情報を発信し、私たち医師も(皮膚科学会の会員は特に)ガイドライン修正に働きかけていく必要があります。 「薬の使用にはこういうデメリットがあるからなるべく使わないようにしているのだ」と、周囲にも、わが子にも、はっきり説明できるお母さんであり、患者であってください。
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(2010.3.25追記)プロトピックのリバウンドについて
当初本文中に下記のような記述を入れていたのですが、削除することにしました。この部分に関して、お二人の皮膚科専門医のかたから指摘を受けたからです。
-----(ここから削除した内容)-----
また、何と言っても、プロトピックはステロイド外用剤のような依存性が無さそうです。すなわち、皮膚の萎縮やコルネオデスモゾームの破壊をきたさず、中止後のリバウンドが起きません。ですから理論的には、止めようと思えばいつでも止められます。そういう意味では、十分な情報提供と患者の同意のもとに、使用(というか利用)を認めていいような気がわたしはします。
-----(ここまで削除した内容)-----
-----(ここからA先生のコメント)-----
プロトピックはステロイド外用剤のような依存性が無さそうですの部分は違和感を覚えます。ステロイドをプロトピックに変えれば、簡単だというイメージがありますが、必ずしもそんなことはありません。
臨床の現場では、しっかり依存性が発現している状態を観察できます。例えばの話ですが、ステロイドはホルモン剤で全身に広汎に影響を与え、、プロトピックはホルモン剤でないからそういうことはないという問題ではなく、アトピー性皮膚炎の炎症を強力に抑制するということで、両者に共通した副作用であるリバウンドが出現します。長期使用すると、プロトピックも、リバウンドは避けられないので、止めようと思えばいつでも止められますとは言えません。エヴィデンスを調査しなければなりませんが、長期連用の場合は、リバウンドの程度に差はないように思います。短期間使用の場合は、リバウンドがどちらが起きやすいかということについていえば、印象としては、 ステロイド≧プロトピック です。プロトピックを使うことにより、特に長期間使用することにより、かえって寛解から遠ざかる印象を抱いています。今後、開業医のレベルで出来る、ケースコントロール研究によるエヴィデンスを調査しなければいけないと考えています。
-----(ここまでA先生のコメント)-----
-----(ここからB先生のコメント)-----
先生もご存知のことと思いますが、国内でもタクロリムスによる酒さ様皮膚炎の報告は増えており、タクロリムス単独投与(ステロイドの前投与がない)の症例であっても中止後にリバウンドがみられることが報告されています。
「タクロリムス軟膏連続塗布により発症した酒さ様皮膚炎」皮臨(0018-1404)46巻6号 Page901-905 などがあります。
私も同様の経験が数例あり「プロトピックには依存性がなさそう」とはいえません。ただ中止したときのリバウンドはステロイドに比較して軽い印象でしたが、外用していた期間も数か月以内と短く何ともいえません。
発売後10年以上経過し、顔面にはタクロリムスしか外用したことがない患者さんも増えてくると思うので、長期外用後の依存やリバウンドについてはこれから、明らかになっていくと思われます。深谷先生が言うようにステロイドに比較して離脱が容易であれば、大変有用な薬剤であることに異論はありません。
発癌性については、現在の使用基準で血液なり皮膚なりの発癌の頻度を高めるかどうかは、このさき長期に経過を追わないと誰もわからないと思います。
-----(ここまでB先生のコメント)-----
プロトピックは、皮膚萎縮やコルネオデスモゾームの破壊をきたしませんし、動物実験でもステロイド外用剤のようなリバウンドのモデルがありません。ですので、プロトピックによるリバウンドは、ステロイド外用剤によるのとはまた別の機序で起こるのかなあ?と思います。 コメント頂いた先生がた有難うございました。
2010.03.24