リバウンドのメカニズム
今回は、すこし、基本的なことを考えてみようと思います。
ステロイド外用剤依存、すなわち「リバウンド」のメカニズムですが、たとえばTh2細胞のIL-4産生について考えたとき。
ステロイド外用剤依存、すなわち「リバウンド」のメカニズムですが、たとえばTh2細胞のIL-4産生について考えたとき。
ステロイド添加はIL-4産生を抑えます。しかし、ステロイドが除去されれば、Th2細胞のIL-4産生は元に戻るだけのはずです。添加前よりも産生が亢進する理由がありません。
ところが、実際には、ステロイド外用後、IL-4の産生は亢進します。たとえば、マウスの皮膚炎にステロイドを外用したのち中止した結果は下図のようです。
ところが、実際には、ステロイド外用後、IL-4の産生は亢進します。たとえば、マウスの皮膚炎にステロイドを外用したのち中止した結果は下図のようです。
Nilは無処置(皮膚炎なし)、TNCBは皮膚炎惹起物質で、これによって生じた皮膚炎に対して、Vehicleは基剤のみ、Dexはステロイド外用、WDはステロイド外用後中止した場合です。WDのIL-4は、皮膚炎に基剤のみ外用を続けた場合よりも、明らかに上昇しています。
(A novel animal model of pruritus induced by successive application of glucocorticoid to mouse skin. Yamaura K et al. J Toxicol Sci. 2011 Aug;36(4):395-401.)
ヒト(アトピー性皮膚炎患者)でも同じデータが出ています(→こちら)。
どうしてこういうこと(リバウンド)になるのでしょうか?
普通、薬が作用しても、これを中止すれば、短時間で回復して元に戻ります。まして、投与前よりも症状が悪化してしまう、なんてことはありません。
こうなるためには、例えば、
(A novel animal model of pruritus induced by successive application of glucocorticoid to mouse skin. Yamaura K et al. J Toxicol Sci. 2011 Aug;36(4):395-401.)
ヒト(アトピー性皮膚炎患者)でも同じデータが出ています(→こちら)。
どうしてこういうこと(リバウンド)になるのでしょうか?
普通、薬が作用しても、これを中止すれば、短時間で回復して元に戻ります。まして、投与前よりも症状が悪化してしまう、なんてことはありません。
こうなるためには、例えば、
こういったメカニズムが存在するはずです。ステロイドがIL-4の産生を抑える一方で、Th2細胞にも働きかけて、こちらはUp-regulate(活性化、あるいは数を増加)する、これならステロイド中止後に「リバウンド」は起きそうです。
そこでTh2細胞に対するステロイドの作用を調べた文献は無いか?と探してみたら、ありました。
Effects of hydrocortisone on the differentiation of human T helper 2 cells.
Sun L et al. Scand J Immunol. 2011 Mar;73(3):208-14.
です。
論文の結論をまとめると、下図のようになります。
そこでTh2細胞に対するステロイドの作用を調べた文献は無いか?と探してみたら、ありました。
Effects of hydrocortisone on the differentiation of human T helper 2 cells.
Sun L et al. Scand J Immunol. 2011 Mar;73(3):208-14.
です。
論文の結論をまとめると、下図のようになります。
1)Th2細胞は、前駆細胞であるTh0から分化します。Th0細胞にもIL4やINFγ(Th1系のサイトカイン)を産生する能力が少しあります。ステロイドは、Th0細胞のINFγ産生を抑制しますが、IL4産生は抑えないか、または若干亢進させるようです。
2)Th0細胞はIL4によってTh2へと分化します。ステロイドはこれを抑制します。
3)ステロイドは分化したあとのTh2細胞のIL4産生を抑えます。
1)によってステロイドはTh0細胞をTh1ではなくTh2へと分化を仕向け、しかし、2)と3)によってこれを抑えていますから、先に示した私のイメージ図に近い状況と言えなくも無いです。
この論文で、もうひとつ示されていることがあります。それは、これら1)2)3)全てが、Th細胞の表面にあるCD3、CD28を刺激すると、増強するということです。
2)Th0細胞はIL4によってTh2へと分化します。ステロイドはこれを抑制します。
3)ステロイドは分化したあとのTh2細胞のIL4産生を抑えます。
1)によってステロイドはTh0細胞をTh1ではなくTh2へと分化を仕向け、しかし、2)と3)によってこれを抑えていますから、先に示した私のイメージ図に近い状況と言えなくも無いです。
この論文で、もうひとつ示されていることがあります。それは、これら1)2)3)全てが、Th細胞の表面にあるCD3、CD28を刺激すると、増強するということです。
これをどう理解すればよいかというと、下図のように、Th0、Th2以外の何か「?」が加わって、CD3やCD28を介してこの系が増幅される可能性がある、ということです。
CD3やCD28というのは、Th細胞表面にあって、樹枝状細胞(DC細胞)からの刺激を受け取る部分ですから、「?」はDC細胞の可能性が高いです。
あるいは、この制御は、さらに上流にある表皮細胞へのステロイドの作用に始まるのかもしれません。もしそうなら下図のようなイメージになります。
または、表皮細胞から直接にTh0細胞に働くメカニズムがあるのかもしれません(この場合はCD3やCD28は必ずしも関与しない)。
なぜ、上流の表皮細胞がメカニズムに組み入れられた系を考えたいかというと、ステロイド依存は、外用剤の皮膚への投与においてこそ起こりやすい、という臨床的事実があるからです。リバウンドのメカニズムには、ステロイドの表皮への作用が関わっていると考えるべきです。
1) DC細胞の、Th細胞表面のCD3、CD28の刺激に関して、ステロイドがDS細胞に促進的に働くメカニズムを、下図のように表現してみます。
1) DC細胞の、Th細胞表面のCD3、CD28の刺激に関して、ステロイドがDS細胞に促進的に働くメカニズムを、下図のように表現してみます。
2)同様にに表皮細胞までの上流を考えると、次の2通りが考えられます。表皮細胞がDC細胞に促進的に働き(+)、ステロイドの表皮細胞への作用 もまた促進的(+)である場合のほかに、表皮細胞がDC細胞に抑制に働き(-)、ステロイドの表皮細胞への作用 もまた抑制的(-)である場合が考えられるからです。
3)あるいは、表皮細胞からTh細胞にダイレクトに働く場合、結果的にステロイドの作用がTh0→Th2促進的となるためには、下図の2通りが考えられます。
以上、5通りのなかのどれか、とくにⅰ)表皮細胞が関係していて、 ⅱ)CD3、CD28すなわちDC細胞が関与している、という点からは、2)の二つのメカニズムのどちらかが、リバウンドの引き金になっているのではないかと私は考えます。
表皮細胞は、さまざまなサイトカインを産生し、それはステロイドで制御されます。
例えば、表皮細胞はMIF(マクロファージ遊走阻止因子)を産生し、ステロイドはこれを亢進させます。
このMIF、名前は「遊走阻止」でDC細胞に抑制的なようですが、遊走が阻止されれば、それは、表皮付近の炎症の場に留まる、ということなので、ここで持続的にTh細胞のCD3、CD28を刺激し続けるといったことも考えられると思います。2)の上のほうのメカニズムに当たります(注:これはあくまで、わたしの想像であり仮説です)。
ちなみに、MIFは、NFκBを介して、「ステロイド抵抗性」の原因となることが、示されてもいます( The effect of green tea polyphenols on macrophage migration inhibitory factor-associated steroid resistance.Noh SU et al. Br J Dermatol. 2012 Mar;166(3):653-7.)。
いったん、Th2系の活性化が回りだしたあとは、これがなかなか治まらない理由は、先日解説したように、ペリオスチンの経路を介して、ぐるぐると回っているということでしょう。一度回り始めた車輪が自然に落ち着くまで時間がかかるように、リバウンドが収まるまでは時間がかかるし、それまでは、ちょっとしたきっかけで再びTh2が活性化されて、車輪が回り始める、と考えられます。
表皮細胞は、さまざまなサイトカインを産生し、それはステロイドで制御されます。
例えば、表皮細胞はMIF(マクロファージ遊走阻止因子)を産生し、ステロイドはこれを亢進させます。
このMIF、名前は「遊走阻止」でDC細胞に抑制的なようですが、遊走が阻止されれば、それは、表皮付近の炎症の場に留まる、ということなので、ここで持続的にTh細胞のCD3、CD28を刺激し続けるといったことも考えられると思います。2)の上のほうのメカニズムに当たります(注:これはあくまで、わたしの想像であり仮説です)。
ちなみに、MIFは、NFκBを介して、「ステロイド抵抗性」の原因となることが、示されてもいます( The effect of green tea polyphenols on macrophage migration inhibitory factor-associated steroid resistance.Noh SU et al. Br J Dermatol. 2012 Mar;166(3):653-7.)。
いったん、Th2系の活性化が回りだしたあとは、これがなかなか治まらない理由は、先日解説したように、ペリオスチンの経路を介して、ぐるぐると回っているということでしょう。一度回り始めた車輪が自然に落ち着くまで時間がかかるように、リバウンドが収まるまでは時間がかかるし、それまでは、ちょっとしたきっかけで再びTh2が活性化されて、車輪が回り始める、と考えられます。
しかし、その「始まり」すなわち、ステロイド中止直後の、悪化の輪の回り始めのメカニズムがどうなっているのかは、現時点ではまだ明確ではありません。
追記) YouTubeに上記解説をUPしました(ただし英語です)。
追記) YouTubeに上記解説をUPしました(ただし英語です)。
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2012.07.04
2012.07.04