リバウンドを抑える研究(その3)
Inhibitory Activity of CX-659S, a Novel Diaminouracil Derivative, against the Rebound Phenomenon following Withdrawal of Corticosteroid Therapy for Chronic Contact Hypersensitivity Responses. Inoue Y, Isobe M, Shiohara T, Hayashi H Int Arch Allergy Immunol 2003;131:143-152
杏林大学の塩原哲夫先生が名を連ねる論文です。CX-659Sという物質を外用薬として使用した場合の効果についてなのですが、
-----(ここから引用)-----
Although topical corticosteroids have been widely utilized in steroid responsive dermatoses such as AD, their chronic use may be associated with significant side effects. In addition, a rebound phenomenon often occurs after discontinuation of prolonged use of topical corticosteroids, with enhanced production of IgE and Th2 cell cytokines.
(ステロイド外用剤は、アトピー性皮膚炎のようなステロイド反応性の皮膚疾患に広く用いられてはいるが、長期連用は重大な副作用を引き起こす。ステロイド外用剤を長期連用して中止すると、リバウンド現象が生じ、IgEやTh2系のサイトカインが上昇する。)
-----(ここまで引用)-----
実にあっさりと、リバウンド現象の存在を認めてしまっています・・。著者の井上善文さんは、ジャパンエナジーという会社の研究者なので、実際の研究はそちらでなされたのだとは思いますが、日本の皮膚科の大学教授が名前を連ねる論文で、これだけまっとうにステロイド外用剤のリバウンドを扱ったものを、わたしは他に知りません。まずは、塩原先生に敬意を表したいと思います。 それで、内容なのですが、マウスを使った実験です。マウスの耳に塩化ピクリル(PC)という物質を繰り返し外用してやりますと、炎症を起こしてきます(以前、アレロックの論文を紹介しましたが、それとほぼ同じモデルです)。この炎症は、当初は遅延型過敏反応(delayed-type hypersensitivity reaction)といって、通常のカブレなのですが、繰り返し刺激していると、即時型反応を伴う遅延型反応(immediate-type response followed by a late-type reaction)に変化してくることがわかっています。どういうことかというと、IgE抗体が上昇して、アトピー性皮膚炎の炎症に、より似てくるわけです。なおかつ、一定期間ステロイドを外用して中止すると、ステロイドを外用しなかった場合よりも炎症が強くなるという、依存―リバウンドの現象も起きるので、アトピー性皮膚炎の病態を研究するのに、非常に適した動物モデルといえます。
杏林大学の塩原哲夫先生が名を連ねる論文です。CX-659Sという物質を外用薬として使用した場合の効果についてなのですが、
-----(ここから引用)-----
Although topical corticosteroids have been widely utilized in steroid responsive dermatoses such as AD, their chronic use may be associated with significant side effects. In addition, a rebound phenomenon often occurs after discontinuation of prolonged use of topical corticosteroids, with enhanced production of IgE and Th2 cell cytokines.
(ステロイド外用剤は、アトピー性皮膚炎のようなステロイド反応性の皮膚疾患に広く用いられてはいるが、長期連用は重大な副作用を引き起こす。ステロイド外用剤を長期連用して中止すると、リバウンド現象が生じ、IgEやTh2系のサイトカインが上昇する。)
-----(ここまで引用)-----
実にあっさりと、リバウンド現象の存在を認めてしまっています・・。著者の井上善文さんは、ジャパンエナジーという会社の研究者なので、実際の研究はそちらでなされたのだとは思いますが、日本の皮膚科の大学教授が名前を連ねる論文で、これだけまっとうにステロイド外用剤のリバウンドを扱ったものを、わたしは他に知りません。まずは、塩原先生に敬意を表したいと思います。 それで、内容なのですが、マウスを使った実験です。マウスの耳に塩化ピクリル(PC)という物質を繰り返し外用してやりますと、炎症を起こしてきます(以前、アレロックの論文を紹介しましたが、それとほぼ同じモデルです)。この炎症は、当初は遅延型過敏反応(delayed-type hypersensitivity reaction)といって、通常のカブレなのですが、繰り返し刺激していると、即時型反応を伴う遅延型反応(immediate-type response followed by a late-type reaction)に変化してくることがわかっています。どういうことかというと、IgE抗体が上昇して、アトピー性皮膚炎の炎症に、より似てくるわけです。なおかつ、一定期間ステロイドを外用して中止すると、ステロイドを外用しなかった場合よりも炎症が強くなるという、依存―リバウンドの現象も起きるので、アトピー性皮膚炎の病態を研究するのに、非常に適した動物モデルといえます。
まず、PC外用ですが、上図のように実験1週間前に感作しておいて、実験開始後は2日毎に外用を繰り返します。
*P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001
上図で縦軸はネズミの耳の厚さ(炎症の強さ)、○は、まったく無治療、▲は0-24日までステロイドを外用、●はCX-659Sを外用、です。34日め以降を比べると、▲は○を上回っており、リバウンドが生じているのがわかりますが、●はステロイド同様炎症を抑えるものの、中断後にリバウンドは起こしません。
上図で縦軸はネズミの耳の厚さ(炎症の強さ)、○は、まったく無治療、▲は0-24日までステロイドを外用、●はCX-659Sを外用、です。34日め以降を比べると、▲は○を上回っており、リバウンドが生じているのがわかりますが、●はステロイド同様炎症を抑えるものの、中断後にリバウンドは起こしません。
これは実際のマウスの耳の写真です。Aは健常、bは○、cは●、dは▲で、実験終了後のものです。Bは炎症で腫れておりcはbよりは軽度、dはリバウンドのためむくみが強いです。
次に、ステロイドを外用して中断したあとのリバウンドがCX-659Sで抑えられるかどうかを見ます。○はPCのみ(無治療)、△はステロイド外用・中断後何もせず(リバウンド)、▲は基剤、□はCX-659S 0.75%、■はCX-659S 2.5%です。△▲ではリバウンドが確認できますが、□■では抑えられています。
次に血清中のIgEを調べています。5つのバーは、上の実験と同じで、17、28、52日めに採血しています。Control(△)、Vehicle(▲)ではNon-treatment(○)に比べてIgEが増加していますが、CX-659投与群(□■)では減少する傾向がわかります(統計的有意なのは■のみ)。
次に、炎症を起こしている耳の皮膚中のサイトカインをmRNAレベルで測定しています。12345は、それぞれ上の実験のnon-treatment~2.0%CX-659Sです。Th2産生系のサイトカインであるIL-4,IL-10が、CX-659S投与により抑制されることがわかります。
CX-659Sに関する実験はここまでなのですが、おまけで、興味深いデータが付されています。○はPC刺激のみ、▲はステロイド外用中止後CX-659Sでリバウンドを抑えたものですが、■はCX-659Sのかわりにibuprofen piconol(非ステロイド消炎剤のスタデルムのことです)を外用したものです。2番目の実験のグラフと比べていただくとわかりますが、リバウンドが増強しています。これは、脱ステロイドの臨床では「脱ステロイド後の過敏性の亢進」といって、よく経験するものです。
CX-659のその後をネット上で検索したのですが、2003年以降は見つかっていません。ジャパンエナジーという会社はあるようなのですが、ひょっとしたら、会社が新薬として開発する方針を止めたのでしょうか?・・アレロックのような、既にある薬剤で、依存やリバウンドの対策としての新たな薬効を確認するのと違って、まったくの新薬を、市場に出す、ということは大変だと思います。
しかし、こういう研究こそを、日本の皮膚科は、企業と協力して、進めていくべきだと思います。おかしな言い方ですが、日本は国民皆保険で、とくに昭和40年代以降から平成のはじめころまでは、ステロイド外用剤が、世界でもっとも手軽に安く大量に使える国でした。そのため、Steroid addictionの患者が多く、それ自体は不幸なことなのですが、これを研究し、対策としての新薬を開発する環境はととのっていたと思うのです。アトピー性皮膚炎のSteroid addictionが不幸にも日本で多発したが、これを克服し、世界に発信できていたとしたら、わたしは日本の皮膚科医の一人として、どんなに誇らしかったことでしょう。
「ステロイド外用剤は安全であり、脱ステロイドやリバウンドの研究は、アトピービジネスに口実を与えるもので、患者に必要以上の恐怖や苦悩を与えるものだ」という考えのかたがたが、日皮会のガイドラインを仕切っている限りは、進歩はないのです。
参考
「脱ステロイド後の過敏性の亢進」の一例を示します。脱ステロイド後、かなり治まってきた患者が、毛のう炎か何かで絆創膏を腕に貼ったところ、左写真のように皮膚炎を起こしました。一年後、同じ絆創膏を貼ってみたところ、右写真のように、皮膚炎は起きませんでした。
CX-659のその後をネット上で検索したのですが、2003年以降は見つかっていません。ジャパンエナジーという会社はあるようなのですが、ひょっとしたら、会社が新薬として開発する方針を止めたのでしょうか?・・アレロックのような、既にある薬剤で、依存やリバウンドの対策としての新たな薬効を確認するのと違って、まったくの新薬を、市場に出す、ということは大変だと思います。
しかし、こういう研究こそを、日本の皮膚科は、企業と協力して、進めていくべきだと思います。おかしな言い方ですが、日本は国民皆保険で、とくに昭和40年代以降から平成のはじめころまでは、ステロイド外用剤が、世界でもっとも手軽に安く大量に使える国でした。そのため、Steroid addictionの患者が多く、それ自体は不幸なことなのですが、これを研究し、対策としての新薬を開発する環境はととのっていたと思うのです。アトピー性皮膚炎のSteroid addictionが不幸にも日本で多発したが、これを克服し、世界に発信できていたとしたら、わたしは日本の皮膚科医の一人として、どんなに誇らしかったことでしょう。
「ステロイド外用剤は安全であり、脱ステロイドやリバウンドの研究は、アトピービジネスに口実を与えるもので、患者に必要以上の恐怖や苦悩を与えるものだ」という考えのかたがたが、日皮会のガイドラインを仕切っている限りは、進歩はないのです。
参考
「脱ステロイド後の過敏性の亢進」の一例を示します。脱ステロイド後、かなり治まってきた患者が、毛のう炎か何かで絆創膏を腕に貼ったところ、左写真のように皮膚炎を起こしました。一年後、同じ絆創膏を貼ってみたところ、右写真のように、皮膚炎は起きませんでした。
2009.10.21