リバウンド時には表皮基底層のHSD2(コルチゾール不活化酵素)が亢進している
今回は基礎的な記事になります。
前知識としては→こちら、こちら、こちら、こちら、こちら。
表皮細胞のコルチゾール産生と作用の流れを簡単にまとめると下記のようになります。黄色で囲ったものを免疫染色して並べてみました。
前知識としては→こちら、こちら、こちら、こちら、こちら。
表皮細胞のコルチゾール産生と作用の流れを簡単にまとめると下記のようになります。黄色で囲ったものを免疫染色して並べてみました。
まず、以前ブログ記事で紹介した患者さんで、リバウンドと考えられる全身の皮膚炎が長期続いていた方です(→こちら)。この方は2年後に劇的に快方に向かいました。リバウンド中の皮膚と、改善後の皮膚の2つのサンプルがあるので、対比してみます。
<リバウンド中>
<リバウンド中>
<軽快時>
まず、リバウンド中の表皮の結果から解説します。
MLN64,StAR,11A1,HSD1とも、ステロイド(コルチゾール)産生に働く酵素あるいは蛋白質なのですが、表皮中の分布は微妙に異なることが解ります。HSD1は基底細胞側に多く、11A1は顆粒層側、StARは全層に均一に分布しています。
MLN64は基底層を除いた有棘層でよく染まっており、コルチゾールの濃淡分布に一番近いです。健常皮膚にデルモベートを外用したときにも、コルチゾールとMLN64は同じように増減していました(→こちら)。
軽快時の染色パターンをリバウンド時と比べてみると、コルチゾールの不活化に働くHSD2が、リバウンド時には基底層で濃染していたのが、軽快時には弱くなっているのが目に付きます。
リバウンド時の基底層でコルチゾールおよびMLN64の染まりが弱いのと併せて考えると、リバウンド時の基底層ではコルチゾールの産生・不活化双方からコルチゾール濃度を下げる方向にあると考えられます。
コルチゾールは細胞の分裂増殖を抑えますから、基底層でコルチゾールが低下するということは、表皮の肥厚をきたすと考えていいと思います。
一方、軽快時には、これが是正されています。
次の方は、長期間ステロイド外用を続けており、阪南中央病院に入院して脱ステする前後で名古屋に立ち寄って皮膚生検にご協力頂いた方です。
離脱前の、一見健常な皮膚と、痒疹状の皮疹(離脱前の患者さんによく見られるもので、ステロイドを塗っても治まらない皮疹です)の2ヶ所(左)と、一ヶ月後の退院時のリバウンド中の紅斑(右)から生検させていただきました。
MLN64,StAR,11A1,HSD1とも、ステロイド(コルチゾール)産生に働く酵素あるいは蛋白質なのですが、表皮中の分布は微妙に異なることが解ります。HSD1は基底細胞側に多く、11A1は顆粒層側、StARは全層に均一に分布しています。
MLN64は基底層を除いた有棘層でよく染まっており、コルチゾールの濃淡分布に一番近いです。健常皮膚にデルモベートを外用したときにも、コルチゾールとMLN64は同じように増減していました(→こちら)。
軽快時の染色パターンをリバウンド時と比べてみると、コルチゾールの不活化に働くHSD2が、リバウンド時には基底層で濃染していたのが、軽快時には弱くなっているのが目に付きます。
リバウンド時の基底層でコルチゾールおよびMLN64の染まりが弱いのと併せて考えると、リバウンド時の基底層ではコルチゾールの産生・不活化双方からコルチゾール濃度を下げる方向にあると考えられます。
コルチゾールは細胞の分裂増殖を抑えますから、基底層でコルチゾールが低下するということは、表皮の肥厚をきたすと考えていいと思います。
一方、軽快時には、これが是正されています。
次の方は、長期間ステロイド外用を続けており、阪南中央病院に入院して脱ステする前後で名古屋に立ち寄って皮膚生検にご協力頂いた方です。
離脱前の、一見健常な皮膚と、痒疹状の皮疹(離脱前の患者さんによく見られるもので、ステロイドを塗っても治まらない皮疹です)の2ヶ所(左)と、一ヶ月後の退院時のリバウンド中の紅斑(右)から生検させていただきました。
<無疹部>
<皮疹部>
離脱前の一見正常な皮膚は、表皮が明らかに萎縮しています。ステロイド外用剤の副作用です。表皮細胞の層数が少ないためはっきりしないですが、私はコルチゾールの染色でパッチ状の欠損、あるいは濃淡があると思います。
HSD2染色で基底層の染まりは強くありません。
一方、痒疹様の皮疹部では表皮は肥厚し、基底層のHSD2は亢進しています。
一ヵ月後、退院時の皮疹は紅斑を伴っていますが、痒疹様の皮疹は少なくなっています。「赤く拡がりつつ消えていく」過程の始まりです。
この時の生検の結果が下記です。
HSD2染色で基底層の染まりは強くありません。
一方、痒疹様の皮疹部では表皮は肥厚し、基底層のHSD2は亢進しています。
一ヵ月後、退院時の皮疹は紅斑を伴っていますが、痒疹様の皮疹は少なくなっています。「赤く拡がりつつ消えていく」過程の始まりです。
この時の生検の結果が下記です。
表皮厚はやや肥厚気味、MLN64は非常に濃く染まり、基底層のHSD2は亢進しています。
上の2例は、「リバウンド→軽快」と「ステロイド外用→離脱」の表皮の変化で、この2例からの推論としては、ステロイド離脱のあとのリバウンドには、表皮基底層のHSD2の亢進、すなわち基底層でのコルチゾールの不活化が関係していそうだ、ということです。それによってリバウンド中の表皮は肥厚するのではないかと考えられます。
疑問点は、「健常表皮においても基底層のHSD2染色濃度は高い」という点です(→こちら)。しかしこれは、「染色パターンとしては同じだが、リバウンドの場合は程度が強い」として説明可能です。
はっきりと言える事は、ステロイド産生・不活化に関係する酵素や蛋白質が、
1 表皮内各層で発現が異なる。
2 ステロイド依存→離脱や、リバウンド→軽快にともない、表皮内各層で発現が変化する。
ということです。
ちなみに、亢進したHSD2を抑えるには、HSD2の阻害剤が有効なはずです。HSD2阻害剤の有名なものは強力ネオミノファーゲンCです。
なるほど、脱ステの補助治療に経験的に強ミノの注射をなさる先生がいらっしゃるわけです。
以前の記事で、「強ミノの注射は、ステロイドが活性型から不活性型になるのを抑える機序だから、ステロイドを使うのと同じ」といった記事を書きました(→こちら)が、そんな単純な話ではなさそうです。ここに訂正させていただきます。
ひょっとしたら、強ミノの成分であるグリチルリチン酸の外用が離脱に有効なケースもあるのかもしれません。
まだまだ謎というか整合性が取れない結果も多いですが、地道に症例を重ねてじっくり考えたいと思います。
(H28.11.16記)
上の2例は、「リバウンド→軽快」と「ステロイド外用→離脱」の表皮の変化で、この2例からの推論としては、ステロイド離脱のあとのリバウンドには、表皮基底層のHSD2の亢進、すなわち基底層でのコルチゾールの不活化が関係していそうだ、ということです。それによってリバウンド中の表皮は肥厚するのではないかと考えられます。
疑問点は、「健常表皮においても基底層のHSD2染色濃度は高い」という点です(→こちら)。しかしこれは、「染色パターンとしては同じだが、リバウンドの場合は程度が強い」として説明可能です。
はっきりと言える事は、ステロイド産生・不活化に関係する酵素や蛋白質が、
1 表皮内各層で発現が異なる。
2 ステロイド依存→離脱や、リバウンド→軽快にともない、表皮内各層で発現が変化する。
ということです。
ちなみに、亢進したHSD2を抑えるには、HSD2の阻害剤が有効なはずです。HSD2阻害剤の有名なものは強力ネオミノファーゲンCです。
なるほど、脱ステの補助治療に経験的に強ミノの注射をなさる先生がいらっしゃるわけです。
以前の記事で、「強ミノの注射は、ステロイドが活性型から不活性型になるのを抑える機序だから、ステロイドを使うのと同じ」といった記事を書きました(→こちら)が、そんな単純な話ではなさそうです。ここに訂正させていただきます。
ひょっとしたら、強ミノの成分であるグリチルリチン酸の外用が離脱に有効なケースもあるのかもしれません。
まだまだ謎というか整合性が取れない結果も多いですが、地道に症例を重ねてじっくり考えたいと思います。
(H28.11.16記)
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