1996年の玉置先生の講演と竹原先生の質疑
エスエス製薬が、医師向けサービスとして、学会のセミナーの内容をまとめて配布していた「Dermatofile」という小冊子があります。このNo.7に、1996年11月に京都で開かれた「第47回日本皮膚科学会中部支部学術大会ランチョンセミナー」の記録があり、当時淀川キリスト教病院で「脱ステロイド療法」に取り組んでいた玉置昭治先生の講演と、これに対する金沢大学の竹原和彦先生の質疑が掲載されています。
竹原先生は1994年に金沢大学教授として着任しており、専門は強皮症で、当時の私たちの認識としては、「決してアトピー性皮膚炎の診療に深くは携わっていない方」でした。しかし竹原先生は、この後1998年に「アトピービジネス私論」という一般書を出して、「脱ステロイド療法を提唱する一部の皮膚科医の主張がマスコミに取り上げられ、アトピービジネスに対する口実を与えた」と、玉置先生ら皮膚科医による脱ステロイド療法の実践を厳しく非難し始めました。
おそらく1996年の玉置先生の講演は、竹原先生に大きなインパクトを与えたものだったのでしょう。玉置先生の講演がどんな内容で、竹原先生がどんな質疑をしたのかを、振り返ってみます。
ーーーーー(ここから引用)-----
淀川キリスト散病院では、1990年6月から、ステロイドを使わないで治療してほしいという患者さんには、ステロイドを使わないで治療をしてきました。その臨床的背景は次の通りです。
まず最初に、60歳、70歳という高齢のアトピー性皮膚炎患者がいるということです。大人になれば治るというのが常識でしたが、この方たちはステロイドを長期間使っているが治らない。
図1は70歳のアトピー性皮膚炎。ステロイド軟膏が登場してきた30年以上前から使い続けています。
図2は60代のアトピーですが、70歳代に見えます。皮膚の老化を伴い真っ黒になっています。
竹原先生は1994年に金沢大学教授として着任しており、専門は強皮症で、当時の私たちの認識としては、「決してアトピー性皮膚炎の診療に深くは携わっていない方」でした。しかし竹原先生は、この後1998年に「アトピービジネス私論」という一般書を出して、「脱ステロイド療法を提唱する一部の皮膚科医の主張がマスコミに取り上げられ、アトピービジネスに対する口実を与えた」と、玉置先生ら皮膚科医による脱ステロイド療法の実践を厳しく非難し始めました。
おそらく1996年の玉置先生の講演は、竹原先生に大きなインパクトを与えたものだったのでしょう。玉置先生の講演がどんな内容で、竹原先生がどんな質疑をしたのかを、振り返ってみます。
ーーーーー(ここから引用)-----
淀川キリスト散病院では、1990年6月から、ステロイドを使わないで治療してほしいという患者さんには、ステロイドを使わないで治療をしてきました。その臨床的背景は次の通りです。
まず最初に、60歳、70歳という高齢のアトピー性皮膚炎患者がいるということです。大人になれば治るというのが常識でしたが、この方たちはステロイドを長期間使っているが治らない。
図1は70歳のアトピー性皮膚炎。ステロイド軟膏が登場してきた30年以上前から使い続けています。
図2は60代のアトピーですが、70歳代に見えます。皮膚の老化を伴い真っ黒になっています。
2番目は、ステロイドを使い続けても効かなくなってきた症例があることです。図3は30代の患者ですが、いわゆる赤鬼様顔貌です。
3番目は、単なるかぶれや掻痒にステロイドを何となく使い出してアトピー様になってきた例です。4~5年前から眼周囲に掻痒を認めたためステロイド軟膏の投与を受けていたということです。94年3月中旬に副作用が心配になり非ステロイド軟膏に変更したところ、4月にリパウンド症状をきたしました.8月中旬から視力が落ちてきたため、眼科医を受診したところアトピー性白内陣と診断されたので当院に来院された例がありました。
4番目は、主婦湿疹などに長期間ステロイドを使用、副作用が怖くなってやめたところ全身に皮疹が出た例です。
95年7月から徐々に外用回数を減らし、12月15日には完全に中止したところ年末ごろから顔面に皮疹(図4)の新生を見ため、96年1月10日、当科を受診。 IgEは4001U/mlで軽度上昇しています。しかし半年後には手も顔も軽快し、主婦湿疹はステロイド使用時よりきれいだと本人がいうほどになりました。
5番目はステロイドをもう使いたくないという例が増えてきたということです。いちばん多く見られます。
表1は1996年5-7月の当院の新患132名のアンケート結果です。
3番目は、単なるかぶれや掻痒にステロイドを何となく使い出してアトピー様になってきた例です。4~5年前から眼周囲に掻痒を認めたためステロイド軟膏の投与を受けていたということです。94年3月中旬に副作用が心配になり非ステロイド軟膏に変更したところ、4月にリパウンド症状をきたしました.8月中旬から視力が落ちてきたため、眼科医を受診したところアトピー性白内陣と診断されたので当院に来院された例がありました。
4番目は、主婦湿疹などに長期間ステロイドを使用、副作用が怖くなってやめたところ全身に皮疹が出た例です。
95年7月から徐々に外用回数を減らし、12月15日には完全に中止したところ年末ごろから顔面に皮疹(図4)の新生を見ため、96年1月10日、当科を受診。 IgEは4001U/mlで軽度上昇しています。しかし半年後には手も顔も軽快し、主婦湿疹はステロイド使用時よりきれいだと本人がいうほどになりました。
5番目はステロイドをもう使いたくないという例が増えてきたということです。いちばん多く見られます。
表1は1996年5-7月の当院の新患132名のアンケート結果です。
中等症以上のアトピー性皮膚炎で、すでに「ステロイドをやめて来院」が71名、「ステロイドをやめたいと来院」が55名、そのほかにステロイドを使ってでも症状を消したいという症例は6例だけです。このように、当院新患の大部分であるステロイドを使いたくない患者さんをどう扱うかということが問題です。
図5はステロイドをやめたいといって来院した患者さんの流れです。軽症のアトピー性皮膚炎や酒さ様皮膚炎などは外来でステロイドを中止します。 2ヵ月ぐらいでだいたいよくなりますが、中には半年ぐらいかかる例もあります。顔面から頚部、胸部に潮紅や湿潤性紅斑があり、ステロイドを塗っていても改善しない症例とか、ステロイドを塗っていればほとんど皮膚症状がなくなってしまうが1日もステロイドを休めないという例は、ステロイド皮膚症としてここに入るかと思います。
図5はステロイドをやめたいといって来院した患者さんの流れです。軽症のアトピー性皮膚炎や酒さ様皮膚炎などは外来でステロイドを中止します。 2ヵ月ぐらいでだいたいよくなりますが、中には半年ぐらいかかる例もあります。顔面から頚部、胸部に潮紅や湿潤性紅斑があり、ステロイドを塗っていても改善しない症例とか、ステロイドを塗っていればほとんど皮膚症状がなくなってしまうが1日もステロイドを休めないという例は、ステロイド皮膚症としてここに入るかと思います。
具体例を示します。ステロイドをやめたところ、顔面に少し腫脹が生じ、だんだん頚のほうへ拡大したため来院。 2週間後、顔面の腫脹は軽快したものの頚から胸のほうにはさらに拡大。しかし1ヵ月後、顔面紅斑の腫脹はなくなり、頸の病変も消退傾向を見せ範囲も縮小してきました。このような例は割合簡単にステロイドをやめることが可能だろうと思います。
リパウンドがひどくなりそうだと懸念される症例との違いは、典型的なアトピー性皮腐炎の苔癬化局面などがない例です。数ヵ月から数年ステロイドを外用、アトピー歴がある場合もない場合もあります。IgEが高い例も正常な例もあります。ステロイドを中止すると2-3ヵ月から長くても6ヵ月ぐらいで軽快してきます。しかし酒さ様皮膚炎よりは長くかかるようです。
問題はステロイドを常時連用している重症例です。ステロイドの効果がなくなった例、ないしは赤鬼様顔貌の例で脱ステロイド希望で来院した場合です。その場合に、ステロイドをすぐに やめてしまうのか、ステロイドはまったく使わないのかとよく尋ねられます。 私どもは様子を聞いて、事情によってはステロイドを使います。3、4日きちんと続けて、おさまれば2-3日体むというふうに、連続投与、連続休薬という間歇投与で休薬日をつくっていく。休薬日を長くしていって、脱ステロイドに結びつけようとしています。
ステロイドを-度やめると絶対に使用しないわけではありません。症状に応じてステロイドの外用や内服を行い、改善すればまたステロイドを中止します。入院を要する場合でも、58%ぐらいは脱ステロイド後の経過に対して 「まあ良い」以上という結果を得ています(図6)。
リパウンドがひどくなりそうだと懸念される症例との違いは、典型的なアトピー性皮腐炎の苔癬化局面などがない例です。数ヵ月から数年ステロイドを外用、アトピー歴がある場合もない場合もあります。IgEが高い例も正常な例もあります。ステロイドを中止すると2-3ヵ月から長くても6ヵ月ぐらいで軽快してきます。しかし酒さ様皮膚炎よりは長くかかるようです。
問題はステロイドを常時連用している重症例です。ステロイドの効果がなくなった例、ないしは赤鬼様顔貌の例で脱ステロイド希望で来院した場合です。その場合に、ステロイドをすぐに やめてしまうのか、ステロイドはまったく使わないのかとよく尋ねられます。 私どもは様子を聞いて、事情によってはステロイドを使います。3、4日きちんと続けて、おさまれば2-3日体むというふうに、連続投与、連続休薬という間歇投与で休薬日をつくっていく。休薬日を長くしていって、脱ステロイドに結びつけようとしています。
ステロイドを-度やめると絶対に使用しないわけではありません。症状に応じてステロイドの外用や内服を行い、改善すればまたステロイドを中止します。入院を要する場合でも、58%ぐらいは脱ステロイド後の経過に対して 「まあ良い」以上という結果を得ています(図6)。
例をお示しします。25歳の男性でアトピー歴はありません。14~15歳ごろから全身に掻痒性皮疹が出現して、医院でステロイドを使用、その後19歳ごろから連続して使用したところ徐々に効果がなくなったので、91年5月24日に自己判断にて外用を中止。リパウンドがあり7月3日に当科を受診しました(図7)。
顔面・頭部にびらん、滲出液が非常に多く腫脹も見られます。しかし3ヵ月たつと、掻破痕もだいぶ減ってきれいになってきています(図8)。
次は27歳の女性でアレルギー性鼻炎の既往があります。全身の掻痒性皮疹があって、ステロイド軟膏で治療していましたが、自己判断で90年12月より中止したところ、91年2月から徐々に増悪してきたため6月8日に当科を受診。図9は受診後3日目の臨床像です。 スキンケアを指導したところ、3ヵ月で非常にきれいになりました。
次は、脱ステロイドを行ったものの再使用し、最終的にやめられた例です。 患者さんの希望で休学し脱ステロイドを行いました。ひどくなったので入院しましたが、色素沈着をきたし無月経になりました。1年くらいかかりましたが徐々に改善し、色素沈着も淡くなり落ち着いてきて復学を果たしました。
しかし何かの原因でまた増悪しました。このときには悪化要因がわからなかったので、患者さんの気力をなえさせないためにもステロイド内服で様子をみることとしました。1年ほどでス テロイドを完全に中止して、現在は非ステロイド軟膏だけでうまくコントロールされています。
一方、入院中に悪化した例を供覧します。当院に入院してステロイドをやめたところじわじわ悪化し、頚から下に非常に強い浮腫と滲出液が見られるようになりました。日常生活(入院生活)ができないためステロイド内服を開始したところ著明に改善、UVBやPUVAを行いながらステロイドを漸減、4ヵ月後にはゼロになりました。
私どもは、ステロイドをやめさえすればよくなると思っていた時期もありました。そのような例も多いのですが、現在は頑固なアトピー性皮膚炎ではそれだけでは治らないこともあると考えています。その場合は、なぜステロイドが必要だったかを患者さんに考えてもらい、ストレスを減らし、スキンケアや食事の指導をきちんとするようにしています。患者さん自身が自分でアトピーを治そうと考えるように、われわれ医者や薬はその手助けをさせてもらうだけで、治療の中心になるのは本人だということを自覚させる。
中には、アトピーの中へ逃げ込んでいる、治りたくないという患者さんまでいます。プラス思考というか「病は気から」という心構えがアトピーの治療では非常に大きなファクターではない かと考えられます。
質疑応答
竹原(金沢大学):3つほどご質問します。まず1つは、先生の基本的なお考えですが、一部の患者さんで確かにステロイドを使って問題があるということは現実としてあると思いますが、だから全部の患者さんに使うべきでないというような論理の飛躍があるように思います。私自身は、副作用が起こらない、あるいは、その患者さんにとってマイナスの面が出ない範囲であれば、ステロイドをずっと使ってもかまわないんじゃないかと思っています。
2点目は、途中で先生が、ステロイドによるアトピー性皮膚炎といってお出しになった例は、典型的なアトピーの皮疹やヒストリーもなくて、IgEも上がっていない。これはアトピーとは全然関係ない単なる酒さ様皮膚炎を意味しているもので、それをなぜあえてアトピー性皮膚炎といわれて、ステロイドと関連づけないといけないのでしょうか。
3つ目は、般初に老人の例を出されましたが、本当にステロイドをずっと塗り続けるとかなりの頻度で難治化するのであれば、ステロイドが使われてから30-40年たちますから、われわれの周りに60歳、70歳のアトピー性皮膚炎の人がたくさんいるはずだと思うんです。現実に私の経験だと、成人型のアトピー性皮膚炎といっても20代が主体で、30代がかなりいて、40代になるとかなり減って、それ以降は非常に少ない。ですから、どこかではおさまっているはずだろうと思います。ああいう方は、たまたま治療が悪く経過が悪かったのであのようになってしまったという例外的な例ではないかと思います。
玉置:最後の質問は、第1番目の質問と重なるかと思います。全例がそういう副作用が出てきて難治になるといっているわけではありません。実際にステロイドを使ったほうが楽な例は、まず使ってみたらという話も行います。 しかし、当院へ来る例の大部分が、先ほど示しましたように、使いたくないといって来院されます。そのような患者さんに使えと指導するのは非常に時間と労力をとられますから、実際には使わない例が増えているわけです。しかし、仕事に行かなければいけないとか、結婚式が控えているという場合には、納得して使ってもらう場合があります。
最初の質問ですが、すべての例にステロイドの副作用が出てくるとは思いません。ただ、私自身はアトピーになるような方は、ほかの、たとえば乾癬などに比べて、ステロイドの副作用が出やすいのではないかと考えています。 今なくても10年先に出るという危険性があります。ですから、いつまでもうまく使い続けられるのかどうかが疑問です。
2番目の、ステロイドによる酒さ様皮膚炎ではないかというご指摘ですが、 この例は94年の日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診断基準には当てはまります。左右対称に滲出性の潮紅性皮疹が6ヵ月以上続き痒みがある症例は実際にはアトピーとして治療されている例が多い。そういう例には、ステロイドを使わなければ比較的早く治っていくということを申し上げたのであって、 私自身はあれをアトピー性皮膚炎に入れないほうがいいだろうと思いますし、 お示しした統計には入っていません。
竹原:先生のお考えと私の考えていることとあまり違わないことがわかって非常に安心しました。最初の点に関しては、先生の責任ではないかもしれませんが、マスコミ等で先生のご意見が紹介されるときには、ステロイドを絶対に使ってはいけないという根拠とされることがあるようですので、今後マスコミとの対応は慎重にお願いしたいと思います。
それから2点目は、どんな病気でも診断基準というのはあくまで一つの目安ですから、先生自身がアトピーではないとお考えであれば、ぜひ先生の診断でご発表いただきたいと思います。 どうもありがとうございました。
荻野:「アトピー性膚炎とステロイド外用剤」というばテーマは非常に大きな問題で、短時間で議論しつくせるものではありません。今日はお二人の先生に話題提供という意味でお話しい ただきました.今後のディスカッションを深めていく際の一助となれば幸いです。これでランチョンセミナーを終わらせていただきます。
ーーーー(ここまで引用)-----
玉置先生は、日本で先駆けて「脱ステロイド療法」を提唱した皮膚科医ですが、このときの講演の、ステロイド依存や抵抗性、リバウンドに関する論述は、本ブログで紹介してきた、ここ10年ほどの研究の進歩に照らし合わせてみても、まったく矛盾のないものです。1996年の時点で、ステロイド依存に陥った患者に、皮膚科医はどう対処すればいいか?は、少なくとも臨床的には、ほぼ基本が確立されていたと言ってもいいでしょう。読み直して、改めて感服しました。
一方、竹原先生の質疑の冒頭には、「だから全部の患者さんに使うべきでないというような論理の飛躍がある」とあります。わたしは「論理の飛躍」は、むしろ竹原先生の頭の中にこそあったと考えます。いったい、どこをどう解釈すると、こういう質疑になるのでしょうか?おそらく、竹原先生には、玉置先生の講演内容が、まるで理解できなかったのでしょう。竹原先生の頭の中では、「玉置医師が何をしゃべっているのか解らないが、この『脱ステロイド療法』というのが、世の中の患者のステロイド忌避や、アトピービジネスの元凶であるに違いない。『脱ステロイド療法』を駆逐すれば、皮膚科の世界はまた静かになるだろう。」という、実に単純な印象だけが強く刻み込まれたのだと想像します。
その後の川島―竹原ラインの学会をあげてのキャンペーンで、私を含め、脱ステロイドを手がける皮膚科医は激減しました。若い世代で、これを引き継ごうという医師は皆無です。そりゃあそうでしょう、アトピービジネスの元凶扱いされながらも、不良債権処理のようなこの仕事を引き継ごうという若手が出てくるわけがありません。竹原先生の論理によれば、これでステロイド依存問題は解決して、患者も皮膚科医も、ステロイドを上手に使って皆がハッピーになるはずです。
果たして竹原先生が正しかったのか、玉置先生の1996年の問題提起に皮膚科医が真正面から取り組むべきであったのか、私はもちろん後者が正しいと思いますが、科学的真実の問題なのですから、いずれは歴史が回答してくれることでしょう。
追記1: 「脱ステロイド療法を提唱する一部の皮膚科医の主張がマスコミに取り上げられ、アトピービジネスに対する口実を与えた」という竹原先生の持論には、昔からわたしは大きな疑問を抱いています。
その根拠は以下の2点です。
1)ステロイド依存の問題に先に気が付いたのは、「アトピービジネス」の側だ。
たとえば、日本オムバスという温泉宅配のアトピービジネスがありますが、ここは1988年には営業を開始しています。淀川キリスト教病院が脱ステロイドを始めた1990よりも早いです。日本オムバスのような脱ステ系のアトピービジネスの論法では、ステロイドは、竹原先生の質疑の言葉のように、「全部の患者さんに使うべきではない」という感じですので、竹原先生は、玉置先生の診療内容を、勝手に、アトピービジネスと同一視していたのではないかと思われます。だから、あんな質疑をしたのでしょう。竹原先生は、先にどこかでアトピービジネスの論法に触れており、そのあとで玉置先生の講演を、先入観を持って聞いた、ということではないでしょうか。
2)脱ステロイドを行う皮膚科医が、「アトピービジネス」のパンフレットなど広告媒体に紹介されているのを見たことが無い。
わたしも、玉置先生も、脱ステロイドの皮膚科医は、アトピービジネスが嫌いです。最近は、ネットで簡単に引用や消去が可能ですが、昔、紙媒体の時代に、自分が勝手に利用されるのを見逃すはずがないです。また、「アトピービジネス」は、まったく自分たち独自のノウハウでアトピーを治しますと主張するはずで、なぜなら、そうしければ、お客さん(患者)を脱ステロイドの皮膚科医に取られてしまうことになるからです。だから「口実を与えた」というのが、具体的にどういうことなのか、よく考えてみると実に意味不明です。むしろ皮膚科医が患者の脱ステロイドに一切協力しない、という姿勢のほうが、よほどアトピービジネスに存在の「口実」を与えたと言えるでしょう。
追記2: 「マスコミ等で先生のご意見が紹介されるときには、ステロイドを絶対に使ってはいけないという根拠とされることがあるようですので」と、竹原先生の質疑にあります。
マスコミ報道で有名なのは、竹原先生も著書で引用している、1992年の久米弘のニュースセンターの特集ですが、わたしはこの番組を見ていません。
どんな内容だったのか確認したいと思って、誰かビデオ録画していないか?と、昔からあちこちに声をかけて探しているのですが、結局まだ見つかっていません。youtubeにもUPされていないようです。誰か見たことある人、内容を記憶している人いますか?
こんな、今となっては内容も定かでないテレビ報道が、短期的にはともかく、長期的に、いったいどれほどの影響を社会に与えたというのだろうか?
ネットで調べてみると、「これでステロイド外用剤は最後の最後、ギリギリになるまで使ってはいけない薬だということがよくお分かりになったと思います。」と久米宏がコメントしたとあります。そうならば、「絶対に使ってはいけない」という論調とは隔たりがあります。いったい、過去にマスコミが、「アトピーにステロイドは絶対に使ってはいけない」という報道をしたことが一度でもあったのだろうか?
とにかく、1992年のニュースステーションは、一度見てみたいものです。もし、どなたか、録画ビデオをお持ちの方いらっしゃいましたら、お貸しいただけますと有難いです。意外と、今見直してみると、「なんだ、こんな内容だったのか」というような、過激でもなんでもない、当たり前の内容なのかもしれません。玉置先生の1996年の講演内容が、当時の皮膚科学会においては衝撃的であったが、今読み直してみると、しごく真っ当なものであるのと同じようにです。
2011.11.01
次は27歳の女性でアレルギー性鼻炎の既往があります。全身の掻痒性皮疹があって、ステロイド軟膏で治療していましたが、自己判断で90年12月より中止したところ、91年2月から徐々に増悪してきたため6月8日に当科を受診。図9は受診後3日目の臨床像です。 スキンケアを指導したところ、3ヵ月で非常にきれいになりました。
次は、脱ステロイドを行ったものの再使用し、最終的にやめられた例です。 患者さんの希望で休学し脱ステロイドを行いました。ひどくなったので入院しましたが、色素沈着をきたし無月経になりました。1年くらいかかりましたが徐々に改善し、色素沈着も淡くなり落ち着いてきて復学を果たしました。
しかし何かの原因でまた増悪しました。このときには悪化要因がわからなかったので、患者さんの気力をなえさせないためにもステロイド内服で様子をみることとしました。1年ほどでス テロイドを完全に中止して、現在は非ステロイド軟膏だけでうまくコントロールされています。
一方、入院中に悪化した例を供覧します。当院に入院してステロイドをやめたところじわじわ悪化し、頚から下に非常に強い浮腫と滲出液が見られるようになりました。日常生活(入院生活)ができないためステロイド内服を開始したところ著明に改善、UVBやPUVAを行いながらステロイドを漸減、4ヵ月後にはゼロになりました。
私どもは、ステロイドをやめさえすればよくなると思っていた時期もありました。そのような例も多いのですが、現在は頑固なアトピー性皮膚炎ではそれだけでは治らないこともあると考えています。その場合は、なぜステロイドが必要だったかを患者さんに考えてもらい、ストレスを減らし、スキンケアや食事の指導をきちんとするようにしています。患者さん自身が自分でアトピーを治そうと考えるように、われわれ医者や薬はその手助けをさせてもらうだけで、治療の中心になるのは本人だということを自覚させる。
中には、アトピーの中へ逃げ込んでいる、治りたくないという患者さんまでいます。プラス思考というか「病は気から」という心構えがアトピーの治療では非常に大きなファクターではない かと考えられます。
質疑応答
竹原(金沢大学):3つほどご質問します。まず1つは、先生の基本的なお考えですが、一部の患者さんで確かにステロイドを使って問題があるということは現実としてあると思いますが、だから全部の患者さんに使うべきでないというような論理の飛躍があるように思います。私自身は、副作用が起こらない、あるいは、その患者さんにとってマイナスの面が出ない範囲であれば、ステロイドをずっと使ってもかまわないんじゃないかと思っています。
2点目は、途中で先生が、ステロイドによるアトピー性皮膚炎といってお出しになった例は、典型的なアトピーの皮疹やヒストリーもなくて、IgEも上がっていない。これはアトピーとは全然関係ない単なる酒さ様皮膚炎を意味しているもので、それをなぜあえてアトピー性皮膚炎といわれて、ステロイドと関連づけないといけないのでしょうか。
3つ目は、般初に老人の例を出されましたが、本当にステロイドをずっと塗り続けるとかなりの頻度で難治化するのであれば、ステロイドが使われてから30-40年たちますから、われわれの周りに60歳、70歳のアトピー性皮膚炎の人がたくさんいるはずだと思うんです。現実に私の経験だと、成人型のアトピー性皮膚炎といっても20代が主体で、30代がかなりいて、40代になるとかなり減って、それ以降は非常に少ない。ですから、どこかではおさまっているはずだろうと思います。ああいう方は、たまたま治療が悪く経過が悪かったのであのようになってしまったという例外的な例ではないかと思います。
玉置:最後の質問は、第1番目の質問と重なるかと思います。全例がそういう副作用が出てきて難治になるといっているわけではありません。実際にステロイドを使ったほうが楽な例は、まず使ってみたらという話も行います。 しかし、当院へ来る例の大部分が、先ほど示しましたように、使いたくないといって来院されます。そのような患者さんに使えと指導するのは非常に時間と労力をとられますから、実際には使わない例が増えているわけです。しかし、仕事に行かなければいけないとか、結婚式が控えているという場合には、納得して使ってもらう場合があります。
最初の質問ですが、すべての例にステロイドの副作用が出てくるとは思いません。ただ、私自身はアトピーになるような方は、ほかの、たとえば乾癬などに比べて、ステロイドの副作用が出やすいのではないかと考えています。 今なくても10年先に出るという危険性があります。ですから、いつまでもうまく使い続けられるのかどうかが疑問です。
2番目の、ステロイドによる酒さ様皮膚炎ではないかというご指摘ですが、 この例は94年の日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診断基準には当てはまります。左右対称に滲出性の潮紅性皮疹が6ヵ月以上続き痒みがある症例は実際にはアトピーとして治療されている例が多い。そういう例には、ステロイドを使わなければ比較的早く治っていくということを申し上げたのであって、 私自身はあれをアトピー性皮膚炎に入れないほうがいいだろうと思いますし、 お示しした統計には入っていません。
竹原:先生のお考えと私の考えていることとあまり違わないことがわかって非常に安心しました。最初の点に関しては、先生の責任ではないかもしれませんが、マスコミ等で先生のご意見が紹介されるときには、ステロイドを絶対に使ってはいけないという根拠とされることがあるようですので、今後マスコミとの対応は慎重にお願いしたいと思います。
それから2点目は、どんな病気でも診断基準というのはあくまで一つの目安ですから、先生自身がアトピーではないとお考えであれば、ぜひ先生の診断でご発表いただきたいと思います。 どうもありがとうございました。
荻野:「アトピー性膚炎とステロイド外用剤」というばテーマは非常に大きな問題で、短時間で議論しつくせるものではありません。今日はお二人の先生に話題提供という意味でお話しい ただきました.今後のディスカッションを深めていく際の一助となれば幸いです。これでランチョンセミナーを終わらせていただきます。
ーーーー(ここまで引用)-----
玉置先生は、日本で先駆けて「脱ステロイド療法」を提唱した皮膚科医ですが、このときの講演の、ステロイド依存や抵抗性、リバウンドに関する論述は、本ブログで紹介してきた、ここ10年ほどの研究の進歩に照らし合わせてみても、まったく矛盾のないものです。1996年の時点で、ステロイド依存に陥った患者に、皮膚科医はどう対処すればいいか?は、少なくとも臨床的には、ほぼ基本が確立されていたと言ってもいいでしょう。読み直して、改めて感服しました。
一方、竹原先生の質疑の冒頭には、「だから全部の患者さんに使うべきでないというような論理の飛躍がある」とあります。わたしは「論理の飛躍」は、むしろ竹原先生の頭の中にこそあったと考えます。いったい、どこをどう解釈すると、こういう質疑になるのでしょうか?おそらく、竹原先生には、玉置先生の講演内容が、まるで理解できなかったのでしょう。竹原先生の頭の中では、「玉置医師が何をしゃべっているのか解らないが、この『脱ステロイド療法』というのが、世の中の患者のステロイド忌避や、アトピービジネスの元凶であるに違いない。『脱ステロイド療法』を駆逐すれば、皮膚科の世界はまた静かになるだろう。」という、実に単純な印象だけが強く刻み込まれたのだと想像します。
その後の川島―竹原ラインの学会をあげてのキャンペーンで、私を含め、脱ステロイドを手がける皮膚科医は激減しました。若い世代で、これを引き継ごうという医師は皆無です。そりゃあそうでしょう、アトピービジネスの元凶扱いされながらも、不良債権処理のようなこの仕事を引き継ごうという若手が出てくるわけがありません。竹原先生の論理によれば、これでステロイド依存問題は解決して、患者も皮膚科医も、ステロイドを上手に使って皆がハッピーになるはずです。
果たして竹原先生が正しかったのか、玉置先生の1996年の問題提起に皮膚科医が真正面から取り組むべきであったのか、私はもちろん後者が正しいと思いますが、科学的真実の問題なのですから、いずれは歴史が回答してくれることでしょう。
追記1: 「脱ステロイド療法を提唱する一部の皮膚科医の主張がマスコミに取り上げられ、アトピービジネスに対する口実を与えた」という竹原先生の持論には、昔からわたしは大きな疑問を抱いています。
その根拠は以下の2点です。
1)ステロイド依存の問題に先に気が付いたのは、「アトピービジネス」の側だ。
たとえば、日本オムバスという温泉宅配のアトピービジネスがありますが、ここは1988年には営業を開始しています。淀川キリスト教病院が脱ステロイドを始めた1990よりも早いです。日本オムバスのような脱ステ系のアトピービジネスの論法では、ステロイドは、竹原先生の質疑の言葉のように、「全部の患者さんに使うべきではない」という感じですので、竹原先生は、玉置先生の診療内容を、勝手に、アトピービジネスと同一視していたのではないかと思われます。だから、あんな質疑をしたのでしょう。竹原先生は、先にどこかでアトピービジネスの論法に触れており、そのあとで玉置先生の講演を、先入観を持って聞いた、ということではないでしょうか。
2)脱ステロイドを行う皮膚科医が、「アトピービジネス」のパンフレットなど広告媒体に紹介されているのを見たことが無い。
わたしも、玉置先生も、脱ステロイドの皮膚科医は、アトピービジネスが嫌いです。最近は、ネットで簡単に引用や消去が可能ですが、昔、紙媒体の時代に、自分が勝手に利用されるのを見逃すはずがないです。また、「アトピービジネス」は、まったく自分たち独自のノウハウでアトピーを治しますと主張するはずで、なぜなら、そうしければ、お客さん(患者)を脱ステロイドの皮膚科医に取られてしまうことになるからです。だから「口実を与えた」というのが、具体的にどういうことなのか、よく考えてみると実に意味不明です。むしろ皮膚科医が患者の脱ステロイドに一切協力しない、という姿勢のほうが、よほどアトピービジネスに存在の「口実」を与えたと言えるでしょう。
追記2: 「マスコミ等で先生のご意見が紹介されるときには、ステロイドを絶対に使ってはいけないという根拠とされることがあるようですので」と、竹原先生の質疑にあります。
マスコミ報道で有名なのは、竹原先生も著書で引用している、1992年の久米弘のニュースセンターの特集ですが、わたしはこの番組を見ていません。
どんな内容だったのか確認したいと思って、誰かビデオ録画していないか?と、昔からあちこちに声をかけて探しているのですが、結局まだ見つかっていません。youtubeにもUPされていないようです。誰か見たことある人、内容を記憶している人いますか?
こんな、今となっては内容も定かでないテレビ報道が、短期的にはともかく、長期的に、いったいどれほどの影響を社会に与えたというのだろうか?
ネットで調べてみると、「これでステロイド外用剤は最後の最後、ギリギリになるまで使ってはいけない薬だということがよくお分かりになったと思います。」と久米宏がコメントしたとあります。そうならば、「絶対に使ってはいけない」という論調とは隔たりがあります。いったい、過去にマスコミが、「アトピーにステロイドは絶対に使ってはいけない」という報道をしたことが一度でもあったのだろうか?
とにかく、1992年のニュースステーションは、一度見てみたいものです。もし、どなたか、録画ビデオをお持ちの方いらっしゃいましたら、お貸しいただけますと有難いです。意外と、今見直してみると、「なんだ、こんな内容だったのか」というような、過激でもなんでもない、当たり前の内容なのかもしれません。玉置先生の1996年の講演内容が、当時の皮膚科学会においては衝撃的であったが、今読み直してみると、しごく真っ当なものであるのと同じようにです。
2011.11.01