中間分子量ヒアルロン酸は酒さにも効きそうだ
中間分子量ヒアルロン酸は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧品は日本では他にありません。製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一般名である「中間分子量ヒアルロン酸」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは、お手数ですが検索して探してください。
先回、アメリカでヒアルプロテクトとほぼ同じ分子量サイズ(5~10万)のヒアルロン酸の外用剤が既に発売されていたことを記しました(→こちら)。
Bionectというこの製品は、ヒアルロン酸濃度が0.2%なのですが(私が製作した化粧水は2%)、これを朝晩4週間外用したところ、被験者15名の酒さの患者のうち、都合で来院できなくなった1名を除く14名全員で改善が認められた、という論文の報告がありました。
Efficacy and Tolerability of Low Molecular Weight Hyaluronic Acid Sodium Salt 0.2% Cream in Rosacea. Todd E. et al. JDD 2013 Vol.12(6)
先回、アメリカでヒアルプロテクトとほぼ同じ分子量サイズ(5~10万)のヒアルロン酸の外用剤が既に発売されていたことを記しました(→こちら)。
Bionectというこの製品は、ヒアルロン酸濃度が0.2%なのですが(私が製作した化粧水は2%)、これを朝晩4週間外用したところ、被験者15名の酒さの患者のうち、都合で来院できなくなった1名を除く14名全員で改善が認められた、という論文の報告がありました。
Efficacy and Tolerability of Low Molecular Weight Hyaluronic Acid Sodium Salt 0.2% Cream in Rosacea. Todd E. et al. JDD 2013 Vol.12(6)
Papules丘疹、Erythema紅斑、Burning/Stinging灼熱感、Dryness乾燥、PGA(Physician’s global assessment)医師による全般的評価。BaselineからWeek4までがヒアルロン酸外用、week4からweek8までは中止。
Controlをとった対照試験ではありませんが、奏効率はかなり良いです。すくなくとも、ヒアルロン酸外用で酒さは悪化していません。
「少なくとも悪化はしていない」というのは、皮肉な言い回しではありません。酒さの場合、皮膚が過敏となっていて大抵の外用剤は受け付けなくなっているので、何か外用すれば、良くなるよりも悪化あるいは脱落(中止)する例のほうが通常多いです。
「ああ、悪化しないんだ・・。」と感心した理由はもう一つあります。
Low Molecular Weight Hyaluronic Acid Increases the Self-Defense of Skin Epithelium by Induction of β-Defensin 2 via TLR2 and TLR4. Gariboldi et al. The Journal of Immunology 2008, 181(3 ) 2103-2110
という2008年の論文のデータです。
この論文では分子量20万以下のヒアルロン酸分画を用いて、各種実験がなされているのですが、結論として、
「低分子量(20万以)のヒアルロン酸は、TLR ( toll like receptor )を介してβ-Defensin 2(表皮細胞が産生する非特異的抗菌物質)の産生を促す」
ということが導かれています。
ここで気になっていたのは「TLRを介して」という点です。ヒアルロン酸はCD44というレセプターを介して表皮細胞にシグナルを送ることはよく知られていますが、どうもTLRにも作用しているようです。TLRノックアウトマウスでは、ヒアルロン酸を外用してもβ-Defensin 2は増加してきません。
Controlをとった対照試験ではありませんが、奏効率はかなり良いです。すくなくとも、ヒアルロン酸外用で酒さは悪化していません。
「少なくとも悪化はしていない」というのは、皮肉な言い回しではありません。酒さの場合、皮膚が過敏となっていて大抵の外用剤は受け付けなくなっているので、何か外用すれば、良くなるよりも悪化あるいは脱落(中止)する例のほうが通常多いです。
「ああ、悪化しないんだ・・。」と感心した理由はもう一つあります。
Low Molecular Weight Hyaluronic Acid Increases the Self-Defense of Skin Epithelium by Induction of β-Defensin 2 via TLR2 and TLR4. Gariboldi et al. The Journal of Immunology 2008, 181(3 ) 2103-2110
という2008年の論文のデータです。
この論文では分子量20万以下のヒアルロン酸分画を用いて、各種実験がなされているのですが、結論として、
「低分子量(20万以)のヒアルロン酸は、TLR ( toll like receptor )を介してβ-Defensin 2(表皮細胞が産生する非特異的抗菌物質)の産生を促す」
ということが導かれています。
ここで気になっていたのは「TLRを介して」という点です。ヒアルロン酸はCD44というレセプターを介して表皮細胞にシグナルを送ることはよく知られていますが、どうもTLRにも作用しているようです。TLRノックアウトマウスでは、ヒアルロン酸を外用してもβ-Defensin 2は増加してきません。
以前、酒さについてまとめたときの、Rossoの図を御参照ください(→こちら)。
酒さの成立メカニズムは、何らかのトリガー(細菌や微生物など)に表皮細胞のTLRが反応して、LL37という強力な血管拡張物質を産生する、ということでした。もし、ヒアルロン酸がTLRを介して表皮細胞にシグナルを送るなら、それによってLL37が産生されて、酒さが悪化してもおかしくありません。
その一方で、この論文は、別のことも示唆してくれます。すなわち、表皮細胞をLPS(リポ多糖=細菌が産生する)と、LMW-HA(低分子量ヒアルロン酸)とで刺激した場合、同じTLRへの結合なのですが、前者(LPS刺激)ではIL-8, TNFα,IL-1b, IL-6などの炎症性サイトカインが産生されるのに対し、後者すなわちヒアルロン酸の刺激によっては炎症性サイトカインの産生が起きないのです。ヒアルロン酸では、ただ、抗菌物質であるβ-Defensinのみが産生されます。
酒さの成立メカニズムは、何らかのトリガー(細菌や微生物など)に表皮細胞のTLRが反応して、LL37という強力な血管拡張物質を産生する、ということでした。もし、ヒアルロン酸がTLRを介して表皮細胞にシグナルを送るなら、それによってLL37が産生されて、酒さが悪化してもおかしくありません。
その一方で、この論文は、別のことも示唆してくれます。すなわち、表皮細胞をLPS(リポ多糖=細菌が産生する)と、LMW-HA(低分子量ヒアルロン酸)とで刺激した場合、同じTLRへの結合なのですが、前者(LPS刺激)ではIL-8, TNFα,IL-1b, IL-6などの炎症性サイトカインが産生されるのに対し、後者すなわちヒアルロン酸の刺激によっては炎症性サイトカインの産生が起きないのです。ヒアルロン酸では、ただ、抗菌物質であるβ-Defensinのみが産生されます。
ということは、低分子ヒアルロン酸は、表皮細胞のTLRにシグナルを送るかもしれないが、LL37の産生にはつながらない=酒さを悪化させない、という可能性もまたありうるわけです。どちらなのかが、判りませんでした。
もし、低分子ヒアルロン酸が、TLRにシグナルを送ってもLL37を産生させずに、β-Defensinのみを増加させるなら、これは酒さを改善する可能性があります。なぜなら、β-Defensinによって、TLRを刺激する皮膚表面の細菌・微生物が減少するであろうからです。
CD44とTLRとの関連については、さらにこういう研究もあります。
CD44 Suppresses TLR-Mediated Inflammation. Kawana et al. The Journal of Immunology March 15, 2008 vol. 180 no. 6 4235-4245
「低分子ヒアルロン酸はCD44に結合して、TLRの経路を抑制する」というものです。
低分子ヒアルロン酸のTLRへの作用が基本的にnegative(抑制的)なものであるならば、炎症性サイトカインのみならずLL37の産生をも抑えてくれるのかもしれません。唯一β-Defensinのみは例外的に産生増加に働く、ということです。
2008年のGariboldiの論文からは、もう一つ興味深いことが読み取れます。それは、Bionectのヒアルロン酸濃度が0.2%である根拠です。
もし、低分子ヒアルロン酸が、TLRにシグナルを送ってもLL37を産生させずに、β-Defensinのみを増加させるなら、これは酒さを改善する可能性があります。なぜなら、β-Defensinによって、TLRを刺激する皮膚表面の細菌・微生物が減少するであろうからです。
CD44とTLRとの関連については、さらにこういう研究もあります。
CD44 Suppresses TLR-Mediated Inflammation. Kawana et al. The Journal of Immunology March 15, 2008 vol. 180 no. 6 4235-4245
「低分子ヒアルロン酸はCD44に結合して、TLRの経路を抑制する」というものです。
低分子ヒアルロン酸のTLRへの作用が基本的にnegative(抑制的)なものであるならば、炎症性サイトカインのみならずLL37の産生をも抑えてくれるのかもしれません。唯一β-Defensinのみは例外的に産生増加に働く、ということです。
2008年のGariboldiの論文からは、もう一つ興味深いことが読み取れます。それは、Bionectのヒアルロン酸濃度が0.2%である根拠です。
培養表皮細胞に添加する低分子ヒアルロン酸の濃度を増やしていったときのβ-Defensinの産生量のグラフです。これをみると、0.2%で頭打ちになっているように見えます。 たぶんBionectの作成者は、このデータから0.2%と決めたのではないか?と考えられます。
以上の文献から、わたしはヒアルプロテクト(あるいはこれを10倍に薄めた0.2%の水溶液でも)は、Bionect同様、酒さに有効なのだろう、と考えます。
☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆
おまけですが、こういう論文も見つけました(→こちら)。 アンチエイジングの効果です。
Efficacy of cream-based novel formulations of hyaluronic acid of different molecular weights in anti-wrinkle treatment. Pavicic T, et al. J Drugs Dermatol. 2011 Sep;10(9):990-1000.
分子量サイズ5万、13万、30万、80万、200万の5種類のヒアルロン酸 ( 0.1% ) を目の周りの小じわに一日2回60日間外用したところ、プラセボ ( control ) に比べて有意に小じわの深さが改善したのは、13万と5万であった、という内容です。30万以上の分子量サイズでは有意差がありませんでした。
これは、表皮細胞を分裂増殖させてふっくら厚くする作用によると考えられますが、ヒアルプロテクト、ひょっとしたら蒸留水などで20倍に薄めて伸ばして使っても各種効果はあるのかもです。
実際、表皮細胞の分裂増殖活性化のスイッチを入れるということですから、結構濃度は薄くていいのかもしれません。
まあ、Barnesの実験(ステロイド外用剤による皮膚萎縮の抑制)に用いられていたのが2%でしたから、今のところは、一応、2%原液のままの使用を推奨しては置きますが・・。
財布の中身に自信の無い方は、適宜、薄めて使っても、それなりの効果はありそうですよということです。
分子量10万前後の中間(あるいは低)分子量ヒアルロン酸についての論文は、この1~2年、急に増えてきています。そのうち一般的な話題としても取り上げられて火がつくのではないかなあ、と私は思います。
2013.06.01
以上の文献から、わたしはヒアルプロテクト(あるいはこれを10倍に薄めた0.2%の水溶液でも)は、Bionect同様、酒さに有効なのだろう、と考えます。
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おまけですが、こういう論文も見つけました(→こちら)。 アンチエイジングの効果です。
Efficacy of cream-based novel formulations of hyaluronic acid of different molecular weights in anti-wrinkle treatment. Pavicic T, et al. J Drugs Dermatol. 2011 Sep;10(9):990-1000.
分子量サイズ5万、13万、30万、80万、200万の5種類のヒアルロン酸 ( 0.1% ) を目の周りの小じわに一日2回60日間外用したところ、プラセボ ( control ) に比べて有意に小じわの深さが改善したのは、13万と5万であった、という内容です。30万以上の分子量サイズでは有意差がありませんでした。
これは、表皮細胞を分裂増殖させてふっくら厚くする作用によると考えられますが、ヒアルプロテクト、ひょっとしたら蒸留水などで20倍に薄めて伸ばして使っても各種効果はあるのかもです。
実際、表皮細胞の分裂増殖活性化のスイッチを入れるということですから、結構濃度は薄くていいのかもしれません。
まあ、Barnesの実験(ステロイド外用剤による皮膚萎縮の抑制)に用いられていたのが2%でしたから、今のところは、一応、2%原液のままの使用を推奨しては置きますが・・。
財布の中身に自信の無い方は、適宜、薄めて使っても、それなりの効果はありそうですよということです。
分子量10万前後の中間(あるいは低)分子量ヒアルロン酸についての論文は、この1~2年、急に増えてきています。そのうち一般的な話題としても取り上げられて火がつくのではないかなあ、と私は思います。
2013.06.01