乾癬のガイドライン中の「タキフィラキシー」「リバウンド」についての記述
Guidelines of care for the management of psoriasis and psoriatic arthritis. Section 3. Guidelines of care for the management and treatment of psoriasis with topical therapies. J Am Acad Dermatol. 2009 Apr;60(4):643-59. Epub 2009 Feb 13.
A significant limitation of most clinical trials evaluating the safety and efficacy of topical corticosteroids for the treatment of psoriasis is the short duration of treatment of only several weeks, which does not allow for an assessment of the efficacy or the risks of longer term therapy. Furthermore, psoriasis invariably recurs after discontinuation of topical corticosteroid treatment. In studies where the class II corticosteroid betamethasone dipropionate ointment was discontinued abruptly, the mean duration of remission was 2 months. Tachyphylaxis, defined as the loss of effectiveness with continued use, while not demonstrated in some studies, may affect the long-term results achieved in a given patient. It remains controversial whether tachyphylaxis is a result of true loss of effectiveness of the whether it reflects a loss of compliance on the part of patients. Further investigation into this area is encouraged.
乾癬のステロイド外用治療の安全性および効果を評価する臨床研究における重要な限界は、大抵の場合、治療期間がたかだか数週間であるという点だ。それより長い期間の評価はそれらの研究からはできない。さらに、乾癬はステロイド外用治療を中止すれば必ず再燃する。クラスⅡのステロイド外用剤であるプロピオン酸ベタメサゾン軟膏を急に中止した研究においては、再燃までの期間は平均2ヶ月であった。タキフィラキシー(連用による効果減弱と定義される)は、研究によっては認めなかったというものもあるが、個々の患者の長期的治療結果に影響を与える。タキフィラキシーが真の効果減弱なのか、一群の患者におけるコンプライアンスの低さによるものなのかは、議論があり、さらなる研究が望まれる。
Another possible concern with the use of topical corticosteroids in the treatment of psoriasis is rebound, wherein disease recurs worse than the pretreatment baseline after the topical corticosteroid is discontinued.
Although rebound is known to occur most typically when topical corticosteroids are abruptly discontinued, its frequency and severity are poorly characterized. This is another area worthy of further investigation.
乾癬のステロイド外用治療でもう一つ気をつけなければならないことはリバウンドだ。リバウンドとはステロイド外用剤を中止したときに、治療前の状態(ベースライン)よりも症状が悪化することを言う。
リバウンドは典型的にはステロイド外用剤を急に中止すると生じることが知られているが、その頻度や重症度は把握されていない。この領域はさらなる研究に値する。
http://www.aad.org/File%20Library/Global%20navigation/Education%20and%20quality%20care/Guidelines-psoriasis-sec-3.pdf
ステロイド皮膚症、すなわちステロイド依存というのは、乾癬でも生じます。Kligmanの1979年の論文に、
ーーーーー
Reound can occur in any chronic dermatoses which has been under long term treatment with topical steroids,
リバウンドは、外用ステロイドを長期連用すれば、どんな慢性皮膚疾患においても起こり得る。
ーーーーー
と記されている通りです(→こちら)。
しかし、アトピー性皮膚炎のステロイド皮膚症と、乾癬のステロイド皮膚症とは、治療する側から見ると、ずいぶん違った印象を持ちます。以前紹介した1983年の須貝先生の論文にも記されています(→こちら)。
ーーーーー
乾癬患者のステロイド皮膚症では、効果の弱いステロイド外用剤に変え、PUVA療法などステロイド外用以外の治療法に順次切りかえてゆけるが、アトピー性皮膚炎患者の場合には、ステロイドの全身投与を一過性に行い、症状の増悪を抑えながら、弱いステロイド外用剤に切りかえるのがよいようである。
ーーーーー
乾癬とアトピー性皮膚炎は、どちらも表皮のバリア破壊が関係する疾患ですが、私の個人的印象としては、
1)アトピー性皮膚炎のリバウンドは、表皮バリアの破壊が回復するまで、複数回の悪化が起きうるし、後のリバウンドのほうが強いこともある。乾癬のリバウンドは単回、あるいは、揺り戻しが来たとしても単純に減寂していく。
2)アトピー性皮膚炎のリバウンドは、須貝先生も記しているように、一時的な内服や注射などの全身投与でコントロールしやすい。乾癬のリバウンドは、内服や注射でコントロールしようとすると、長期化しやすく、全身的な副作用を考える必要が生じるので、外用で漸減したほうがよい。
です。
1)は、アトピー性皮膚炎の場合は、IgEなどTh2系の免疫経路が暴走し、外的アレルゲンの関与によって、リバウンドの経過が修飾されることによるのだと思います。
2)は、おそらく、アトピー性皮膚炎よりも、乾癬のほうが、一度生じてしまった病変の回復に時間がかかるためかなあ、と思います。乾癬のリバウンドは、流れとしては単純でわかりやすく、もちろんステロイド内服や注射にもよく反応するのですが、中止により再燃しやすいです。原疾患による表皮バリア破壊の回復自体が遅いため、内服や注射による一時的リリーフに向かないのでしょう。
さて、上掲の論文は、2009年に発表された、アメリカ皮膚学会(AAD)の乾癬に対する外用療法(ステロイドを含む)ガイドラインを記したものです。
以前、アメリカ皮膚科学会の旧アトピー性ガイドライン(2004年版)は、2009年で失効しており、2011年秋に改定版が出るとHP上告示されていることをお伝えしました。
最近のHPを見ると、予定が2013年春まで遅れるようです。
A significant limitation of most clinical trials evaluating the safety and efficacy of topical corticosteroids for the treatment of psoriasis is the short duration of treatment of only several weeks, which does not allow for an assessment of the efficacy or the risks of longer term therapy. Furthermore, psoriasis invariably recurs after discontinuation of topical corticosteroid treatment. In studies where the class II corticosteroid betamethasone dipropionate ointment was discontinued abruptly, the mean duration of remission was 2 months. Tachyphylaxis, defined as the loss of effectiveness with continued use, while not demonstrated in some studies, may affect the long-term results achieved in a given patient. It remains controversial whether tachyphylaxis is a result of true loss of effectiveness of the whether it reflects a loss of compliance on the part of patients. Further investigation into this area is encouraged.
乾癬のステロイド外用治療の安全性および効果を評価する臨床研究における重要な限界は、大抵の場合、治療期間がたかだか数週間であるという点だ。それより長い期間の評価はそれらの研究からはできない。さらに、乾癬はステロイド外用治療を中止すれば必ず再燃する。クラスⅡのステロイド外用剤であるプロピオン酸ベタメサゾン軟膏を急に中止した研究においては、再燃までの期間は平均2ヶ月であった。タキフィラキシー(連用による効果減弱と定義される)は、研究によっては認めなかったというものもあるが、個々の患者の長期的治療結果に影響を与える。タキフィラキシーが真の効果減弱なのか、一群の患者におけるコンプライアンスの低さによるものなのかは、議論があり、さらなる研究が望まれる。
Another possible concern with the use of topical corticosteroids in the treatment of psoriasis is rebound, wherein disease recurs worse than the pretreatment baseline after the topical corticosteroid is discontinued.
Although rebound is known to occur most typically when topical corticosteroids are abruptly discontinued, its frequency and severity are poorly characterized. This is another area worthy of further investigation.
乾癬のステロイド外用治療でもう一つ気をつけなければならないことはリバウンドだ。リバウンドとはステロイド外用剤を中止したときに、治療前の状態(ベースライン)よりも症状が悪化することを言う。
リバウンドは典型的にはステロイド外用剤を急に中止すると生じることが知られているが、その頻度や重症度は把握されていない。この領域はさらなる研究に値する。
http://www.aad.org/File%20Library/Global%20navigation/Education%20and%20quality%20care/Guidelines-psoriasis-sec-3.pdf
ステロイド皮膚症、すなわちステロイド依存というのは、乾癬でも生じます。Kligmanの1979年の論文に、
ーーーーー
Reound can occur in any chronic dermatoses which has been under long term treatment with topical steroids,
リバウンドは、外用ステロイドを長期連用すれば、どんな慢性皮膚疾患においても起こり得る。
ーーーーー
と記されている通りです(→こちら)。
しかし、アトピー性皮膚炎のステロイド皮膚症と、乾癬のステロイド皮膚症とは、治療する側から見ると、ずいぶん違った印象を持ちます。以前紹介した1983年の須貝先生の論文にも記されています(→こちら)。
ーーーーー
乾癬患者のステロイド皮膚症では、効果の弱いステロイド外用剤に変え、PUVA療法などステロイド外用以外の治療法に順次切りかえてゆけるが、アトピー性皮膚炎患者の場合には、ステロイドの全身投与を一過性に行い、症状の増悪を抑えながら、弱いステロイド外用剤に切りかえるのがよいようである。
ーーーーー
乾癬とアトピー性皮膚炎は、どちらも表皮のバリア破壊が関係する疾患ですが、私の個人的印象としては、
1)アトピー性皮膚炎のリバウンドは、表皮バリアの破壊が回復するまで、複数回の悪化が起きうるし、後のリバウンドのほうが強いこともある。乾癬のリバウンドは単回、あるいは、揺り戻しが来たとしても単純に減寂していく。
2)アトピー性皮膚炎のリバウンドは、須貝先生も記しているように、一時的な内服や注射などの全身投与でコントロールしやすい。乾癬のリバウンドは、内服や注射でコントロールしようとすると、長期化しやすく、全身的な副作用を考える必要が生じるので、外用で漸減したほうがよい。
です。
1)は、アトピー性皮膚炎の場合は、IgEなどTh2系の免疫経路が暴走し、外的アレルゲンの関与によって、リバウンドの経過が修飾されることによるのだと思います。
2)は、おそらく、アトピー性皮膚炎よりも、乾癬のほうが、一度生じてしまった病変の回復に時間がかかるためかなあ、と思います。乾癬のリバウンドは、流れとしては単純でわかりやすく、もちろんステロイド内服や注射にもよく反応するのですが、中止により再燃しやすいです。原疾患による表皮バリア破壊の回復自体が遅いため、内服や注射による一時的リリーフに向かないのでしょう。
さて、上掲の論文は、2009年に発表された、アメリカ皮膚学会(AAD)の乾癬に対する外用療法(ステロイドを含む)ガイドラインを記したものです。
以前、アメリカ皮膚科学会の旧アトピー性ガイドライン(2004年版)は、2009年で失効しており、2011年秋に改定版が出るとHP上告示されていることをお伝えしました。
最近のHPを見ると、予定が2013年春まで遅れるようです。
なおかつ、上図のように、4部に分けられる見込みです。
一方、乾癬のガイドラインは、
一方、乾癬のガイドラインは、
のように2011年までに出揃いました。アトピー性皮膚炎同様6部に分けられており、表題の論文は、Section3の外用療法についてのものです。上に抜き書きした部分は、この中の、タキフィラキシーおよびリバウンドに関する記述です。
2011.11.30
2011.11.30