2010年11月23日の朝日新聞の記事
ーーーーー(ここから引用)-----
【子どものアトピー:1 生後3カ月、「もしかして」】
2007年の秋。札幌市の女性(42)は、疲れ果てていた。
次男(5)がアトピー性皮膚炎を発症して2年。「医師の指示を守り、症状改善にいいと思ったことはすべてやった」。でも、皮膚の赤みはひかず、次男はひどくかゆがった。
女性は毎朝5時半に起床して、家中の床にモップをかけた。アレルギーの原因になるホコリが舞い上がらないようにするためだ。
アトピーや食物アレルギーがよくなることを信じ、卵や乳製品、カニ、エビや貝類は、料理に使わなかった。無農薬の食材を通信販売で取り寄せて調理した。
朝食のあとは掃除機かけ。次男が昼寝するわずかな時間に食事日誌を開き、アトピーに関係していそうな食材を探りながら、次の献立を考えた。夕食後には再びモップがけ。翌日の食事の下ごしらえも待っていた。
それでも、次男の症状がよくなる兆しはない。夜も1、2時間おきに目を覚まし、ほおとひざをかきむしりながら「かゆいよ」と泣いた。「かかずに、トントンしようね」。そう言ってなだめるしかなかった。
夫(45)も、寝付けぬ次男を背負ってあやしつつ、うとうとすることがよくあった。
「できることはすべて、しなければいけない」。自分たちを追いつめるそんな考えが、睡眠不足の日々を支えていた。
異変に気づいたのは、生後3カ月のころ。おなかのあたりの皮膚に赤みが出ていた。それが、2週間ほどで全身に広がった。ひじやひざの裏などの関節はかさかさになり、粉がふいたようだった。「もしかして、アトピー?」。すぐに近くの皮膚科を受診した。
診断結果は「今はまだ、アトピーかどうか診断がつかない」。処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。
ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
ママ友達に相談すると、「ステロイドって、使い始めたらやめられなくなるんじゃない?」と言われた。不安が増した。 塗れば効果はある。「それだけ、強い薬なんだろう」。インターネットや口コミでアトピーの情報を集めた。10カ所近い病院を転々とする、2年間の始まりだった。(林義則)
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2010-1124-1215-15/www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011230270.html
朝日新聞が、ふたたびアトピーの連載を始めました。こんどは「子供のアトピー」みたいです。記者が林義則さんに変わっています。 アスパラクラブには、
ーーーーー(ここから引用)-----
≪担当した林義則記者から≫
「大人のアトピー」編には、長期間にわたってアトピー性皮膚炎の症状とたたかってきた方々からの体験やご意見をたくさんいただきました。 今回、時間の許す限り専門医による講演や患者向けの教室に参加し、患者や家族の声を直に聞くように努めました。
「強いステロイド剤を使ったのに良くならなかった」「いつまでたってもステロイドが減らない」。参加者からの質問は、これまでによせられた意見と同じように、一向に改善しない症状への苦悩や現在の治療への不安に満ちた切実な内容でした。
「子どものアトピー」編で紹介する女性も、繰り返し再発する次男のアトピー性皮膚炎の病状や治療の見通しに納得のいく説明が得られず、医療への不信を募らせていました。
「ステロイドは悪魔の薬でも、魔法の薬でもない」という専門医の言葉が印象に残ります。ステロイドには副作用があり、長く使い続けることは避ける必要があります。
しかし、ガイドラインに沿った治療で、症状を抑え、段階的に使用量を減らすには、外用薬の具体的な使い方や徹底したスキンケアの指導が欠かせないと言います。 ただ、こういった指導に時間をかけ、アトピー皮膚炎の患者に向き合える医師は、まだまだ少ないというのが現状だそうです。重症患者や家族をしっかり受けとめる医療の充実や支援策の必要性を強く感じています。
ーーーーー(ここまで引用)-----
とコメントがあります。ですので、前回大人のアトピーの連載のときに多数寄せられたであろう、ステロイド外用剤についての問題点をも、よく考慮された記事に仕上がることでしょう。 せっかくですので、また記事と同時進行で、わたしなりの解説というか、コメントを記していこうと思います。
患者さん(5才)は2007年当時「アトピー性皮膚炎を発症して2年」とありますが、これはたぶん、2010年の現在5才になるということでしょうか?そうすると2007年当時は3才で、生後3ヶ月ころから発症して2年間いろいろやって疲れ果てた、という記述に合います。
病歴は、
ーーーーー
(生後3カ月)おなかのあたりの皮膚に赤みが出ていた。それが、2週間ほどで全身に広がった。ひじやひざの裏などの関節はかさかさになり、粉がふいたようだった。 処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。
ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
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皮疹(写真)もあります。「生後半年ごろには、顔にも症状が広がった。」ときのものです。
【子どものアトピー:1 生後3カ月、「もしかして」】
2007年の秋。札幌市の女性(42)は、疲れ果てていた。
次男(5)がアトピー性皮膚炎を発症して2年。「医師の指示を守り、症状改善にいいと思ったことはすべてやった」。でも、皮膚の赤みはひかず、次男はひどくかゆがった。
女性は毎朝5時半に起床して、家中の床にモップをかけた。アレルギーの原因になるホコリが舞い上がらないようにするためだ。
アトピーや食物アレルギーがよくなることを信じ、卵や乳製品、カニ、エビや貝類は、料理に使わなかった。無農薬の食材を通信販売で取り寄せて調理した。
朝食のあとは掃除機かけ。次男が昼寝するわずかな時間に食事日誌を開き、アトピーに関係していそうな食材を探りながら、次の献立を考えた。夕食後には再びモップがけ。翌日の食事の下ごしらえも待っていた。
それでも、次男の症状がよくなる兆しはない。夜も1、2時間おきに目を覚まし、ほおとひざをかきむしりながら「かゆいよ」と泣いた。「かかずに、トントンしようね」。そう言ってなだめるしかなかった。
夫(45)も、寝付けぬ次男を背負ってあやしつつ、うとうとすることがよくあった。
「できることはすべて、しなければいけない」。自分たちを追いつめるそんな考えが、睡眠不足の日々を支えていた。
異変に気づいたのは、生後3カ月のころ。おなかのあたりの皮膚に赤みが出ていた。それが、2週間ほどで全身に広がった。ひじやひざの裏などの関節はかさかさになり、粉がふいたようだった。「もしかして、アトピー?」。すぐに近くの皮膚科を受診した。
診断結果は「今はまだ、アトピーかどうか診断がつかない」。処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。
ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
ママ友達に相談すると、「ステロイドって、使い始めたらやめられなくなるんじゃない?」と言われた。不安が増した。 塗れば効果はある。「それだけ、強い薬なんだろう」。インターネットや口コミでアトピーの情報を集めた。10カ所近い病院を転々とする、2年間の始まりだった。(林義則)
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2010-1124-1215-15/www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011230270.html
朝日新聞が、ふたたびアトピーの連載を始めました。こんどは「子供のアトピー」みたいです。記者が林義則さんに変わっています。 アスパラクラブには、
ーーーーー(ここから引用)-----
≪担当した林義則記者から≫
「大人のアトピー」編には、長期間にわたってアトピー性皮膚炎の症状とたたかってきた方々からの体験やご意見をたくさんいただきました。 今回、時間の許す限り専門医による講演や患者向けの教室に参加し、患者や家族の声を直に聞くように努めました。
「強いステロイド剤を使ったのに良くならなかった」「いつまでたってもステロイドが減らない」。参加者からの質問は、これまでによせられた意見と同じように、一向に改善しない症状への苦悩や現在の治療への不安に満ちた切実な内容でした。
「子どものアトピー」編で紹介する女性も、繰り返し再発する次男のアトピー性皮膚炎の病状や治療の見通しに納得のいく説明が得られず、医療への不信を募らせていました。
「ステロイドは悪魔の薬でも、魔法の薬でもない」という専門医の言葉が印象に残ります。ステロイドには副作用があり、長く使い続けることは避ける必要があります。
しかし、ガイドラインに沿った治療で、症状を抑え、段階的に使用量を減らすには、外用薬の具体的な使い方や徹底したスキンケアの指導が欠かせないと言います。 ただ、こういった指導に時間をかけ、アトピー皮膚炎の患者に向き合える医師は、まだまだ少ないというのが現状だそうです。重症患者や家族をしっかり受けとめる医療の充実や支援策の必要性を強く感じています。
ーーーーー(ここまで引用)-----
とコメントがあります。ですので、前回大人のアトピーの連載のときに多数寄せられたであろう、ステロイド外用剤についての問題点をも、よく考慮された記事に仕上がることでしょう。 せっかくですので、また記事と同時進行で、わたしなりの解説というか、コメントを記していこうと思います。
患者さん(5才)は2007年当時「アトピー性皮膚炎を発症して2年」とありますが、これはたぶん、2010年の現在5才になるということでしょうか?そうすると2007年当時は3才で、生後3ヶ月ころから発症して2年間いろいろやって疲れ果てた、という記述に合います。
病歴は、
ーーーーー
(生後3カ月)おなかのあたりの皮膚に赤みが出ていた。それが、2週間ほどで全身に広がった。ひじやひざの裏などの関節はかさかさになり、粉がふいたようだった。 処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。
ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
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皮疹(写真)もあります。「生後半年ごろには、顔にも症状が広がった。」ときのものです。
病歴と写真があれば、ある程度の診断はつきます。
まずですが、この皮疹と経過であれば、ステロイド皮膚症や依存ではないです。 それはなぜかというと、外用歴も短いですが、皮疹に萎縮の要素がみられません。潮紅が主です。落屑・浸潤もありますが、付随的です。多彩とは言えません。 以前の記事で記した分類でいうと、タイプ1、潮紅局面型です(→こちら)。 処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
とありますが、これは別に、ステロイド依存が進んでいる様子ではありません。湿疹には、何らかの悪化因子がありますが、それが解除されなければ、ステロイドを外用すればおさまるし、止めれば再燃するでしょう。たまたま悪化因子への暴露が強ければ、その時点で皮疹は強く出ます。止めた後、塗る前より皮疹が強く出るからといって、リバウンドではありません。ステロイド依存症における中止後のリバウンドは、アトピーの皮疹の波では説明がつかないような強く多彩なものです。
この赤ちゃんにガイドラインに沿った標準治療を6ヶ月施したときに予想される結果は、九州大・古江先生らの集計(→こちら)
まずですが、この皮疹と経過であれば、ステロイド皮膚症や依存ではないです。 それはなぜかというと、外用歴も短いですが、皮疹に萎縮の要素がみられません。潮紅が主です。落屑・浸潤もありますが、付随的です。多彩とは言えません。 以前の記事で記した分類でいうと、タイプ1、潮紅局面型です(→こちら)。 処方されたステロイドの塗り薬や保湿剤を塗ると、2、3日で赤みやカサカサはうそのようにひいた。ところが、薬をやめるとまたもとにもどった。塗ってはやめ、また塗ってはやめるの繰り返しだった。そのうち全身の赤みが増し、耳のまわりがただれてきた。
とありますが、これは別に、ステロイド依存が進んでいる様子ではありません。湿疹には、何らかの悪化因子がありますが、それが解除されなければ、ステロイドを外用すればおさまるし、止めれば再燃するでしょう。たまたま悪化因子への暴露が強ければ、その時点で皮疹は強く出ます。止めた後、塗る前より皮疹が強く出るからといって、リバウンドではありません。ステロイド依存症における中止後のリバウンドは、アトピーの皮疹の波では説明がつかないような強く多彩なものです。
この赤ちゃんにガイドラインに沿った標準治療を6ヶ月施したときに予想される結果は、九州大・古江先生らの集計(→こちら)
から導けます。皮疹の状態は「中くらい」でしょうか?(服を脱がせた全体像がないのではっきりは言えません)。とすると、6ヵ月後は四分六の割りで、「中くらい」か「軽い」でしょう。ステロイドが治しているというよりは、自然治癒の経過です。 別に、ステロイド外用剤で治療を開始しても、私はよいと思います。外用すれば効くようですから、一時しのぎにはなるでしょう。それは十分なメリットです。ただし重要なのは、担当医は、ステロイド外用剤には依存性があることを明示して、くれぐれも使いすぎにならないよう警告しておかなければなりません。また、患者(親)は、しばしば、ステロイド外用剤で皮疹を抑えることが、早期治癒につながると誤解しがちなので、そうではないことも明示しておくべきでしょう。
生後半年のこの写真の時点で、何が一番大切かというと、このお子さんの目の表情や全身の発育状態から、この子は正しく成長しているのだ、ということを、まず親御さんに明言して、自信を持たせてあげることです。あなたの育児は今のところ間違っていないのだ、と、まずは、はっきりと言ってあげることです。 もしあなたが、親御さん以外の、周囲にいる大人であるなら、皮膚のことには一切触れずに、「丸々と太った良い子だね。丈夫そうだね。」とか「目がかわいいね。お母さんお父さんに可愛がられてる証拠だね。」とか、言ってあげてください。くれぐれも、「アトピーが専門のいいお医者さんがいるよ」と言ったり、まして、この朝日新聞の切り抜きなんかを親切心から渡したりしないように。
親切心という無邪気なナイフで、患者やその親の心を切り裂かないように。
あなたが親御さんなら、子供の目を、ふっくらしたかわいい体つきを見ましょう。皮疹を見てはいけない。後日、治癒経過を客観的に見直す必要が生じたときのために、皮疹を写真で記録に残すのは重要だ。しかし、子供を見るときは、まず目を見ましょう。 そうすれば、この子が病気なのかそうでないのかは、親なら判るはずです。
ステロイドを塗ろうが塗るまいが、年単位ではあるがゆっくりと自然治癒に向かうでしょう。
不安にかられて、ステロイド外用量が過剰になれば、依存に陥る。そうするとつらいリバウンドなしには、離脱できない。
食事や環境の悪化因子対策っていうのは、重要です。実際これが有効なケースはあります。何が悪化因子なのかわからないケースも多いですが、だからといって一切対策は不要だ、というのはおかしい。「お母さんが神経質に いろいろやりすぎるから、子供がストレスでアトピー悪化するんですよ」という意見は残酷であり間違っています。
それはたとえば、昔記したhttp://www.tclinic.jp/atopy/03.htm
に出てくる4才の女の子のようなことで、悪化因子対策っていうのは、当たるとそれ一発で一気に問題解決します。しかし、
「医師の指示を守り、症状改善にいいと思ったことはすべてやった」。
この一文は、疲弊を意味します。疲弊しないように自己管理しながら、合理的科学的思考でもって、ひとつひとつ理科の実験のような気持ちで、試していく姿勢が大切です。
医師の指示を守ればいいということではありません。医師の示唆であっても「この子の場合は悪化因子となっていない」と確認できた場合には制限は解除されるべきです。そういう意味で、すべてのアトピーに共通の悪化因子はありません。
「すべてやった」というのは、厳しい言い方になりますが、単なる弱音です。親御さんは強くあってください。強さとは明るさです。
目的は、疲弊し手を尽くした親を演じることによって、魂の免罪符を得ることではありません。親が疲れた目で子供を見れば、子供はわけがわからないながらも、悲しみを心に刻むでしょう。笑顔で子供に接しながら、思考はつねに「この子はどんなときに悪化するのか?」を捜し求め、自分が疲弊しない限りでいいですから、悪化因子を見つけて除いてみましょう。
いまはもう、わたしは患者を診ることは止めましたが、昔のわたしだったら、生後半年のこの患児が診察室に訪れたら、皮疹の写真をとったりアレルゲンの血液検査をしたりはするでしょうが、親御さんが望まなければ、何も薬を出さないでしょう(望めば出しますが)。
そして、良くなるまで、いつまででもお付き合いしますから、不安になったらいつでも診せにいらっしゃい、あなたが現在置かれている状況を、わたしなりに解説して不安を解きほぐしてあげるからと、こう言ったでしょう。
わたしの健康状態が悪化してしまって、約束が果たせなかった方々もいたでしょうが・・。
医者は薬を出すためにだけ存在するのではないです。何も処方せずに不安を解きほぐしながら経過を見守るという選択肢もある。なにも処方しなくても、わたしはたぶん、信頼に値するお医者さんでした。 そして私でなくても、皮疹を診ることのできる皮膚科医であれば、誰でもわたしと同じことを、本当はできるんです。
アトピーに名医などいません。いるのは医者を上手に使いこなし、過度の不安に陥らずに状況に冷静に対処できる「名患者」だと思います。
それで、朝日新聞の今回の「子供のアトピー」シリーズなんですが・・記者さんの筆力にもよりますが、厳しいことを言えば、こういうアトピーの記事自体が、標準治療の推奨だろうが、ステロイド依存の警告だろうが、アトピー児の親御さんにとってはストレスに働きます。
ーーーーー
重症患者や家族をしっかり受けとめる医療の充実や支援策の必要性を強く感じています。
ーーーーー
こんな他人頼みのコメント止めてほしい。「支援策」は新聞記者個人にだって、記事を通じて出来るんです。
アトピーの子供を街で見かけても、しげしげと皮疹をみたり、まして「酷いわねえ」などと声をかけたりするのは止めましょう。親御さんはがんばっています。皮膚に多少の湿疹がでていても、治癒の過程で仕方がない場合もあるんです。親切心を装った無神経、あるいは弱い他人を痛ぶって快感を得ようとする心、「アトピーハラスメント」と言ってもいい。そういったものの無い、優しい社会を皆で目指しましょう。
こういった訴え、呼びかけが出来れば、朝日新聞は本当に患者たちの心を捉えることができると思います。(11月23日記)
2010.11.23
生後半年のこの写真の時点で、何が一番大切かというと、このお子さんの目の表情や全身の発育状態から、この子は正しく成長しているのだ、ということを、まず親御さんに明言して、自信を持たせてあげることです。あなたの育児は今のところ間違っていないのだ、と、まずは、はっきりと言ってあげることです。 もしあなたが、親御さん以外の、周囲にいる大人であるなら、皮膚のことには一切触れずに、「丸々と太った良い子だね。丈夫そうだね。」とか「目がかわいいね。お母さんお父さんに可愛がられてる証拠だね。」とか、言ってあげてください。くれぐれも、「アトピーが専門のいいお医者さんがいるよ」と言ったり、まして、この朝日新聞の切り抜きなんかを親切心から渡したりしないように。
親切心という無邪気なナイフで、患者やその親の心を切り裂かないように。
あなたが親御さんなら、子供の目を、ふっくらしたかわいい体つきを見ましょう。皮疹を見てはいけない。後日、治癒経過を客観的に見直す必要が生じたときのために、皮疹を写真で記録に残すのは重要だ。しかし、子供を見るときは、まず目を見ましょう。 そうすれば、この子が病気なのかそうでないのかは、親なら判るはずです。
ステロイドを塗ろうが塗るまいが、年単位ではあるがゆっくりと自然治癒に向かうでしょう。
不安にかられて、ステロイド外用量が過剰になれば、依存に陥る。そうするとつらいリバウンドなしには、離脱できない。
食事や環境の悪化因子対策っていうのは、重要です。実際これが有効なケースはあります。何が悪化因子なのかわからないケースも多いですが、だからといって一切対策は不要だ、というのはおかしい。「お母さんが神経質に いろいろやりすぎるから、子供がストレスでアトピー悪化するんですよ」という意見は残酷であり間違っています。
それはたとえば、昔記したhttp://www.tclinic.jp/atopy/03.htm
に出てくる4才の女の子のようなことで、悪化因子対策っていうのは、当たるとそれ一発で一気に問題解決します。しかし、
「医師の指示を守り、症状改善にいいと思ったことはすべてやった」。
この一文は、疲弊を意味します。疲弊しないように自己管理しながら、合理的科学的思考でもって、ひとつひとつ理科の実験のような気持ちで、試していく姿勢が大切です。
医師の指示を守ればいいということではありません。医師の示唆であっても「この子の場合は悪化因子となっていない」と確認できた場合には制限は解除されるべきです。そういう意味で、すべてのアトピーに共通の悪化因子はありません。
「すべてやった」というのは、厳しい言い方になりますが、単なる弱音です。親御さんは強くあってください。強さとは明るさです。
目的は、疲弊し手を尽くした親を演じることによって、魂の免罪符を得ることではありません。親が疲れた目で子供を見れば、子供はわけがわからないながらも、悲しみを心に刻むでしょう。笑顔で子供に接しながら、思考はつねに「この子はどんなときに悪化するのか?」を捜し求め、自分が疲弊しない限りでいいですから、悪化因子を見つけて除いてみましょう。
いまはもう、わたしは患者を診ることは止めましたが、昔のわたしだったら、生後半年のこの患児が診察室に訪れたら、皮疹の写真をとったりアレルゲンの血液検査をしたりはするでしょうが、親御さんが望まなければ、何も薬を出さないでしょう(望めば出しますが)。
そして、良くなるまで、いつまででもお付き合いしますから、不安になったらいつでも診せにいらっしゃい、あなたが現在置かれている状況を、わたしなりに解説して不安を解きほぐしてあげるからと、こう言ったでしょう。
わたしの健康状態が悪化してしまって、約束が果たせなかった方々もいたでしょうが・・。
医者は薬を出すためにだけ存在するのではないです。何も処方せずに不安を解きほぐしながら経過を見守るという選択肢もある。なにも処方しなくても、わたしはたぶん、信頼に値するお医者さんでした。 そして私でなくても、皮疹を診ることのできる皮膚科医であれば、誰でもわたしと同じことを、本当はできるんです。
アトピーに名医などいません。いるのは医者を上手に使いこなし、過度の不安に陥らずに状況に冷静に対処できる「名患者」だと思います。
それで、朝日新聞の今回の「子供のアトピー」シリーズなんですが・・記者さんの筆力にもよりますが、厳しいことを言えば、こういうアトピーの記事自体が、標準治療の推奨だろうが、ステロイド依存の警告だろうが、アトピー児の親御さんにとってはストレスに働きます。
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重症患者や家族をしっかり受けとめる医療の充実や支援策の必要性を強く感じています。
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こんな他人頼みのコメント止めてほしい。「支援策」は新聞記者個人にだって、記事を通じて出来るんです。
アトピーの子供を街で見かけても、しげしげと皮疹をみたり、まして「酷いわねえ」などと声をかけたりするのは止めましょう。親御さんはがんばっています。皮膚に多少の湿疹がでていても、治癒の過程で仕方がない場合もあるんです。親切心を装った無神経、あるいは弱い他人を痛ぶって快感を得ようとする心、「アトピーハラスメント」と言ってもいい。そういったものの無い、優しい社会を皆で目指しましょう。
こういった訴え、呼びかけが出来れば、朝日新聞は本当に患者たちの心を捉えることができると思います。(11月23日記)
2010.11.23