低分子量のヒアルロン酸は表皮細胞の分裂増殖を促し、高分子量のヒアルロン酸はこれを成熟させる
先回、先々回と、University of California San Francisco(UCSF)発の論文を解説しましたが、今回のものもそうです。ヒアルロン酸の表皮細胞への作用に関して、大変に興味深い結果を示してくれています。
Selective matrix (hyaluronan) interaction with CD44 and RhoGTPase signaling promotes keratinocyte functions and overcomes age-related epidermal dysfunction. Bourguignon LY,et al. J Dermatol Sci. 2013 Jun 5. pii: S0923-1811(13)00181-3.
今年の6月号に掲載されたばかりです。この領域は本当に毎月のように新しく目を見張る研究成果が報告されます。
この論文の実験で用いられている「低分子量ヒアルロン酸」は、27000ダルトンで、「高分子量ヒアルロン酸」は70~100万ダルトンです。なぜ、このサイズを採用したかと言うと、若い人と、年をとった人との表皮に存在するヒアルロン酸を比較したところ、下図のようであったとあり、この結果からおそらく著者らは27000ダルトンと70~100万ダルトンあたりの差が大きいと考えて狙いを定めたと言うことだろうと思います。
Selective matrix (hyaluronan) interaction with CD44 and RhoGTPase signaling promotes keratinocyte functions and overcomes age-related epidermal dysfunction. Bourguignon LY,et al. J Dermatol Sci. 2013 Jun 5. pii: S0923-1811(13)00181-3.
今年の6月号に掲載されたばかりです。この領域は本当に毎月のように新しく目を見張る研究成果が報告されます。
この論文の実験で用いられている「低分子量ヒアルロン酸」は、27000ダルトンで、「高分子量ヒアルロン酸」は70~100万ダルトンです。なぜ、このサイズを採用したかと言うと、若い人と、年をとった人との表皮に存在するヒアルロン酸を比較したところ、下図のようであったとあり、この結果からおそらく著者らは27000ダルトンと70~100万ダルトンあたりの差が大きいと考えて狙いを定めたと言うことだろうと思います。
ちなみにですが、ヒアルロン酸と言うのは二種類の糖が交互に連結した構造であり、単一分子量を精製することは、ほとんど不可能です。ヒアルプロテクトは分子量5~11万の化粧品用原材料を用いていますが、電気泳動してみると、下図のようでした。
上記の論文中の27000ダルトン付近に精製した「低分子ヒアルロン酸」を用いた実験結果は、ヒアルプロテクトには当てはまらないのではないか?と疑問を抱く方もいるかもしれませんが、そうでもないのです。実際にはヒアルプロテクトは27000ダルトンをも含みますし、論文の「27000ダルトン」にも幅があります。
それで、この論文の結果をかいつまんで引用しますと、
それで、この論文の結果をかいつまんで引用しますと、
PCNAというのは、細胞の分裂増殖の活発さを表します。低分子ヒアルロン酸(HAs)外用によって、表皮基底層の核が濃染し、表皮細胞の分裂増殖が促されていることが判ります。高分子ヒアルロン酸(HAL)ではこの効果はみられませんでした。
一方、上図は、フィラグリンを染色したものです(茶色)。低分子ヒアルロン酸を外用した場合には表皮は増殖して厚みを増していますが、最表層(角層)のフィラグリンの増加は見られません。高分子ヒアルロン酸を外用すると、フィラグリンが増加しています。
のみならず、バリア機能をTEWLで測定してやると、低分子ヒアルロン酸を外用した皮膚では変化がありませんでしたが、高分子ヒアルロン酸を外用した皮膚は、はっきりと改善しました。TEWLという生理的なバリア機能指標値は、フィラグリンなど、角層を構成する蛋白質によるのであって、表皮の厚さによるのではないことを、明確に示しています。
論文では、さらに、低分子ヒアルロン酸の外用に加えて高分子ヒアルロン酸をも外用するとどうなるか?について調べています。結果は、表皮の厚さも増して、フィラグリン・インボルクリンといった角層蛋白質も増加しました。
どうも、加齢やステロイドによって萎縮した表皮の回復には、低分子と高分子、両方のヒアルロン酸が関係しているようです。
表皮細胞と言うのは、自らヒアルロン酸を産生することが判っています。自分で自分を育てています。ステロイドの持つ表皮バリア破壊作用と言うのは、まさに、このヒアルロン酸産生機構を抑えてしまうことによります。この、表皮細胞のヒアルロン酸産生は、おそらく基底層から有棘層あたりにかけては、低分子量ヒアルロン酸が産生され、顆粒層に達すると、高分子量ヒアルロン酸が産生されるだろうと私は推測します。そう考えると、全てが腑に落ちるし、合目的的だからです。
低分子量と高分子量のヒアルロン酸、双方を外用すると良いとして、順序や間隔についてはどう考えればよいのでしょうか?私はこれは、あまり気にしなくていいと考えます。なぜなら、低分子量のものは、表皮細胞間隙を通って深くまで浸透しやすいであろうし、高分子量のものは間隙に入り込めないだろうからです。あるいは、上述したように、作用する細胞が違うだろうからです。
さて、ここで再び、以前にも紹介したステロイド外用後の組織写真を振り返ってみましょう。
のみならず、バリア機能をTEWLで測定してやると、低分子ヒアルロン酸を外用した皮膚では変化がありませんでしたが、高分子ヒアルロン酸を外用した皮膚は、はっきりと改善しました。TEWLという生理的なバリア機能指標値は、フィラグリンなど、角層を構成する蛋白質によるのであって、表皮の厚さによるのではないことを、明確に示しています。
論文では、さらに、低分子ヒアルロン酸の外用に加えて高分子ヒアルロン酸をも外用するとどうなるか?について調べています。結果は、表皮の厚さも増して、フィラグリン・インボルクリンといった角層蛋白質も増加しました。
どうも、加齢やステロイドによって萎縮した表皮の回復には、低分子と高分子、両方のヒアルロン酸が関係しているようです。
表皮細胞と言うのは、自らヒアルロン酸を産生することが判っています。自分で自分を育てています。ステロイドの持つ表皮バリア破壊作用と言うのは、まさに、このヒアルロン酸産生機構を抑えてしまうことによります。この、表皮細胞のヒアルロン酸産生は、おそらく基底層から有棘層あたりにかけては、低分子量ヒアルロン酸が産生され、顆粒層に達すると、高分子量ヒアルロン酸が産生されるだろうと私は推測します。そう考えると、全てが腑に落ちるし、合目的的だからです。
低分子量と高分子量のヒアルロン酸、双方を外用すると良いとして、順序や間隔についてはどう考えればよいのでしょうか?私はこれは、あまり気にしなくていいと考えます。なぜなら、低分子量のものは、表皮細胞間隙を通って深くまで浸透しやすいであろうし、高分子量のものは間隙に入り込めないだろうからです。あるいは、上述したように、作用する細胞が違うだろうからです。
さて、ここで再び、以前にも紹介したステロイド外用後の組織写真を振り返ってみましょう。
(Morphologic Investigations on the Rebound Phenomenon After Corticosteroid Induced Atrophy in Human Skin. Zheng P, et al. J Invest Dermatol 82: 345-352, 1984)
1Aは外用開始前で、1Bが外用して萎縮した表皮です。中止後1C,1D,1Eのように、表皮は反動で前よりも一時的に厚みを増しています。
一過性に表皮が厚くなる理由として、先回「表皮細胞が産生するステロイドの不足」の仮説を立てたわけですが(→こちら)、実はそうではなく、表皮細胞のヒアルロン酸産生が一過性に亢進した結果かもしれません(あるいは、表皮細胞のステロイド産生不足の結果として、ヒアルロン酸産生が増えたのかもしれません)。
そして、もうひとつ重要な点は、上の組織写真は、健常者の長期ステロイド外用の結果であると言う点です。健常者では、ステロイド中止後、表皮の萎縮が、反動で一過性に厚くなった後に正常に復しているわけですが、アトピー性皮膚炎患者で、離脱後長期間のリバウンドや過敏性の亢進に悩まされる人は、この、一過性の肥厚を経て回復していくというメカニズムが、うまく機能していないのかもしれません。
もしそうであるなら、低分子量あるいは高分子量のヒアルロン酸を外用することで、表皮細胞の分裂増殖あるいは角化成熟を上手に促進してやれば、まさにリバウンドに対する理想的な外用剤です。
どの時期に、どちらの(あるいは両方の)ヒアルロン酸を外用すると良いのかは、臨床例の蓄積と共に判明していくと思います。直観的には、皮膚が薄くて引っ掻くとすぐに破れて血が出てしまうような場合は低分子を、乾燥などの刺激に弱いタイプは高分子を中心に外用してみると良いと推測します。もちろん、両方を重ね塗りするのが一番簡単ですが、皮膚科医としては、どのようなタイプにどちらが合うのか知りたいところです。
低分子量(数万~10万ダルトン)のヒアルロン酸は、今のところ本邦では、私が作製した中間分子量ヒアルロン酸化粧水しか、市販品が存在しませんが、高分子量のもの(100万ダルトン前後)は、いくらでもあり、安価です。ドラッグストアで売っているヒアルロン酸美容液や化粧水のほとんどがそうです。
重ね塗りをする場合には、まず中間分子量ヒアルロン酸を外用し、その上から高分子量のヒアルロン酸をつけるといいです。中間分子量ヒアルロン酸は、外用後、しばらくするとさらさらになるので、その上から高分子量で保湿する感じです。
中間分子量ヒアルロン酸化粧水、3月末から販売を始めて、4ヶ月弱で、大小あわせてだいたい1000本くらい売れました。数百人が使用していることになります。本ブログのコメント欄を通じて、「このような部位のこのような症状の皮膚に有効であった、あるいは無効であった」という感想を御連絡いただけると助かります。上述の、どのようなタイプに有効なのか?を探る手がかりになるからです。
あわせて、市販の高分子量のヒアルロン酸も近所のドラッグストアで購入して御使用いただき、使い分けについての感想や提案もいただけますと、有難いです。よろしく御協力お願いいたします。
注)中間分子量ヒアルロン酸は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧 品は日本では他にありません。製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一 般名である「中間分子量ヒアルロン酸」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは、お手数ですが検索して探してください。
2013.07.24
1Aは外用開始前で、1Bが外用して萎縮した表皮です。中止後1C,1D,1Eのように、表皮は反動で前よりも一時的に厚みを増しています。
一過性に表皮が厚くなる理由として、先回「表皮細胞が産生するステロイドの不足」の仮説を立てたわけですが(→こちら)、実はそうではなく、表皮細胞のヒアルロン酸産生が一過性に亢進した結果かもしれません(あるいは、表皮細胞のステロイド産生不足の結果として、ヒアルロン酸産生が増えたのかもしれません)。
そして、もうひとつ重要な点は、上の組織写真は、健常者の長期ステロイド外用の結果であると言う点です。健常者では、ステロイド中止後、表皮の萎縮が、反動で一過性に厚くなった後に正常に復しているわけですが、アトピー性皮膚炎患者で、離脱後長期間のリバウンドや過敏性の亢進に悩まされる人は、この、一過性の肥厚を経て回復していくというメカニズムが、うまく機能していないのかもしれません。
もしそうであるなら、低分子量あるいは高分子量のヒアルロン酸を外用することで、表皮細胞の分裂増殖あるいは角化成熟を上手に促進してやれば、まさにリバウンドに対する理想的な外用剤です。
どの時期に、どちらの(あるいは両方の)ヒアルロン酸を外用すると良いのかは、臨床例の蓄積と共に判明していくと思います。直観的には、皮膚が薄くて引っ掻くとすぐに破れて血が出てしまうような場合は低分子を、乾燥などの刺激に弱いタイプは高分子を中心に外用してみると良いと推測します。もちろん、両方を重ね塗りするのが一番簡単ですが、皮膚科医としては、どのようなタイプにどちらが合うのか知りたいところです。
低分子量(数万~10万ダルトン)のヒアルロン酸は、今のところ本邦では、私が作製した中間分子量ヒアルロン酸化粧水しか、市販品が存在しませんが、高分子量のもの(100万ダルトン前後)は、いくらでもあり、安価です。ドラッグストアで売っているヒアルロン酸美容液や化粧水のほとんどがそうです。
重ね塗りをする場合には、まず中間分子量ヒアルロン酸を外用し、その上から高分子量のヒアルロン酸をつけるといいです。中間分子量ヒアルロン酸は、外用後、しばらくするとさらさらになるので、その上から高分子量で保湿する感じです。
中間分子量ヒアルロン酸化粧水、3月末から販売を始めて、4ヶ月弱で、大小あわせてだいたい1000本くらい売れました。数百人が使用していることになります。本ブログのコメント欄を通じて、「このような部位のこのような症状の皮膚に有効であった、あるいは無効であった」という感想を御連絡いただけると助かります。上述の、どのようなタイプに有効なのか?を探る手がかりになるからです。
あわせて、市販の高分子量のヒアルロン酸も近所のドラッグストアで購入して御使用いただき、使い分けについての感想や提案もいただけますと、有難いです。よろしく御協力お願いいたします。
注)中間分子量ヒアルロン酸は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧 品は日本では他にありません。製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一 般名である「中間分子量ヒアルロン酸」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは、お手数ですが検索して探してください。
2013.07.24