抗コルチゾール抗体の染色結果が論文になりました。
例数は少ないのですが、なかなか数が増えそうにないので、一度まとめておくことにしました。open accessなので、誰でも自由に閲覧できます。
Dermatol Ther (Heidelb). 2016 Feb 2.
Histological and Immunohistological Findings Using Anti-Cortisol Antibody in Atopic Dermatitis with Topical Steroid Addiction
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26838582
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13555-016-0096-7
かいつまんで書くと、「皮膚と言うのはそれ自身、ステロイドを作っているということが近年わかってきました。ステロイドを産生する臓器は副腎だけでは無かった。なので、ステロイド外用を続けていると、副腎が萎縮しなくても、皮膚自身のステロイド産生能力が低下する。皮膚がステロイド産生能力を持っている意味は、外界からの刺激と生体の免疫反応とを調節するということなので、機能不全になると、ダイレクトに外界刺激に反応してしまって強い炎症が起きる。それでステロイド外用なしには、一見健常な皮膚を保てなくなる、といったことです。これを患者の皮膚を検査して実際に確認してみた」、そういう論文です。
ステロイド長期使用中の方で未離脱の方、幼小児の方の症例は少ないのでまだ募集中です。TEL052-264-0213までお電話ください。費用はかかりません。また、大学など研究機関の研究者の方で、この結果に関心を抱いて共同研究して下さる方いらっしゃったら、ご連絡ください。抗体購入の費用など資金援助も可能です。
以下に全文訳します。
=====
ステロイド外用剤依存を伴ったアトピー性皮膚炎患者における、抗コルチゾール抗体を用いた組織学的免疫組織学的所見
要旨
アトピー性皮膚炎(AD)患者におけるステロイド外用剤依存(TSA)は近年臨床的問題として議論されてきているが、そのメカニズムについての研究は非常に少ない。本研究の目的は抗コルチゾール抗体を用いてTSAの組織学的免疫組織学的特徴を明らかにすることである。
方法
8名のAD患者の生検皮膚を抗コリチゾール抗体(Biorbyt,orb79379)で染色した。患者は、短期間ステロイド外用剤(TCS)を使用した小児一名、長期間TCSを使用している成人患者一名、ステロイド外用剤離脱(TSW)とリバウンド現象を経験した成人患者6名である。
結果
小児の患者、長期TCS外用中の患者、およびリバウンド期にある2名の患者において、表皮の抗コルチゾール染色で部分的な欠損がみられた。角質低形成を伴う不全角化が、小児の患者、長期TCS外用中の患者、TSAから回復した2名の患者、およびリバウンド期の2名の患者でみられた。
結論
TCSの長期外用は、小児期以前には低下しており成長とともに自然に成熟するケラチノサイトのコルチゾール産生を抑制するのかもしれない。TSW後のリバウンド現象は表皮におけるコルチゾールの相対的不足と未熟な角層形成によるのかもしれない。
はじめに
皮膚はコルチゾールを産生する器官であり、そのコルチゾールは表皮基底細胞から角質細胞への分化の過程を調節することにより皮膚自身をコントロールしていることが明らかになっている。ケラチノサイトによるコルチゾール産生は、環境の湿度にの影響を受ける。ステロイド外用剤(TCS)は皮膚のコルチゾール産生に何らかの影響を及ぼし、その影響はTCSの副作用と関係している可能性がある。
TCSには多くの副作用が報告されており、主としてアトピー性皮膚炎(AD)において議論されているステロイド外用剤依存(TSA)はその一つである。本来のADとTSAとは皮膚症状によって区別しにくいので、TSAの概念は皮膚科医の間でも広く認められているとは言い難い。TSAの診断はTCSの長期連用後にTCSが効きにくくなってきたり、離脱後リバウンド現象を起こして数か月から数年の経過で特別な治療をしなくても治まってしまうという臨床経過による。著者はTSAはケラチノサイトにおけるコルチゾール自己産生の抑制によって引き起こされるという仮説を立て、AD患者において抗コルチゾール染色を行った。
方法
8名のAD患者および1名の健常者を対象とした。皮膚生検は前腕屈側の肘に近い部分から採取した。検体はホルムアルデヒドで固定したあと、研究所(モルフォテクノロジー社、札幌)に送られ、パラフィン包埋切片が作成され、抗原賦活化の目的でpH6クエン酸緩衝液に95-98℃20分間処理された。Biorbyt社から購入したヒトコルチゾールに対するモノクローナル抗体(カタログナンバーorb79379)を一次抗体として用いた。希釈倍率は1:200で反応時間は一晩であった。
すべての工程はヒトの実験に関する責任ある委員会(施設および国の)の倫理的指針および1964年のヘルシンキ宣言(2013年改訂)沿うものであり、全ての患者からインフォームドコンセントが得られている。
結果
表皮のコルチゾールは事前に行った健常者およびTSAから回復した3名全員(Fig1, case3,4,5)において均質に染色されていた。3名の患者の活動的な湿疹と非活動的な湿疹を区別するものは、海綿状態(spongiosis)と不全角化(parakeratosis)であった。
TSW後長期経過したが顔面にしつこい皮疹を残す一人の患者は、肘窩の角化は正常であったが顔面の皮疹は不全角化と未熟な角層形成を伴っていた(Fig2,case4)。
TCS短期使用の小児(Fig3,case1)、TCS長期使用の成人(Fig3,case2)、およびTSW後リバウンド中で明らかに典型的なADの皮疹とは言えない2人の患者(Fig4,case6,7)において、表皮に部分的なコルチゾール染色の欠損がみられた。リバウンド中の2人の患者の内一人は、一年後に改善した後に再検査を受けたが、このときにはコルチゾール染色の結果は均一であった(Fig2,case7)。
TSW後リバウンド中で皮疹が地図上に拡大しつつ消褪する患者は、コルチゾール染色は均一で不全角化と未熟な角層形成が著明であった(Fig4,case8)。
考察
AD患者におけるTSAの組織学的または免疫組織学的特徴についての報告は少ない。Sheuらは不全角化と未熟な角層形成がTSA患者において特徴的であることを、顔面の紅斑の検査によって報告した。この結果は本研究に一致する(case4の頬、case5,6,7,8)。
長期のステロイドの全身投与によって副腎のコルチゾール産生が抑制されることはよく知られている。皮膚がコルチゾールを産生する器官である限り、その機能は長期のTCS使用によって影響を受けうる。長期のTCS使用後に表皮が薄く萎縮し、離脱後に一過性に厚くなるという事実は、このメカニズムによって説明できる。
表皮は外界の刺激やアレルゲンに対するバリアである。ケラチノサイトのコルチゾール産生は、外部環境と内側の免疫システムとを過剰な炎症や免疫反応を抑えることで調節緩和に働くのかもしれない。しかしながら、長期で過剰なTCSの使用は皮膚の萎縮を引き起こし、バリア機能を弱くする。さらに、ケラチノサイトによるコルチゾールの自己産生の低下は、過敏性を引き起こす。著者はこれがTSAやTSW後のリバウンド現象のメカニズムの一つであると考える。
本研究では、短期間TCSを使用した小児患者が、健常成人では均一に染まるがTSAの成人患者では部分的に欠損する表皮のコルチゾール染色結果と同じであった。著者はケラチノサイトのコルチゾール産生は小児以前には未熟であり、そのために湿疹が生じやすく、成長とともに自然に寛解すると考える。ケラチノサイトは、成長とともに成熟してコルチゾールを均一に産生するのだろう。
Case4(頬)のようなTSW後長期たってもしつこく残る不全角化と未熟な角層形成は、表皮のコルチゾール染色が均一であることから、TSAとは別のメカニズムによるのかもしれない。しかしながら、免疫組織学的検査は非定量的であるので、それらのケースでは表皮のコルチゾール産生が低下している可能性は残る。
著者は本研究が症例数が少ないがゆえに上記仮説を証明するものではないことを認める。さらなる研究の結果、異なる解釈が生じる可能性はある。したがって本研究は予備的なものとみなされるべきである。
結論
長期間のTCS外用は、小児以前には未発達で成長と共に完成するケラチノサイトのコルチゾール産生を抑制するかもしれない。TSW後のリバウンド現象は表皮における相対的なコルチゾール不足と未熟な角層形成によっておきるのかもしれない。
Fig1
Dermatol Ther (Heidelb). 2016 Feb 2.
Histological and Immunohistological Findings Using Anti-Cortisol Antibody in Atopic Dermatitis with Topical Steroid Addiction
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26838582
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs13555-016-0096-7
かいつまんで書くと、「皮膚と言うのはそれ自身、ステロイドを作っているということが近年わかってきました。ステロイドを産生する臓器は副腎だけでは無かった。なので、ステロイド外用を続けていると、副腎が萎縮しなくても、皮膚自身のステロイド産生能力が低下する。皮膚がステロイド産生能力を持っている意味は、外界からの刺激と生体の免疫反応とを調節するということなので、機能不全になると、ダイレクトに外界刺激に反応してしまって強い炎症が起きる。それでステロイド外用なしには、一見健常な皮膚を保てなくなる、といったことです。これを患者の皮膚を検査して実際に確認してみた」、そういう論文です。
ステロイド長期使用中の方で未離脱の方、幼小児の方の症例は少ないのでまだ募集中です。TEL052-264-0213までお電話ください。費用はかかりません。また、大学など研究機関の研究者の方で、この結果に関心を抱いて共同研究して下さる方いらっしゃったら、ご連絡ください。抗体購入の費用など資金援助も可能です。
以下に全文訳します。
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ステロイド外用剤依存を伴ったアトピー性皮膚炎患者における、抗コルチゾール抗体を用いた組織学的免疫組織学的所見
要旨
アトピー性皮膚炎(AD)患者におけるステロイド外用剤依存(TSA)は近年臨床的問題として議論されてきているが、そのメカニズムについての研究は非常に少ない。本研究の目的は抗コルチゾール抗体を用いてTSAの組織学的免疫組織学的特徴を明らかにすることである。
方法
8名のAD患者の生検皮膚を抗コリチゾール抗体(Biorbyt,orb79379)で染色した。患者は、短期間ステロイド外用剤(TCS)を使用した小児一名、長期間TCSを使用している成人患者一名、ステロイド外用剤離脱(TSW)とリバウンド現象を経験した成人患者6名である。
結果
小児の患者、長期TCS外用中の患者、およびリバウンド期にある2名の患者において、表皮の抗コルチゾール染色で部分的な欠損がみられた。角質低形成を伴う不全角化が、小児の患者、長期TCS外用中の患者、TSAから回復した2名の患者、およびリバウンド期の2名の患者でみられた。
結論
TCSの長期外用は、小児期以前には低下しており成長とともに自然に成熟するケラチノサイトのコルチゾール産生を抑制するのかもしれない。TSW後のリバウンド現象は表皮におけるコルチゾールの相対的不足と未熟な角層形成によるのかもしれない。
はじめに
皮膚はコルチゾールを産生する器官であり、そのコルチゾールは表皮基底細胞から角質細胞への分化の過程を調節することにより皮膚自身をコントロールしていることが明らかになっている。ケラチノサイトによるコルチゾール産生は、環境の湿度にの影響を受ける。ステロイド外用剤(TCS)は皮膚のコルチゾール産生に何らかの影響を及ぼし、その影響はTCSの副作用と関係している可能性がある。
TCSには多くの副作用が報告されており、主としてアトピー性皮膚炎(AD)において議論されているステロイド外用剤依存(TSA)はその一つである。本来のADとTSAとは皮膚症状によって区別しにくいので、TSAの概念は皮膚科医の間でも広く認められているとは言い難い。TSAの診断はTCSの長期連用後にTCSが効きにくくなってきたり、離脱後リバウンド現象を起こして数か月から数年の経過で特別な治療をしなくても治まってしまうという臨床経過による。著者はTSAはケラチノサイトにおけるコルチゾール自己産生の抑制によって引き起こされるという仮説を立て、AD患者において抗コルチゾール染色を行った。
方法
8名のAD患者および1名の健常者を対象とした。皮膚生検は前腕屈側の肘に近い部分から採取した。検体はホルムアルデヒドで固定したあと、研究所(モルフォテクノロジー社、札幌)に送られ、パラフィン包埋切片が作成され、抗原賦活化の目的でpH6クエン酸緩衝液に95-98℃20分間処理された。Biorbyt社から購入したヒトコルチゾールに対するモノクローナル抗体(カタログナンバーorb79379)を一次抗体として用いた。希釈倍率は1:200で反応時間は一晩であった。
すべての工程はヒトの実験に関する責任ある委員会(施設および国の)の倫理的指針および1964年のヘルシンキ宣言(2013年改訂)沿うものであり、全ての患者からインフォームドコンセントが得られている。
結果
表皮のコルチゾールは事前に行った健常者およびTSAから回復した3名全員(Fig1, case3,4,5)において均質に染色されていた。3名の患者の活動的な湿疹と非活動的な湿疹を区別するものは、海綿状態(spongiosis)と不全角化(parakeratosis)であった。
TSW後長期経過したが顔面にしつこい皮疹を残す一人の患者は、肘窩の角化は正常であったが顔面の皮疹は不全角化と未熟な角層形成を伴っていた(Fig2,case4)。
TCS短期使用の小児(Fig3,case1)、TCS長期使用の成人(Fig3,case2)、およびTSW後リバウンド中で明らかに典型的なADの皮疹とは言えない2人の患者(Fig4,case6,7)において、表皮に部分的なコルチゾール染色の欠損がみられた。リバウンド中の2人の患者の内一人は、一年後に改善した後に再検査を受けたが、このときにはコルチゾール染色の結果は均一であった(Fig2,case7)。
TSW後リバウンド中で皮疹が地図上に拡大しつつ消褪する患者は、コルチゾール染色は均一で不全角化と未熟な角層形成が著明であった(Fig4,case8)。
考察
AD患者におけるTSAの組織学的または免疫組織学的特徴についての報告は少ない。Sheuらは不全角化と未熟な角層形成がTSA患者において特徴的であることを、顔面の紅斑の検査によって報告した。この結果は本研究に一致する(case4の頬、case5,6,7,8)。
長期のステロイドの全身投与によって副腎のコルチゾール産生が抑制されることはよく知られている。皮膚がコルチゾールを産生する器官である限り、その機能は長期のTCS使用によって影響を受けうる。長期のTCS使用後に表皮が薄く萎縮し、離脱後に一過性に厚くなるという事実は、このメカニズムによって説明できる。
表皮は外界の刺激やアレルゲンに対するバリアである。ケラチノサイトのコルチゾール産生は、外部環境と内側の免疫システムとを過剰な炎症や免疫反応を抑えることで調節緩和に働くのかもしれない。しかしながら、長期で過剰なTCSの使用は皮膚の萎縮を引き起こし、バリア機能を弱くする。さらに、ケラチノサイトによるコルチゾールの自己産生の低下は、過敏性を引き起こす。著者はこれがTSAやTSW後のリバウンド現象のメカニズムの一つであると考える。
本研究では、短期間TCSを使用した小児患者が、健常成人では均一に染まるがTSAの成人患者では部分的に欠損する表皮のコルチゾール染色結果と同じであった。著者はケラチノサイトのコルチゾール産生は小児以前には未熟であり、そのために湿疹が生じやすく、成長とともに自然に寛解すると考える。ケラチノサイトは、成長とともに成熟してコルチゾールを均一に産生するのだろう。
Case4(頬)のようなTSW後長期たってもしつこく残る不全角化と未熟な角層形成は、表皮のコルチゾール染色が均一であることから、TSAとは別のメカニズムによるのかもしれない。しかしながら、免疫組織学的検査は非定量的であるので、それらのケースでは表皮のコルチゾール産生が低下している可能性は残る。
著者は本研究が症例数が少ないがゆえに上記仮説を証明するものではないことを認める。さらなる研究の結果、異なる解釈が生じる可能性はある。したがって本研究は予備的なものとみなされるべきである。
結論
長期間のTCS外用は、小児以前には未発達で成長と共に完成するケラチノサイトのコルチゾール産生を抑制するかもしれない。TSW後のリバウンド現象は表皮における相対的なコルチゾール不足と未熟な角層形成によっておきるのかもしれない。
Fig1
TSAから回復した3人の成人患者。ケース3(上段):ほぼ正常な臨床的組織学的所見。Case4(中段):組織学的に肥厚した表皮を伴うわずかな慢性湿 疹。ケース5(下段):海綿状態と不全角化を伴う急性増悪した湿疹。湿疹がTSAを伴わないアトピー性皮膚炎の好発部位である肘窩に生じている点に留意。 すべてのケースで表皮のコルチゾール染色は均一パターンであった。
Fig2
Fig2
ケース4(上段)の補足とケース7(下段)。上段は ケース4の頬にしつこく残る湿疹でコルチゾール染色は均一であったが、角層は未熟であった。肘窩の湿疹は軽度で角層は成熟していた(Fig1,中段)。下 段はケース7でステロイド外用剤を再開することなく一年後に改善している。コルチゾール染色は均一でケラチノサイトのコルチゾール産生が回復したことを示 唆している。
Fig3
Fig3
TCS外用歴の短い小児患者(ケース1、上段)とTCS外用歴の長い成人患者(ケース2、下段)。双方とも部分的なコルチゾール染色の欠損と不全角化、未熟な角層形成を伴っている。ケース2は一見TCSでよくコントロールされており表皮厚は正常で真皮の炎症細胞も少ない。
Fig4
Fig4
3 人のTSW後リバウンド中の成人患者。ケース6(上段):びまん性の丘疹紅斑で、アトピー性皮膚炎としては非典型的だが、TSAとしてはよくある皮疹。 ケース7(中段):紅皮症。ケース8(下段):境界のはっきりした地図上の紅斑でTSW後の典型パターンの一つ。ケース6と7では表皮のコルチゾール染色 で部分的な欠損がみられる。ケース8ではコルチゾール染色は均一で、不全角化が著明。
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