特異的経口耐性誘導(SOTI)の効果に関する大きな疑問
先回の「11月20日放送予定のNHKスペシャル『アレルギーを治せ!』」の補足です。
その1) Staden先生の2007年の論文(→こちら)を、まず、一部解説します。
SOTIの治療成績について、Staden先生は、患者は4つのグループに分けられたと報告しています
その1) Staden先生の2007年の論文(→こちら)を、まず、一部解説します。
SOTIの治療成績について、Staden先生は、患者は4つのグループに分けられたと報告しています
Ⅰ(responder) : FC(負荷試験)で陰性となったもの(完全治癒)
Ⅱ(responder with regular intake) : SOTIによって食べられるようになったが、その後2ヶ月間のED(食物除去)後にFCを行ったところ陽性であったもの
Ⅲ(partial responder) : SOTIで少しは食べられたもの
Ⅳ(non-responder) : SOTIがまったくできなかったもの
です。
それぞれの数は、
Ⅱ(responder with regular intake) : SOTIによって食べられるようになったが、その後2ヶ月間のED(食物除去)後にFCを行ったところ陽性であったもの
Ⅲ(partial responder) : SOTIで少しは食べられたもの
Ⅳ(non-responder) : SOTIがまったくできなかったもの
です。
それぞれの数は、
です。
「治癒」にあたるのはⅠですから、SOTI群で9/25=0.36、除去食群で7/20=0.35となりまったく差はありません。21ヶ月の観察期間においては、SOTIのメリットはあくまで「食べられるようになった」ということだけです。
懐疑的に見ると、SOTIも除去食治療も、ともに行わなかった場合の治癒率が0.35より低いという保証はありません。何もせずに、適当に食事を与えたり与えなかったり(症状が出たり出なかったり)でも、21ヶ月経ると、35%ほどは自然治癒しているのかもしれないです。
好意的な見方をすると、SOTIは、食物負荷をするといっても、症状が出ないように、少しずつ食べさせていますから、SOTIでも除去食でも、症状を出さずに21ヶ月過ごせば35%くらいが自然治癒する(途中で症状が出る程度に食物負荷をかけてしまうと、自然治癒しにくくなる)のかもしれません。
その2) アトピー性皮膚炎の除去食療法には、「覆面型食物アレルギー」という概念があります。国立病院機構高知病院副院長の小倉英郎先生の解説を引用します。
ーーーーー(ここから引用)-----
<食物アレルギーをめぐる諸問題>
「治癒」にあたるのはⅠですから、SOTI群で9/25=0.36、除去食群で7/20=0.35となりまったく差はありません。21ヶ月の観察期間においては、SOTIのメリットはあくまで「食べられるようになった」ということだけです。
懐疑的に見ると、SOTIも除去食治療も、ともに行わなかった場合の治癒率が0.35より低いという保証はありません。何もせずに、適当に食事を与えたり与えなかったり(症状が出たり出なかったり)でも、21ヶ月経ると、35%ほどは自然治癒しているのかもしれないです。
好意的な見方をすると、SOTIは、食物負荷をするといっても、症状が出ないように、少しずつ食べさせていますから、SOTIでも除去食でも、症状を出さずに21ヶ月過ごせば35%くらいが自然治癒する(途中で症状が出る程度に食物負荷をかけてしまうと、自然治癒しにくくなる)のかもしれません。
その2) アトピー性皮膚炎の除去食療法には、「覆面型食物アレルギー」という概念があります。国立病院機構高知病院副院長の小倉英郎先生の解説を引用します。
ーーーーー(ここから引用)-----
<食物アレルギーをめぐる諸問題>
食物アレルギーをめぐる問題点は決して少なくない。例えば、わが国の乳幼児において、極めてポピュラーな疾患であるアトピー性皮膚炎は覆面型食物アレルギーの代表的な疾患であるが、この覆面型食物アレルギーの概念がほとんど理解されていないと言う実態がある。
覆面型食物アレルギーは1944年、Herbert J. Rinkelにより提唱された。図に示したように、原因食物を完全に中止すると数日後に症状は軽快するが、その食物に対する過敏性が亢進する。さらに除去を続けると、この過敏状態は数週の経過で低下する。そして、数カ月〜数年の除去により、潜在的過敏状態を経て、原因食物を数日に1回程度、食べ続けても症状の出ない状態、すなわち、耐性獲得の状態となる。しかし、再び原因食物を頻回に食べ続けると、もとの覆面型食物アレルギーの状態、皮膚症状の場合はアトピー性皮膚炎の状態に戻ってしまうのである。
つまり、原因食物を毎日あるいは2〜3日に1回以上、摂取している場合は、覆面型食物アレルギーの状態となり、持続的にアレルギー症状を呈すということのみならず、誘発反応がマスクされて、仮に原因食物を大量に摂取したとしても、症状の誘発、増悪は通常、見られないのである。
以上の現象は事実であり、その認識は食物アレルギーの診断と治療において、極めて重要ではあるが、免疫学的にその機序が解明されておらず、実際に、この現象の存在を臨床的に体験した医師でなければ、理解し難いという側面がある。
覆面型食物アレルギーは1944年、Herbert J. Rinkelにより提唱された。図に示したように、原因食物を完全に中止すると数日後に症状は軽快するが、その食物に対する過敏性が亢進する。さらに除去を続けると、この過敏状態は数週の経過で低下する。そして、数カ月〜数年の除去により、潜在的過敏状態を経て、原因食物を数日に1回程度、食べ続けても症状の出ない状態、すなわち、耐性獲得の状態となる。しかし、再び原因食物を頻回に食べ続けると、もとの覆面型食物アレルギーの状態、皮膚症状の場合はアトピー性皮膚炎の状態に戻ってしまうのである。
つまり、原因食物を毎日あるいは2〜3日に1回以上、摂取している場合は、覆面型食物アレルギーの状態となり、持続的にアレルギー症状を呈すということのみならず、誘発反応がマスクされて、仮に原因食物を大量に摂取したとしても、症状の誘発、増悪は通常、見られないのである。
以上の現象は事実であり、その認識は食物アレルギーの診断と治療において、極めて重要ではあるが、免疫学的にその機序が解明されておらず、実際に、この現象の存在を臨床的に体験した医師でなければ、理解し難いという側面がある。
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://user.shikoku.ne.jp/manabeto/niped-18.htm
SOTIというのは、この「覆面型食物アレルギー」を、人工的に作っている、という作業ではないか?という疑問が生じます。SOTIでは、Maintenance(維持)として、一定量の原因食物を毎日食べ続ける必要があり、これを怠ると、「完全治癒」に至っていない上記のⅢのような患者では、再び食物アレルギーの症状が出てくるわけですが、これはまさに「覆面型食物アレルギー」そのものと言えます。そして、従来の除去食療法のセオリーによれば、覆面型食物アレルギーは、これを取り除いてやらないと、耐性、すなわち治癒には至りにくいということになります。Staden先生の研究によれば、21ヶ月時点ではSOTIと除去食療法の治癒率は同じであったわけですが、3年、5年と長期的に見ていくと、除去食療法のほうが治癒率は上がるのかもしれません。
除去食治療はの歴史は長く、観察記述医学とでもいうべきもので、最近はやりのevidence levelは低いということになるのでしょうが、SOTIはまさに「覆面型食物アレルギー」の存在を証明するものかもしれません。とすれば、その先の治癒率の差についての記述も、軽視はできないということになると思います。
「覆面型食物アレルギー」の理論を当てはめると、SOTIによって卵を食べられるようになったが「完全治癒」に至っていない子は、いずれ卵が好きになり(嗜癖)、摂取量も増えて、それとともにアトピー性皮膚炎などの症状も再び出てくるが、本人は卵が原因であると気がつかない、ということになります。SOTIの歴史はまだ4年であり、一部の病院でしか施行されていないため、例数も少ないです。注意深く経過を見る必要があると思います。
成人など難治性アトピー性皮膚炎のかたで、「昔、アレルギーで食べられなかったが、いつの間にか食べられるようになり、今ではむしろ大好きで、毎日欠かさず食べている」といった食材に、心当たりがある方は、二ヶ月ほど、それを徹底的にやめてみるといいかもしれません。もし、それで症状が改善して、なおかつ、二ヵ月後に再びそれを食べてみて、症状が悪化するようなら、それがあなたの「覆面型食物アレルゲン」なのかもしれません。
即時型アレルギーの治療としてなら、「食べられるようになること」がゴールでいいですが、アトピー性皮膚炎のゴールは「食べられるようになること」ではなくて、長期的な治癒率です。
NHKの放映によって、多くの人が、即時型食物アレルギーとアトピー性皮膚炎とを混同して、「食事性のアレルゲンはむしろ食べたほうがいいんだ」と、誤解する怖れがあります。アトピー性皮膚炎におけるSOTIの長期的予後が明らかでない現時点では、「SOTIはあくまで「食べられるようになること」を目標とする、即時型食物アレルギーの治療法であって、現段階で、アトピー性皮膚炎の治療となりうるかどうかは、不明です、と解説を入れておくべきでしょう。
2011.11.16
http://user.shikoku.ne.jp/manabeto/niped-18.htm
SOTIというのは、この「覆面型食物アレルギー」を、人工的に作っている、という作業ではないか?という疑問が生じます。SOTIでは、Maintenance(維持)として、一定量の原因食物を毎日食べ続ける必要があり、これを怠ると、「完全治癒」に至っていない上記のⅢのような患者では、再び食物アレルギーの症状が出てくるわけですが、これはまさに「覆面型食物アレルギー」そのものと言えます。そして、従来の除去食療法のセオリーによれば、覆面型食物アレルギーは、これを取り除いてやらないと、耐性、すなわち治癒には至りにくいということになります。Staden先生の研究によれば、21ヶ月時点ではSOTIと除去食療法の治癒率は同じであったわけですが、3年、5年と長期的に見ていくと、除去食療法のほうが治癒率は上がるのかもしれません。
除去食治療はの歴史は長く、観察記述医学とでもいうべきもので、最近はやりのevidence levelは低いということになるのでしょうが、SOTIはまさに「覆面型食物アレルギー」の存在を証明するものかもしれません。とすれば、その先の治癒率の差についての記述も、軽視はできないということになると思います。
「覆面型食物アレルギー」の理論を当てはめると、SOTIによって卵を食べられるようになったが「完全治癒」に至っていない子は、いずれ卵が好きになり(嗜癖)、摂取量も増えて、それとともにアトピー性皮膚炎などの症状も再び出てくるが、本人は卵が原因であると気がつかない、ということになります。SOTIの歴史はまだ4年であり、一部の病院でしか施行されていないため、例数も少ないです。注意深く経過を見る必要があると思います。
成人など難治性アトピー性皮膚炎のかたで、「昔、アレルギーで食べられなかったが、いつの間にか食べられるようになり、今ではむしろ大好きで、毎日欠かさず食べている」といった食材に、心当たりがある方は、二ヶ月ほど、それを徹底的にやめてみるといいかもしれません。もし、それで症状が改善して、なおかつ、二ヵ月後に再びそれを食べてみて、症状が悪化するようなら、それがあなたの「覆面型食物アレルゲン」なのかもしれません。
即時型アレルギーの治療としてなら、「食べられるようになること」がゴールでいいですが、アトピー性皮膚炎のゴールは「食べられるようになること」ではなくて、長期的な治癒率です。
NHKの放映によって、多くの人が、即時型食物アレルギーとアトピー性皮膚炎とを混同して、「食事性のアレルゲンはむしろ食べたほうがいいんだ」と、誤解する怖れがあります。アトピー性皮膚炎におけるSOTIの長期的予後が明らかでない現時点では、「SOTIはあくまで「食べられるようになること」を目標とする、即時型食物アレルギーの治療法であって、現段階で、アトピー性皮膚炎の治療となりうるかどうかは、不明です、と解説を入れておくべきでしょう。
2011.11.16