理研のJAK1変異マウスは、ステロイド外用剤による表皮バリア破壊のモデルなのかもしれない(その1)
【アトピー性皮膚炎、原因遺伝子を発見…理研など】
理化学研究所や京都大などの研究グループは、アトピー性皮膚炎の原因となる遺伝子を、マウスを使った実験で突き止めたと発表した。
新たな治療薬や予防法の開発などにつながる成果という。米医学誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」電子版に26日、掲載される。
理研の吉田尚弘研究員らは、アトピー性皮膚炎を発症するマウスを調べ、「JAK1」というたんぱく質の遺伝子の一部が変化し、異常に活性化しているのを発見。その結果、皮膚の角質に働く酵素も活性化し、角質がはがれて刺激を受けやすくなっていることが分かった。JAK1の働きを防ぐ塗り薬や、刺激から皮膚を守るワセリンなどをマウスに塗ると、アトピー性皮膚炎の発症を予防できた。(2016.4.16 YOMIURI ONLINE)
理研の広報ページは→こちら。
論文は→こちら。
この記事読んで、私がすぐに思ったのは、「このマウスは、アトピー性皮膚炎のモデルでもあるかもしれないけれど、ステロイド外用剤の副作用モデルでもあるんじゃないだろうか?」です。
「なんでもかんでも、ステロイドの副作用とこじつける奴だ」と、眉をひそめる方もいるかもしれませんが、結局のところ、アトピー性皮膚炎とステロイド外用剤による表皮バリア破壊のメカニズムというのは、切っても切れない関係にある、そういうことなんでしょう。
だから、ステロイド外用剤長期連用によるステロイド依存現象を研究することは、とりもなおさず、アトピー性皮膚炎そのものの研究になるはずなんです。そこをタブー視して、一切語らない、トランプの七並べで八が止められているようなもので、先に進みようがありません。実にもったいないことです。
私の考えを解説します。お付き合いください。まず、ステロイド外用剤には、リンパ球などの免疫系に働く抗炎症作用があります。これが短期的には、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えてくれます。
一方で、ステロイド外用剤は表皮を委縮させてバリア破壊に働くという副作用があります。このブログで繰り返し解説している通りです。そのメカニズムのひとつの可能性に、「ステロイド外用剤が、プロテアーゼの活性化に関与して、表皮バリアの破壊に働いている」というものがあります。→こちらの、とくに後半の小松先生らの論文の解説をご参照ください。
理研のマウスも、最終的にプロテアーゼの亢進によって表皮バリアが破壊されています。なおかつ、JAK1というのは、下図のように、STATと結合したあと、GR(グルココルチコイドレセプター)に作用しますから、ステロイド様に働く可能性はあります。また、理研の実験では、「JAK1はさまざまなサイトカイン受容体の下流で機能する分子であり、免疫系細胞の増殖・分化や機能発現に重要であることが知られています。しかし、骨髄移植実験でSpadeマウスと野生型マウスの骨髄細胞を入れ替える実験を行ったところ、アトピー性皮膚炎を引き起こす原因は皮膚組織の側にあり、免疫系にはないことが明らかになりました。」とありますから、このマウスは、ステロイドの作用が、表皮細胞にだけ現れた、すなわち表皮バリア破壊という負の側面だけが強調された、興味深いモデルなのかもしれません。
理化学研究所や京都大などの研究グループは、アトピー性皮膚炎の原因となる遺伝子を、マウスを使った実験で突き止めたと発表した。
新たな治療薬や予防法の開発などにつながる成果という。米医学誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション」電子版に26日、掲載される。
理研の吉田尚弘研究員らは、アトピー性皮膚炎を発症するマウスを調べ、「JAK1」というたんぱく質の遺伝子の一部が変化し、異常に活性化しているのを発見。その結果、皮膚の角質に働く酵素も活性化し、角質がはがれて刺激を受けやすくなっていることが分かった。JAK1の働きを防ぐ塗り薬や、刺激から皮膚を守るワセリンなどをマウスに塗ると、アトピー性皮膚炎の発症を予防できた。(2016.4.16 YOMIURI ONLINE)
理研の広報ページは→こちら。
論文は→こちら。
この記事読んで、私がすぐに思ったのは、「このマウスは、アトピー性皮膚炎のモデルでもあるかもしれないけれど、ステロイド外用剤の副作用モデルでもあるんじゃないだろうか?」です。
「なんでもかんでも、ステロイドの副作用とこじつける奴だ」と、眉をひそめる方もいるかもしれませんが、結局のところ、アトピー性皮膚炎とステロイド外用剤による表皮バリア破壊のメカニズムというのは、切っても切れない関係にある、そういうことなんでしょう。
だから、ステロイド外用剤長期連用によるステロイド依存現象を研究することは、とりもなおさず、アトピー性皮膚炎そのものの研究になるはずなんです。そこをタブー視して、一切語らない、トランプの七並べで八が止められているようなもので、先に進みようがありません。実にもったいないことです。
私の考えを解説します。お付き合いください。まず、ステロイド外用剤には、リンパ球などの免疫系に働く抗炎症作用があります。これが短期的には、アトピー性皮膚炎の炎症を抑えてくれます。
一方で、ステロイド外用剤は表皮を委縮させてバリア破壊に働くという副作用があります。このブログで繰り返し解説している通りです。そのメカニズムのひとつの可能性に、「ステロイド外用剤が、プロテアーゼの活性化に関与して、表皮バリアの破壊に働いている」というものがあります。→こちらの、とくに後半の小松先生らの論文の解説をご参照ください。
理研のマウスも、最終的にプロテアーゼの亢進によって表皮バリアが破壊されています。なおかつ、JAK1というのは、下図のように、STATと結合したあと、GR(グルココルチコイドレセプター)に作用しますから、ステロイド様に働く可能性はあります。また、理研の実験では、「JAK1はさまざまなサイトカイン受容体の下流で機能する分子であり、免疫系細胞の増殖・分化や機能発現に重要であることが知られています。しかし、骨髄移植実験でSpadeマウスと野生型マウスの骨髄細胞を入れ替える実験を行ったところ、アトピー性皮膚炎を引き起こす原因は皮膚組織の側にあり、免疫系にはないことが明らかになりました。」とありますから、このマウスは、ステロイドの作用が、表皮細胞にだけ現れた、すなわち表皮バリア破壊という負の側面だけが強調された、興味深いモデルなのかもしれません。
私の仮説を確認するには、このマウスの耳に、ステロイド外用剤を塗ってどうなるかを観察するといいです。ステロイド外用剤の副作用のモデルなら、さらに皮膚炎悪くなるかもしれません。ステロイド外用剤にはワセリンも含まれているから、その分良くなるのかもしれない。しかし、ワセリンより良くはならないのではないか?このマウスの皮膚炎には、免疫系はまったくかかわっていないのだから。
そもそも、理研はなぜ「ワセリンで良くなる」と、論文で報告しているのだろうか?この手の実験では、皮膚炎を、たいていステロイド外用剤で抑えるデータを出します。ワセリンは、ステロイド外用剤による抑制確認の対照(コントロール)として用いられることが多いです。
だから、私は、理研はステロイド外用剤による皮膚炎の抑制実験は当然やっていると思います。皮膚炎発症したあとは非特異的な炎症反応は少しは起きるだろうし、ステロイドはこれを抑える、ワセリンの外用は発症を遅らせて、ステロイドは症状を弱めるだろう、しかし予想に反して、ステロイド外用剤による結果は悪かった。だから、ワセリンの結果だけを論文では示した。そういうことじゃないだろうか?
穿った見方であり、仮説の仮説みたいな話です。しかし「ワセリンで良くなる」と書いてあったときに、「なんでワセリンで確認したの?ステロイド外用剤では確認しなかったの?」と、私は違和感を覚えました。みなさんだって、言われれば、そう思うでしょ?
そもそも、理研はなぜ「ワセリンで良くなる」と、論文で報告しているのだろうか?この手の実験では、皮膚炎を、たいていステロイド外用剤で抑えるデータを出します。ワセリンは、ステロイド外用剤による抑制確認の対照(コントロール)として用いられることが多いです。
だから、私は、理研はステロイド外用剤による皮膚炎の抑制実験は当然やっていると思います。皮膚炎発症したあとは非特異的な炎症反応は少しは起きるだろうし、ステロイドはこれを抑える、ワセリンの外用は発症を遅らせて、ステロイドは症状を弱めるだろう、しかし予想に反して、ステロイド外用剤による結果は悪かった。だから、ワセリンの結果だけを論文では示した。そういうことじゃないだろうか?
穿った見方であり、仮説の仮説みたいな話です。しかし「ワセリンで良くなる」と書いてあったときに、「なんでワセリンで確認したの?ステロイド外用剤では確認しなかったの?」と、私は違和感を覚えました。みなさんだって、言われれば、そう思うでしょ?
上は、理研が発表した、ワセリンでこのマウスの皮膚炎が改善することを示すデータ。赤は何もつけない場合で、オレンジがワセリンを外用した場合。ステロイド外用剤を外用した場合に、①のような結果であれば、これを発表したが、実際は②または③の結果になってしまった。話がややこしくなって査読者から突っ込まれる材料となってしまうので、今回の論文では公表を見合わせた。そういうことじゃないかと私は想像します。
(H28/4/28記) その2に続きます→こちら。
(H28/4/28記) その2に続きます→こちら。
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