紫外線(UVB)療法ではなぜリバウンドが起きにくいか?
Dichotomous effect of ultraviolet B on the expression of corneodesmosomal enzymes in human epidermal keratinocytes Megumi Nin et al. Journal of Dermatological Science 54 (2009) 17-24
本ブログでは、Cork先生の皮膚バリア破壊説を、ステロイド外用剤の長期連用によるAddiction、リバウンドを説明できる良い説だ、として紹介しています。しかしながら、表題の論文は、ステロイドのリバウンドに関するものではないのですが、結果的にCork先生の提唱する説に疑問を投げかけるものとなっています。 まず、Cork先生の説を簡単におさらいしておきましょう
本ブログでは、Cork先生の皮膚バリア破壊説を、ステロイド外用剤の長期連用によるAddiction、リバウンドを説明できる良い説だ、として紹介しています。しかしながら、表題の論文は、ステロイドのリバウンドに関するものではないのですが、結果的にCork先生の提唱する説に疑問を投げかけるものとなっています。 まず、Cork先生の説を簡単におさらいしておきましょう
角質細胞(Corneocyte)はCorneodesmosomeによって結合し、外界のアレルゲンなどの刺激からのバリアとなっていますが、これはプロテアーゼとインヒビターとのバランスの上に成り立っています。
表題の論文には、培養表皮細胞にUVB(紫外線)を照射すると、SCCE,SCTEなどのプロテアーゼが増加し、インヒビター(LEKTI)が減少するという結果が示されています。ということは、Cork先生の説に従えば、アトピー性皮膚炎にUVBを照射し続けてやると、ステロイド外用剤長期連用と同じように、依存・リバウンドを引き起こすはずです。 UVBは、アトピー性皮膚炎の治療として用いられますが、それでリバウンドを起こすということは聞いたことがありません。これは、どう考えればいいのでしょうか?
Inhibition of T helper 2 chemokine production by narrowband ultraviolet B in cultured keratinocytesR. Hino etc. British Journal of Dermatology Volume 156(2007) Issue 5, Pages 830 – 837
わたしは、上記の論文にヒントがあると思いました。この論文は、UVBの、とくにナローバンドと呼ばれる狭い波長域の紫外線照射治療器の効果を、従来のUVB照射装置の効果と比較したものです。UVB照射はIL-1αやTNFαといったTh1系のサイトカインは増加させますが、Th2系のサイトカイン(MDCやTARC)の産生は抑制するという実験結果が示されています。
ステロイド外用は、バリア破壊と同時に、Th1/Th2バランスをTh2に強くシフトさせます。UVB照射は、ステロイドと同じようにバリアを破壊しますが、Th1/Th2バランスにおいては、ステロイドと逆にTh2を抑えます。それで、リバウンドが起こらないのだろうと、わたしは推測します。
Cork先生は、ステロイド長期連用による依存・リバウンドの機序を、表皮バリアの破壊を重視して説明していますが、厳密にはこの説は、完全ではないのかもしれません。上の二つの実験結果をも踏まえて考えるならば、ステロイド外用剤の長期連用は、表皮細胞に作用して、バリア機能を破壊すると同時に、Th1/Th2バランスをTh2にシフトさせることによって、依存・リバウンドにつながる、ということになるでしょう。
ただし、第二十六章で後述しますが、マウスによる動物実験モデルにおいては、UVB照射によって、リバウンドが生じることが確認されています(persistent light reaction や actinic reticuloidは、UVB照射による皮膚のリバウンド現象かもしれないとも指摘されています)。もし、ヒトでのアトピー性皮膚炎のUVB治療でもリバウンドが起きるなら、それはCork先生の説の裏付けることとなるでしょう。
いずれにせよ、Cork先生の説の重要性は、SCCEなどのプロテアーゼの側面からリバウンドを解説したことというよりは、表皮細胞へのダメージを介してリバウンドを説明したところにこそあると思います。アトピー性皮膚炎における依存やリバウンドは、内服などの全身投与においてよりもむしろ、外用においてこそ生じやすいからです。
ナローバンドUVB治療についての補足です。
表題の論文には、培養表皮細胞にUVB(紫外線)を照射すると、SCCE,SCTEなどのプロテアーゼが増加し、インヒビター(LEKTI)が減少するという結果が示されています。ということは、Cork先生の説に従えば、アトピー性皮膚炎にUVBを照射し続けてやると、ステロイド外用剤長期連用と同じように、依存・リバウンドを引き起こすはずです。 UVBは、アトピー性皮膚炎の治療として用いられますが、それでリバウンドを起こすということは聞いたことがありません。これは、どう考えればいいのでしょうか?
Inhibition of T helper 2 chemokine production by narrowband ultraviolet B in cultured keratinocytesR. Hino etc. British Journal of Dermatology Volume 156(2007) Issue 5, Pages 830 – 837
わたしは、上記の論文にヒントがあると思いました。この論文は、UVBの、とくにナローバンドと呼ばれる狭い波長域の紫外線照射治療器の効果を、従来のUVB照射装置の効果と比較したものです。UVB照射はIL-1αやTNFαといったTh1系のサイトカインは増加させますが、Th2系のサイトカイン(MDCやTARC)の産生は抑制するという実験結果が示されています。
ステロイド外用は、バリア破壊と同時に、Th1/Th2バランスをTh2に強くシフトさせます。UVB照射は、ステロイドと同じようにバリアを破壊しますが、Th1/Th2バランスにおいては、ステロイドと逆にTh2を抑えます。それで、リバウンドが起こらないのだろうと、わたしは推測します。
Cork先生は、ステロイド長期連用による依存・リバウンドの機序を、表皮バリアの破壊を重視して説明していますが、厳密にはこの説は、完全ではないのかもしれません。上の二つの実験結果をも踏まえて考えるならば、ステロイド外用剤の長期連用は、表皮細胞に作用して、バリア機能を破壊すると同時に、Th1/Th2バランスをTh2にシフトさせることによって、依存・リバウンドにつながる、ということになるでしょう。
ただし、第二十六章で後述しますが、マウスによる動物実験モデルにおいては、UVB照射によって、リバウンドが生じることが確認されています(persistent light reaction や actinic reticuloidは、UVB照射による皮膚のリバウンド現象かもしれないとも指摘されています)。もし、ヒトでのアトピー性皮膚炎のUVB治療でもリバウンドが起きるなら、それはCork先生の説の裏付けることとなるでしょう。
いずれにせよ、Cork先生の説の重要性は、SCCEなどのプロテアーゼの側面からリバウンドを解説したことというよりは、表皮細胞へのダメージを介してリバウンドを説明したところにこそあると思います。アトピー性皮膚炎における依存やリバウンドは、内服などの全身投与においてよりもむしろ、外用においてこそ生じやすいからです。
ナローバンドUVB治療についての補足です。
これは、あとに示した日野先生の論文中に出てくるナローバンドUVB管球の波長特性で、310~315nmあたりに絞られています(緑)。従来のものは青の曲線で、やけどなど有害作用は赤の曲線の波長帯ですから、改善されています。わたしが皮膚科医であった、6年前は、まだナローバンドUVB治療と言うのは一般的では無かったです。通常のBB(ブロードバンド)-UVB照射装置はありましたが、やけどなどのリスクを考え、あまりアトピー性皮膚炎の治療に活用してきませんでした。NB-UVBが、安全で、ステロイドのように依存やリバウンドをきたさない治療方法であるなら、非常に嬉しいことです。
しかし、それを患者に伝え、説得するには、ステロイド外用剤の長期連用が依存・リバウンドをきたすことをはっきりと説明したうえでなければ難しいでしょう。「ステロイドはガイドラインに沿った使用をしていれば安全」ならNB-UVBを受けようという人は少ないと思います。紫外線=発癌性というイメージは強いですから、なぜわざわざそんな治療に変えなければならないのか?と疑問を持たれるはずです。同じことは、プロトピックなどの免疫抑制剤にも言えます。 ステロイドの長期連用による依存・リバウンドの現象を認めず、患者から聞かれたときにお茶を濁すような回答をすることは、結果的に新しい治療法に対しても患者に不信感を抱かせ、治療の機会を奪ってしまうと思います。
2009.10.21
しかし、それを患者に伝え、説得するには、ステロイド外用剤の長期連用が依存・リバウンドをきたすことをはっきりと説明したうえでなければ難しいでしょう。「ステロイドはガイドラインに沿った使用をしていれば安全」ならNB-UVBを受けようという人は少ないと思います。紫外線=発癌性というイメージは強いですから、なぜわざわざそんな治療に変えなければならないのか?と疑問を持たれるはずです。同じことは、プロトピックなどの免疫抑制剤にも言えます。 ステロイドの長期連用による依存・リバウンドの現象を認めず、患者から聞かれたときにお茶を濁すような回答をすることは、結果的に新しい治療法に対しても患者に不信感を抱かせ、治療の機会を奪ってしまうと思います。
2009.10.21