脱保湿すると表皮細胞のステロイド合成は回復する
「脱保湿」については、以前にも少し触れました(→「脱保湿の正当性を支持する論文」)。
まず、佐藤先生(現阪南中央病院)の「脱保湿」の考え方を御存じない方のために、佐藤先生らが最初にこの考え方を報告した論文を振り返ってみましょう。
重症成人型アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用剤離脱 皮膚38, 440-446.1996
32名の患者についてのコホート研究です。医療介入として「ステロイド中止」と「全外用剤中止」が入り、結果として下図のようになりました。要は、ステロイドを中止してすぐに良くならない例には、さらに全外用剤を中止すると良いようだ、という経験的観測が得られた、ということです。
まず、佐藤先生(現阪南中央病院)の「脱保湿」の考え方を御存じない方のために、佐藤先生らが最初にこの考え方を報告した論文を振り返ってみましょう。
重症成人型アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用剤離脱 皮膚38, 440-446.1996
32名の患者についてのコホート研究です。医療介入として「ステロイド中止」と「全外用剤中止」が入り、結果として下図のようになりました。要は、ステロイドを中止してすぐに良くならない例には、さらに全外用剤を中止すると良いようだ、という経験的観測が得られた、ということです。
現在では、佐藤先生は、さらに飲水制限(成人の場合)なども徹底して、とにかく皮膚を乾燥させる方向で、より速く離脱が進むように工夫していらっしゃるようです。「保湿」で皮膚を保護しましょう、という考え方とは、正反対です。
注)ステロイド中止、全外用剤中止とも、リバウンドと呼ばれる一過性の悪化を伴います。水色四角内は、そのリバウンドを越えて安定した段階の描写です。四角から四角へとすんなりと移行するわけではありません。
佐藤先生だけではなく、近年では私の知る多くの脱ステロイドの診療をする医師が、この考え方を取り入れて、離脱の成功率を上げているようです。その理論的根拠になりそうな、興味深い論文を見つけたので、今回はその解説です。
Low environmental humidity induces synthesis and release of cortisol in an epidermal organotypic culture system.
Takei K1, Denda S, Kumamoto J, Denda M.
Exp Dermatol. 2013 Oct;22(10):662-4. doi: 10.1111/exd.12224.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24079737
重層化した表皮培養シートを用いた実験です。
注)ステロイド中止、全外用剤中止とも、リバウンドと呼ばれる一過性の悪化を伴います。水色四角内は、そのリバウンドを越えて安定した段階の描写です。四角から四角へとすんなりと移行するわけではありません。
佐藤先生だけではなく、近年では私の知る多くの脱ステロイドの診療をする医師が、この考え方を取り入れて、離脱の成功率を上げているようです。その理論的根拠になりそうな、興味深い論文を見つけたので、今回はその解説です。
Low environmental humidity induces synthesis and release of cortisol in an epidermal organotypic culture system.
Takei K1, Denda S, Kumamoto J, Denda M.
Exp Dermatol. 2013 Oct;22(10):662-4. doi: 10.1111/exd.12224.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24079737
重層化した表皮培養シートを用いた実験です。
相対湿度10%未満と言う乾燥した環境では、表皮細胞のコルチゾール産生が増加し、これを合成する酵素の一つであるCYP11B1の発現が増強する、という結果が得られました。一番右の「Dry+Plastic membrane」というのは、乾燥した環境で、培養細胞の上からプラスチックシートで覆ってみた結果で、中間的な値となっています。
表皮細胞はコルチゾールを産生しています。ステロイド依存と言うのは、強いステロイド外用の結果、この産生能あるいは調節能がおかしくなった状態ではないか、という仮説については、先回記しました(→こちら)。
表皮細胞が乾燥した培養条件でコルチゾール産生能が増強すると言うことは、佐藤先生の「脱保湿」とは、まさにそれによって表皮細胞のステロイド産生能力を回復させようということだと解釈できます。
以前解説した「早産児の皮膚のTEWLの正常化は、より乾燥した環境においたほうが速く達成される」という報告(→こちら)にも合致します。表皮の産生するステロイド(コルチゾール)は、表皮を分化成熟させる方向に働くからです。
ここから考えると、新生児や乳児というのは、なるべく乾燥させた環境で育てるのが、皮膚の成熟にはいいわけですが、一方で食物アレルゲンなどの感作防止には、保湿剤で保護していたほうが良いというデータもあります(→こちら)。新生児や乳児の保湿に関しては判断が難しいところです。しかし少なくとも、成人でのステロイド依存からの回復を速めるためには、脱保湿と言うのは、それによって表皮のステロイド産生を強く促すことが出来るという意味で理にかなった方法と言えます。
この「表皮細胞がステロイドを自律的に産生していて、ステロイド依存というのは、それが低下してしまった状態だ」という考え方に立つと、いろいろな話が説明可能になってきます。例えば、紫外線にも表皮細胞のステロイド産生を高める作用があります(→こちら)から、紫外線療法ではリバウンドが起きず(→こちら)、むしろ脱ステロイド時のリバウンド対策になりうることもそうですし、タール剤が有効なメカニズムの説明にもなります(→こちら)。
リバウンドを短期間で乗り切ろうという経験的工夫である、脱保湿、紫外線(海水浴も同じ)、タール剤(や、タールを含む温泉)などが、すっきりと一元的に説明できます。・・なんとか、ステロイド長期使用患者の表皮でステロイド(コルチゾール)合成能が低下していることを確認できないだろうか?思案模索中です。
2014.06.03
表皮細胞はコルチゾールを産生しています。ステロイド依存と言うのは、強いステロイド外用の結果、この産生能あるいは調節能がおかしくなった状態ではないか、という仮説については、先回記しました(→こちら)。
表皮細胞が乾燥した培養条件でコルチゾール産生能が増強すると言うことは、佐藤先生の「脱保湿」とは、まさにそれによって表皮細胞のステロイド産生能力を回復させようということだと解釈できます。
以前解説した「早産児の皮膚のTEWLの正常化は、より乾燥した環境においたほうが速く達成される」という報告(→こちら)にも合致します。表皮の産生するステロイド(コルチゾール)は、表皮を分化成熟させる方向に働くからです。
ここから考えると、新生児や乳児というのは、なるべく乾燥させた環境で育てるのが、皮膚の成熟にはいいわけですが、一方で食物アレルゲンなどの感作防止には、保湿剤で保護していたほうが良いというデータもあります(→こちら)。新生児や乳児の保湿に関しては判断が難しいところです。しかし少なくとも、成人でのステロイド依存からの回復を速めるためには、脱保湿と言うのは、それによって表皮のステロイド産生を強く促すことが出来るという意味で理にかなった方法と言えます。
この「表皮細胞がステロイドを自律的に産生していて、ステロイド依存というのは、それが低下してしまった状態だ」という考え方に立つと、いろいろな話が説明可能になってきます。例えば、紫外線にも表皮細胞のステロイド産生を高める作用があります(→こちら)から、紫外線療法ではリバウンドが起きず(→こちら)、むしろ脱ステロイド時のリバウンド対策になりうることもそうですし、タール剤が有効なメカニズムの説明にもなります(→こちら)。
リバウンドを短期間で乗り切ろうという経験的工夫である、脱保湿、紫外線(海水浴も同じ)、タール剤(や、タールを含む温泉)などが、すっきりと一元的に説明できます。・・なんとか、ステロイド長期使用患者の表皮でステロイド(コルチゾール)合成能が低下していることを確認できないだろうか?思案模索中です。
2014.06.03
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