読売新聞の2010年12月14・15日の記事
ーーーーー(ここから引用)-----
【アトピー性皮膚炎(1)病院転々 治療まちまち】
横浜市内に住む女性(27)の長女(5)は、2歳2か月でアトピー性皮膚炎を発症して以来、7か所の病院を転々とした。
赤い湿疹が首の周りに目立ち始めた2007年、最初に受診した近所の皮膚科では、「アトピーによる湿疹なのかどうか、よくわからない」と言われた。抗アレルギー剤の飲み薬と、かゆみ止めの塗り薬を出されたが湿疹はよくならず、顔や腕、足にまで広がった。
「ステロイド(副腎皮質ホルモン)を使わないとダメかな」と医師。5段階ある強さのうち、弱い方から2番目の塗り薬を使ったがよくならない。
総合病院のアレルギー科では、検査でハウスダストやダニのアレルギー体質がわかり、掃除や洗濯を徹底するよう指導された。ただし「アトピー性皮膚炎」とは診断されず、医師からは「塗り薬は何が良いですか」と逆に尋ねられた。しかたなく、前の病院と同じ強さのステロイドを出してもらった。
3か所目の病院で初めてアトピー性皮膚炎と診断された。中程度の強さのステロイドと保湿剤などを処方されたが、塗る量や塗る回数の説明はなかった。かゆい部分に適当に塗っていたところ、湿疹はほぼ全身に広がった。
アトピー性皮膚炎の治療のポイントには、ステロイドの塗り薬の使い方がある。だがステロイドを使うと副作用でかえって悪化するのではとの誤解も根強い。アトピー性皮膚炎の治療に詳しい神奈川県立こども医療センター(横浜市)アレルギー科医長の高増哲也さんは、「ステロイドの使い方に慣れていない医師は、診断にも消極的な面がある。処方する薬の効果や量が不十分なケースも多い」と、医療側にも問題があると指摘する。
女性は、インターネットや雑誌を見て、アトピーに良いと評判の無農薬野菜や無添加せっけん、洗剤などを購入するようになった。食費や洗面用具の出費は以前の3~4倍になった。
「防腐剤もなく肌に優しい」とうたったクリームは、1か月ももたない小型の容器で8000円もした。塗ると一晩で長女の皮膚は真っ赤になり、強いかゆみを訴えた。
ある皮膚科では、ステロイドも保湿剤も使わず、抗アレルギー剤の飲み薬だけを出された。かゆくて眠れない長女をあやすため、一晩中眠れなかった。
「あの頃は何が正しいのかわからず、情報に振り回され、気が変になりそうでした」と、振り返る。 (2010年12月14日 読売新聞)
http://megalodon.jp/2010-1215-1722-38/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34371
【アトピー性皮膚炎(2)ステロイドの誤解を解く】
長女(5)のアトピー性皮膚炎の治療のため病院を転々とした横浜市の女性(27)は2010年10月、患者の会の紹介で、神奈川県立こども医療センター(横浜市)を受診した。発症から3年。首の周りだけだった長女の湿疹は、ほぼ全身に広がっていた。
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な皮膚の性質や、ダニやハウスダストなどの刺激で、かゆみを伴う湿疹に長期間悩まされる。生まれつき炎症を起こしやすいアレルギー体質の人に多い。
かゆみのせいで皮膚をかいて傷つけると、さらに悪化を招く。治療は、皮膚の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬と、保湿によるスキンケア、ダニなどの刺激の除去が3本柱だ。
アレルギー科医長の高増哲也さんは、初診で2時間近くをかけ、女性の話に耳を傾けた。重症化した患者は、ステロイドに対する不安や誤解などから、適切な治療をせず、こじらせていることが多いためだ。
この女性は、ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったり、皮膚が黒ずんできたりする副作用があるとの誤りを信じ込んでいた。このため、ステロイドは、よほどかゆみがひどい場合以外、使っていなかった。
高増さんは、ステロイドはもともと体内で作られているホルモンであり、体に必要不可欠な物質であること、長期間使うと皮膚が薄くなるなどの副作用があること、徐々に効果がなくなったり皮膚が黒ずんだりはしないことなど、メモに書きながら女性の疑問点と答えを整理して説明した。
そのうえで、ステロイドの塗り薬を使って1週間後の次回の診察までには、かゆみから脱却すること。以後は徐々に弱い薬に替えたり量を減らしたりし、最終的には保湿剤だけになることを目指すとの、治療の道筋を示した。
女性は「一生ステロイドを塗り続けなければならないと心配だったが、安心できた」と話す。 湿疹がひどい手首や膝には中くらいの強さのもの、皮膚が薄い顔などには1段階弱いものと、症状や部位によってステロイドを使い分ける。朝晩、シャワーを浴びさせた後、保湿剤とともにテカテカと光るぐらいに、たっぷりと塗った。3~4日で長女はかゆみを訴えなくなり、膝の赤みやゴワゴワと厚くなった皮膚も回復してきた。
高増さんは「副作用の不安でステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない。きちんと治療するには、十分な量を使うことが大切」と話す。(2010年12月15日 読売新聞)
http://megalodon.jp/2010-1215-1723-30/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34434
ーーーーー(ここまで引用)-----
読売新聞で、昨日からアトピーの連載がはじまりました。やや食傷気味ではありますが、コメント加えていこうかと思います。
とりあえず、明らかに医学的におかしい部分を太字にしてみました。
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ステロイドを使うと副作用でかえって悪化するのではとの誤解
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これは、ステロイド外用剤によって依存に陥る例があるという事実を無視している点でおかしいです(別にステロイドを使うと全例が依存に陥ると言っているわけではありません)。
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ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったりする副作用があるとの誤り
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これも、ステロイド外用剤のもつ依存性・抵抗性のはなしです。薬理学的にも動物実験モデルが完成しているレベルですし、現役の皮膚科教授を含む臨床医による多くの報告・警告があります。 古江先生らによるアトピー性皮膚炎の標準治療のホームページには、ステロイド外用剤に依存性や抵抗性という副作用がないなどとは、一言も書かれていません。ただ、無視され、触れられずにいるだけです。(というか、古江先生自身が、標準治療でよくならない=塗っても効かない・悪くなる例がかなりの率で存在するというデータを出しています)。
その意味に、読売新聞の記者のかたは、気がついて欲しいものです。皮膚科医は、「ステロイド外用剤に依存性や抵抗性は存在しない」と、2010年の現在、明言できません。医学的に誤ったことを発信することになるからです。
しかし、それを新聞記者に書かせるのはOKです。あとで責められたときに、記者が誤解して書いたことにすればいいですからね。
一方、高増哲也先生が、「徐々に効果がなくなったりはしないこと」を、本当に患者に明言したかどうか、ステロイド依存の認識の無い医師であるのかどうか?は、わたしにはわかりません。 皮膚科医のなかにも、多くの医学論文の存在にもかかわらず、勉強不足ゆえ、ステロイド外用剤のもつ、この特殊な副作用に無知な先生はまだまだ多いです。また、小児科の先生は、以前大矢先生のはなしで記したように、以下の理由からステロイド依存という現象を知らないあるいは軽く見ているかたが多いです。
1)小児は外用歴が浅く、依存例そのものが少ない。依存に陥っていない患者のステロイド恐怖をまずは取り除くことのほうが喫緊だ、と小児科医が考えたとしてもおかしくはない。
2)小児科医は喘息をも診る。喘息での標準治療であるステロイド吸入剤や内服ステロイドで、依存性・抵抗性は問題となっていない(喘息でもステロイド抵抗性のものはあるが、まったく異なる遺伝的なメカニズム)ので、外用剤におけるこの特殊な副作用に気がついていない小児科医は多い。(ステロイド依存は、表皮・角層という皮膚に特有のバリア機能の破壊メカニズムが関係しますからね。気道や腸管といった粘膜では依存は成立しないようです。)
朝日新聞のときには、東京逓信病院皮膚科の江藤医師が登場しましたが、依存やリバウンドについては明言していません(賢明ですね)。成育医療センター小児科の大矢医師も、アトピー性皮膚炎の標準治療のホームページの「ステロイド外用剤」の項を担当していますが、依存やリバウンドについてはまったく触れていません。大矢先生や高増先生といった「小児科医」を用いて、ステロイド依存問題の封じ込めを続けようというのは、古江先生らの最近の戦術かなあ、と感じます。自分たちに責任がかかってきませんからね。小児科医の先生がたに火中の栗を拾わせるわけです。
朝日の記事を読み直して見ましたが、
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ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったりする副作用があるとの誤り
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といった、明らかな医学的誤りは書かれていなかったなあ。もう一度記しますが、古江先生らのホームページには、そんなことは一言も書かれてないはずです。記者さん、うまく踊らされましたね。
あるいは、高増先生が、喘息には詳しくても、アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤依存に関して、皮膚科領域で多くの論文が蓄積されていることを知らずに、本当にそう言ったのでしょうか?もしそうなら、他の先生にも聞いて裏を取るなりするべきでした。
いずれにせよ、この一文、明らかな医学的誤りを新聞記事として発信してしまったという点で、取り返しがつかないですね。それも報道ではなく医学記事として。学術担当記者失格といっても、過言ではないのじゃないかなあ。朝日の記事のほうが、まだましでした。読売の連載はまだ続くようなので、この明らかな医学的誤りだけは、訂正の一文付しておいたほうがいいのじゃないでしょうか?記事は残り、語り継がれますからね。
とりあえず、患者の皆様、朝日のときと同様、記事への感想をメールで送りましょう。[email protected]です。わたしは既に送りました。(患者の皆様の中には「そんなことどうでもいいから、治してくれ、治療の研究をしてくれ。俺たちは治りさえすればステロイド論争なんてどうでもいいんだ!」とおっしゃる向きもあるでしょうが、治すため、治るための社会的環境を整えるってのは重要です。なんとか離脱しようとリバウンドを耐えているときに「読売新聞にこう書いてあったよ」と親しい知人や家族にそれも親切心から言われたら、堪らないでしょう?マスコミの影響は大きいです。ひとりひとりの患者が、地道に声を上げて、誤りを正すよう訴えていくしかないんです。)
15日の記事の最後の文章、
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ステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない
ーーーーー
これも、微妙ですね。ステロイドを外用することで表皮バリアの破壊が進むわけですから(見かけは確かにきれいな皮膚になりますが、炎症起こしやすい皮膚になってしまう)。1990年代には、皮膚科の権威筋の先生がたはよくこういう言い方してましたが、いまはもうバタッと止んだことは、前に記しました。ひょっとしたら、高増先生が、最近の皮膚科領域の海外の医学論文に目を通していないということかなあ?
2010.12.15
【アトピー性皮膚炎(1)病院転々 治療まちまち】
横浜市内に住む女性(27)の長女(5)は、2歳2か月でアトピー性皮膚炎を発症して以来、7か所の病院を転々とした。
赤い湿疹が首の周りに目立ち始めた2007年、最初に受診した近所の皮膚科では、「アトピーによる湿疹なのかどうか、よくわからない」と言われた。抗アレルギー剤の飲み薬と、かゆみ止めの塗り薬を出されたが湿疹はよくならず、顔や腕、足にまで広がった。
「ステロイド(副腎皮質ホルモン)を使わないとダメかな」と医師。5段階ある強さのうち、弱い方から2番目の塗り薬を使ったがよくならない。
総合病院のアレルギー科では、検査でハウスダストやダニのアレルギー体質がわかり、掃除や洗濯を徹底するよう指導された。ただし「アトピー性皮膚炎」とは診断されず、医師からは「塗り薬は何が良いですか」と逆に尋ねられた。しかたなく、前の病院と同じ強さのステロイドを出してもらった。
3か所目の病院で初めてアトピー性皮膚炎と診断された。中程度の強さのステロイドと保湿剤などを処方されたが、塗る量や塗る回数の説明はなかった。かゆい部分に適当に塗っていたところ、湿疹はほぼ全身に広がった。
アトピー性皮膚炎の治療のポイントには、ステロイドの塗り薬の使い方がある。だがステロイドを使うと副作用でかえって悪化するのではとの誤解も根強い。アトピー性皮膚炎の治療に詳しい神奈川県立こども医療センター(横浜市)アレルギー科医長の高増哲也さんは、「ステロイドの使い方に慣れていない医師は、診断にも消極的な面がある。処方する薬の効果や量が不十分なケースも多い」と、医療側にも問題があると指摘する。
女性は、インターネットや雑誌を見て、アトピーに良いと評判の無農薬野菜や無添加せっけん、洗剤などを購入するようになった。食費や洗面用具の出費は以前の3~4倍になった。
「防腐剤もなく肌に優しい」とうたったクリームは、1か月ももたない小型の容器で8000円もした。塗ると一晩で長女の皮膚は真っ赤になり、強いかゆみを訴えた。
ある皮膚科では、ステロイドも保湿剤も使わず、抗アレルギー剤の飲み薬だけを出された。かゆくて眠れない長女をあやすため、一晩中眠れなかった。
「あの頃は何が正しいのかわからず、情報に振り回され、気が変になりそうでした」と、振り返る。 (2010年12月14日 読売新聞)
http://megalodon.jp/2010-1215-1722-38/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34371
【アトピー性皮膚炎(2)ステロイドの誤解を解く】
長女(5)のアトピー性皮膚炎の治療のため病院を転々とした横浜市の女性(27)は2010年10月、患者の会の紹介で、神奈川県立こども医療センター(横浜市)を受診した。発症から3年。首の周りだけだった長女の湿疹は、ほぼ全身に広がっていた。
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な皮膚の性質や、ダニやハウスダストなどの刺激で、かゆみを伴う湿疹に長期間悩まされる。生まれつき炎症を起こしやすいアレルギー体質の人に多い。
かゆみのせいで皮膚をかいて傷つけると、さらに悪化を招く。治療は、皮膚の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬と、保湿によるスキンケア、ダニなどの刺激の除去が3本柱だ。
アレルギー科医長の高増哲也さんは、初診で2時間近くをかけ、女性の話に耳を傾けた。重症化した患者は、ステロイドに対する不安や誤解などから、適切な治療をせず、こじらせていることが多いためだ。
この女性は、ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったり、皮膚が黒ずんできたりする副作用があるとの誤りを信じ込んでいた。このため、ステロイドは、よほどかゆみがひどい場合以外、使っていなかった。
高増さんは、ステロイドはもともと体内で作られているホルモンであり、体に必要不可欠な物質であること、長期間使うと皮膚が薄くなるなどの副作用があること、徐々に効果がなくなったり皮膚が黒ずんだりはしないことなど、メモに書きながら女性の疑問点と答えを整理して説明した。
そのうえで、ステロイドの塗り薬を使って1週間後の次回の診察までには、かゆみから脱却すること。以後は徐々に弱い薬に替えたり量を減らしたりし、最終的には保湿剤だけになることを目指すとの、治療の道筋を示した。
女性は「一生ステロイドを塗り続けなければならないと心配だったが、安心できた」と話す。 湿疹がひどい手首や膝には中くらいの強さのもの、皮膚が薄い顔などには1段階弱いものと、症状や部位によってステロイドを使い分ける。朝晩、シャワーを浴びさせた後、保湿剤とともにテカテカと光るぐらいに、たっぷりと塗った。3~4日で長女はかゆみを訴えなくなり、膝の赤みやゴワゴワと厚くなった皮膚も回復してきた。
高増さんは「副作用の不安でステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない。きちんと治療するには、十分な量を使うことが大切」と話す。(2010年12月15日 読売新聞)
http://megalodon.jp/2010-1215-1723-30/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34434
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読売新聞で、昨日からアトピーの連載がはじまりました。やや食傷気味ではありますが、コメント加えていこうかと思います。
とりあえず、明らかに医学的におかしい部分を太字にしてみました。
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ステロイドを使うと副作用でかえって悪化するのではとの誤解
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これは、ステロイド外用剤によって依存に陥る例があるという事実を無視している点でおかしいです(別にステロイドを使うと全例が依存に陥ると言っているわけではありません)。
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ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったりする副作用があるとの誤り
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これも、ステロイド外用剤のもつ依存性・抵抗性のはなしです。薬理学的にも動物実験モデルが完成しているレベルですし、現役の皮膚科教授を含む臨床医による多くの報告・警告があります。 古江先生らによるアトピー性皮膚炎の標準治療のホームページには、ステロイド外用剤に依存性や抵抗性という副作用がないなどとは、一言も書かれていません。ただ、無視され、触れられずにいるだけです。(というか、古江先生自身が、標準治療でよくならない=塗っても効かない・悪くなる例がかなりの率で存在するというデータを出しています)。
その意味に、読売新聞の記者のかたは、気がついて欲しいものです。皮膚科医は、「ステロイド外用剤に依存性や抵抗性は存在しない」と、2010年の現在、明言できません。医学的に誤ったことを発信することになるからです。
しかし、それを新聞記者に書かせるのはOKです。あとで責められたときに、記者が誤解して書いたことにすればいいですからね。
一方、高増哲也先生が、「徐々に効果がなくなったりはしないこと」を、本当に患者に明言したかどうか、ステロイド依存の認識の無い医師であるのかどうか?は、わたしにはわかりません。 皮膚科医のなかにも、多くの医学論文の存在にもかかわらず、勉強不足ゆえ、ステロイド外用剤のもつ、この特殊な副作用に無知な先生はまだまだ多いです。また、小児科の先生は、以前大矢先生のはなしで記したように、以下の理由からステロイド依存という現象を知らないあるいは軽く見ているかたが多いです。
1)小児は外用歴が浅く、依存例そのものが少ない。依存に陥っていない患者のステロイド恐怖をまずは取り除くことのほうが喫緊だ、と小児科医が考えたとしてもおかしくはない。
2)小児科医は喘息をも診る。喘息での標準治療であるステロイド吸入剤や内服ステロイドで、依存性・抵抗性は問題となっていない(喘息でもステロイド抵抗性のものはあるが、まったく異なる遺伝的なメカニズム)ので、外用剤におけるこの特殊な副作用に気がついていない小児科医は多い。(ステロイド依存は、表皮・角層という皮膚に特有のバリア機能の破壊メカニズムが関係しますからね。気道や腸管といった粘膜では依存は成立しないようです。)
朝日新聞のときには、東京逓信病院皮膚科の江藤医師が登場しましたが、依存やリバウンドについては明言していません(賢明ですね)。成育医療センター小児科の大矢医師も、アトピー性皮膚炎の標準治療のホームページの「ステロイド外用剤」の項を担当していますが、依存やリバウンドについてはまったく触れていません。大矢先生や高増先生といった「小児科医」を用いて、ステロイド依存問題の封じ込めを続けようというのは、古江先生らの最近の戦術かなあ、と感じます。自分たちに責任がかかってきませんからね。小児科医の先生がたに火中の栗を拾わせるわけです。
朝日の記事を読み直して見ましたが、
ーーーーー
ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったりする副作用があるとの誤り
ーーーーー
といった、明らかな医学的誤りは書かれていなかったなあ。もう一度記しますが、古江先生らのホームページには、そんなことは一言も書かれてないはずです。記者さん、うまく踊らされましたね。
あるいは、高増先生が、喘息には詳しくても、アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤依存に関して、皮膚科領域で多くの論文が蓄積されていることを知らずに、本当にそう言ったのでしょうか?もしそうなら、他の先生にも聞いて裏を取るなりするべきでした。
いずれにせよ、この一文、明らかな医学的誤りを新聞記事として発信してしまったという点で、取り返しがつかないですね。それも報道ではなく医学記事として。学術担当記者失格といっても、過言ではないのじゃないかなあ。朝日の記事のほうが、まだましでした。読売の連載はまだ続くようなので、この明らかな医学的誤りだけは、訂正の一文付しておいたほうがいいのじゃないでしょうか?記事は残り、語り継がれますからね。
とりあえず、患者の皆様、朝日のときと同様、記事への感想をメールで送りましょう。[email protected]です。わたしは既に送りました。(患者の皆様の中には「そんなことどうでもいいから、治してくれ、治療の研究をしてくれ。俺たちは治りさえすればステロイド論争なんてどうでもいいんだ!」とおっしゃる向きもあるでしょうが、治すため、治るための社会的環境を整えるってのは重要です。なんとか離脱しようとリバウンドを耐えているときに「読売新聞にこう書いてあったよ」と親しい知人や家族にそれも親切心から言われたら、堪らないでしょう?マスコミの影響は大きいです。ひとりひとりの患者が、地道に声を上げて、誤りを正すよう訴えていくしかないんです。)
15日の記事の最後の文章、
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ステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない
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これも、微妙ですね。ステロイドを外用することで表皮バリアの破壊が進むわけですから(見かけは確かにきれいな皮膚になりますが、炎症起こしやすい皮膚になってしまう)。1990年代には、皮膚科の権威筋の先生がたはよくこういう言い方してましたが、いまはもうバタッと止んだことは、前に記しました。ひょっとしたら、高増先生が、最近の皮膚科領域の海外の医学論文に目を通していないということかなあ?
2010.12.15