読売新聞2011年4月26日の記事中の古江増隆先生のコメントの嘘?
ーーーーー(ここから引用)-----
【続・アトピー性皮膚炎(5)Q&A ステロイドが治療の柱】
1980年、東大医学部卒。同皮膚科助教授などを経て、97年から現職。日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長。 アトピー性皮膚炎の治療を巡る問題点について、九大教授(皮膚科学)の古江増隆さんに聞きました。
――身近な医療機関での治療に不満を持つ患者が少なくないですね。
アトピー性皮膚炎の複雑な病態が要因です。ストレスや環境の変化などから、これまで効いていたはずのステロイド(副腎皮質ホルモン)剤ではコントロールしづらくなり、症状が急変することがあるためです。医師が十分に説明し、患者との意思疎通もしっかりしてステロイドを適切に処方することが不可欠です。残念ながらこれがうまくいっていないケースが見られます。
――治療にはステロイドが必要ですか。
ステロイドの塗り薬を柱とした薬物治療は必要です。大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります。「ステロイドを使わずに治癒できる」との指摘もありますが、いわば10人のうちの1人に着目しているだけ。残る9人は放置すると症状が悪化し、感染症の危険も高まります。 症状別にみると、軽症が70%、中等症が15%。中等症以下の85%の患者はステロイドで良くなります。残りの重症・最重症の15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます。免疫抑制剤の飲み薬であるシクロスポリンの服用や紫外線療法を行います。 使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません。薬の量や強さが炎症の程度に釣り合わないだけなのに、効かないと思い込む人が大多数です。
――だが、患者の中にはステロイドに対する不信感が依然としてあります。
かつての「ステロイド批判」の影響が大きい。当時、私の患者も半数がステロイドの使用を拒否しました。症状が悪化していく患者を前に、多くの医師が自信を失い、私自身も悩みました。患者の不安につけ込む悪質な民間療法も横行し、治療の現場も混乱しました。日本皮膚科学会が2000年に指針を策定して治療の方向性を整理したのも、こうした背景があります。
――指針の策定後、何が変わりましたか。
指針は、ステロイドの塗り方や治療の考え方を盛り込むなど、患者が読んでも分かりやすい内容を目指して改訂を重ねています。学会も相談会などを各地で開き、啓発活動に取り組んできました。ステロイドをかたくなに拒む患者は激減していると思います。
――医師と患者の意思疎通が不十分なケースも目立ちます。
治療は医師と患者の共同作業で、認識を共有することが重要です。どの程度の強さと量の薬を使うかや、治療の見通しが不明瞭なため患者が抱く不安に、医療側が十分応えてこなかった側面がありました。例えば「1か月でかゆみを半減し、子どもが夜泣きしなくなる」「かきむしった傷口が治り、布団に血がにじまなくなる」といった具体的な目標を示す姿勢が大切です。(野村昌玄)
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2011-0426-1030-15/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39967
この記事はインタビューの形式をとってはいますが、ほんとうに古江先生がおっしゃったことが、正しく読者に伝えられているかは疑問です。なぜなら、記者が、「明らかな医学的誤り」を発信してきた野村記者だからです。ですから、表題は「嘘?」としました。
ーーーーー
「15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます」
「使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません」
ーーーーー
この二つの文章がどちらも正しいとするならば、15%の「ステロイドが効かない体質」のひとたちは、生来、すなわち、はじめてステロイドを外用したときから、まったくステロイドが効かなかったことになります。そのようなアトピー患者は存在しません。誰でも、どんなアトピー患者でも、はじめてステロイド外用剤を使ったときには、劇的に効きます。したがって、この二つの文章は、少なくともどちらかが誤っています。
どうして、こういう、一読して明らかな、単純な論理的矛盾に、この記者は気がつかないんだろう?・・
おそらくですが・・古江先生というかたは、わたしの知る限り、温厚で「嘘」はつかないですが、ときに歯切れの悪い説明になります。なので、野村記者が「ステロイドが徐々に効かなくなることはあるんですか無いんですか?」という質問に対し、なにかはっきりしない返事をなさったのではないかなあ。それが思い込みの強い野村記者によって変換されて、このようなインタビュー記事になったということではないだろうか・・。
あるいは、インタビューで、古江先生が、意図的に誤解しやすい言い回しをした、っていうことはありえますけどね。自分が直接書く文章ではないから、いざとなれば、記者さんのせいにできますから。
「ステロイドが徐々に効果を失う」というのは、依存性・抵抗性のはなしです。中止してリバウンドを生じなければ抵抗性だし(→こちら)、
リバウンドを生じれば依存性です。どちらも確立された医学的根拠のある話です。古江先生ら標準治療推進派にとっては都合の悪い話なので、九大皮膚科のホームページには一切記されていませんが、否定もされていません。否定したら「嘘」をついたことになりますからね。
・・ていうか、野村記者、20日の「続・アトピー性皮膚炎(2)処方薬知らずに副作用」http://megalodon.jp/2011-0426-1137-34/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39692で、ステロイドによる酒さ様皮膚炎について書いてるじゃん。酒さ様皮膚炎って、顔面に生じたステロイド外用剤による依存のことですよ。酒さ様皮膚炎というのは、ステロイドが最初は効くが、だんだん効かなくなってきて生じます。さすがに、これを否定する皮膚科医は日本全国ひとりもいないと思いますが・・。議論(というか標準治療推進派の皮膚科医とわたしたち脱ステ医の見解が異なる点)は、顔や腋・股間などだけでなく、躯幹や四肢など、全身の皮膚において「ステロイド依存」現象が起きるのか起きないのか?です(注)。この点からだけでも、「使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません」のくだりが、古江先生の言葉そのままと解釈するのは、おかしいことがわかります。
野村記者は、直観・思い込みが強いタイプの記者なのでしょう。はじめに野村記者の文章を読んだとき、「これはアトピー患者が記したのではないだろうか?」と思いました。患者というのは、自分の個人的体験が基礎となるので、どうしても見解が偏りがちになるからです。しかし、そうではなさそうです。
直観と言うのは、これはこれで、ひとつの資質であり、大当たりすればスクープをものに出来る可能性がありますが、医療記事を書くにあたっては、極力排除されるべきです。
ふたたび、野村記者にお願いします。二度とアトピーの取材をなさらないでください。あなたにはあなたの資質に応じた、ほかの分野がきっとあるでしょう。思い込みの結果、情報をゆがめて発信し、これ以上患者の混乱を深めることはやめてください。
あと、これは野村記者の「思い込み」とは関係ない話ですが・・「15%」の数字についてです。この数字については、古江先生らの2003年の論文(→こちら)あたりが根拠と思われますが(2003年の論文では「コントロール不良は19%で、「軽症」「中等症」の比率も異なるので、ほかのデータがあるのかもしれません。しかし15%と19%ならだいたい似た値です。)、何をもって「コントロール良好」「コントロール不良」とするかで、%は変わってきます。基準の取り方を見直せば、50%が「コントロール不良」です(→こちら)。
また「大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります」の根拠もあやしいです。そもそも、「何もしない」なら、皮膚科にも受診しないでしょうから、把握・集計のしようがないではないですか。また、古江先生は「標準治療」をなさっているはずなので、成人発症の来院患者の一定数を、ステロイド外用剤を使わずに、一定期間フォローしてみた経験から、というわけでもないと思います。仮にそのような研究があったとしても、それは「成人患者のうち、病院を受診した群」についての集計なので、成人患者で何もしなかった全体を代表してはいません。
「1割くらいではないか」という古江先生の想像を、野村記者が根拠がある数字であるかのように記事にしてしまったということでしょうか?ほかに可能性を思い付きません。
ちなみに、いわゆる「脱ステロイド療法」で、ステロイド外用中の患者を離脱させた場合の、半年~一年くらいでの改善率は、1993年の玉置医師の報告によれば、69%くらいでした(→こちら)。しかし、これは、ステロイドを外用していた患者を離脱させたはなしなので、大人のアトピー患者を「何もせず」に一定期間経過観察したはなしとは言えません。
ほんとに、この「1割」って、どこから出てきた数字なのだろう?・・なんだか気味が悪いです。
(注)動画http://rutube.ru/video/de2e8fa2cbf5aad6215f40e8193bd9ee/の冒頭部分で、氷嚢でほてりを冷やしている患者を診て、「顔面の酒さ様皮膚炎と同じ病態が全身におきている」と判断するかしないかってことです。動画の患者さんの解説は→こちら ・・素人目にだって、これ「普通のアトピーの悪化じゃない」ことくらい、わかるでしょ?これを「アトピーの悪化だ、リバウンドではない」と言い張るのが「標準治療」の立場です。
2011.04.26
【続・アトピー性皮膚炎(5)Q&A ステロイドが治療の柱】
1980年、東大医学部卒。同皮膚科助教授などを経て、97年から現職。日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会委員長。 アトピー性皮膚炎の治療を巡る問題点について、九大教授(皮膚科学)の古江増隆さんに聞きました。
――身近な医療機関での治療に不満を持つ患者が少なくないですね。
アトピー性皮膚炎の複雑な病態が要因です。ストレスや環境の変化などから、これまで効いていたはずのステロイド(副腎皮質ホルモン)剤ではコントロールしづらくなり、症状が急変することがあるためです。医師が十分に説明し、患者との意思疎通もしっかりしてステロイドを適切に処方することが不可欠です。残念ながらこれがうまくいっていないケースが見られます。
――治療にはステロイドが必要ですか。
ステロイドの塗り薬を柱とした薬物治療は必要です。大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります。「ステロイドを使わずに治癒できる」との指摘もありますが、いわば10人のうちの1人に着目しているだけ。残る9人は放置すると症状が悪化し、感染症の危険も高まります。 症状別にみると、軽症が70%、中等症が15%。中等症以下の85%の患者はステロイドで良くなります。残りの重症・最重症の15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます。免疫抑制剤の飲み薬であるシクロスポリンの服用や紫外線療法を行います。 使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません。薬の量や強さが炎症の程度に釣り合わないだけなのに、効かないと思い込む人が大多数です。
――だが、患者の中にはステロイドに対する不信感が依然としてあります。
かつての「ステロイド批判」の影響が大きい。当時、私の患者も半数がステロイドの使用を拒否しました。症状が悪化していく患者を前に、多くの医師が自信を失い、私自身も悩みました。患者の不安につけ込む悪質な民間療法も横行し、治療の現場も混乱しました。日本皮膚科学会が2000年に指針を策定して治療の方向性を整理したのも、こうした背景があります。
――指針の策定後、何が変わりましたか。
指針は、ステロイドの塗り方や治療の考え方を盛り込むなど、患者が読んでも分かりやすい内容を目指して改訂を重ねています。学会も相談会などを各地で開き、啓発活動に取り組んできました。ステロイドをかたくなに拒む患者は激減していると思います。
――医師と患者の意思疎通が不十分なケースも目立ちます。
治療は医師と患者の共同作業で、認識を共有することが重要です。どの程度の強さと量の薬を使うかや、治療の見通しが不明瞭なため患者が抱く不安に、医療側が十分応えてこなかった側面がありました。例えば「1か月でかゆみを半減し、子どもが夜泣きしなくなる」「かきむしった傷口が治り、布団に血がにじまなくなる」といった具体的な目標を示す姿勢が大切です。(野村昌玄)
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2011-0426-1030-15/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39967
この記事はインタビューの形式をとってはいますが、ほんとうに古江先生がおっしゃったことが、正しく読者に伝えられているかは疑問です。なぜなら、記者が、「明らかな医学的誤り」を発信してきた野村記者だからです。ですから、表題は「嘘?」としました。
ーーーーー
「15%の中にはステロイドが効かない体質の患者がいます」
「使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません」
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この二つの文章がどちらも正しいとするならば、15%の「ステロイドが効かない体質」のひとたちは、生来、すなわち、はじめてステロイドを外用したときから、まったくステロイドが効かなかったことになります。そのようなアトピー患者は存在しません。誰でも、どんなアトピー患者でも、はじめてステロイド外用剤を使ったときには、劇的に効きます。したがって、この二つの文章は、少なくともどちらかが誤っています。
どうして、こういう、一読して明らかな、単純な論理的矛盾に、この記者は気がつかないんだろう?・・
おそらくですが・・古江先生というかたは、わたしの知る限り、温厚で「嘘」はつかないですが、ときに歯切れの悪い説明になります。なので、野村記者が「ステロイドが徐々に効かなくなることはあるんですか無いんですか?」という質問に対し、なにかはっきりしない返事をなさったのではないかなあ。それが思い込みの強い野村記者によって変換されて、このようなインタビュー記事になったということではないだろうか・・。
あるいは、インタビューで、古江先生が、意図的に誤解しやすい言い回しをした、っていうことはありえますけどね。自分が直接書く文章ではないから、いざとなれば、記者さんのせいにできますから。
「ステロイドが徐々に効果を失う」というのは、依存性・抵抗性のはなしです。中止してリバウンドを生じなければ抵抗性だし(→こちら)、
リバウンドを生じれば依存性です。どちらも確立された医学的根拠のある話です。古江先生ら標準治療推進派にとっては都合の悪い話なので、九大皮膚科のホームページには一切記されていませんが、否定もされていません。否定したら「嘘」をついたことになりますからね。
・・ていうか、野村記者、20日の「続・アトピー性皮膚炎(2)処方薬知らずに副作用」http://megalodon.jp/2011-0426-1137-34/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39692で、ステロイドによる酒さ様皮膚炎について書いてるじゃん。酒さ様皮膚炎って、顔面に生じたステロイド外用剤による依存のことですよ。酒さ様皮膚炎というのは、ステロイドが最初は効くが、だんだん効かなくなってきて生じます。さすがに、これを否定する皮膚科医は日本全国ひとりもいないと思いますが・・。議論(というか標準治療推進派の皮膚科医とわたしたち脱ステ医の見解が異なる点)は、顔や腋・股間などだけでなく、躯幹や四肢など、全身の皮膚において「ステロイド依存」現象が起きるのか起きないのか?です(注)。この点からだけでも、「使っているステロイドが徐々に効果を失い、より強いものが必要となることはありません」のくだりが、古江先生の言葉そのままと解釈するのは、おかしいことがわかります。
野村記者は、直観・思い込みが強いタイプの記者なのでしょう。はじめに野村記者の文章を読んだとき、「これはアトピー患者が記したのではないだろうか?」と思いました。患者というのは、自分の個人的体験が基礎となるので、どうしても見解が偏りがちになるからです。しかし、そうではなさそうです。
直観と言うのは、これはこれで、ひとつの資質であり、大当たりすればスクープをものに出来る可能性がありますが、医療記事を書くにあたっては、極力排除されるべきです。
ふたたび、野村記者にお願いします。二度とアトピーの取材をなさらないでください。あなたにはあなたの資質に応じた、ほかの分野がきっとあるでしょう。思い込みの結果、情報をゆがめて発信し、これ以上患者の混乱を深めることはやめてください。
あと、これは野村記者の「思い込み」とは関係ない話ですが・・「15%」の数字についてです。この数字については、古江先生らの2003年の論文(→こちら)あたりが根拠と思われますが(2003年の論文では「コントロール不良は19%で、「軽症」「中等症」の比率も異なるので、ほかのデータがあるのかもしれません。しかし15%と19%ならだいたい似た値です。)、何をもって「コントロール良好」「コントロール不良」とするかで、%は変わってきます。基準の取り方を見直せば、50%が「コントロール不良」です(→こちら)。
また「大人の場合、患者の1割が何もせずに自然に治ります」の根拠もあやしいです。そもそも、「何もしない」なら、皮膚科にも受診しないでしょうから、把握・集計のしようがないではないですか。また、古江先生は「標準治療」をなさっているはずなので、成人発症の来院患者の一定数を、ステロイド外用剤を使わずに、一定期間フォローしてみた経験から、というわけでもないと思います。仮にそのような研究があったとしても、それは「成人患者のうち、病院を受診した群」についての集計なので、成人患者で何もしなかった全体を代表してはいません。
「1割くらいではないか」という古江先生の想像を、野村記者が根拠がある数字であるかのように記事にしてしまったということでしょうか?ほかに可能性を思い付きません。
ちなみに、いわゆる「脱ステロイド療法」で、ステロイド外用中の患者を離脱させた場合の、半年~一年くらいでの改善率は、1993年の玉置医師の報告によれば、69%くらいでした(→こちら)。しかし、これは、ステロイドを外用していた患者を離脱させたはなしなので、大人のアトピー患者を「何もせず」に一定期間経過観察したはなしとは言えません。
ほんとに、この「1割」って、どこから出てきた数字なのだろう?・・なんだか気味が悪いです。
(注)動画http://rutube.ru/video/de2e8fa2cbf5aad6215f40e8193bd9ee/の冒頭部分で、氷嚢でほてりを冷やしている患者を診て、「顔面の酒さ様皮膚炎と同じ病態が全身におきている」と判断するかしないかってことです。動画の患者さんの解説は→こちら ・・素人目にだって、これ「普通のアトピーの悪化じゃない」ことくらい、わかるでしょ?これを「アトピーの悪化だ、リバウンドではない」と言い張るのが「標準治療」の立場です。
2011.04.26