離脱(リバウンド)の際に飲水制限が有用なメカニズムについての仮説
ややこしいというか、学術的な話から入ります。腰をすえてお付き合いください。
ステロイドはGR(glucocorticoid receptor)に結合することから作用が始まります。先回の記事(→こちら)は、このGRについてのお話でした。
しかし、実はステロイドが結合するのは、GRだけではありません。MR(mineralocorticoid receptor)にも結合して、GRとは別の作用を引き起こようです。
これは比較的新しいお話です。発端となったのは、2015年の下記論文です。
Topical Mineralocorticoid Receptor Blockade Limits. Glucocorticoid-Induced Epidermal Atrophy in Human Skin
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25668238
下図で、Aはコントロール、Bはステロイド(Clobetasol)を外用して表皮が萎縮したところ、CはMR拮抗薬であるSpironolactoneを外用したあとでAと変わりません。Dは両者を外用したところで、表皮は萎縮していますが、Bよりは軽度です。
ステロイドはGR(glucocorticoid receptor)に結合することから作用が始まります。先回の記事(→こちら)は、このGRについてのお話でした。
しかし、実はステロイドが結合するのは、GRだけではありません。MR(mineralocorticoid receptor)にも結合して、GRとは別の作用を引き起こようです。
これは比較的新しいお話です。発端となったのは、2015年の下記論文です。
Topical Mineralocorticoid Receptor Blockade Limits. Glucocorticoid-Induced Epidermal Atrophy in Human Skin
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25668238
下図で、Aはコントロール、Bはステロイド(Clobetasol)を外用して表皮が萎縮したところ、CはMR拮抗薬であるSpironolactoneを外用したあとでAと変わりません。Dは両者を外用したところで、表皮は萎縮していますが、Bよりは軽度です。
MR拮抗薬を外用すると、ステロイドによるGRを介した表皮萎縮作用が中和されるようです。
著者は、ステロイドと同時にMR拮抗薬をも外用することで、表皮萎縮というステロイドの副作用が防止できるのではないかと考察しています。
MR拮抗薬は、昔からある利尿剤です。にきびのお薬として外用で試されたこともあり、安全性は高そうです。下図は、MR拮抗薬の製剤です。内服薬(アルダクトンA)と注射薬(ソルダクトン)。
著者は、ステロイドと同時にMR拮抗薬をも外用することで、表皮萎縮というステロイドの副作用が防止できるのではないかと考察しています。
MR拮抗薬は、昔からある利尿剤です。にきびのお薬として外用で試されたこともあり、安全性は高そうです。下図は、MR拮抗薬の製剤です。内服薬(アルダクトンA)と注射薬(ソルダクトン)。
ちょうど中間分子量ヒアルロン酸(→こちら。私が「ヒアルプロテクト」として製品化しました)と同じ効果に見えます。
しかしこれらは、ヒアルプロテクトのように化粧品として流通させることはできません。なぜかというと、アルダクトンAにしろソルダクトンにしろ、医薬品なので、化粧品材料として配合ができないからです。
クロフィブラート軟膏のように、カルテを作って院内製剤として作成処方することはできます。どうしたものかと迷っていたところ、新しい論文が出ました。
Epidermal Mineralocorticoid Receptor Plays Beneficial and Adverse Effects in Skin and Mediates Glucocorticoid Responses.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27464843
この論文では、表皮にMRの存在しないマウス(MREKO)を作製して、正常なマウスと比較しています。表皮にMRの存在しないマウスですから、MR拮抗薬を完全に効かせた状態と同じと言えます。
MREKOでは、ステロイドを外用した後の表皮の萎縮は抑えられるのですが、同時に刺激に対する反応が強くなってしまうようです。ほかにもSDSという化学薬品に対する皮膚の肥厚という反応が増強したり、表皮細胞の遊走能が低下して創傷治癒が遅れるなど、副反応がいろいろ出ます。
これから考えられることは、MRはGRと同様ステロイドと結合して、GRと同様の抗炎症作用を示しますが、GRと異なった作用をも併せ持つ、ということです。
中間分子量ヒアルロン酸については、このような作用は報告されていません。一方MR拮抗薬は、中間分子量ヒアルロン酸同様、ステロイドによる表皮萎縮を防止しますが、同時にステロイドがMRを介して発揮していた抗炎症作用をも弱めてしまう、ということのようです。
さて、ここで気になることがあります。それは阪南中央病院の佐藤先生が提唱する「飲水制限をすると脱ステロイド(リバウンド)が抑えられる」という経験的治療法です。
脱水になりますと、血液中の抗利尿ホルモン(アルドステロン)が増加します。MRというのは、まさにアルドステロンのレセプターなのですから、表皮のMRを介して、ステロイド(コルチゾール)同様に働くという可能性があります。
アトピー性皮膚炎では、表皮細胞のGRが減弱しているということは先回の記事で取り上げました(→こちら)。しかし、MRについては不明です。
また、GRはステロイド抵抗性に関係が薄いようでしたが、ひょっとしたらMRの増減は関係しているのかもしれません。例えばですが、アトピー患者ではGRの減弱にたいして、これを補うべくMRが増加しているかもしれません。そして、ステロイド抵抗性は、MRの代償的増加がみられない例であるのかもしれないし、もしも離脱時にGRよりもMRのほうが先に回復するのであれば、飲水制限が離脱に有用である理由となります。
ちょっと解りにくくなってしまったんで、一言でまとめます。「表皮細胞にはMRというレセプターがあって、ステロイド(コルチゾール)がこれにくっつくとGRと同様の抗炎症効果をもたらす。ということは、飲水制限で血中アルドステロン(本来MRにくっつくホルモン)が増加すれば、表皮はコルチゾールを外用したのと同様の抗炎症作用を示すだろう。」です。
図解してみました。解るでしょうか? MR拮抗薬が投与されると、表皮の萎縮は減少しますが、NFκBへの抑制が弱まって、表皮細胞によるIL6などの炎症性サイトカインの産生が増します。飲水制限はアルドステロンを増やすので、MRと結合してNFκBを抑え、炎症性サイトカインの産生を弱めます。
しかしこれらは、ヒアルプロテクトのように化粧品として流通させることはできません。なぜかというと、アルダクトンAにしろソルダクトンにしろ、医薬品なので、化粧品材料として配合ができないからです。
クロフィブラート軟膏のように、カルテを作って院内製剤として作成処方することはできます。どうしたものかと迷っていたところ、新しい論文が出ました。
Epidermal Mineralocorticoid Receptor Plays Beneficial and Adverse Effects in Skin and Mediates Glucocorticoid Responses.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27464843
この論文では、表皮にMRの存在しないマウス(MREKO)を作製して、正常なマウスと比較しています。表皮にMRの存在しないマウスですから、MR拮抗薬を完全に効かせた状態と同じと言えます。
MREKOでは、ステロイドを外用した後の表皮の萎縮は抑えられるのですが、同時に刺激に対する反応が強くなってしまうようです。ほかにもSDSという化学薬品に対する皮膚の肥厚という反応が増強したり、表皮細胞の遊走能が低下して創傷治癒が遅れるなど、副反応がいろいろ出ます。
これから考えられることは、MRはGRと同様ステロイドと結合して、GRと同様の抗炎症作用を示しますが、GRと異なった作用をも併せ持つ、ということです。
中間分子量ヒアルロン酸については、このような作用は報告されていません。一方MR拮抗薬は、中間分子量ヒアルロン酸同様、ステロイドによる表皮萎縮を防止しますが、同時にステロイドがMRを介して発揮していた抗炎症作用をも弱めてしまう、ということのようです。
さて、ここで気になることがあります。それは阪南中央病院の佐藤先生が提唱する「飲水制限をすると脱ステロイド(リバウンド)が抑えられる」という経験的治療法です。
脱水になりますと、血液中の抗利尿ホルモン(アルドステロン)が増加します。MRというのは、まさにアルドステロンのレセプターなのですから、表皮のMRを介して、ステロイド(コルチゾール)同様に働くという可能性があります。
アトピー性皮膚炎では、表皮細胞のGRが減弱しているということは先回の記事で取り上げました(→こちら)。しかし、MRについては不明です。
また、GRはステロイド抵抗性に関係が薄いようでしたが、ひょっとしたらMRの増減は関係しているのかもしれません。例えばですが、アトピー患者ではGRの減弱にたいして、これを補うべくMRが増加しているかもしれません。そして、ステロイド抵抗性は、MRの代償的増加がみられない例であるのかもしれないし、もしも離脱時にGRよりもMRのほうが先に回復するのであれば、飲水制限が離脱に有用である理由となります。
ちょっと解りにくくなってしまったんで、一言でまとめます。「表皮細胞にはMRというレセプターがあって、ステロイド(コルチゾール)がこれにくっつくとGRと同様の抗炎症効果をもたらす。ということは、飲水制限で血中アルドステロン(本来MRにくっつくホルモン)が増加すれば、表皮はコルチゾールを外用したのと同様の抗炎症作用を示すだろう。」です。
図解してみました。解るでしょうか? MR拮抗薬が投与されると、表皮の萎縮は減少しますが、NFκBへの抑制が弱まって、表皮細胞によるIL6などの炎症性サイトカインの産生が増します。飲水制限はアルドステロンを増やすので、MRと結合してNFκBを抑え、炎症性サイトカインの産生を弱めます。
GR同様、MRを染色する抗体は市販されているようなので、これも購入して、これまで生検にご協力いただいた方々のサンプルで染色してみようと思います。
引き続き生検にご協力いただける患者の皆様を募集しています。乳幼児およびステロイド長期外用中の方、とくによろしくお願いいたします。
(2016.10.06記)
引き続き生検にご協力いただける患者の皆様を募集しています。乳幼児およびステロイド長期外用中の方、とくによろしくお願いいたします。
(2016.10.06記)
私が作製した中間分子量ヒアルロン酸化粧水「ヒアルプロテクト」のショップはこちら(下の画像をクリック)