cam_engl氏のブログ記事の誤り・その6
cam_engl氏がブログに下のような記事をUPした(→こちら)。
氏は、「この論文の結果では、脱ステロイドをしていようが、していまいが、重症アトピー性皮膚炎は血中コルチゾールの低下が高確率でみられている」と前置きしてはいるが、そのあとで、1)重症アトピー性皮膚炎は血中コルチゾール値が低い、2)脱ステロイドをして重症化している人を見かける、と記している。
氏が言いたいのは、脱ステロイドをして重症化して血中コルチゾールが低下している場合があるから、その場合は、ステロイドを再開したほうが良いのではないか?ということだろうが、氏はおそらく副腎不全のアトピー性皮膚炎患者を治療した経験が無いのだろう。副腎クリーゼを起こしていない軽度の副腎不全患者においては、内服外用を含め、ステロイドを減量または中止することこそが治療の基本となる(クリーゼ症状を伴う場合は内服ステロイドの絶対適応となる。外用ステロイドが必要な副腎不全などという病態は存在しない)。
軽度の副腎不全の場合には、減量中止することで体がなれて、時間経過と共に副腎が回復していく。副腎とはそういうものであり、内分泌内科的治療のいろはだ。 だから、引用された論文で、脱ステロイドの患者にステロイド治療が行われたとしても、それはあくまで皮膚炎に対してであって「血中コルチゾールが低下しているからステロイドを塗りましょう」であるわけがない。むしろ「脱ステロイドでコルチゾールの低い患者にステロイド外用治療を行いましたが、幸いなことに副腎不全は進行しませんでした」である。
ついでだから、cam_engl氏が漂わせた気色の悪い臭いを消すために、2つ論文を引用しておく。ひとつめは、現京大皮膚科教授の宮地先生が若いころに書いた論文。もうひとつは内分泌内科発の論文。
臨床皮膚科 34巻;p889-892 (1980)
氏が言いたいのは、脱ステロイドをして重症化して血中コルチゾールが低下している場合があるから、その場合は、ステロイドを再開したほうが良いのではないか?ということだろうが、氏はおそらく副腎不全のアトピー性皮膚炎患者を治療した経験が無いのだろう。副腎クリーゼを起こしていない軽度の副腎不全患者においては、内服外用を含め、ステロイドを減量または中止することこそが治療の基本となる(クリーゼ症状を伴う場合は内服ステロイドの絶対適応となる。外用ステロイドが必要な副腎不全などという病態は存在しない)。
軽度の副腎不全の場合には、減量中止することで体がなれて、時間経過と共に副腎が回復していく。副腎とはそういうものであり、内分泌内科的治療のいろはだ。 だから、引用された論文で、脱ステロイドの患者にステロイド治療が行われたとしても、それはあくまで皮膚炎に対してであって「血中コルチゾールが低下しているからステロイドを塗りましょう」であるわけがない。むしろ「脱ステロイドでコルチゾールの低い患者にステロイド外用治療を行いましたが、幸いなことに副腎不全は進行しませんでした」である。
ついでだから、cam_engl氏が漂わせた気色の悪い臭いを消すために、2つ論文を引用しておく。ひとつめは、現京大皮膚科教授の宮地先生が若いころに書いた論文。もうひとつは内分泌内科発の論文。
臨床皮膚科 34巻;p889-892 (1980)
ホルモンと臨床 46 巻:p138-145 (1998)
氏が引用した論文を見て「脱ステ3例が全員副腎不全で、ステロイド治療していた患者では17人中13人なら、100%と76%で、脱ステのほうが副腎不全を起こしやすいのではないか?と早合点する人がいるかもしれない。氏の引用に、わざわざ数字の部分が黄色でマークしてあるのは、そのような誤解を氏が促しているように、穿ってみることもできる。こういう場合、統計的には、以下のように考える。
すなわち、ステロイド使用・不使用とで、コルチゾール低下の有無に有意差は無い。
もしn数を増やしていけば、普通に考えて、ステロイド使用(にも関わらず重症な)患者のほうが副腎機能低下例は多くなるだろう。なぜなら、医原性の副腎不全の症例が加わっているからだ。仮説と言うよりも、ほとんど自明に近い。
今回の氏の記事は、誤りというよりも、氏が実際に副腎不全のアトピー性皮膚炎患者を治療した経験が無いのみならず、そのような患者に接した場合の、内分泌内科的な知識のいろはすら持ち合わせていないことを露呈したものであった。もし氏が本当に医師であったとしたら実にお粗末極まりない。恥ずかしい限りだ。
追記
cam_engl氏が以下のように追記した。
もしn数を増やしていけば、普通に考えて、ステロイド使用(にも関わらず重症な)患者のほうが副腎機能低下例は多くなるだろう。なぜなら、医原性の副腎不全の症例が加わっているからだ。仮説と言うよりも、ほとんど自明に近い。
今回の氏の記事は、誤りというよりも、氏が実際に副腎不全のアトピー性皮膚炎患者を治療した経験が無いのみならず、そのような患者に接した場合の、内分泌内科的な知識のいろはすら持ち合わせていないことを露呈したものであった。もし氏が本当に医師であったとしたら実にお粗末極まりない。恥ずかしい限りだ。
追記
cam_engl氏が以下のように追記した。
このデータを見れば、内分泌内科的な知識のある人なら、すぐにピンと来る。「これは、コルチゾールの日内変動が是正されただけだろう」。
健常人では、血中コルチゾールというのは、下図のようなリズムである。
健常人では、血中コルチゾールというのは、下図のようなリズムである。
一方、アトピーで夜間不眠の場合、リズムは下図のように変わる。
だから、早朝血中コルチゾール値のみで、副腎機能が真に低下しているかどうかは判定できない。高ければ副腎機能は低下していないが、低くても日内変動のシフトによるのかもしれないので、早朝低すぎる場合には、昼ごろの採血を追加して確認する必要がある。
もっとも、それ以前に、ピーク時1.0~1.5 μg/dlであれば、人間は普通に生活できない。よろよろと歩いてもすぐに倒れこんでしまうレベルだ。当然、内服ステロイドによる補充療法の適応になる。そうしないと危険だ。
コートリル(ヒドロコルチゾン)2錠くらいから始めて、数週~数ヶ月単位で減量し、さらに隔日から徐々に間隔をあけて、副腎の回復を待つ。内服からの離脱に最低1年はかかる。外来通院でいいし、仕事もしながらで良い。万が一のためにすぐに入院させられる環境を用意した上で、外来でrapid ACTH testを半年おきに行いながら、慎重に減量・中止を判断する。むかし、医原性のステロイドによる副腎不全のアトピー患者を、私は何人もそうやって治療した。外用が効かなくなり、内服ステロイドを処方されて、ずるずると一年二年三年と続いてしまって、副腎不全に陥った気の毒な患者たちだ。
ステロイドは処方するのはたやすい。中止・減量は本当に辛い。
脱ステロイド・あるいはステロイド不使用を相当期間続けている患者で、アトピー自体が重症なために副腎不全で補充療法が必要となった、という患者を私は経験したことがないし、報告も見たことが無い。アトピー性皮膚炎の重症患者で、コルチゾール分泌レベルが軽度低下しているかどうかは、そこ何か意味が隠されているかもしれない点で学問的には関心事かもしれないが、臨床的には無意味である。
この論文の学会発表時の抄録がネット上にあった(→こちら)。「入院時(第2病日)と退院時の早朝(7時~8時)に血中コルチゾール値を測定」とあり、「入院期間は平均13.3日」「血中コルチゾール値が基準値に復するのに必要な入院期間は平均4.8日」とある。入院して2週間規則正しい生活をして、コルチゾールの日内変動リズムが正常に戻った、それだけのことだ。
睡眠障害による血中コルチゾールリズムのシフトを、広い意味での「副腎機能不全」と言えなくもないので、この発表・論文にケチをつける気も無いが、cam_engl氏のような人が、ネット上で生半可な医学知識を振りかざして情報発信すると、今回のようなわけのわからないブログ記事となる。
いったい氏は、今回、何を書きたかったのか?藁をもすがる思いで、ネットで情報を集めようとする患者に、混乱を与えただけだと私は感じる。
2013.03.25
もっとも、それ以前に、ピーク時1.0~1.5 μg/dlであれば、人間は普通に生活できない。よろよろと歩いてもすぐに倒れこんでしまうレベルだ。当然、内服ステロイドによる補充療法の適応になる。そうしないと危険だ。
コートリル(ヒドロコルチゾン)2錠くらいから始めて、数週~数ヶ月単位で減量し、さらに隔日から徐々に間隔をあけて、副腎の回復を待つ。内服からの離脱に最低1年はかかる。外来通院でいいし、仕事もしながらで良い。万が一のためにすぐに入院させられる環境を用意した上で、外来でrapid ACTH testを半年おきに行いながら、慎重に減量・中止を判断する。むかし、医原性のステロイドによる副腎不全のアトピー患者を、私は何人もそうやって治療した。外用が効かなくなり、内服ステロイドを処方されて、ずるずると一年二年三年と続いてしまって、副腎不全に陥った気の毒な患者たちだ。
ステロイドは処方するのはたやすい。中止・減量は本当に辛い。
脱ステロイド・あるいはステロイド不使用を相当期間続けている患者で、アトピー自体が重症なために副腎不全で補充療法が必要となった、という患者を私は経験したことがないし、報告も見たことが無い。アトピー性皮膚炎の重症患者で、コルチゾール分泌レベルが軽度低下しているかどうかは、そこ何か意味が隠されているかもしれない点で学問的には関心事かもしれないが、臨床的には無意味である。
この論文の学会発表時の抄録がネット上にあった(→こちら)。「入院時(第2病日)と退院時の早朝(7時~8時)に血中コルチゾール値を測定」とあり、「入院期間は平均13.3日」「血中コルチゾール値が基準値に復するのに必要な入院期間は平均4.8日」とある。入院して2週間規則正しい生活をして、コルチゾールの日内変動リズムが正常に戻った、それだけのことだ。
睡眠障害による血中コルチゾールリズムのシフトを、広い意味での「副腎機能不全」と言えなくもないので、この発表・論文にケチをつける気も無いが、cam_engl氏のような人が、ネット上で生半可な医学知識を振りかざして情報発信すると、今回のようなわけのわからないブログ記事となる。
いったい氏は、今回、何を書きたかったのか?藁をもすがる思いで、ネットで情報を集めようとする患者に、混乱を与えただけだと私は感じる。
2013.03.25