Cold turkey
「Cold turkey(冷たい七面鳥)」ってスラング御存知のかたって、いらっしゃいますか?ドラッグとか薬物を一気にやめるときに用いられる語です。むかし、わたしが診ていた患者の中に、英語が上手なひとがいて、「アメリカのアトピー患者のメーリングリストで、Cold turkeyって言葉がよく出てきて、ステロイドを一気にやめる意味みたいなんですが、なんでCold turkeyって言うんでしょう?」と聞かれて、わからなくて困った記憶があります。
(漫画はWeb版London’s Timesからの引用です)
調べてみると、Cold turkeyの語源は、下記のようでした。
The etymology derives from the phrase talk turkey, in which someone deals matter-of-factly with a subject. Some, however, believe the derivation is from the comparison of a cold turkey carcass and the state of a withdrawing addict — most notably, the cold sweats and goose bumps. It is often preceded by the verb "to go," as in "going cold turkey." Yet another suggestion of origin is that cold turkey is a dish that needs little or no preparation. "To quit like cold turkey" would be to quit in the same way a cold turkey is served, instantly just as you are without preparation.
(Cold turkeyの語源は、「talk turkey:七面鳥のように話す」から来ている。誰かが物事を事務的に話すとき、こう形容する(注:あっさりと何の愛想もなく止める、という意味なんでしょう)。しかし、七面鳥の冷たい死骸が、ドラッグをやめようとしている者が、冷たい汗と鳥肌(goose bumps)を立てている様子と似ているからだというひともいる。「行く」という動詞と用いられることが多い(「Cold turkeyで行こう=一気にやめよう」)。もうひとつの説は、冷たい七面鳥料理というのは、準備の手間がかからないので、「Cold turkeyのように止めよう」=「冷たい七面鳥料理を出すように手間暇かけずにすぐに止めよう」というものである。)
さて、なんでCold turkeyの話を振ったかというと、1974年のDr.KligmanのSteroid Addictionの論文にも、「Cold turkey」という語が出てくるからです。
-----(ここから引用)-----
For stalwart, stoical patients, we have used "cold turkey." replacing the steroid with lubricaling cream, applied liberally q.i.d. to induce dehydration. The first few weeks will be a living hell. The time required for the skin to return to normal depends on the degree of atrophy. Long-term addicts may have damage which cannot be completely reversed,but for the most part great improvement can be anticipated over a period of months. It is not wise to underestimate the time required. For most patients, we follow a weaning protocol, using first 2.5% hydrocortisone for several weeks with a warning that this may not completely prevent a rebound flare. Eventually we drop to 1.0% hydrocortisone and finally we substitute lubricating cream, at which time a minor flare is not unusual.
(強く我慢強い患者には、われわれは「Cold turkey」すなわち、ステロイドを一気にやめて、保湿クリームに置き換える方法をとる。たっぷりと処方し油で覆ってやる。最初の数週間は生き地獄である。皮膚がもとの姿に戻るまでの時間は、皮膚萎縮の度合いによる。長期間皮膚がステロイド依存の状態にあった場合には、完全には元に戻らない。しかし、大部分は数ヶ月後には、著明に改善する。必要な期間を短く見積もることは賢明ではない。 たいていの患者には、われわれは漸減法で対処する。すなわち、2.5%のハイドロコーチゾンを数週間用いる。しかし、これで完全にリバウンドを防止できるとは限らないことは、よく言い聞かせておく。そのうち、1.0%に置き換えて、最後には、保湿クリームのみとする。そのときに小さなリバウンドが来ることは稀ではない。)
-----(ここまで引用)-----
わたしが、脱ステロイドの診療に携わっていたころ、よく言われたのは、「いきなりステロイドを切ったら、危険じゃないか?」というものでした。当時は、そう言う先生たちに何度説明しても、わかってもらえなかったのですが、止める・止めない、あるいは、いきなり止める・ゆっくり止める、っていうことについては、完全に患者に主導権を委ねていた(委ねるべきだと考えていた)、ということです。
どういうことかというと、わたしは、Cold turkeyの道を、自ら選択した患者を、ただただ、受け入れて診ていました。なぜかというと、わたしがもし「Cold turkeyは、大変だから、時間をかけて漸減しましょう」と言って、それに従う患者しか診ないことにしたら、ステロイド依存から医療不信に陥って、頑なにCold turkeyを選んだ患者たちは、行き先が無くなって、自宅で一人で離脱する道を選んだことでしょう。それこそ、まさに医学的に危険なことです。 わたしから「一気に止めなさい」と言ったことは、ただの一度もありませんでした。
では、いったい何をやっていたのだ?と不思議に思うひとも多いでしょうが、逆に聞きたいのですが、医者の仕事って、ステロイド外用剤の種類や量を決めることだけですか?感染症の管理や、眼の合併症チェック、メンタルサポート、そういったことのほうが、はるかに重要だと考えました。ステロイドの減らし方なんていうのは、依存なのだから、完全に患者の自主性に委ねてしまったほうが成功率が高いです。患者によってはゆっくりと漸減を選んで成功する人もいました。
Dr.Kligmanが、この論文で、Cold turkeyと漸減法とを並列して書いていたことは、その当時のわたしにとって励みでした。 患者のとる行動をいろいろ場合わけして、医者がとるべき対処法を網羅しておく。それが正しい臨床の態度だと思うのです。
2009.10.21
調べてみると、Cold turkeyの語源は、下記のようでした。
The etymology derives from the phrase talk turkey, in which someone deals matter-of-factly with a subject. Some, however, believe the derivation is from the comparison of a cold turkey carcass and the state of a withdrawing addict — most notably, the cold sweats and goose bumps. It is often preceded by the verb "to go," as in "going cold turkey." Yet another suggestion of origin is that cold turkey is a dish that needs little or no preparation. "To quit like cold turkey" would be to quit in the same way a cold turkey is served, instantly just as you are without preparation.
(Cold turkeyの語源は、「talk turkey:七面鳥のように話す」から来ている。誰かが物事を事務的に話すとき、こう形容する(注:あっさりと何の愛想もなく止める、という意味なんでしょう)。しかし、七面鳥の冷たい死骸が、ドラッグをやめようとしている者が、冷たい汗と鳥肌(goose bumps)を立てている様子と似ているからだというひともいる。「行く」という動詞と用いられることが多い(「Cold turkeyで行こう=一気にやめよう」)。もうひとつの説は、冷たい七面鳥料理というのは、準備の手間がかからないので、「Cold turkeyのように止めよう」=「冷たい七面鳥料理を出すように手間暇かけずにすぐに止めよう」というものである。)
さて、なんでCold turkeyの話を振ったかというと、1974年のDr.KligmanのSteroid Addictionの論文にも、「Cold turkey」という語が出てくるからです。
-----(ここから引用)-----
For stalwart, stoical patients, we have used "cold turkey." replacing the steroid with lubricaling cream, applied liberally q.i.d. to induce dehydration. The first few weeks will be a living hell. The time required for the skin to return to normal depends on the degree of atrophy. Long-term addicts may have damage which cannot be completely reversed,but for the most part great improvement can be anticipated over a period of months. It is not wise to underestimate the time required. For most patients, we follow a weaning protocol, using first 2.5% hydrocortisone for several weeks with a warning that this may not completely prevent a rebound flare. Eventually we drop to 1.0% hydrocortisone and finally we substitute lubricating cream, at which time a minor flare is not unusual.
(強く我慢強い患者には、われわれは「Cold turkey」すなわち、ステロイドを一気にやめて、保湿クリームに置き換える方法をとる。たっぷりと処方し油で覆ってやる。最初の数週間は生き地獄である。皮膚がもとの姿に戻るまでの時間は、皮膚萎縮の度合いによる。長期間皮膚がステロイド依存の状態にあった場合には、完全には元に戻らない。しかし、大部分は数ヶ月後には、著明に改善する。必要な期間を短く見積もることは賢明ではない。 たいていの患者には、われわれは漸減法で対処する。すなわち、2.5%のハイドロコーチゾンを数週間用いる。しかし、これで完全にリバウンドを防止できるとは限らないことは、よく言い聞かせておく。そのうち、1.0%に置き換えて、最後には、保湿クリームのみとする。そのときに小さなリバウンドが来ることは稀ではない。)
-----(ここまで引用)-----
わたしが、脱ステロイドの診療に携わっていたころ、よく言われたのは、「いきなりステロイドを切ったら、危険じゃないか?」というものでした。当時は、そう言う先生たちに何度説明しても、わかってもらえなかったのですが、止める・止めない、あるいは、いきなり止める・ゆっくり止める、っていうことについては、完全に患者に主導権を委ねていた(委ねるべきだと考えていた)、ということです。
どういうことかというと、わたしは、Cold turkeyの道を、自ら選択した患者を、ただただ、受け入れて診ていました。なぜかというと、わたしがもし「Cold turkeyは、大変だから、時間をかけて漸減しましょう」と言って、それに従う患者しか診ないことにしたら、ステロイド依存から医療不信に陥って、頑なにCold turkeyを選んだ患者たちは、行き先が無くなって、自宅で一人で離脱する道を選んだことでしょう。それこそ、まさに医学的に危険なことです。 わたしから「一気に止めなさい」と言ったことは、ただの一度もありませんでした。
では、いったい何をやっていたのだ?と不思議に思うひとも多いでしょうが、逆に聞きたいのですが、医者の仕事って、ステロイド外用剤の種類や量を決めることだけですか?感染症の管理や、眼の合併症チェック、メンタルサポート、そういったことのほうが、はるかに重要だと考えました。ステロイドの減らし方なんていうのは、依存なのだから、完全に患者の自主性に委ねてしまったほうが成功率が高いです。患者によってはゆっくりと漸減を選んで成功する人もいました。
Dr.Kligmanが、この論文で、Cold turkeyと漸減法とを並列して書いていたことは、その当時のわたしにとって励みでした。 患者のとる行動をいろいろ場合わけして、医者がとるべき対処法を網羅しておく。それが正しい臨床の態度だと思うのです。
2009.10.21