Th2系のサイトカインストーム
Selective enhancement of production of IgE, IgG4, and Th2-cell cytokine during the rebound phenomenon in atopic dermatitis and prevention by suplatast tosilate Hajime Kimata, Annals of Allergy, Asthma and Immunology, Volume 82, Number 3, March 1999 , pp. 293-295(3)
この論文の著者の木俣先生は、わたしの昔の脱ステ医仲間です。学究肌のかたで、英語論文も多いです。 この論文は、suplatast tosilate(アイピーディーという製剤名の抗アレルギー内服薬です)を投与した群と投与しなかった群とで、脱ステロイド後のリバウンドの強さやIgEほかのデータを比較したものです。
この論文の著者の木俣先生は、わたしの昔の脱ステ医仲間です。学究肌のかたで、英語論文も多いです。 この論文は、suplatast tosilate(アイピーディーという製剤名の抗アレルギー内服薬です)を投与した群と投与しなかった群とで、脱ステロイド後のリバウンドの強さやIgEほかのデータを比較したものです。
上表は、患者のプロファイルです。バランスよく振り分けられていると思います。
ステロイド外用剤中止から2週間後に採血して、IgEほかの免疫グロブリンを見ています。2週間後の臨床像としては、「Control群15名では全員がリバウンドを発症し、アイピーディー投与群では17人中2人しかリバウンドを発症しなかった」とあります。
アイピーディーなどの抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤によるリバウンド回避効果については、別の章でまとめます。依存・リバウンドでも、軽いものであれば、臨床的にこうやって回避または症状を軽減する方法はあるということです。 ここでは、血液検査の結果について考察します。木俣先生のこの論文のデータは、前章で記した、ステロイド外用剤離脱後の、IgE系の「サイトカイン・ストーム」のような状態を、具体的に示してくれているので有難いです。なかなかリバウンド中の患者のデータをまとめた論文ってないですからね。コントロール群(「リバウンドを生じた群」と言い換えていいと思います)では、IgE、IgG4が上昇しています。
アイピーディーなどの抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤によるリバウンド回避効果については、別の章でまとめます。依存・リバウンドでも、軽いものであれば、臨床的にこうやって回避または症状を軽減する方法はあるということです。 ここでは、血液検査の結果について考察します。木俣先生のこの論文のデータは、前章で記した、ステロイド外用剤離脱後の、IgE系の「サイトカイン・ストーム」のような状態を、具体的に示してくれているので有難いです。なかなかリバウンド中の患者のデータをまとめた論文ってないですからね。コントロール群(「リバウンドを生じた群」と言い換えていいと思います)では、IgE、IgG4が上昇しています。
では、サイトカインはどうであったか?というと、IL-4、IL-5、IL-10、IL-13といったTh2系が上昇して、IL-2やIFN-γというTh1系では差がありません。非常にきれいなデータだと思います。
それで、なぜ、リバウンド期に、Th2系が異常に活性化されて「サイトカイン・ストーム」のような状況に陥るのか?ですが、Dr.Corkの表皮バリア破綻説と整合性を保ったまま、ランゲルハンス細胞を用いて明快に説明できる論文がありましたので紹介します。
The skin barrier, atopic dermatitis and allergy: a role for Langerhans cells?RE. Callard and JI. Harper Trends in Immunology Volume 28, Issue 7, July 2007, Pages 294-298
それで、なぜ、リバウンド期に、Th2系が異常に活性化されて「サイトカイン・ストーム」のような状況に陥るのか?ですが、Dr.Corkの表皮バリア破綻説と整合性を保ったまま、ランゲルハンス細胞を用いて明快に説明できる論文がありましたので紹介します。
The skin barrier, atopic dermatitis and allergy: a role for Langerhans cells?RE. Callard and JI. Harper Trends in Immunology Volume 28, Issue 7, July 2007, Pages 294-298
上図(a)は、正常な表皮です。アレルゲンは物理的に排除されます。
(b)は、角層が傷害された場合で、アレルゲンは表皮中に存在するランゲルハンス細胞が受け止めて、所属リンパ節へと情報を運びます。このとき、ランゲルハンス細胞は、リンパ節中のTh2系のT細胞へと情報を伝えます。
(c)は表皮が破壊され、アレルゲンが深く真皮にまで入り込んだ場合で、そこでは真皮中の抗原提示細胞である単球・マクロファージが情報を受け止めて所属リンパ節へと伝えます。このとき情報はTh1系のT細胞へと伝わります。 ステロイド外用中止後のリバウンド状態では、Dr.Corkの説によれば、角層のコルネオデスモゾームがプロテアーゼで破壊された状態にありますから、上図でいうと(b)にあたります。全身にステロイドを長期連用していた場合には、それまでステロイドで抑えられていた全身の皮膚のランゲルハンス細胞が一気にリンパ節へと流れてTh2系T細胞を活性化しますから、そりゃあ、サイトカイン・ストームのごとくにIgE,IgG4が上昇してもおかしくないのかもしれません。
皮膚科医なら誰でも、Scratch patch testというのを知っていますし、1回くらいはやったことあるんじゃないでしょうか?接触皮膚炎や薬疹の原因検索のときに、通常のパッチテストでは陰性でも、角層を少し傷つけてその上からパッチテストすると陽性に出ることがある、というものです。リバウンド患者の全身の紅皮症というのは、全身にスクラッチパッチテストされているようなものだとイメージすればよいと思います。 なぜ、通常の接触皮膚炎のように早くTh1系に移行して終息せずに、Th2系、それもIgE産生系にとどまるのか?ですが、まったくの私の推測なのですが、ひょっとしたらアレルゲンの分子量が関係しているのかもしれません。ハウスダストとか、環境系アレルゲンというのは、高分子量です。なかなか真皮まで到達しにくく、途中でランゲルハンス細胞でキャプチャーされて、Th2系にばかり行くのではないでしょうか?金属アレルギーとか、単純化学物質は低分子量なので、ランゲルハンス細胞をくぐりぬけて、真皮に達しやすく、Th1系へのスイッチが働きやすいのかもしれません。
2009.10.21
皮膚科医なら誰でも、Scratch patch testというのを知っていますし、1回くらいはやったことあるんじゃないでしょうか?接触皮膚炎や薬疹の原因検索のときに、通常のパッチテストでは陰性でも、角層を少し傷つけてその上からパッチテストすると陽性に出ることがある、というものです。リバウンド患者の全身の紅皮症というのは、全身にスクラッチパッチテストされているようなものだとイメージすればよいと思います。 なぜ、通常の接触皮膚炎のように早くTh1系に移行して終息せずに、Th2系、それもIgE産生系にとどまるのか?ですが、まったくの私の推測なのですが、ひょっとしたらアレルゲンの分子量が関係しているのかもしれません。ハウスダストとか、環境系アレルゲンというのは、高分子量です。なかなか真皮まで到達しにくく、途中でランゲルハンス細胞でキャプチャーされて、Th2系にばかり行くのではないでしょうか?金属アレルギーとか、単純化学物質は低分子量なので、ランゲルハンス細胞をくぐりぬけて、真皮に達しやすく、Th1系へのスイッチが働きやすいのかもしれません。
2009.10.21