Wy14643とクロフィブラート
Efficacy of Combined Peroxisome Proliferator-Activated Receptor-α Ligand and Glucocorticoid Therapy in a Murine Model of Atopic Dermatitis. Yutaka Hatano Journal of Investigative Dermatology (2011) 131, 1845–1852
ーーーーー(ここから引用)-----
Although topical glucocorticoids (GCs) show potent anti-inflammatory activity in inflamed skin, they can also exert numerous harmful effects on epidermal structure and function.
ステロイド外用剤(GCs)は、皮膚炎を強い抗炎症作用で抑えるが、表皮の構造および機能に対して様々な有害作用をも併せ持つ。
In contrast, topical applications of ligands of peroxisome proliferator-activated receptor-α (PPARα) not only reduce inflammation but also improve cutaneous barrier homeostasis.
それに対して、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)結合物質の外用は、抗炎症作用のみならず、皮膚バリアの改善をもたらす。
Therefore, we examined whether sequential topical GCs followed by topical Wy14643 (a ligand of PPARα) might be more effective than either alone for atopic dermatitis (AD) in a hapten (oxazolone (Ox))-induced murine model with multiple features of AD (Ox-AD).
それで、我々は、ハプテンであるオキサゾロン(Ox)により誘発されたマウスの皮膚炎モデル(アトピー性皮膚炎に似ている)を使って、ステロイド外用剤のあとにWy14643(PPARα結合物質の一つ)を外用し、ステロイド単独使用と比較して、アトピー性皮膚炎における有用性を確認した。
Despite expected anti- nflammatory benefits, topical GC alone induced (i) epidermal thinning; (ii) reduced expression of involucrin, loricrin, and filaggrin; and (iii) allowed outside-to-inside penetration of an epicutaneous tracer.
ステロイド外用剤単独使用では、抗炎症作用はあるものの、(i)表皮の菲薄化、(ii)インボルクリン、ロリクリン、フィラグリンの発現低下、(iii)皮膚上からのトレーサーの外→内への浸透率の上昇、をもたらす。
Although Wy14643 alone yielded significant therapeutic benefits in mice with mild or moderate Ox-AD, it was less effective in severe Ox-AD.
Wy14643単独では、オキサゾロン(Ox)により誘発されたマウスのアトピー性皮膚炎類似病変(Ox-AD)に、軽度または中等度の場合には優れた治療効果を有するが、重度の場合には効果が弱い。
Yet, topical application of Wy14643 after GC was not only significantly effective comparable with GC alone, but it also prevented GC-induced structural and functional abnormalities in permeability barrier homeostasis.
しかし、ステロイド外用後にWy14643の外用を行うと、ステロイド外用剤単独治療に匹敵する治療効果を有するのみならず、ステロイド外用剤による表皮バリアの機能的構造的ダメージを抑制する。
Moreover, rebound flares were largely absent after sequential treatment with GC and Wy14643.
さらに、ステロイド外用後に続けてWy14643を外用すると、リバウンド現象が抑えられる。
Together, these results show that GC and PPARα ligand therapy together is not only effective but also prevents development of GC-induced side effects, including rebound flares, in murine AD.
以上の結果から、ステロイド外用剤とPPARα結合物質とを組み合わせた治療法は、マウスの実験において、有効であるのみならず、リバウンド現象を含めた、ステロイド外用による副作用を抑制することがわかった。
ーーーーー(ここまで引用)-----
Journal of Investigative Dermatologyの2011年9月号、すなわち、今日が2011年8月31ですから、最新号に掲載された、大分大学の波多野先生の論文です。
ステロイド外用剤のもつリバウンドという副作用に、真正面から取り組んで、結果を出しています。素晴らしい内容だと思います。
日本の大学の皮膚科研究者の中にも、こういう方もいらっしゃるんだと知って、目を洗われる思いです。
やや込み入った内容ですが、簡単に解説を試みます。まず、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)」という長い用語が出てきますが、これについて記すと、余計わかりにくくなるので、とにかくまず、Wy14643(以下Wyと略)という物質がある、と考えてください。Wyは、軽度の皮膚炎(TEWL<25g/m2・h)を抑える力はありますが、重度の皮膚炎(TEWL>25g/m2・h)を抑える力はありません(下図)。
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Although topical glucocorticoids (GCs) show potent anti-inflammatory activity in inflamed skin, they can also exert numerous harmful effects on epidermal structure and function.
ステロイド外用剤(GCs)は、皮膚炎を強い抗炎症作用で抑えるが、表皮の構造および機能に対して様々な有害作用をも併せ持つ。
In contrast, topical applications of ligands of peroxisome proliferator-activated receptor-α (PPARα) not only reduce inflammation but also improve cutaneous barrier homeostasis.
それに対して、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)結合物質の外用は、抗炎症作用のみならず、皮膚バリアの改善をもたらす。
Therefore, we examined whether sequential topical GCs followed by topical Wy14643 (a ligand of PPARα) might be more effective than either alone for atopic dermatitis (AD) in a hapten (oxazolone (Ox))-induced murine model with multiple features of AD (Ox-AD).
それで、我々は、ハプテンであるオキサゾロン(Ox)により誘発されたマウスの皮膚炎モデル(アトピー性皮膚炎に似ている)を使って、ステロイド外用剤のあとにWy14643(PPARα結合物質の一つ)を外用し、ステロイド単独使用と比較して、アトピー性皮膚炎における有用性を確認した。
Despite expected anti- nflammatory benefits, topical GC alone induced (i) epidermal thinning; (ii) reduced expression of involucrin, loricrin, and filaggrin; and (iii) allowed outside-to-inside penetration of an epicutaneous tracer.
ステロイド外用剤単独使用では、抗炎症作用はあるものの、(i)表皮の菲薄化、(ii)インボルクリン、ロリクリン、フィラグリンの発現低下、(iii)皮膚上からのトレーサーの外→内への浸透率の上昇、をもたらす。
Although Wy14643 alone yielded significant therapeutic benefits in mice with mild or moderate Ox-AD, it was less effective in severe Ox-AD.
Wy14643単独では、オキサゾロン(Ox)により誘発されたマウスのアトピー性皮膚炎類似病変(Ox-AD)に、軽度または中等度の場合には優れた治療効果を有するが、重度の場合には効果が弱い。
Yet, topical application of Wy14643 after GC was not only significantly effective comparable with GC alone, but it also prevented GC-induced structural and functional abnormalities in permeability barrier homeostasis.
しかし、ステロイド外用後にWy14643の外用を行うと、ステロイド外用剤単独治療に匹敵する治療効果を有するのみならず、ステロイド外用剤による表皮バリアの機能的構造的ダメージを抑制する。
Moreover, rebound flares were largely absent after sequential treatment with GC and Wy14643.
さらに、ステロイド外用後に続けてWy14643を外用すると、リバウンド現象が抑えられる。
Together, these results show that GC and PPARα ligand therapy together is not only effective but also prevents development of GC-induced side effects, including rebound flares, in murine AD.
以上の結果から、ステロイド外用剤とPPARα結合物質とを組み合わせた治療法は、マウスの実験において、有効であるのみならず、リバウンド現象を含めた、ステロイド外用による副作用を抑制することがわかった。
ーーーーー(ここまで引用)-----
Journal of Investigative Dermatologyの2011年9月号、すなわち、今日が2011年8月31ですから、最新号に掲載された、大分大学の波多野先生の論文です。
ステロイド外用剤のもつリバウンドという副作用に、真正面から取り組んで、結果を出しています。素晴らしい内容だと思います。
日本の大学の皮膚科研究者の中にも、こういう方もいらっしゃるんだと知って、目を洗われる思いです。
やや込み入った内容ですが、簡単に解説を試みます。まず、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)」という長い用語が出てきますが、これについて記すと、余計わかりにくくなるので、とにかくまず、Wy14643(以下Wyと略)という物質がある、と考えてください。Wyは、軽度の皮膚炎(TEWL<25g/m2・h)を抑える力はありますが、重度の皮膚炎(TEWL>25g/m2・h)を抑える力はありません(下図)。
そこで、重度の皮膚炎に対して、まずステロイド外用剤(GC)を外用し、次にWyを外用してみます。すると。GCを連続して外用したのと、ほぼ同じ程度に、皮膚炎を抑えます。
GCには、表皮を萎縮させたり、様々な副作用がありますが、Wyはむしろ、これらの皮膚バリア機能を安定化させる方向に働きます。
そこで、GCを連続外用した場合と、GC外用後、Wyに置き換えた場合とを比較してみます。すると、GCのみ外用の場合には、中止後リバウンド現象が観察されましたが(Day9)、Wyに切り替えた場合には、これが抑えられました。
そこで、GCを連続外用した場合と、GC外用後、Wyに置き換えた場合とを比較してみます。すると、GCのみ外用の場合には、中止後リバウンド現象が観察されましたが(Day9)、Wyに切り替えた場合には、これが抑えられました。
抗炎症作用はGC連用と同じままで、Wyに切り替えることでリバウンドが抑えられたというわけです。
上図は、Day9の、実験ネズミの写真です。左側は、GCのみで、リバウンドが出ているところ、右はWyに切り替えたネズミで、リバウンドを生じていません。
このWy14643は、Sigma-Aldrichで、試薬として$113.5/50mgで売られています。実験で使われたのは、10mM濃度で、分子量は324ですから、$113.5/50mgでは15ml作成できます。患者が臨床使用するにはやや高いです。また、実験用試薬を人に用いようとしても、試薬会社のほうが提供してくれないのではないかと思います。
かといって、このデータを基に、製薬会社が、ステロイド外用剤の補助薬として、投資して薬剤をして発売してくれるか?というと、NFκBですら、第三相の引き受け手探しに時間がかかったようですから、難しいように思います。良い薬かどうか、よりも、どれだけ売れるか、市場性があるか?が、製薬会社にとっては問題だからです。
まったく望みがないわけでもなくて、それは、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)結合物質」というのは、Wy14643だけではない、という点です。たとえば、高脂血症の薬であるクロフィブラート、これもまた、PPARα結合物質です。別の論文ですが、これの1mM溶液を外用して、マウスの皮膚炎を抑制した報告もあります(Topical Peroxisome Proliferator Activated Receptor-α Activators Reduce Inflammation in Irritant and Allergic Contact Dermatitis Models,Sheu,Journal of Investigative Dermatology (2002) 118, 94–101)。クロフィブラートの分子量は243ですから、1mMは、243mg/L、既に内服として発売されているクロフィブラートは1カプセル250mgですから、1カプセルから1L出来ます。これなら、経済的にも、現実味があります。
市販の内服用薬剤を、外用薬として、適応外処方することは、医師の裁量として可能だと思います。ただし、保険適応は認められないでしょうが。
先日解説した「プロアクティブ治療」に、クロフィブラート外用を組み合わせる(ステロイドを外用しない5日間は、クロフィブラートを保湿剤に練り込んだものを外用する)と、理論的には、さらによい結果が得られるはずです。
もっとも、今回の論文は、Wy14643についてのもので、クロフィブラートのものではありませんし、実験動物レベルの話です。しかし、意外と、現実応用できそうな気がしますし、何よりも、最初に記しました通り、日本の皮膚科研究者が、ステロイド外用剤のリバウンド問題に、真正面から取り組んだ実験を行ったという点が、わたしはとても嬉しいです。
このWy14643は、Sigma-Aldrichで、試薬として$113.5/50mgで売られています。実験で使われたのは、10mM濃度で、分子量は324ですから、$113.5/50mgでは15ml作成できます。患者が臨床使用するにはやや高いです。また、実験用試薬を人に用いようとしても、試薬会社のほうが提供してくれないのではないかと思います。
かといって、このデータを基に、製薬会社が、ステロイド外用剤の補助薬として、投資して薬剤をして発売してくれるか?というと、NFκBですら、第三相の引き受け手探しに時間がかかったようですから、難しいように思います。良い薬かどうか、よりも、どれだけ売れるか、市場性があるか?が、製薬会社にとっては問題だからです。
まったく望みがないわけでもなくて、それは、「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)結合物質」というのは、Wy14643だけではない、という点です。たとえば、高脂血症の薬であるクロフィブラート、これもまた、PPARα結合物質です。別の論文ですが、これの1mM溶液を外用して、マウスの皮膚炎を抑制した報告もあります(Topical Peroxisome Proliferator Activated Receptor-α Activators Reduce Inflammation in Irritant and Allergic Contact Dermatitis Models,Sheu,Journal of Investigative Dermatology (2002) 118, 94–101)。クロフィブラートの分子量は243ですから、1mMは、243mg/L、既に内服として発売されているクロフィブラートは1カプセル250mgですから、1カプセルから1L出来ます。これなら、経済的にも、現実味があります。
市販の内服用薬剤を、外用薬として、適応外処方することは、医師の裁量として可能だと思います。ただし、保険適応は認められないでしょうが。
先日解説した「プロアクティブ治療」に、クロフィブラート外用を組み合わせる(ステロイドを外用しない5日間は、クロフィブラートを保湿剤に練り込んだものを外用する)と、理論的には、さらによい結果が得られるはずです。
もっとも、今回の論文は、Wy14643についてのもので、クロフィブラートのものではありませんし、実験動物レベルの話です。しかし、意外と、現実応用できそうな気がしますし、何よりも、最初に記しました通り、日本の皮膚科研究者が、ステロイド外用剤のリバウンド問題に、真正面から取り組んだ実験を行ったという点が、わたしはとても嬉しいです。
Wy14643
クロフィブラート(メタノール, エタノール,無水エタノール,エーテル,ヘキサンに可溶、水に難溶)
2011.08.31
2011.08.31