ガイドライン作成委員の責任(その1)
アメリカにおいて、日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に相当するものは、アメリカ皮膚科学会(AAD)が2004年に策定した”Guidelines of care for atopic dermatitis”です。
この冒頭は、DISCLAIMER(免責)から始まります。
=====(ここから引用)===== DISCLAIMER
Adherence to these guidelines will not ensure successful treatment in every situation. Furthermore these guidelines should not be deemed inclusive of all proper methods of care or exclusive of other methods of care reasonably directed to obtaining the same results. The ultimate judgment regarding the propriety of any specific therapy must be made by the physician and the patient in light of all the circumstances presented by the individual patient.
(免責:本ガイドラインを遵守したからといって、あらゆる状況において治療が成功するとは限らない。さらに付け加えると、本ガイドラインは全ての適切な治療法を網羅したものでは無いし、同様の治療効果を得られる他の治療法を排除するものでもない。ある治療法が適切かどうかは、個々の患者の状況に応じて、担当医と患者とによって、最終的な判断がなされるべきものだ。)
=====(ここまで引用)=====
なぜこのような文章が冒頭に来るかと言うと、以前記したように、アメリカでは、かって患者に訴えられた担当医が「ガイドラインに沿った治療であった」ことを理由に反論して敗訴した例があり、その際の判決で「医学的に不適切なガイドラインによって患者が不利益をこうむった場合、ガイドライン作成者は責任を問われる」ということが示唆されたからです。
アメリカでは、これ以降、多くのガイドラインにおいて、まず「免責」が宣言されるようになりました。現場の担当医も「ガイドラインにこう書いてあるから」というだけでは言い訳にも説明にもならないということを認識し、ガイドラインというものは、それを通じてその元データであるエビデンス自体を引用して患者に説明したり、実地診療に応用するという使い方をするものだ、と認識しています。
日本ではどうでしょうか?ガイドライン=法律の条文のように思い込んで、「日皮会のガイドラインにそう書いてあるから」あるいは「書かれていないから」で、説明したつもりになっている皮膚科医は多いのではないでしょうか?
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインは、2000年に策定された「治療ガイドライン」の後を引き継ぐ形で2008年に策定され、2009年に改訂されています。 2009年版を読むと、2008年版と異なり、「はじめに」の末尾に、
=====(ここから引用)=====
本ガイドラインを参考にした上で、医師の裁量を尊重し、患者の意向を考慮して、個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい。
=====(ここまで引用)=====
と追記されています。やんわりと、上記「免責」の表現に近付けようとしているように読めます。しかし、まだ、明確に「免責」を宣言しているわけではありません。 ということは、ガイドライン作成者は、そこでの記載、および、意図的とみなしうる副作用の不記載について、責任を負う、と解釈できるということです。
ステロイド依存やリバウンドが、臨床的観察として記述されたのは、30年以上前に遡ります。上記の2004年のアメリカ皮膚科学会ガイドラインには、”Steroid addiction”の記述はありませんが、その後、2006年にアメリカ皮膚科学会雑誌に掲載された“Adverse effects of topical glucocorticosteroids”( Journal of the American Academy of Dermatology, Volume 54, Issue 1, Pages 1-15)という総説においては、Steroid addictionは、独立した1項目として、明示されています。その後アメリカのガイドラインは改訂版がまだ出ていませんが、日本のガイドラインは2008年、2009年と、策定・改訂がなされています。
それなのに、なぜ、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会のかたがたは、「ステロイド依存」や「リバウンド」といった、重大なステロイド外用剤の副作用の記述を加えないのでしょうか?わたしは、委員のひとたちの一部が、過去に「脱ステロイド療法」を非科学的な思い込み・妄想であるとパッシングをしていた経緯からだと思います。すなわち、意図的な副作用の不記載という事実があり、この点において委員のかたがたは、責任を免れないと考えます。
どうしたらいいか?簡単です。アメリカのように明確な免責宣言をして、ガイドラインが決して現場の臨床医の判断を拘束するものでも、判断の根拠となるものでもないことを、学会員に周知徹底し、それと同時に、問題がこれ以上大きくなって、本当に法的な責任問題になる前に、ステロイド外用剤の副作用として、「ステロイド依存」「リバウンド」を、ガイドラインに書き加えればいいのです。
(その2)に続く。
2010.03.11
この冒頭は、DISCLAIMER(免責)から始まります。
=====(ここから引用)===== DISCLAIMER
Adherence to these guidelines will not ensure successful treatment in every situation. Furthermore these guidelines should not be deemed inclusive of all proper methods of care or exclusive of other methods of care reasonably directed to obtaining the same results. The ultimate judgment regarding the propriety of any specific therapy must be made by the physician and the patient in light of all the circumstances presented by the individual patient.
(免責:本ガイドラインを遵守したからといって、あらゆる状況において治療が成功するとは限らない。さらに付け加えると、本ガイドラインは全ての適切な治療法を網羅したものでは無いし、同様の治療効果を得られる他の治療法を排除するものでもない。ある治療法が適切かどうかは、個々の患者の状況に応じて、担当医と患者とによって、最終的な判断がなされるべきものだ。)
=====(ここまで引用)=====
なぜこのような文章が冒頭に来るかと言うと、以前記したように、アメリカでは、かって患者に訴えられた担当医が「ガイドラインに沿った治療であった」ことを理由に反論して敗訴した例があり、その際の判決で「医学的に不適切なガイドラインによって患者が不利益をこうむった場合、ガイドライン作成者は責任を問われる」ということが示唆されたからです。
アメリカでは、これ以降、多くのガイドラインにおいて、まず「免責」が宣言されるようになりました。現場の担当医も「ガイドラインにこう書いてあるから」というだけでは言い訳にも説明にもならないということを認識し、ガイドラインというものは、それを通じてその元データであるエビデンス自体を引用して患者に説明したり、実地診療に応用するという使い方をするものだ、と認識しています。
日本ではどうでしょうか?ガイドライン=法律の条文のように思い込んで、「日皮会のガイドラインにそう書いてあるから」あるいは「書かれていないから」で、説明したつもりになっている皮膚科医は多いのではないでしょうか?
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインは、2000年に策定された「治療ガイドライン」の後を引き継ぐ形で2008年に策定され、2009年に改訂されています。 2009年版を読むと、2008年版と異なり、「はじめに」の末尾に、
=====(ここから引用)=====
本ガイドラインを参考にした上で、医師の裁量を尊重し、患者の意向を考慮して、個々の患者に最も妥当な治療法を選択することが望ましい。
=====(ここまで引用)=====
と追記されています。やんわりと、上記「免責」の表現に近付けようとしているように読めます。しかし、まだ、明確に「免責」を宣言しているわけではありません。 ということは、ガイドライン作成者は、そこでの記載、および、意図的とみなしうる副作用の不記載について、責任を負う、と解釈できるということです。
ステロイド依存やリバウンドが、臨床的観察として記述されたのは、30年以上前に遡ります。上記の2004年のアメリカ皮膚科学会ガイドラインには、”Steroid addiction”の記述はありませんが、その後、2006年にアメリカ皮膚科学会雑誌に掲載された“Adverse effects of topical glucocorticosteroids”( Journal of the American Academy of Dermatology, Volume 54, Issue 1, Pages 1-15)という総説においては、Steroid addictionは、独立した1項目として、明示されています。その後アメリカのガイドラインは改訂版がまだ出ていませんが、日本のガイドラインは2008年、2009年と、策定・改訂がなされています。
それなのに、なぜ、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会のかたがたは、「ステロイド依存」や「リバウンド」といった、重大なステロイド外用剤の副作用の記述を加えないのでしょうか?わたしは、委員のひとたちの一部が、過去に「脱ステロイド療法」を非科学的な思い込み・妄想であるとパッシングをしていた経緯からだと思います。すなわち、意図的な副作用の不記載という事実があり、この点において委員のかたがたは、責任を免れないと考えます。
どうしたらいいか?簡単です。アメリカのように明確な免責宣言をして、ガイドラインが決して現場の臨床医の判断を拘束するものでも、判断の根拠となるものでもないことを、学会員に周知徹底し、それと同時に、問題がこれ以上大きくなって、本当に法的な責任問題になる前に、ステロイド外用剤の副作用として、「ステロイド依存」「リバウンド」を、ガイドラインに書き加えればいいのです。
(その2)に続く。
2010.03.11