ステロイド忌避のメリット
前の記事で、
ーーーーー
「ステロイド忌避」は必ずしも悪いことではありません。なぜなら、メリットもあるからです。メリットは、
1)後述する「依存」には決して陥らない。
2)皮膚が反応するので、悪化要因探しおよび排除の役に立つ。
です。
デメリットは、「見た目が悪く、痒い」です。忌避を選ぶかどうかは、個人の選択の自由です。他人がどうこういうことじゃありません。
ーーーーー
と記しました。今回は、太字の部分、「悪化要因探しおよび排除」についての補足というか解説です。
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「ステロイド忌避」は必ずしも悪いことではありません。なぜなら、メリットもあるからです。メリットは、
1)後述する「依存」には決して陥らない。
2)皮膚が反応するので、悪化要因探しおよび排除の役に立つ。
です。
デメリットは、「見た目が悪く、痒い」です。忌避を選ぶかどうかは、個人の選択の自由です。他人がどうこういうことじゃありません。
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と記しました。今回は、太字の部分、「悪化要因探しおよび排除」についての補足というか解説です。
これは、私の著書ではありませんが、昔わたしが立ち上げて、活動していた団体の活動の様子を、ある方がレポートして本にしてくれたものです。(現在でもamazonで販売されているようです。そんなに高いものではないので、よろしかったらご一読ください。→こちら)
症例報告集のようなものです。この中の「症例1」を以下に転記しました。
ーーーーー(ここから引用)-----
【症例1 ハウスメーカーの新居でアトピーが悪化】
<患者> 30歳代男性。
<症状の経過> 99年5月入居(99年3月下見でアトピー症状悪化)。
99年6月「環境避難」目的で入院。翌日から快方に向かったが、退院後悪化したため新居バルコニーにテントを張り避難生活を始める。
99年6月と7月に調査。
<概要>
閑静な住宅地に建つ大手ハウスメーカーの軽量鉄骨プレハブ、二世帯住宅。計画換気(第三章、情報の泉「換気」参照)装置はオプション(別途注文))仕様で、この家には設置されていませんでした。
工事途中の様子を下見に行った際、症状の悪化がみられましたが、完成入居後、窓を閉めた途端、アトピーが悪化しました。環境避難のため入院したところ症状は快方に向かい、家に帰ると悪化するという、症状が住環境の影響を強く受けると考えられる、アトピー性皮膚炎の代表的症例です。
99年6月入院と同時に患者自宅寝室のホルムアルデヒド濃度を測ったところ、0.22ppmでした。窓を10分間開放し測定したところ0.06ppmに下がっていました。再度閉め切って測定したところ30分後には指針値の0.08ppmを超え0.09ppm、60分後には0.15ppmになりました。
99年7月に実施した調査では、前回の調査以来、四六時中窓を開放していたため、開放状態で0.03ppmという結果が出ました。
その後、患者は徐々に改善に向かいました。
<症例検討会にて>
自然派(建) この症例は、ハウスメーカーが高気密・高断熱化を進める中で、健材が健康障害を引き起こすことを認識しはじめたころに建てられたものだと考えられます。
(建)隊長 現在では標準、あるいは必須条件となっている集中換気扇(または計画換気設備)が設置されていなかった家だったために、健康障害(今回の場合はアトピーの悪化)が発生したのでしょう。
皮膚科医A この患者さんはステロイド離脱を行って1年以上経過していて、完治したと言ってもよい状態でした。ところが、建築途中の下見後、その日の夜に症状の悪化がみられたことがありましたので、今回の悪化は新居に入居したことによるもの・・と考えられました。
新築、または改築入居後に悪化した・・と訴える患者さんは何人かいますが、実際に調査してみるとダニやカビが原因だったりすることもあります。今回のようにわかりやすい症例は非常に少ない。
自然派(建) この患者さんは環境が原因かどうかを確かめるため一時入院して家を離れましたが、みるみる症状が改善しました。その後自宅へ戻り寝室で窓を閉めて寝ていたところたちまち悪化し、現在はバルコニーにテントを張りその中で避難生活を送っています。
ハウス系(建) 自宅にいながらアウトドアライフとは・・・、しかしうまく考えたものですね。7月に調査に行ったときは夏の暑さにも関わらず、窓を開放状態にしていたため新築特有の刺激臭は感じられませんでしたが、集中換気を設置するはずだった小屋裏へ入ってみると強い刺激臭を感じました。
空調(建) 今回の家はプレハブとしては珍しく十分な窓の配置がされていましたので自然換気が可能でした。居住者は積極的に窓を開放状態にしていたため、調査日にはホルムアルデヒド濃度が低かったと考えられます。また立地条件が良く、近くに大きな道路が無くて車の排気ガスなどによる空気汚染の心配がありません。季節の良い時期に窓を開放できる環境だったことも幸いしたと思います。
自然派(建) そうですね。いくら窓が多くても、国道沿いや工業地帯などでは排気ガスや排煙の影響のほうが心配です。この症例の場合、夏は窓を開放できたのがなによりでした。
環境(建) 対策としては部屋の気密性を増すために設置されているドアのエアタイト装置を取り除き、浴室とトイレの換気扇を一日中運転するのが良いでしょう。また天気が良い日には積極的に窓を開け、自然換気を行い室内の化学物質を減らすようにすること。これが一番簡単で有効な方法だと考えられます。
自然派(建) すでに家具などが入っている状況で、健材以外に家具やカーテンも化学物質の発生源になりますので、原因となる部材を限定することは不可能でした。建築途中の下見で悪化したということは、必ずしもホルムアルデヒドが原因とは考えられません。接着剤などに含まれる揮発性の物質等(VOC)である可能性もあります。また鉄骨には結露防止にウレタンフォームやグラスウールを充填する場合がありますが、もしこれが原因となると、除去するには経済的、技術的にかなり難しいと考えられます。
皮膚科医A この症例については、症状の変化が非常に明確なので、患者が悪化を訴えたとき、速やかに後追い調査を実施したほうが良さそうです。
自然派(建) 今回の家では全面的にホルムアルデヒドを低減した新健材を使用していましたが、高気密化された家の内部ではガイドラインの指針値(0.08ppm)を満たすことは難しいことが最近明らかにされました。高気密高断熱住宅では今後、集中換気扇はオプションではなく、標準装備にすることが望まれます。
呼吸器科医 今回は原因が新居という、非常にわかりやすい症例でしたが、原因が何であっても、それを除去したり症状が悪化しない程度にコントロールすることが、症状改善の早道だということですね。原因に囲まれた患者の環境を整備(改善)せずに薬に頼っていても、決してよくなりません。喘息やアトピー性皮膚炎は医者が治すもの、薬で治すもの・・・と考え、自分の生活環境を見直さない人はなかなか治らないようです。
自然派(建)行き止まりの先にドアがあるとします。「原因」という名のドアです。このドアが開けば先に進めるのに、鍵がない。医者へ行って「開けてくれ」と頼んでも薬を出すだけ・・・。私たちはなかなか良くならない患者の言え(環境)を調査し、患者や家族が気づいていない鍵(ダニや化学物質など)を探します。鍵が見つかっても患者の代わりにドアを開けるわけではありません。開け(減らし)方をアドバイスするだけ・・・。開けるかどうかは患者次第。
皮膚科医A この患者さんは今年(2000年)の夏も悪化しましたが軽く済みました。また結局1999年も2000年も悪化時にステロイドを使わずにすみました。再調査を行った結果は表のとおりです。2F寝室のホルムアルデヒド濃度 (2000年7月5日)
症例報告集のようなものです。この中の「症例1」を以下に転記しました。
ーーーーー(ここから引用)-----
【症例1 ハウスメーカーの新居でアトピーが悪化】
<患者> 30歳代男性。
<症状の経過> 99年5月入居(99年3月下見でアトピー症状悪化)。
99年6月「環境避難」目的で入院。翌日から快方に向かったが、退院後悪化したため新居バルコニーにテントを張り避難生活を始める。
99年6月と7月に調査。
<概要>
閑静な住宅地に建つ大手ハウスメーカーの軽量鉄骨プレハブ、二世帯住宅。計画換気(第三章、情報の泉「換気」参照)装置はオプション(別途注文))仕様で、この家には設置されていませんでした。
工事途中の様子を下見に行った際、症状の悪化がみられましたが、完成入居後、窓を閉めた途端、アトピーが悪化しました。環境避難のため入院したところ症状は快方に向かい、家に帰ると悪化するという、症状が住環境の影響を強く受けると考えられる、アトピー性皮膚炎の代表的症例です。
99年6月入院と同時に患者自宅寝室のホルムアルデヒド濃度を測ったところ、0.22ppmでした。窓を10分間開放し測定したところ0.06ppmに下がっていました。再度閉め切って測定したところ30分後には指針値の0.08ppmを超え0.09ppm、60分後には0.15ppmになりました。
99年7月に実施した調査では、前回の調査以来、四六時中窓を開放していたため、開放状態で0.03ppmという結果が出ました。
その後、患者は徐々に改善に向かいました。
<症例検討会にて>
自然派(建) この症例は、ハウスメーカーが高気密・高断熱化を進める中で、健材が健康障害を引き起こすことを認識しはじめたころに建てられたものだと考えられます。
(建)隊長 現在では標準、あるいは必須条件となっている集中換気扇(または計画換気設備)が設置されていなかった家だったために、健康障害(今回の場合はアトピーの悪化)が発生したのでしょう。
皮膚科医A この患者さんはステロイド離脱を行って1年以上経過していて、完治したと言ってもよい状態でした。ところが、建築途中の下見後、その日の夜に症状の悪化がみられたことがありましたので、今回の悪化は新居に入居したことによるもの・・と考えられました。
新築、または改築入居後に悪化した・・と訴える患者さんは何人かいますが、実際に調査してみるとダニやカビが原因だったりすることもあります。今回のようにわかりやすい症例は非常に少ない。
自然派(建) この患者さんは環境が原因かどうかを確かめるため一時入院して家を離れましたが、みるみる症状が改善しました。その後自宅へ戻り寝室で窓を閉めて寝ていたところたちまち悪化し、現在はバルコニーにテントを張りその中で避難生活を送っています。
ハウス系(建) 自宅にいながらアウトドアライフとは・・・、しかしうまく考えたものですね。7月に調査に行ったときは夏の暑さにも関わらず、窓を開放状態にしていたため新築特有の刺激臭は感じられませんでしたが、集中換気を設置するはずだった小屋裏へ入ってみると強い刺激臭を感じました。
空調(建) 今回の家はプレハブとしては珍しく十分な窓の配置がされていましたので自然換気が可能でした。居住者は積極的に窓を開放状態にしていたため、調査日にはホルムアルデヒド濃度が低かったと考えられます。また立地条件が良く、近くに大きな道路が無くて車の排気ガスなどによる空気汚染の心配がありません。季節の良い時期に窓を開放できる環境だったことも幸いしたと思います。
自然派(建) そうですね。いくら窓が多くても、国道沿いや工業地帯などでは排気ガスや排煙の影響のほうが心配です。この症例の場合、夏は窓を開放できたのがなによりでした。
環境(建) 対策としては部屋の気密性を増すために設置されているドアのエアタイト装置を取り除き、浴室とトイレの換気扇を一日中運転するのが良いでしょう。また天気が良い日には積極的に窓を開け、自然換気を行い室内の化学物質を減らすようにすること。これが一番簡単で有効な方法だと考えられます。
自然派(建) すでに家具などが入っている状況で、健材以外に家具やカーテンも化学物質の発生源になりますので、原因となる部材を限定することは不可能でした。建築途中の下見で悪化したということは、必ずしもホルムアルデヒドが原因とは考えられません。接着剤などに含まれる揮発性の物質等(VOC)である可能性もあります。また鉄骨には結露防止にウレタンフォームやグラスウールを充填する場合がありますが、もしこれが原因となると、除去するには経済的、技術的にかなり難しいと考えられます。
皮膚科医A この症例については、症状の変化が非常に明確なので、患者が悪化を訴えたとき、速やかに後追い調査を実施したほうが良さそうです。
自然派(建) 今回の家では全面的にホルムアルデヒドを低減した新健材を使用していましたが、高気密化された家の内部ではガイドラインの指針値(0.08ppm)を満たすことは難しいことが最近明らかにされました。高気密高断熱住宅では今後、集中換気扇はオプションではなく、標準装備にすることが望まれます。
呼吸器科医 今回は原因が新居という、非常にわかりやすい症例でしたが、原因が何であっても、それを除去したり症状が悪化しない程度にコントロールすることが、症状改善の早道だということですね。原因に囲まれた患者の環境を整備(改善)せずに薬に頼っていても、決してよくなりません。喘息やアトピー性皮膚炎は医者が治すもの、薬で治すもの・・・と考え、自分の生活環境を見直さない人はなかなか治らないようです。
自然派(建)行き止まりの先にドアがあるとします。「原因」という名のドアです。このドアが開けば先に進めるのに、鍵がない。医者へ行って「開けてくれ」と頼んでも薬を出すだけ・・・。私たちはなかなか良くならない患者の言え(環境)を調査し、患者や家族が気づいていない鍵(ダニや化学物質など)を探します。鍵が見つかっても患者の代わりにドアを開けるわけではありません。開け(減らし)方をアドバイスするだけ・・・。開けるかどうかは患者次第。
皮膚科医A この患者さんは今年(2000年)の夏も悪化しましたが軽く済みました。また結局1999年も2000年も悪化時にステロイドを使わずにすみました。再調査を行った結果は表のとおりです。2F寝室のホルムアルデヒド濃度 (2000年7月5日)
ーーーーー(ここまで引用)-----
「皮膚科医A」が私です。
昔、わたしがとても尊敬していた先生に、元済世会中央病院の中山秀夫先生というかたがいます。( 「1983年のステロイド依存」に出てくる須貝先生と同じ世代の方です。)
このころの、アトピー性皮膚炎治療は、「ステロイド外用剤は対症療法。治っていくのは自然治癒で、自然治癒傾向があるのだから、大部分は原因検索は必要ないが、成人で難治の場合は、何か悪化要因があるはずだから、それを探して解除する作業が必要だ」でした。
須貝先生がクリニシアンに書かれた文章を読んでもお分かりの通り、このころ既に「ステロイド依存」の存在は、学会でも議論されていたし、その対処として、ときに、外用よりもステロイド内服や注射のような全身投与のほうが、使いやすいようだ、ということは、経験的に知られていました。
中山先生は、化粧品アレルギーで、原因物質を次々と同定されたかたで、アトピーについては、環境のダニを重視されていました。ステロイド依存に関しては、少なくとも顔への依存は、危険性を重視していて「顔にはステロイドは使わない」治療方針だったはずです。
わたしは、中山先生を尊敬していましたので、成人の難治性アトピー性皮膚炎の「悪化要因検索」に、取り組みました。研究者としてではなく、臨床皮膚科医としてです。中山先生のように、大学ではなく、市中病院にあって、なおかつ研究者的なマインドを保つというスタンスにあこがれました。
食物性のアレルゲンは、食事日誌などでも把握できます。しかし、ダニを含めた環境系のアレルゲンや悪化因子に関しては、診察室で患者をいくら診ていても、患者への暴露状況は、わかりっこありません。それで、個別に患者宅の調査を行うという作業を開始しました。
環境調査というのは、医者の手に余ります。各方面に呼びかけて、自治体の衛生研究所の職員や、ハウスメーカー・空調器具メーカーの研究者や実務家、建築士、皮膚科医や呼吸器科医など総勢50名くらいだったでしょうか?手弁当で集まってくださって、それぞれの専門知識を生かして、ボランティアで、手分けして、患者宅調査を繰り返しました。
取りまとめ役であった私が過労で倒れてしまったため、徐々に活動は縮小し、現在はこの会は存在していません。ただ、この会に参加したことは、患者の住環境系の悪化因子を知る、見つける、という意味では、本当に勉強になりました。
おそらく、このような活動は、現在のような日本の経済状況では、二度と出来ないと思います。そもそも「環境避難」目的の、ホテル代わりの入院なんて、今の時代に病院が認めてくれないだろうし・・。各方面の専門家が集まって、それぞれの仕事が終わった後の夕方の時間や休日を潰して、患者宅の環境調査に向かう・・金銭に換算すると、たぶん一件当たり数十万円から百万円近くになるのではないかなあ。各自が、それぞれの専門性に関わる知的好奇心のみで、参加してくれていました。「手弁当でボランティア」が売りだったから出来たと思います。名古屋と言う土地柄もあったでしょうね。地道で「ものづくり」の文化です。机上の議論ではない、こういう現場活動が好きな人が多いです。
いま、環境系の悪化要因を患者が突き止めようとしたら、自力で転居してみたり、目に見えないダニ対策を、素人なりに盲人が鉄砲を撃つように試みてみたり、非効率ですが、いろいろ試して見るしかないのでしょうね・・・。目に見えなくても肌が教えてくれますから、不可能な話ではありません(日記と血液検査を手掛かりに悪化要因を探す話は→こちら)。そのときに、ステロイド外用で抑えていると、皮膚の反応が解りにくくて、悪化因子を探る手立てをなくしてしまうかもしれない、表題の「ステロイド忌避のメリット」とは、そういうことです。アトピー肌は、個々人によって違う悪化要因を探すアンテナのようなもので、ステロイドによって脚色されると、感度が鈍ります。
自治体によっては、保健所や衛生研究所が、簡単なダニ調査をしてくれるところもあります。ただし、昔私たちがやっていたように、建築構造など様々な専門家らとタイアップして、布団やソファひとつひとつまで見落とさずに徹底的に調査しなければ、なかなか「原因」は見つけにくいし、なぜそこで発生するのか?までの抜本的な原因はわかりにくいと思います。ダニなどの「見えない悪化因子」に関しては、こちらも参照下さい。(→ダニのケース、→カビのケース)
九州大学の標準治療のホームページには、「標準治療の三本柱」として「悪化因子探しと対策」とあります(→こちら)。個々の患者における環境系悪化因子の多様性や、発生源を突き止めることの難しさを考えると、なんだか薄っぺらな羅列だなあ、と感じます。書いてあるだけで、医者も病院も何かしてくれるわけではないし、実際に調査したことが無ければ、ノウハウも持ち合わせていないでしょうからね。
また、ステロイド忌避のメリットというか経過について補足しますと、脱ステ直後は一見皮膚が回復したように見えていても、「過敏性が亢進」(→こちら)した状態にありますが、悪化要因を避けていると、徐々に反応が弱くなっていきます(→「離脱経過の皮疹の分類」のタイプ2の解説)。ステロイド外用剤連用による表皮バリア破壊が回復していくからでしょう。
「ステロイドが抜ける」という表現を患者がすることがあります。血中濃度・皮膚内濃度は、もちろん短期で抜けるのですが、この、表皮バリア機能の完全回復には、一定の長期かかるようです。「長期」が、どのくらいかというと、これは患者の個体差・外用歴などが関係するわけですが、明らかな被刺激性の亢進が治まるまでには、3年、最長で5年位かなあ?・・と経験的に思います。10年以上経って、ステロイド外用の影響が残っているということは、後述する乳幼児の場合を除いて、無いのではないか?と感じます(あくまで臨床で患者を診ての印象に過ぎないのでご参考までに)。
離脱後5年以上経て良くならない・悪化を繰り返す患者における選択肢は、1)積極的に悪化要因を探し(悪化はヒントを与えてくれるチャンスです!)、排除の行動に出る。2)先日紹介した患者のように、依存に気をつけながらステロイド再使用する。3)社会的経済的に思い切った悪化要因探し・排除はできないものの、依存に陥らないというメリットを重視して引き続きステロイド忌避を続ける。に分かれます。医師を含め他人が決めることではありません。しかし、ただただ「引き続きステロイドが抜けるのを延々と待つ」というのは、期待できない考え方だと思います。
乳幼児において、ステロイド忌避する意味は、皮膚の発達段階において、ステロイド外用剤による悪影響を与えない、という点にもあります。皮膚の発達段階へのステロイド外用剤の悪影響は、明確に証明されているわけではありませんが、示唆する動物実験のデータはあります(→こちら)。医学的根拠が明白というところまではいかないので、私は積極的には情報発信しませんが、もしも、わたしの子供がアトピーであったら、ステロイド外用剤は決して使用しません。どんなに皮疹がひどくても、例え感染症を併発したとしても、ステロイド外用は避けて全身管理するでしょう。病態によっては、一時的なステロイド全身投与はするかもしれません(例えば敗血症ショックで輸液に反応せず血管作動薬を必要とする場合など)。しかし、「外用」しなければ生命に関わるという状況は、私は経験したことが無いし、医学的に有り得ないです。「皮疹が酷く、これに対してステロイドを外用しなかったために死んでしまったアトピー児」というのは聞いたことがありません。
落屑や浸出液で低蛋白血でも、栄養補給や補液だけで対処できるはずです。ステロイド外用して蛋白やミネラル・水の喪失元である皮膚を押さえてやれば管理しやすくなるので、「ステロイド忌避」に理解の無い医師は、外用を勧めるでしょうが、外用しなくても手間と時間が増えるというだけで、即、生命に危険が生じるということはありません。
ただし、食事療法や、ステロイド依存からの離脱を早める手法あるいは浸出液を減らす手法として一部の医師により行われることがある「飲水制限」は、素人考えで行うと、栄養失調や脱水で生命を脅かすことがあるので、こちらはくれぐれも気をつけて下さい。しかし、繰り返しますが、ステロイド外用は、これをしないと死んでしまうなどともし言われたとしたら、それはただの「脅し」です。
成人期になって、自分がアトピーを発症したら、状況によっては少量、あるいは間歇的には使用すると思います。
2011.09.20
「皮膚科医A」が私です。
昔、わたしがとても尊敬していた先生に、元済世会中央病院の中山秀夫先生というかたがいます。( 「1983年のステロイド依存」に出てくる須貝先生と同じ世代の方です。)
このころの、アトピー性皮膚炎治療は、「ステロイド外用剤は対症療法。治っていくのは自然治癒で、自然治癒傾向があるのだから、大部分は原因検索は必要ないが、成人で難治の場合は、何か悪化要因があるはずだから、それを探して解除する作業が必要だ」でした。
須貝先生がクリニシアンに書かれた文章を読んでもお分かりの通り、このころ既に「ステロイド依存」の存在は、学会でも議論されていたし、その対処として、ときに、外用よりもステロイド内服や注射のような全身投与のほうが、使いやすいようだ、ということは、経験的に知られていました。
中山先生は、化粧品アレルギーで、原因物質を次々と同定されたかたで、アトピーについては、環境のダニを重視されていました。ステロイド依存に関しては、少なくとも顔への依存は、危険性を重視していて「顔にはステロイドは使わない」治療方針だったはずです。
わたしは、中山先生を尊敬していましたので、成人の難治性アトピー性皮膚炎の「悪化要因検索」に、取り組みました。研究者としてではなく、臨床皮膚科医としてです。中山先生のように、大学ではなく、市中病院にあって、なおかつ研究者的なマインドを保つというスタンスにあこがれました。
食物性のアレルゲンは、食事日誌などでも把握できます。しかし、ダニを含めた環境系のアレルゲンや悪化因子に関しては、診察室で患者をいくら診ていても、患者への暴露状況は、わかりっこありません。それで、個別に患者宅の調査を行うという作業を開始しました。
環境調査というのは、医者の手に余ります。各方面に呼びかけて、自治体の衛生研究所の職員や、ハウスメーカー・空調器具メーカーの研究者や実務家、建築士、皮膚科医や呼吸器科医など総勢50名くらいだったでしょうか?手弁当で集まってくださって、それぞれの専門知識を生かして、ボランティアで、手分けして、患者宅調査を繰り返しました。
取りまとめ役であった私が過労で倒れてしまったため、徐々に活動は縮小し、現在はこの会は存在していません。ただ、この会に参加したことは、患者の住環境系の悪化因子を知る、見つける、という意味では、本当に勉強になりました。
おそらく、このような活動は、現在のような日本の経済状況では、二度と出来ないと思います。そもそも「環境避難」目的の、ホテル代わりの入院なんて、今の時代に病院が認めてくれないだろうし・・。各方面の専門家が集まって、それぞれの仕事が終わった後の夕方の時間や休日を潰して、患者宅の環境調査に向かう・・金銭に換算すると、たぶん一件当たり数十万円から百万円近くになるのではないかなあ。各自が、それぞれの専門性に関わる知的好奇心のみで、参加してくれていました。「手弁当でボランティア」が売りだったから出来たと思います。名古屋と言う土地柄もあったでしょうね。地道で「ものづくり」の文化です。机上の議論ではない、こういう現場活動が好きな人が多いです。
いま、環境系の悪化要因を患者が突き止めようとしたら、自力で転居してみたり、目に見えないダニ対策を、素人なりに盲人が鉄砲を撃つように試みてみたり、非効率ですが、いろいろ試して見るしかないのでしょうね・・・。目に見えなくても肌が教えてくれますから、不可能な話ではありません(日記と血液検査を手掛かりに悪化要因を探す話は→こちら)。そのときに、ステロイド外用で抑えていると、皮膚の反応が解りにくくて、悪化因子を探る手立てをなくしてしまうかもしれない、表題の「ステロイド忌避のメリット」とは、そういうことです。アトピー肌は、個々人によって違う悪化要因を探すアンテナのようなもので、ステロイドによって脚色されると、感度が鈍ります。
自治体によっては、保健所や衛生研究所が、簡単なダニ調査をしてくれるところもあります。ただし、昔私たちがやっていたように、建築構造など様々な専門家らとタイアップして、布団やソファひとつひとつまで見落とさずに徹底的に調査しなければ、なかなか「原因」は見つけにくいし、なぜそこで発生するのか?までの抜本的な原因はわかりにくいと思います。ダニなどの「見えない悪化因子」に関しては、こちらも参照下さい。(→ダニのケース、→カビのケース)
九州大学の標準治療のホームページには、「標準治療の三本柱」として「悪化因子探しと対策」とあります(→こちら)。個々の患者における環境系悪化因子の多様性や、発生源を突き止めることの難しさを考えると、なんだか薄っぺらな羅列だなあ、と感じます。書いてあるだけで、医者も病院も何かしてくれるわけではないし、実際に調査したことが無ければ、ノウハウも持ち合わせていないでしょうからね。
また、ステロイド忌避のメリットというか経過について補足しますと、脱ステ直後は一見皮膚が回復したように見えていても、「過敏性が亢進」(→こちら)した状態にありますが、悪化要因を避けていると、徐々に反応が弱くなっていきます(→「離脱経過の皮疹の分類」のタイプ2の解説)。ステロイド外用剤連用による表皮バリア破壊が回復していくからでしょう。
「ステロイドが抜ける」という表現を患者がすることがあります。血中濃度・皮膚内濃度は、もちろん短期で抜けるのですが、この、表皮バリア機能の完全回復には、一定の長期かかるようです。「長期」が、どのくらいかというと、これは患者の個体差・外用歴などが関係するわけですが、明らかな被刺激性の亢進が治まるまでには、3年、最長で5年位かなあ?・・と経験的に思います。10年以上経って、ステロイド外用の影響が残っているということは、後述する乳幼児の場合を除いて、無いのではないか?と感じます(あくまで臨床で患者を診ての印象に過ぎないのでご参考までに)。
離脱後5年以上経て良くならない・悪化を繰り返す患者における選択肢は、1)積極的に悪化要因を探し(悪化はヒントを与えてくれるチャンスです!)、排除の行動に出る。2)先日紹介した患者のように、依存に気をつけながらステロイド再使用する。3)社会的経済的に思い切った悪化要因探し・排除はできないものの、依存に陥らないというメリットを重視して引き続きステロイド忌避を続ける。に分かれます。医師を含め他人が決めることではありません。しかし、ただただ「引き続きステロイドが抜けるのを延々と待つ」というのは、期待できない考え方だと思います。
乳幼児において、ステロイド忌避する意味は、皮膚の発達段階において、ステロイド外用剤による悪影響を与えない、という点にもあります。皮膚の発達段階へのステロイド外用剤の悪影響は、明確に証明されているわけではありませんが、示唆する動物実験のデータはあります(→こちら)。医学的根拠が明白というところまではいかないので、私は積極的には情報発信しませんが、もしも、わたしの子供がアトピーであったら、ステロイド外用剤は決して使用しません。どんなに皮疹がひどくても、例え感染症を併発したとしても、ステロイド外用は避けて全身管理するでしょう。病態によっては、一時的なステロイド全身投与はするかもしれません(例えば敗血症ショックで輸液に反応せず血管作動薬を必要とする場合など)。しかし、「外用」しなければ生命に関わるという状況は、私は経験したことが無いし、医学的に有り得ないです。「皮疹が酷く、これに対してステロイドを外用しなかったために死んでしまったアトピー児」というのは聞いたことがありません。
落屑や浸出液で低蛋白血でも、栄養補給や補液だけで対処できるはずです。ステロイド外用して蛋白やミネラル・水の喪失元である皮膚を押さえてやれば管理しやすくなるので、「ステロイド忌避」に理解の無い医師は、外用を勧めるでしょうが、外用しなくても手間と時間が増えるというだけで、即、生命に危険が生じるということはありません。
ただし、食事療法や、ステロイド依存からの離脱を早める手法あるいは浸出液を減らす手法として一部の医師により行われることがある「飲水制限」は、素人考えで行うと、栄養失調や脱水で生命を脅かすことがあるので、こちらはくれぐれも気をつけて下さい。しかし、繰り返しますが、ステロイド外用は、これをしないと死んでしまうなどともし言われたとしたら、それはただの「脅し」です。
成人期になって、自分がアトピーを発症したら、状況によっては少量、あるいは間歇的には使用すると思います。
2011.09.20