脱ステロイド狩り
Streptcoccal toxic shock syndrome にて死亡したアトピー性皮膚炎成人例Dermatology today 幸田 衛(川崎医科大学皮膚科助教授)
Dermatology todayというのは、帝國製薬が医療関係者向けに配布していた小冊子です。2009年現在、インターネットでバックナンバー記事の全文が公開されています。 同じ著者による同じ表題の論文が、皮膚科の臨床(41: 315-318,1999)に掲載されているようで、そちらのほうが症例報告としては、詳細だろうとは思いますが、あえて、Dermatology todayを読んで、わたしの感想を記します。なぜかというと、Dermatology todayのこの記事は1999ころにも読んだ記憶があり、その時の感想も思い出して記してみたいと思うからです。 まず症例ですが、
-----(引用始め)-----
41歳、女性。小児期よりアトピー性皮膚炎があり、36歳頃から重症化し、漢方薬や民間療法を主に治療されていた。 1997年8月に2日間温泉療法を受けた後、両下肢に浮腫、発熱、下痢が出現した。急速に症状は悪化し、3日後にはショック状態となった。近医受診後、救急車にて当院に搬送されたが、その直後に呼吸停止、心停止をきたした。蘇生後、ICU にて抗生剤、持続血液濾過、エンドトキシン吸着法を含む集中的治療を施行したが、第11病日で死亡した。 検査では血小板2,000/μI、CPK29,940IU/I、ミオグロブリン224,000ng/I と顕著な異常値を示し、血液、尿、皮下組織のすべてから Streptococcus pyogenes が培養された。来院時、顔面、体幹の皮膚は乾燥粗造で Nikolsky 現象は認めなかったが、第2病日の大量輸液後には著明な浮腫のため易剥離性となった。 四肢は腫脹し、血疱、びらんが広範囲に存在し、急速に壊死に陥った。循環動態改善が困難で、壊死巣が50%以上と広範囲なため debridment は施行できなかった。Necropsy では、皮膚、皮下脂肪織内血管の septic vasculitis、筋肉の虚血性壊死、球菌コロニーの存在する細菌性肺炎、ミオグロブリンの閉塞による尿細管壊死像がとらえられた。
-----(引用終わり)-----
わたしは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症を経験したことはありませんが、なるほどこれは、典型的な経過だと思います。 それに続く「考案」ですが、
-----(引用始め)-----
Streptcoccal toxic shock syndrome は最近話題になっている A 群溶連菌感染症で、多くは健常者に発症する。微細な外傷を侵入門戸とし、急激に敗血症から多臓器不全に陥る致死率の高い疾患である。皮膚症状としては紅皮症や、菌が浸入したと思われる部位の発赤、腫脹、水疱、続いて壊死性筋膜炎へと進行することが多い。
(なるほどなるほど。)
湿疹皮膚炎群と本症とが関係した症例も、最近報告されている。谷垣らの症例では多発性結節性痒疹の成人例に本症が発生しており、自験例と同様に死の転帰をとっている。栗原らの症例はアトピー性皮膚炎成人例で壊死性筋膜炎が発症し患指を切断せざるを得なかった。
(まあ、アトピー性皮膚炎患者がたまたま感染して発症することもあるだろうなあ。)
発症誘因として、副作用を心配しステロイドによる治療を自己中止し、皮疹が急激に悪化したためと述べている。アトピー性皮膚炎患者が特別に溶連菌に対して免疫不全状態になっているということは考えにくく、不十分な皮膚炎の管理のため菌が浸入しやすい状態であった、と考える方が妥当である。
(えっ?ちょっと待てよ。上に「微細な外傷を侵入門戸とし」と書いてあるじゃないですか。アトピーの皮疹の管理が不十分だったからSTSSになった、って言いたいの?まさか。)
自験例も、ステロイド剤の使用を拒否していたとのことである。紅皮症化しているにもかかわらず、真夏に温泉療法を受けたことでよけい経皮感染しやすい状態になったものと思われる。温泉が溶連菌の発生源であるという確証は得られていないが、可能性は高い。
(うわっ、モロ脱ステ叩きじゃん。このひと、脱ステしてたからSTSSになったって論旨にしたいんだ。しかし、これ、感染源に関して、思い込み強すぎやしませんか?よほど「ステロイド剤を拒否して温泉療法」ってのが気に入らないんだろうなあ・・)
マスコミによるステロイドの副作用報道、それを強調して受けとる患者側、さらには驚くべきことに、それに同調しているかのような医師までもが現れている現況を考えると、我々皮膚科医も“一般の人が病気をよく理解する一過程としてしかたのない時期”と黙っているわけにはいかない。今回のような不幸な症例を経験することのないよう、アトピー性皮膚炎患者には皮膚管理の重要性を十分に説明し、理解していただくよう努める必要があると感じた。
(あー、私たち、ステロイド離脱希望の患者を受け入れる「脱ステ医」までが標的にされちゃってるよ。皮膚科医が脱ステ患者を受け入れて診療することこそが、おかしな民間療法に患者が走らない最良の方法だっていう風には、なぜ考えないんだろう?・・多分診るのがしんどいから嫌なんだろうなあ。それか、Steroid addictionに本当に認識がないのか。 要するに、著者が言いたいことは、アトピー性皮膚炎患者は、ステロイド外用剤を嫌がらずに使え、っていうことなんですね。それは分かったけど、たまたまSTSSに罹って死んじゃった患者をネタに、そこまで話を持ってくのは、「非科学的」で「非論理的」じゃないですか?)
-----(引用終わり)-----
青字は、わたしが、このDermatology todayを1999当時読んで、感じたことです。 STSSに関しては、2007年に国立感染症研究所が、感染経路として、表のような集計を出しており、「不明」が圧倒的に多く、皮膚からもありますが「外傷部位等の皮膚」です。アトピー性皮膚炎、まして脱ステ中の患者に多発なんてことはありません。2007年の集計を待つまでもなく、1999年当時でも、著者自身が本文で書いている通り、「微細な外傷」が侵入門戸でというのが通説でした。
Dermatology todayというのは、帝國製薬が医療関係者向けに配布していた小冊子です。2009年現在、インターネットでバックナンバー記事の全文が公開されています。 同じ著者による同じ表題の論文が、皮膚科の臨床(41: 315-318,1999)に掲載されているようで、そちらのほうが症例報告としては、詳細だろうとは思いますが、あえて、Dermatology todayを読んで、わたしの感想を記します。なぜかというと、Dermatology todayのこの記事は1999ころにも読んだ記憶があり、その時の感想も思い出して記してみたいと思うからです。 まず症例ですが、
-----(引用始め)-----
41歳、女性。小児期よりアトピー性皮膚炎があり、36歳頃から重症化し、漢方薬や民間療法を主に治療されていた。 1997年8月に2日間温泉療法を受けた後、両下肢に浮腫、発熱、下痢が出現した。急速に症状は悪化し、3日後にはショック状態となった。近医受診後、救急車にて当院に搬送されたが、その直後に呼吸停止、心停止をきたした。蘇生後、ICU にて抗生剤、持続血液濾過、エンドトキシン吸着法を含む集中的治療を施行したが、第11病日で死亡した。 検査では血小板2,000/μI、CPK29,940IU/I、ミオグロブリン224,000ng/I と顕著な異常値を示し、血液、尿、皮下組織のすべてから Streptococcus pyogenes が培養された。来院時、顔面、体幹の皮膚は乾燥粗造で Nikolsky 現象は認めなかったが、第2病日の大量輸液後には著明な浮腫のため易剥離性となった。 四肢は腫脹し、血疱、びらんが広範囲に存在し、急速に壊死に陥った。循環動態改善が困難で、壊死巣が50%以上と広範囲なため debridment は施行できなかった。Necropsy では、皮膚、皮下脂肪織内血管の septic vasculitis、筋肉の虚血性壊死、球菌コロニーの存在する細菌性肺炎、ミオグロブリンの閉塞による尿細管壊死像がとらえられた。
-----(引用終わり)-----
わたしは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症を経験したことはありませんが、なるほどこれは、典型的な経過だと思います。 それに続く「考案」ですが、
-----(引用始め)-----
Streptcoccal toxic shock syndrome は最近話題になっている A 群溶連菌感染症で、多くは健常者に発症する。微細な外傷を侵入門戸とし、急激に敗血症から多臓器不全に陥る致死率の高い疾患である。皮膚症状としては紅皮症や、菌が浸入したと思われる部位の発赤、腫脹、水疱、続いて壊死性筋膜炎へと進行することが多い。
(なるほどなるほど。)
湿疹皮膚炎群と本症とが関係した症例も、最近報告されている。谷垣らの症例では多発性結節性痒疹の成人例に本症が発生しており、自験例と同様に死の転帰をとっている。栗原らの症例はアトピー性皮膚炎成人例で壊死性筋膜炎が発症し患指を切断せざるを得なかった。
(まあ、アトピー性皮膚炎患者がたまたま感染して発症することもあるだろうなあ。)
発症誘因として、副作用を心配しステロイドによる治療を自己中止し、皮疹が急激に悪化したためと述べている。アトピー性皮膚炎患者が特別に溶連菌に対して免疫不全状態になっているということは考えにくく、不十分な皮膚炎の管理のため菌が浸入しやすい状態であった、と考える方が妥当である。
(えっ?ちょっと待てよ。上に「微細な外傷を侵入門戸とし」と書いてあるじゃないですか。アトピーの皮疹の管理が不十分だったからSTSSになった、って言いたいの?まさか。)
自験例も、ステロイド剤の使用を拒否していたとのことである。紅皮症化しているにもかかわらず、真夏に温泉療法を受けたことでよけい経皮感染しやすい状態になったものと思われる。温泉が溶連菌の発生源であるという確証は得られていないが、可能性は高い。
(うわっ、モロ脱ステ叩きじゃん。このひと、脱ステしてたからSTSSになったって論旨にしたいんだ。しかし、これ、感染源に関して、思い込み強すぎやしませんか?よほど「ステロイド剤を拒否して温泉療法」ってのが気に入らないんだろうなあ・・)
マスコミによるステロイドの副作用報道、それを強調して受けとる患者側、さらには驚くべきことに、それに同調しているかのような医師までもが現れている現況を考えると、我々皮膚科医も“一般の人が病気をよく理解する一過程としてしかたのない時期”と黙っているわけにはいかない。今回のような不幸な症例を経験することのないよう、アトピー性皮膚炎患者には皮膚管理の重要性を十分に説明し、理解していただくよう努める必要があると感じた。
(あー、私たち、ステロイド離脱希望の患者を受け入れる「脱ステ医」までが標的にされちゃってるよ。皮膚科医が脱ステ患者を受け入れて診療することこそが、おかしな民間療法に患者が走らない最良の方法だっていう風には、なぜ考えないんだろう?・・多分診るのがしんどいから嫌なんだろうなあ。それか、Steroid addictionに本当に認識がないのか。 要するに、著者が言いたいことは、アトピー性皮膚炎患者は、ステロイド外用剤を嫌がらずに使え、っていうことなんですね。それは分かったけど、たまたまSTSSに罹って死んじゃった患者をネタに、そこまで話を持ってくのは、「非科学的」で「非論理的」じゃないですか?)
-----(引用終わり)-----
青字は、わたしが、このDermatology todayを1999当時読んで、感じたことです。 STSSに関しては、2007年に国立感染症研究所が、感染経路として、表のような集計を出しており、「不明」が圧倒的に多く、皮膚からもありますが「外傷部位等の皮膚」です。アトピー性皮膚炎、まして脱ステ中の患者に多発なんてことはありません。2007年の集計を待つまでもなく、1999年当時でも、著者自身が本文で書いている通り、「微細な外傷」が侵入門戸でというのが通説でした。
1999当時といえば、わたしは国立病院で、全国からの脱ステ患者を受け入れて入院管理していました。たまたま運良くSTSS患者には遭遇しませんでしたが、もし私の診ていた患者が、STSSに罹って死亡したとしたら、おそらくこの著者をはじめ、全国のアンチ脱ステロイドの皮膚科の先生がたが、私を非難したことでしょう。 それは、わたしにとって、非常に恐怖でした。わたしはまだ医療ミスで患者から訴えられるという経験はありませんが、自分の明らかな落ち度によって、患者が不幸な転帰をたどったというならば、わたしは落ち込むし反省もするでしょうが、恐怖は感じないでしょう。しかし、1999当時の、脱ステロイドを巡る、多くの皮膚科医や皮膚科学会の反応は、このようにヒステリックで非論理的なもので、それに対してわたしは、どう対抗すればよかったのでしょうか? 仲間と思っていたひとたちが、非論理的な理由で、わたしに負の感情を向けてくる、そんな悲しい経験はそれまでの人生でありませんでした。
わたしは、Steroid addiction問題は、皮膚科が抱えた不良債権のようなもので、これを科学的・論理的に解き明かし、皆で力を合わせて脱ステ患者を診ていこうじゃないかと、何度も学会で訴えました。しかし、フロアからは何も反応はありませんでした。 結局、わたしは、心身を壊し、鬱と不眠に悩まされました。このまま、診療を続けていては、本当に何かミスをおかすかもしれない。それならば、自分は正しいことをやってきたのだという誇りとともに引退したほうがいい、そう思って、退職を決めました。
それでも、わたしは皮膚科が好きです。ひと目で病変を形態認識して診断するという、他の科にはない魅力があります。皮膚科はすばらしい科だと思います。いつの日か、皮膚科医自身の手によって、Steroid addictionの問題が正しく認識され、解決されるであろうことを信じます。
2009.10.21
わたしは、Steroid addiction問題は、皮膚科が抱えた不良債権のようなもので、これを科学的・論理的に解き明かし、皆で力を合わせて脱ステ患者を診ていこうじゃないかと、何度も学会で訴えました。しかし、フロアからは何も反応はありませんでした。 結局、わたしは、心身を壊し、鬱と不眠に悩まされました。このまま、診療を続けていては、本当に何かミスをおかすかもしれない。それならば、自分は正しいことをやってきたのだという誇りとともに引退したほうがいい、そう思って、退職を決めました。
それでも、わたしは皮膚科が好きです。ひと目で病変を形態認識して診断するという、他の科にはない魅力があります。皮膚科はすばらしい科だと思います。いつの日か、皮膚科医自身の手によって、Steroid addictionの問題が正しく認識され、解決されるであろうことを信じます。
2009.10.21