1996年の「アトピー性皮膚炎と闘うー世界の治療最前線」
1996年7月7日に放映された表題のような番組がありました。もう15年前になります。この頃、海外ではアトピー性皮膚炎やステロイド外用剤について、どのように考えられ、取り組まれていたのでしょうか?
こちらの番組になります(→ここ) 。NHKでは、過去の番組の再放映リクエストを募集しているようなので(→ここ)、是非リクエストしてください。
まず、最初に出てくる、Donald Leung先生ですが、
こちらの番組になります(→ここ) 。NHKでは、過去の番組の再放映リクエストを募集しているようなので(→ここ)、是非リクエストしてください。
まず、最初に出てくる、Donald Leung先生ですが、
この方の論文は、実は、以前本ブログで取り上げたことがあります(→ここ)。
2005年に、ステロイド抵抗性例のメカニズムについて、黄色ブドウ球菌の産生するスーパーアンチゲンが関係していることを解明して報告した先生です。
番組の前半では、Leung先生は、入浴とその直後の保湿剤の外用によって、その当時既に悪化要因の一つであることが知られていた黄色ブドウ球菌を減少させ、湿疹が軽快することを示しています。
阪南病院の佐藤先生が考案された「脱保湿」という考え方があります。以前記しました(→ここ)が、「脱保湿」というのは、ステロイド依存症からの離脱、リバウンドの期間を短縮させるために効果がある方法で、決してアトピー性皮膚炎患者一般に有効というわけではありません。
ステロイド依存に陥っていないアトピー性皮膚炎では、Leung先生のやり方のほうが有効なことが多いと思います。
脱線話ですが、皮膚科には 'If it's wet, dry it; if it's dry, wet it'. (湿潤していれば乾燥させ、乾燥していれば保湿せよ)という原則のような言葉があります。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/151247)
「押してもだめなら引いてみろ」といった感じです。皮膚を乾燥させる生活習慣(または気候)の傾向があって難治な場合には保湿を、保湿剤に頼りすぎて、湿潤させる傾向があって難治な場合に、脱保湿を試してみるのは良いと思います。人それぞれということですね。
番組の終わりのほうに、ステロイド外用剤の塗り方を指導している部分があります。看護師が指導して、「それでは少なすぎて、何も塗っていないのを同じよ。」と言っています。
2005年に、ステロイド抵抗性例のメカニズムについて、黄色ブドウ球菌の産生するスーパーアンチゲンが関係していることを解明して報告した先生です。
番組の前半では、Leung先生は、入浴とその直後の保湿剤の外用によって、その当時既に悪化要因の一つであることが知られていた黄色ブドウ球菌を減少させ、湿疹が軽快することを示しています。
阪南病院の佐藤先生が考案された「脱保湿」という考え方があります。以前記しました(→ここ)が、「脱保湿」というのは、ステロイド依存症からの離脱、リバウンドの期間を短縮させるために効果がある方法で、決してアトピー性皮膚炎患者一般に有効というわけではありません。
ステロイド依存に陥っていないアトピー性皮膚炎では、Leung先生のやり方のほうが有効なことが多いと思います。
脱線話ですが、皮膚科には 'If it's wet, dry it; if it's dry, wet it'. (湿潤していれば乾燥させ、乾燥していれば保湿せよ)という原則のような言葉があります。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/151247)
「押してもだめなら引いてみろ」といった感じです。皮膚を乾燥させる生活習慣(または気候)の傾向があって難治な場合には保湿を、保湿剤に頼りすぎて、湿潤させる傾向があって難治な場合に、脱保湿を試してみるのは良いと思います。人それぞれということですね。
番組の終わりのほうに、ステロイド外用剤の塗り方を指導している部分があります。看護師が指導して、「それでは少なすぎて、何も塗っていないのを同じよ。」と言っています。
この個所は、この番組が放映された1996年当時、リバウンドに苦しむ日本の患者たちの逆鱗に触れました。この一部分の映像だけで、当時の日本の患者たちの間でのこの番組の評価は、ずいぶん下がったと思います。
しかし、実際には、その後2005年にLeung先生は、アトピー性皮膚炎におけるステロイド抵抗例の存在と、そのメカニズムを解明して報告しました。
私の想像ですが、Leung 先生は、このような診療を通じて、どんなに沢山ステロイド外用剤を塗っても、効きが悪い、すなわちステロイド外用治療に抵抗する例が存在することに気が付いたのだと思います。それが、入浴・保湿を繰り返して黄色ブドウ球菌を減らしてやると、再びステロイド外用剤がよく効くようになることに気がついて、2005年の論文に結びついたのでしょう。
次いで、Hanifin先生が登場します。この方はアトピー性皮膚炎の診断基準を作られたことで、非常に有名な先生です。
しかし、実際には、その後2005年にLeung先生は、アトピー性皮膚炎におけるステロイド抵抗例の存在と、そのメカニズムを解明して報告しました。
私の想像ですが、Leung 先生は、このような診療を通じて、どんなに沢山ステロイド外用剤を塗っても、効きが悪い、すなわちステロイド外用治療に抵抗する例が存在することに気が付いたのだと思います。それが、入浴・保湿を繰り返して黄色ブドウ球菌を減らしてやると、再びステロイド外用剤がよく効くようになることに気がついて、2005年の論文に結びついたのでしょう。
次いで、Hanifin先生が登場します。この方はアトピー性皮膚炎の診断基準を作られたことで、非常に有名な先生です。
患者は手術台に座っています。日本の診察室とはずいぶん違いますが、アメリカの皮膚科は、美容皮膚科・美容外科を兼ねているところが多く、そのようなクリニックでは、簡単なプチ整形の施術が出来るように、こういった個室がたくさんあって、医者が移動します。「一人の患者に30分以上かけます」とありますが、それは、アメリカですから、民間の健康保険に加入している中クラス以上の富裕層での話です。アメリカの全国民がこのようなサービスを受けられるわけではありません。この点は番組中に示されていないので補足しておきます。
さて、Hanifin先生のコメントを文字起こししておきます。
ーーーーー
Paint twice a day as possible. You can then get out. And I think it would better do to start with a Diprosone just for a couple of days. Stronger steroid. And then as soon as you start to improve, you switch over triamcinolone which you used before.
(一日2回塗るよう心がけなさい。まずジプロソンを2日だけ使うといい。これは強いステロイドです。良くなったらすぐに以前使っていたトリアムシノロンに戻しなさい。)
ーーーーー
「ステロイド剤は副作用さえ無ければ完璧な薬ですが、副作用はあります。強いステロイド剤でも、二週間だけ使うのであれば、問題はないと思います。
しかし、アトピー性皮膚炎は、症状が長引くため、この薬を使い続けると、時には内臓のホルモンにも影響を与えかねません。アトピー性皮膚炎のような慢性の病気には、ステロイド剤に代わる薬が、どうしても必要なのです。
アトピー性皮膚炎のような慢性疾患に対して、ステロイド外用剤に頼りすぎることに、懸念を表しています。日本の「ステロイドを上手に使えば大丈夫」という、診療姿勢とはずいぶん違います。
日本の厳格食に近い食事療法のケースも紹介されています。
さて、Hanifin先生のコメントを文字起こししておきます。
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Paint twice a day as possible. You can then get out. And I think it would better do to start with a Diprosone just for a couple of days. Stronger steroid. And then as soon as you start to improve, you switch over triamcinolone which you used before.
(一日2回塗るよう心がけなさい。まずジプロソンを2日だけ使うといい。これは強いステロイドです。良くなったらすぐに以前使っていたトリアムシノロンに戻しなさい。)
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「ステロイド剤は副作用さえ無ければ完璧な薬ですが、副作用はあります。強いステロイド剤でも、二週間だけ使うのであれば、問題はないと思います。
しかし、アトピー性皮膚炎は、症状が長引くため、この薬を使い続けると、時には内臓のホルモンにも影響を与えかねません。アトピー性皮膚炎のような慢性の病気には、ステロイド剤に代わる薬が、どうしても必要なのです。
アトピー性皮膚炎のような慢性疾患に対して、ステロイド外用剤に頼りすぎることに、懸念を表しています。日本の「ステロイドを上手に使えば大丈夫」という、診療姿勢とはずいぶん違います。
日本の厳格食に近い食事療法のケースも紹介されています。
このような治療を要するケースは特別な場合であることが前置きされた上で、栄養士と連携を取って成長障害に気をつけ、なおかつ最終的には、普通の食事が取れるように持っていきたいとあります。
竹原先生の「厳格に守れば水しか飲めない」という言葉(→こちら)の無神経さがわかるでしょうか?このような放言は、本当に食事が悪化要因であり制限食によってしか改善しないセーラちゃんのような患者やその親を傷つけるだけのものです。
竹原先生の「厳格に守れば水しか飲めない」という言葉(→こちら)の無神経さがわかるでしょうか?このような放言は、本当に食事が悪化要因であり制限食によってしか改善しないセーラちゃんのような患者やその親を傷つけるだけのものです。
食物と並んで悪化要因として多い、ダニ対策については、
ーーーーー(ここから引用)-----
「今回の研究で、すべての人に、ダニ駆除が有効であったわけではありません。しかし、患者によっては、ダニの駆除で、アトピー性皮膚炎の症状を、大きく改善できるという、明確な結論を出すことができました。」
ーーーーー(ここまで引用)-----
と、述べられています。
これについても、以前記しました(→こちら)が、アトピー性皮膚炎のような多因子疾患においては、一要因のみをとりあげて、RCT(ランダム化比較試験)を行っても、なかなか有意差は出ません。
それでは、食事やダニが、悪化要因となっている例は無いのか?というと、そんなことはないです。
この場合、RCTという手法のほうに、限界があると考えるべきです。あるいは、多因子疾患であるアトピー性皮膚炎を、多因子のまま、集団としてRCTの対象としているという点に問題があるため、検出しにくいといってもいいです。
わかりやすく例えると、高血圧の患者20人を2群に分けて降圧剤についてRCTを行えば有効性は検出できるでしょうが、もし、高血圧20人に健常人100人を加えて、この集団にRCTを行ったら、降圧効果の有意差は出ないかもしない、ということです。
「RCTで有意差が確認されているのは、ステロイドだけだ。だからアトピー性皮膚炎は、ステロイドだけで治療するのが、科学的と言える。」という考えをする人がもしいたとしたら、そのひとは間違っています。多因子疾患の場合は、たまねぎの皮を剥ぐように、ひとつひとつの可能性を探っていかなければなりません。わたしの感覚では、ステロイド外用剤というのは、依存のメカニズムを通じて、アトピー性皮膚炎を難治化させているかもしれない数多くの要因の中の一つです。だから、ステロイドを止めるだけで良くなる人もいますが、そうでない人ももちろんいます。その場合は、別のアプローチを試すべきです。
ステロイド外用剤は、短期的には全ての患者で皮疹を改善しますから、一部の患者で「悪化要因」とみなすべきという考え方は、最初は抵抗がありますけどね。
2011.11.07
「今回の研究で、すべての人に、ダニ駆除が有効であったわけではありません。しかし、患者によっては、ダニの駆除で、アトピー性皮膚炎の症状を、大きく改善できるという、明確な結論を出すことができました。」
ーーーーー(ここまで引用)-----
と、述べられています。
これについても、以前記しました(→こちら)が、アトピー性皮膚炎のような多因子疾患においては、一要因のみをとりあげて、RCT(ランダム化比較試験)を行っても、なかなか有意差は出ません。
それでは、食事やダニが、悪化要因となっている例は無いのか?というと、そんなことはないです。
この場合、RCTという手法のほうに、限界があると考えるべきです。あるいは、多因子疾患であるアトピー性皮膚炎を、多因子のまま、集団としてRCTの対象としているという点に問題があるため、検出しにくいといってもいいです。
わかりやすく例えると、高血圧の患者20人を2群に分けて降圧剤についてRCTを行えば有効性は検出できるでしょうが、もし、高血圧20人に健常人100人を加えて、この集団にRCTを行ったら、降圧効果の有意差は出ないかもしない、ということです。
「RCTで有意差が確認されているのは、ステロイドだけだ。だからアトピー性皮膚炎は、ステロイドだけで治療するのが、科学的と言える。」という考えをする人がもしいたとしたら、そのひとは間違っています。多因子疾患の場合は、たまねぎの皮を剥ぐように、ひとつひとつの可能性を探っていかなければなりません。わたしの感覚では、ステロイド外用剤というのは、依存のメカニズムを通じて、アトピー性皮膚炎を難治化させているかもしれない数多くの要因の中の一つです。だから、ステロイドを止めるだけで良くなる人もいますが、そうでない人ももちろんいます。その場合は、別のアプローチを試すべきです。
ステロイド外用剤は、短期的には全ての患者で皮疹を改善しますから、一部の患者で「悪化要因」とみなすべきという考え方は、最初は抵抗がありますけどね。
2011.11.07