読売新聞記事の担当記者について(追記あり)
(読売新聞12月14・15日の記事については→こちら。16日の記事については→こちら。)
読売新聞の記事は、記名ではありませんが、担当は医療情報部で、「1997年発足、記者15人で日々取材中」とあります。記者が交替で記しているブログがあり、その中から下記を見つけました。
ーーーーー(ここから引用)-----
【皮膚科って・・】( 2010年2月3日)
1月21日から5回「医療ルネサンス かゆみの治療」を担当したのですが、皮膚科って難しい診療科だなぁと思いました。行けば塗り薬は出してもらえるのですが、結局塗るのは患者自身。よくわからないままに塗って、よくわからないままにやめてしまう。。治らないから「どうせ治らない」と思う。かゆみのつらさは人とはなかなか共感できないので、どうせほかの人にはわからないだろうと思う。「どうせ」という気持ちが染みついて、低空飛行を続けながら毎日を送る。。
これって私のことなんです。私は物心ついた時からアトピー性皮膚炎で、ステロイド軟こうを塗っても湿疹が消えたことはありませんでした。「大きくなったら治るよ」と言われ続けて、治らないままに成人しました。いつもどこかがちりちりとかゆく、世の中の大半の人はかゆくないんだなぁと思うと不思議な感じがしました。
会社に入って一時、ものすごく悪化した時期がありました。体中に穴が開いて、皮がべろっとむけて皮膚から汁が出る、顔は毛細血管がぱんぱんに開いた感じで熱くて真っ赤になっている。。外に出るのがつらく、皮膚科に行けばステロイド軟こうを出してもらうのですが、塗っても全然改善しません。私はなぜか軟こうを塗ると、皮膚が熱をもって余計にかゆく感じるので、薬を塗るのも大変でした。
暴風雨の中にいるような感じで、いったんかゆみが襲来すると、ほかのことは何も考えられません。ひっかかないように、皮膚に爪を立てるのですが(もちろん爪はパツンパツンに切ってあります)、その力が半端じゃない力で、左手で、皮膚に食い込んだ右手を離そうと引っ張るのですが、強く引っ張っても指をはがせないんです。
そして、かゆみが通り過ぎると、「じー」っと耳鳴りのような音が頭に響いて、かいてしまった後悔で、うちひしがれたような気分になるんです。その繰り返しでした。
最悪の状態から抜け出られたのは、皮膚科でもらった薬ではなくて、ニンニクでした。ニンニクを薄くスライスして全身に貼るんです。私はニンニクが嫌いなのですが、何となく思いついた方法で、複数の専門医から「そんなの治るはずない。刺激でかえって悪化するよ」と言われるのですが、なぜか嵐が去って、「ただのアトピー性皮膚炎」に戻りました。(試してみる場合は、悪くなったらただちに中止して下さい)。
そんなわけで、「どうせ治らない」という気持ちはますます強くなって、皮膚科に行くこともなく、ひどくなると市販のステロイド軟こうを塗るくらいで、治らないまま10年が過ぎました。
【皮膚科って・・の続き】( 2010年2月4日)
子どものころからアトピー性皮膚炎でしたが、このところ何年も皮膚科に行きませんでした。今回、かゆみの取材をするので、久々に皮膚科に行ってみました。(ひどい時には市販のステロイド軟こうは塗っていました)。
大人になってからは顔がひどく、両ほおに赤い炎症があり、炎症が続くので黒ずんでもいます。そして、いつもちりちりと不快な刺激感があり、常に顔を手で触っています。 出された薬は、免疫抑制効果のある塗り薬「タクロリムス(商品名プロトピック)」でした。 以前も使ったことがあり、普通のステロイド軟こうと同様に、特に効いた感じもなかったので、「どうせ効かないだろう」と思いつつ塗りました。すると、しばらくして、ものすごくかゆくなり、不安になりました。(前回は特にかゆみは出ませんでした)。「どうせ」と思っているので、いつもなら、ここで薬を使うことも、診療所に行くこともやめますが、今回は、「かゆくて塗れませんでした」と報告に行きました。「ステロイドを塗って炎症を抑えてからもう一度挑戦してみましょう」と言われました。仕事でその手の本を読んでいて、同じことが書いてあったので、指示通りにしてみました。 すると、かゆくなくなり、皮膚の状態も良くなりました。 一時的なものなのかもしれません。でも、人生の中で一番かゆみに悩むことが少ない(完全に消えたわけではないのですが)のは事実です。しばらくはまじめに皮膚科に通おうと考えています。
<炎症の状態に注意> 今回の連載のアトピー性皮膚炎の回で取材した2人の医師は、まず短期間ステロイドなどを塗ってきっちり炎症を抑え、保湿で良い状態を維持するという考えでした。「メリハリ」が大事だということです。(だらだらと塗らず、メリハリさえきちんとすれば、全身の重大な副作用はないということでした)。これに照らし合わせると私は、十分な強さと量の薬を塗っておらず、炎症が十分抑えられないまま、経過していたと思います。「炎症が治まっているか」を考えながら自分の皮膚を見るようになりました。
医師の間では多数派(標準的な?)の考え方ですが、記事には「ステロイドを使っても良くならない」というご意見をいただきました。私はその意見に共感できます。自分自身、長い間、そう感じていたものですから。また、「ステロイドを使わなくても良くしてくれる医師がいるので、取り上げて欲しい」「ステロイドを使わないで治す方法を紹介して欲しい」というご意見も何通かいただきました。 私は「ステロイド派」でも「非ステロイド派」でもないのですが、要は皮膚の炎症が抑えられた状態を維持することが大切なのだと思うようになっています。外用薬を適切に塗ることは有効な手段の1つで、そうでない手段もあるのかもしれません。高額な商品を売りつける「アトピービジネス」は怪しいですけど。
<皮膚科の薬は、塗る量や塗り方、タイミングも大事>
そこで、話は昨日の冒頭に戻るのですが、皮膚科って薬を出されて塗るだけだと、大半の人はそれでいいのかもしれないのですが、やっかいなケースだと難しいなぁと思うんです。この薬をどうして、どのように、いつまで塗るのか、塗る本人が理解しないといけないなぁと。薬を塗るって簡単に考えがちですが、錠剤を飲むほどには簡単に行かない。その時々に合った薬の選択も難しいように思いました。
館林牧子 2004年から医療情報部。子供や女性の病気を主に担当。4歳の双子の母。趣味は食べること。
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=15167&date=2010-02&top=15167&blist=11
たぶん、今回の担当は、この館林記者ではなかろうかと考えます。ご自身アトピー性皮膚炎のようです。ああ、なるほど、と思いました。というのは、今回の記事、はじめから、妙に主観的な論調を感じていましたので。(もし、担当が館林記者でなかったなら、失礼に当たるかもしれません。その場合はお詫びして訂正しますので、コメント欄を通じてご連絡ください)。
朝日の記事のときは、大人も子どもも、ケースが例示されて、それを取材するという形で、話が進んでおり、具体的ではあるが、やや突き放したような第三者的な論調でした。記者の感想的なものは入りますが、それはテレビのドキュメンタリーをみて「これはひどい」と憤慨するようなもので、結局は他人事的です。
今回の読売の記事も、ケースの例示で始まって、淡々とした論調ではあるのですが、何か、それらのケースが私のなかで、リアルなものとして浮かび上がってこないです。もちろん取材に基づいてはいるのでしょうが、私が読むと、それ自体をケースとして取り上げたくなるようなものではなく、むしろ、この読売新聞の記事そのものを「ケース」として取り上げたくなるような妙な感覚です。記者さん御自身が、アトピー性皮膚炎の患者であるとしたら、合点がいくと考えた次第です。淡々と、客観的に記しているようではあっても、それらは自分の実体験の鏡であるからです。
ひとは、自分がまったく経験したことのないことならば、理解は遅くとも、完全に客観視して書けます。わたしの場合は過去に診療にあたった、数千人のアトピー患者たちの記憶があり、皮疹があります(たしか、退職時には、アトピー患者の臨床写真だけで4万枚くらいあったと思います。当時はデジカメもなく、ポジフィルムで撮影したそれらを毎週整理するのが大変でした)。新しい論文や情報に接しても、どうしても過去のそれらの患者たちの臨床経過で検証しようと、脳が動きます。完全に客観視しては書けません。
医師は、わたしに限らず、非常に多くの患者の臨床経過や皮疹を接した経験が、「主観」として作用しますが、アトピー患者個人の場合は、自分と言う特殊な一例、しかし、その深さにおいては、どんな医師も及ばない経験と自信のようなものが「主観」として作用します。頭では、アトピーといってもいろいろな経過がある、とわかってはいても、どうしても自分の経験を軸に考えます。
依存やリバウンドを経験したことのないアトピー患者であれば、その壮絶さは理解できないだろうし、無意識が恐怖のために、そういった負の思考を拒絶するはずです。他人事ではないですからね。
たばこを好きで止められないひとが「お前、たばこに詳しいから肺がんの記事を書け」と言われたって書きたくないでしょう。書くとしたら「1日何本までなら肺がんにならない」とかいうデータがないか探したくなります。
たばこの例えは不適当かもしれません。依存性があるとはいえ、完全に不健康ですからね。ステロイドは依存にさえ陥らなければ有用です。前にも書きましたがお酒のほうが例えとしてはいいかもしれません。適度に飲めば「百薬の長」です。しかし、1日何合までなら、アルコール依存にならない、といったデータは存在しないし、そんな指導をしてくれる酒屋さんもないでしょう。
標準治療やガイドラインに従ったからといって、お医者さんが丁寧にステロイドの塗り方を説明してくれたからと言って、それで依存やリバウンドを回避できるという保証も科学的根拠もありません。だから、ステロイド外用剤には依存性があり、長期連用はリバウンドの原因となりえます、と警告するしかないんです。たばこのパッケージにも、1日何本までなら肺がんになりません、なんて書いてないでしょう?あれと同じことです。ほんとはお酒にも、アルコールには依存性があります、と記されるべきだと思うんですけどね。
あとは、ステロイド外用剤の使い方にしろ、1日1回と2回のどちらが効率的なのか?とか、弱いもの強いものとの使い分けとか、そういうのは、科学的データがあります。大矢先生らがまとめている通りです。使いたい人がその情報を参考にして使えばいい。しかし、使いたくないひとが、社会的に使用を強いられるような論調の記事はいかがなものかと思いますね。下に示すのは、某掲示板からのコピペです。読売新聞の担当記者さんには肝に銘じていただきたいものです。あなたの個人的な経験よりも、はるかに壮絶で苦しい(塗っても効かなくなってしまった)患者さんたちが存在することから目をそむけずに、「客観的」な取材を心がけてください。今後に期待しています。(12月17日記)
ーーーーー(ここから引用)-----
先日の朝日新聞に続き読売でもアトピーの連載が始まっています。
最近多いですがキャンペーンか何かでしょうか……
私は職場に脱ステなどありえない、標準治療で治せと言われ、辞職を決めました。こういう一方的な記事はアトピーで苦しむ人に向けてではなく、一般の方に対する見せしめのような気がします。脱ステをしようとしても「新聞見たけど脱ステって騙されてるんちゃうん?標準治療で良くなるんじゃないの?」と言われてしまう。こんな苦しいことはない。同じ苦しみを味わう人を増やしたくありません。
ーーーーー(ここまで引用)-----
(12月20日追記)今回の連載記事は、館林記者ではなく、野村昌玄記者であったようです。館林様、失礼いたしました。
http://megalodon.jp/2010-1220-1035-31/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34626
ただし、もし、野村記者が御自身アトピーでもなく、身内にもアトピー患者が居ないにも関わらず、今回の連載記事のような仕上がりのものをお書きになったということであるならば、怒りを禁じえません。12月14・15日の記事で指摘したような明らかな医学的な誤りが、患者としての「主観」が無意識に取材を狭めたからではなく、単純な取材の詰めの甘さ、要するに怠慢が今回の出来の悪い記事の原因であったということになるからです。
読売新聞の記事は、記名ではありませんが、担当は医療情報部で、「1997年発足、記者15人で日々取材中」とあります。記者が交替で記しているブログがあり、その中から下記を見つけました。
ーーーーー(ここから引用)-----
【皮膚科って・・】( 2010年2月3日)
1月21日から5回「医療ルネサンス かゆみの治療」を担当したのですが、皮膚科って難しい診療科だなぁと思いました。行けば塗り薬は出してもらえるのですが、結局塗るのは患者自身。よくわからないままに塗って、よくわからないままにやめてしまう。。治らないから「どうせ治らない」と思う。かゆみのつらさは人とはなかなか共感できないので、どうせほかの人にはわからないだろうと思う。「どうせ」という気持ちが染みついて、低空飛行を続けながら毎日を送る。。
これって私のことなんです。私は物心ついた時からアトピー性皮膚炎で、ステロイド軟こうを塗っても湿疹が消えたことはありませんでした。「大きくなったら治るよ」と言われ続けて、治らないままに成人しました。いつもどこかがちりちりとかゆく、世の中の大半の人はかゆくないんだなぁと思うと不思議な感じがしました。
会社に入って一時、ものすごく悪化した時期がありました。体中に穴が開いて、皮がべろっとむけて皮膚から汁が出る、顔は毛細血管がぱんぱんに開いた感じで熱くて真っ赤になっている。。外に出るのがつらく、皮膚科に行けばステロイド軟こうを出してもらうのですが、塗っても全然改善しません。私はなぜか軟こうを塗ると、皮膚が熱をもって余計にかゆく感じるので、薬を塗るのも大変でした。
暴風雨の中にいるような感じで、いったんかゆみが襲来すると、ほかのことは何も考えられません。ひっかかないように、皮膚に爪を立てるのですが(もちろん爪はパツンパツンに切ってあります)、その力が半端じゃない力で、左手で、皮膚に食い込んだ右手を離そうと引っ張るのですが、強く引っ張っても指をはがせないんです。
そして、かゆみが通り過ぎると、「じー」っと耳鳴りのような音が頭に響いて、かいてしまった後悔で、うちひしがれたような気分になるんです。その繰り返しでした。
最悪の状態から抜け出られたのは、皮膚科でもらった薬ではなくて、ニンニクでした。ニンニクを薄くスライスして全身に貼るんです。私はニンニクが嫌いなのですが、何となく思いついた方法で、複数の専門医から「そんなの治るはずない。刺激でかえって悪化するよ」と言われるのですが、なぜか嵐が去って、「ただのアトピー性皮膚炎」に戻りました。(試してみる場合は、悪くなったらただちに中止して下さい)。
そんなわけで、「どうせ治らない」という気持ちはますます強くなって、皮膚科に行くこともなく、ひどくなると市販のステロイド軟こうを塗るくらいで、治らないまま10年が過ぎました。
【皮膚科って・・の続き】( 2010年2月4日)
子どものころからアトピー性皮膚炎でしたが、このところ何年も皮膚科に行きませんでした。今回、かゆみの取材をするので、久々に皮膚科に行ってみました。(ひどい時には市販のステロイド軟こうは塗っていました)。
大人になってからは顔がひどく、両ほおに赤い炎症があり、炎症が続くので黒ずんでもいます。そして、いつもちりちりと不快な刺激感があり、常に顔を手で触っています。 出された薬は、免疫抑制効果のある塗り薬「タクロリムス(商品名プロトピック)」でした。 以前も使ったことがあり、普通のステロイド軟こうと同様に、特に効いた感じもなかったので、「どうせ効かないだろう」と思いつつ塗りました。すると、しばらくして、ものすごくかゆくなり、不安になりました。(前回は特にかゆみは出ませんでした)。「どうせ」と思っているので、いつもなら、ここで薬を使うことも、診療所に行くこともやめますが、今回は、「かゆくて塗れませんでした」と報告に行きました。「ステロイドを塗って炎症を抑えてからもう一度挑戦してみましょう」と言われました。仕事でその手の本を読んでいて、同じことが書いてあったので、指示通りにしてみました。 すると、かゆくなくなり、皮膚の状態も良くなりました。 一時的なものなのかもしれません。でも、人生の中で一番かゆみに悩むことが少ない(完全に消えたわけではないのですが)のは事実です。しばらくはまじめに皮膚科に通おうと考えています。
<炎症の状態に注意> 今回の連載のアトピー性皮膚炎の回で取材した2人の医師は、まず短期間ステロイドなどを塗ってきっちり炎症を抑え、保湿で良い状態を維持するという考えでした。「メリハリ」が大事だということです。(だらだらと塗らず、メリハリさえきちんとすれば、全身の重大な副作用はないということでした)。これに照らし合わせると私は、十分な強さと量の薬を塗っておらず、炎症が十分抑えられないまま、経過していたと思います。「炎症が治まっているか」を考えながら自分の皮膚を見るようになりました。
医師の間では多数派(標準的な?)の考え方ですが、記事には「ステロイドを使っても良くならない」というご意見をいただきました。私はその意見に共感できます。自分自身、長い間、そう感じていたものですから。また、「ステロイドを使わなくても良くしてくれる医師がいるので、取り上げて欲しい」「ステロイドを使わないで治す方法を紹介して欲しい」というご意見も何通かいただきました。 私は「ステロイド派」でも「非ステロイド派」でもないのですが、要は皮膚の炎症が抑えられた状態を維持することが大切なのだと思うようになっています。外用薬を適切に塗ることは有効な手段の1つで、そうでない手段もあるのかもしれません。高額な商品を売りつける「アトピービジネス」は怪しいですけど。
<皮膚科の薬は、塗る量や塗り方、タイミングも大事>
そこで、話は昨日の冒頭に戻るのですが、皮膚科って薬を出されて塗るだけだと、大半の人はそれでいいのかもしれないのですが、やっかいなケースだと難しいなぁと思うんです。この薬をどうして、どのように、いつまで塗るのか、塗る本人が理解しないといけないなぁと。薬を塗るって簡単に考えがちですが、錠剤を飲むほどには簡単に行かない。その時々に合った薬の選択も難しいように思いました。
館林牧子 2004年から医療情報部。子供や女性の病気を主に担当。4歳の双子の母。趣味は食べること。
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=15167&date=2010-02&top=15167&blist=11
たぶん、今回の担当は、この館林記者ではなかろうかと考えます。ご自身アトピー性皮膚炎のようです。ああ、なるほど、と思いました。というのは、今回の記事、はじめから、妙に主観的な論調を感じていましたので。(もし、担当が館林記者でなかったなら、失礼に当たるかもしれません。その場合はお詫びして訂正しますので、コメント欄を通じてご連絡ください)。
朝日の記事のときは、大人も子どもも、ケースが例示されて、それを取材するという形で、話が進んでおり、具体的ではあるが、やや突き放したような第三者的な論調でした。記者の感想的なものは入りますが、それはテレビのドキュメンタリーをみて「これはひどい」と憤慨するようなもので、結局は他人事的です。
今回の読売の記事も、ケースの例示で始まって、淡々とした論調ではあるのですが、何か、それらのケースが私のなかで、リアルなものとして浮かび上がってこないです。もちろん取材に基づいてはいるのでしょうが、私が読むと、それ自体をケースとして取り上げたくなるようなものではなく、むしろ、この読売新聞の記事そのものを「ケース」として取り上げたくなるような妙な感覚です。記者さん御自身が、アトピー性皮膚炎の患者であるとしたら、合点がいくと考えた次第です。淡々と、客観的に記しているようではあっても、それらは自分の実体験の鏡であるからです。
ひとは、自分がまったく経験したことのないことならば、理解は遅くとも、完全に客観視して書けます。わたしの場合は過去に診療にあたった、数千人のアトピー患者たちの記憶があり、皮疹があります(たしか、退職時には、アトピー患者の臨床写真だけで4万枚くらいあったと思います。当時はデジカメもなく、ポジフィルムで撮影したそれらを毎週整理するのが大変でした)。新しい論文や情報に接しても、どうしても過去のそれらの患者たちの臨床経過で検証しようと、脳が動きます。完全に客観視しては書けません。
医師は、わたしに限らず、非常に多くの患者の臨床経過や皮疹を接した経験が、「主観」として作用しますが、アトピー患者個人の場合は、自分と言う特殊な一例、しかし、その深さにおいては、どんな医師も及ばない経験と自信のようなものが「主観」として作用します。頭では、アトピーといってもいろいろな経過がある、とわかってはいても、どうしても自分の経験を軸に考えます。
依存やリバウンドを経験したことのないアトピー患者であれば、その壮絶さは理解できないだろうし、無意識が恐怖のために、そういった負の思考を拒絶するはずです。他人事ではないですからね。
たばこを好きで止められないひとが「お前、たばこに詳しいから肺がんの記事を書け」と言われたって書きたくないでしょう。書くとしたら「1日何本までなら肺がんにならない」とかいうデータがないか探したくなります。
たばこの例えは不適当かもしれません。依存性があるとはいえ、完全に不健康ですからね。ステロイドは依存にさえ陥らなければ有用です。前にも書きましたがお酒のほうが例えとしてはいいかもしれません。適度に飲めば「百薬の長」です。しかし、1日何合までなら、アルコール依存にならない、といったデータは存在しないし、そんな指導をしてくれる酒屋さんもないでしょう。
標準治療やガイドラインに従ったからといって、お医者さんが丁寧にステロイドの塗り方を説明してくれたからと言って、それで依存やリバウンドを回避できるという保証も科学的根拠もありません。だから、ステロイド外用剤には依存性があり、長期連用はリバウンドの原因となりえます、と警告するしかないんです。たばこのパッケージにも、1日何本までなら肺がんになりません、なんて書いてないでしょう?あれと同じことです。ほんとはお酒にも、アルコールには依存性があります、と記されるべきだと思うんですけどね。
あとは、ステロイド外用剤の使い方にしろ、1日1回と2回のどちらが効率的なのか?とか、弱いもの強いものとの使い分けとか、そういうのは、科学的データがあります。大矢先生らがまとめている通りです。使いたい人がその情報を参考にして使えばいい。しかし、使いたくないひとが、社会的に使用を強いられるような論調の記事はいかがなものかと思いますね。下に示すのは、某掲示板からのコピペです。読売新聞の担当記者さんには肝に銘じていただきたいものです。あなたの個人的な経験よりも、はるかに壮絶で苦しい(塗っても効かなくなってしまった)患者さんたちが存在することから目をそむけずに、「客観的」な取材を心がけてください。今後に期待しています。(12月17日記)
ーーーーー(ここから引用)-----
先日の朝日新聞に続き読売でもアトピーの連載が始まっています。
最近多いですがキャンペーンか何かでしょうか……
私は職場に脱ステなどありえない、標準治療で治せと言われ、辞職を決めました。こういう一方的な記事はアトピーで苦しむ人に向けてではなく、一般の方に対する見せしめのような気がします。脱ステをしようとしても「新聞見たけど脱ステって騙されてるんちゃうん?標準治療で良くなるんじゃないの?」と言われてしまう。こんな苦しいことはない。同じ苦しみを味わう人を増やしたくありません。
ーーーーー(ここまで引用)-----
(12月20日追記)今回の連載記事は、館林記者ではなく、野村昌玄記者であったようです。館林様、失礼いたしました。
http://megalodon.jp/2010-1220-1035-31/www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=34626
ただし、もし、野村記者が御自身アトピーでもなく、身内にもアトピー患者が居ないにも関わらず、今回の連載記事のような仕上がりのものをお書きになったということであるならば、怒りを禁じえません。12月14・15日の記事で指摘したような明らかな医学的な誤りが、患者としての「主観」が無意識に取材を狭めたからではなく、単純な取材の詰めの甘さ、要するに怠慢が今回の出来の悪い記事の原因であったということになるからです。
「アトピービジネス」をはびこらせたのは、ステロイド外用剤の依存性を認めることを非科学的な意図で頑なに拒否し無視し続けている竹原医師らなのか、それとも依存患者の離脱を医療行為として助けてきた私たち脱「ステロイド療法」の医師たちなのか、お好きな地酒を飲むたびに思い出して、考えていただきたいものです。
そしてあなたが記し、連載の最後まで訂正しようとしなかった誤りによって、どれだけの患者が依存への道を辿ることとなったか、どれだけの患者が職場で社会で泣くことになったか、その重さにいつか気がついてください。
私たちは、忘れません。
2010.12.17
そしてあなたが記し、連載の最後まで訂正しようとしなかった誤りによって、どれだけの患者が依存への道を辿ることとなったか、どれだけの患者が職場で社会で泣くことになったか、その重さにいつか気がついてください。
私たちは、忘れません。
2010.12.17