Dr.Corkの表皮バリア破綻説(その1)
New perspectives on epidermal barrier dysfunction in atopic dermatitis: Gene–environment interactions. Cork MJ et al. J ALLERGY CLIN IMMUNOL Volume 118, Issue 1, Pages 3-21 (July 2006)
ステロイド依存(Steroid addiction)やリバウンドという現象は、Dr.Kligmanによる記載以来、数多くの医師や研究者の関心事でした。現段階で、この現象を説明するのに、もっとも説得力があるとされているのは、2006年に発表された、Dr.Corkによる表題の説です。上記論文に記されています。 Dr.Corkの説を理解するには、皮膚の構造に関する、若干の基礎知識が必要です。まず、図をご覧ください。
ステロイド依存(Steroid addiction)やリバウンドという現象は、Dr.Kligmanによる記載以来、数多くの医師や研究者の関心事でした。現段階で、この現象を説明するのに、もっとも説得力があるとされているのは、2006年に発表された、Dr.Corkによる表題の説です。上記論文に記されています。 Dr.Corkの説を理解するには、皮膚の構造に関する、若干の基礎知識が必要です。まず、図をご覧ください。
表皮というのは、下層から基底層(Stratum Basale)、有棘層(Stratum Spinosum)、顆粒層(Stratum Granulosum)、角層(Stratum Corneum)の4層から成ります。下層の細胞が、ゆっくりと上層(外側)へと分化していきます。この細胞同士をつないで、皮膚を外界に対するよろいの様な構造に仕上げているのが、デスモゾームやコルネオデスモゾームと呼ばれるものです。角層にある角質細胞同士の接着はコルネオデスモゾームによります。
上図で、肌色は角質細胞(Corneocyte)で、青色は角質細胞間をつなぐコルネオデスモゾームです。 角質細胞とコルネオデスモゾームの強固な構造は、角層として、表皮のバリア機能を担い、アレルゲンなどの刺激から皮膚をよろいのように守っています。この構造は、プロテアーゼと呼ばれる酵素と、そのインヒビターとのバランスで調節されています。 すなわち、プロテアーゼは、コルネオデスモゾームを破壊し、古い角質を自然に脱落させ、インヒビターはこれを阻害します。 両者のバランスで、角層は適度の厚さに保たれ、生体はアレルゲンなどの外界からの刺激に対し保護されているわけです。
このプロテアーゼには、いくつかの種類があるのですが、SCCEという名前のプロテアーゼが主要な働きを担っています。SCCEは表皮細胞から作られる内因性のプロテアーゼです。 Dr.Corkの主張は、ステロイドの長期連用はこのプロテアーゼを増加させて、表皮バリア破壊に導くというものです。
アトピー性皮膚炎の悪化時には、炎症細胞や、黄色ブドウ球菌によって産生されたプロテアーゼも数多く働いています。プロテアーゼが増加すると、バリア機能が破壊されて、アレルゲンなどが侵入しやすくなります。
ステロイド外用剤は、皮膚の炎症が強いときに用いるとこれを抑えますが、長期連用すると、皮膚バリア機能は破壊され、アレルゲンなどが侵入しやすくなり、アトピー性皮膚炎の悪化が起きやすくなります。この状態がエスカレートして、外用すると治まるが、外用をやめるとすぐに悪化してしまう、そのような悪循環に陥ってしまった状態が「ステロイド依存(steroid addiction)」であるというわけです。
Dr.Corkの論文のSteroid addictionに関係する記述の部分を、以下にそのまま引用します。
-----(ここから引用)-----
Topical corticosteroids are an important short-term treatment for severe flares of AD. However, if topical corticosteroids are used for prolonged periods and particularly on delicate skin sites, they can cause cutaneous atrophy and damage the stratum corneum. Prolonged use of topical corticosteroids might damage the skin barrier on delicate skin sites enough to enhance the penetration of irritants and allergens. This could provide the explanation for the phenomenon of posttopical steroid rebound and steroid addiction.
(ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の悪化の短期的な治療薬としては重要である。しかし、長期間、とくに感受性の強い部位に外用すると、角層を破壊し、表皮の萎縮をきたす。ステロイド外用剤の長期連用は敏感な部位での皮膚バリア破壊を介して、外的刺激やアレルゲンの侵入を引き起こす。このことは「ステロイド依存」と呼ばれるステロイド外用後のリバウンド現象の説明になる。)
-----(ここまで引用)-----
2009.10.21
このプロテアーゼには、いくつかの種類があるのですが、SCCEという名前のプロテアーゼが主要な働きを担っています。SCCEは表皮細胞から作られる内因性のプロテアーゼです。 Dr.Corkの主張は、ステロイドの長期連用はこのプロテアーゼを増加させて、表皮バリア破壊に導くというものです。
アトピー性皮膚炎の悪化時には、炎症細胞や、黄色ブドウ球菌によって産生されたプロテアーゼも数多く働いています。プロテアーゼが増加すると、バリア機能が破壊されて、アレルゲンなどが侵入しやすくなります。
ステロイド外用剤は、皮膚の炎症が強いときに用いるとこれを抑えますが、長期連用すると、皮膚バリア機能は破壊され、アレルゲンなどが侵入しやすくなり、アトピー性皮膚炎の悪化が起きやすくなります。この状態がエスカレートして、外用すると治まるが、外用をやめるとすぐに悪化してしまう、そのような悪循環に陥ってしまった状態が「ステロイド依存(steroid addiction)」であるというわけです。
Dr.Corkの論文のSteroid addictionに関係する記述の部分を、以下にそのまま引用します。
-----(ここから引用)-----
Topical corticosteroids are an important short-term treatment for severe flares of AD. However, if topical corticosteroids are used for prolonged periods and particularly on delicate skin sites, they can cause cutaneous atrophy and damage the stratum corneum. Prolonged use of topical corticosteroids might damage the skin barrier on delicate skin sites enough to enhance the penetration of irritants and allergens. This could provide the explanation for the phenomenon of posttopical steroid rebound and steroid addiction.
(ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の悪化の短期的な治療薬としては重要である。しかし、長期間、とくに感受性の強い部位に外用すると、角層を破壊し、表皮の萎縮をきたす。ステロイド外用剤の長期連用は敏感な部位での皮膚バリア破壊を介して、外的刺激やアレルゲンの侵入を引き起こす。このことは「ステロイド依存」と呼ばれるステロイド外用後のリバウンド現象の説明になる。)
-----(ここまで引用)-----
2009.10.21