アレルギーの電話相談やHP作成にはずいぶんお金がかかるらしい・その3
(その1)は→こちら。(その2)は→こちら。
(続き)厚労省の科研費が、このようなHP整備に用いれれるようになったのは、平成13年度の「リウマチ・アレルギー疾患の研究・診療に関する的確かつ迅速な情報収集・提供体制の確立に関する研究(主任研究者:長谷川真紀)」が始まりのようです。
H13年度 1400万円
H14年度 2050万円
H15年度 1800万円
(クリックすると厚労省の交付決定額資料へ飛びます)
計5250万円の予算で、「リウマチ・アレルギー情報センター(http://www.allergy.go.jp/)」のHPが作られました。
研究報告はこちらです。どう見てもHPを作成する以外の仕事がなされた様子はなさそうです。
H14年度 研究報告
H15年度 研究報告
どうしてこれだけのコンテンツを製作するだけのために、これだけの費用がかかったのでしょうか?そもそもこれは「研究」と言えるのでしょうか?
厚労省のHP(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/taisaku.html )を見ますと、「リウマチ・アレルギー対策概念図」には、「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業」の研究成果を基に、「相談体制の整備」や「啓発・普及」を行う、この各種広報活動の一環として、「厚生労働省免疫アレルギー疾患予防・治療研究推進事業」として、インターネットを活用した情報提供を行う、とあります。
(続き)厚労省の科研費が、このようなHP整備に用いれれるようになったのは、平成13年度の「リウマチ・アレルギー疾患の研究・診療に関する的確かつ迅速な情報収集・提供体制の確立に関する研究(主任研究者:長谷川真紀)」が始まりのようです。
H13年度 1400万円
H14年度 2050万円
H15年度 1800万円
(クリックすると厚労省の交付決定額資料へ飛びます)
計5250万円の予算で、「リウマチ・アレルギー情報センター(http://www.allergy.go.jp/)」のHPが作られました。
研究報告はこちらです。どう見てもHPを作成する以外の仕事がなされた様子はなさそうです。
H14年度 研究報告
H15年度 研究報告
どうしてこれだけのコンテンツを製作するだけのために、これだけの費用がかかったのでしょうか?そもそもこれは「研究」と言えるのでしょうか?
厚労省のHP(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/taisaku.html )を見ますと、「リウマチ・アレルギー対策概念図」には、「免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業」の研究成果を基に、「相談体制の整備」や「啓発・普及」を行う、この各種広報活動の一環として、「厚生労働省免疫アレルギー疾患予防・治療研究推進事業」として、インターネットを活用した情報提供を行う、とあります。
昨日記した、池澤先生の登場する「小児アレルギー疾患Q&A」には「平成14年度厚生労働省免疫アレルギー疾患予防・治療研究推進事業」とあります。平成14年の厚労省研究事業(http://www.allergy.go.jp/Research/H14/index.html)の抄録をみても、研究事業のなかに「小児アレルギー疾患Q&A」の整備はなさそうで、研究事業とは別に推進事業がなされたのかと推定されます。「小児アレルギー疾患Q&A」には日本予防医学協会の名前がしるされており、http://www.sympo.jp/060211/index.htmlに「(日本予防医学協会は)平成14年から厚生労働省のご指名を受け、免疫アレルギー疾患予防・治療研究推進事業のお手伝いをさせていただいております。」とありました。ですから、日本予防医学協会の予算で「推進事業」がボランティア的になされたのかもしれません。
九州大学皮膚科の古江増隆教授は、この10年ほど、
「アトピー性皮膚炎の既存治療法の適応と有効性の再評価に関する研究」
平成11年 1850万円
平成12年 4200万円
平成13年 3900万円
「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」
平成14年 3000万円
平成15年 2700万円
平成16年 3000万円
「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」
H17年度 5070万円
H18年度 5070万円
H19年度 5070万円
「アトピー性皮膚炎のかゆみの解明と治療の標準化に関する研究」
平成20年度 5000万円
平成21年度 5000万円
平成22年度 4375万円
と毎年多額の研究事業の主任研究者となっていますが、その研究報告書を見ますと、その研究内容の多くが、HPの整備に費やされているのがわかります。
平成11年度研究報告書
平成12年度研究報告書
平成13年度研究報告書
平成14年度研究報告書
平成15年度研究報告書
平成16年度研究報告書
平成17年度研究報告書
平成18年度研究報告書
平成19年度研究報告書
平成20年度研究報告書
平成21年度研究報告書
とくに、平成15年、16年は、上の長谷川研究者のケースと同じく、HPの製作以外の「研究」はなされていないようです。
わたしは、これは、二つの点で問題だと考えます。
ひとつは、上にも記しましたように、HPの整備は「研究」とは言いがたいという点です。厚労省の図にもあるように、これは研究推進事業の範疇にあるべきで、また、これだけの内容に数千万円といった巨費が投じられるのはおかしいです。
たとえば平成15・16年度研究報告書も見ますと、古江先生含め12名が分担して、11のテーマについて「EBMによる評価」と題した総説が執筆されています。これは、内容・仕事量から考えて、通常の医学雑誌の稿料で考えると、1本あたりせいぜい10万円程度のものです。文献検索してレヴューしただけなので、経費はかかりません。12×10万=120万円に、これをHPにUPする作業代、仮に外注したとしても、100万円もあれば引き受けてくれるところがあるのではないでしょうか?総額220万円、高く見積もっても300万円程度の仕事です。これに対して総額5700万円の支給は不当です。内容もまた、医学雑誌の特集号程度のレベルです。
二つめは、研究と広報とを、同じひとたちが担うことは、一般国民への啓蒙内容に偏りが生じる恐れがある、という点です。たとえばステロイド外用剤依存のような、皮膚科医の中でも議論のあるテーマに関しては、トップである古江先生が否定的な姿勢であれば、それに関する研究も広報も、厚労省予算では一切なされない、という結果になってしまいます。これは、国民が、科学的知識を偏り無く知る権利を侵しています。
昨日示したように、横浜市大の池澤先生のようにステロイド依存や抵抗性について肯定する皮膚科の大学教授もいるという客観的情報は、国民や患者には隠蔽され、「ステロイド依存などというものは、アトピービジネス業者の作り話だ」という誤ったあるいは偏った印象操作を、厚労省が行っているという結果となります。
研究のトップが古江先生であれば、研究員は古江先生と似た考え方のひとが集まったとしても仕方ありませんが、啓発・普及を担うのは、研究事業にまったく関与していないひとが、厚労省研究事業の成果をも含めた、その分野の研究全体から、偏りなくまとめたほうがいいです。まして「研究」自体が、HPの製作やアップデートそのものであったというのは、呆れて言葉もありません。研究員のかたがたの多くは、「研究」ではなく、古江先生の意向にそった原稿を提出して「研究費」を受け取っていたというのが実態ではないでしょうか。
「古江先生の意向」とは、「ステロイド依存や抵抗性について、語るな、論ずるな」に尽きます。大矢先生担当の「ステロイド外用薬のEBMによる評価」を読むとよくわかりますが、そこには、ステロイド依存や抵抗性の話は出てきません。EBMの評価とは、「ステロイド外用薬はアトピーの皮疹を抑えるか?」(抑えます。当たり前です。)「外用法や塗る回数は、どれが一番効率的か?」です。依存や抵抗性については否定も肯定もされていません。 もし、マスコミのかたが、古江先生に電話などで取材する機会がありましたら、「ステロイド依存についてどう考えるか?」と聞いてみてください。彼は、「そんなことは臨床をやっている皮膚科医なら誰でも承知しているわざわざ書くまでもない問題だ。われわれは、そういうことが起こらないように、患者にとって最適な治療法をEBMに即して標準治療としてガイドラインにまとめているのだ。」と答えるでしょう。標準治療にしたがって治療するとステロイド依存に陥らないというエビデンスはどこにもないんですけどね。
わたしは、このようなここ10年ほどの厚労省の科研費の使途は、日本の財政が困難で、役所の無駄遣いが「仕分け」されている昨今の現状をかんがみますと、与党が厚労省に対して見直しを指示するか、あるいは、野党が国会で質問する材料として十分な話であり、質であると考えます。厚労省の「科学研究」はここまで堕ちたのか、と感じます。
この十年ほどは、わたしは政治家のかたとは、お付き合いもなく、個人的に情報提供やお願いをするルートがありません。ここをご覧になって、わたしの意見にご賛同いただけるかたで、そういうルートをお持ちのかたいらっしゃいましたら、ぜひ情報提供してください。お願いいたします。
また、マスコミ関係のかたで、わたしと同じ問題意識を抱いてくださるかたがいらっしゃいましたら、ぜひさらに各方面に取材して記事にして、実態を広く国民、とくに患者たちに知らしめてください。重ねてお願いいたします。
追記)最近「皮膚病診療」という総説誌に「リバウンド」と題した金沢大・竹原先生の小文が掲載されました(2010年12月号→こちら)。「そしてもっと罪深いのは、そのような突拍子もない意見は自分にはにわかに信じがたいが、ちょっと面白そうだから学会のシンポジウムなどでステロイド使用派と論争させてみようなどという企画を組んだ人たちである 」この一文が目をひきます。これは、わたしたち皮膚科学会会員有志が、今年の3月に「ステロイド依存への警告をガイドラインに入れよ、修正せよ」と申し入れたことを受けて、全国の若手教授たち学会企画者に向けて、「くれぐれも学会で新たにシンポジウムを企画して『ステロイド依存』に関する議論をしようなどという気を起こすな」という号令だと解されます。 このような言論統制がなぜまかり通るかというと、ひとつには、上述したような厚労省科研費の配分があります。前にも記しましたが、大学教授というのは、医局員の研究費の確保が大きな仕事です。権威筋に睨まれてこの配分から干されるのは辛いでしょう。
それにしても、「議論するな。議論の場を与えるな。」という発想はすごいです。これを非科学的とい言わずして何と言おう。
2010.11.29
九州大学皮膚科の古江増隆教授は、この10年ほど、
「アトピー性皮膚炎の既存治療法の適応と有効性の再評価に関する研究」
平成11年 1850万円
平成12年 4200万円
平成13年 3900万円
「アトピー性皮膚炎の既存治療法のEBMによる評価と有用な治療法の普及」
平成14年 3000万円
平成15年 2700万円
平成16年 3000万円
「アトピー性皮膚炎の症状の制御および治療法の普及に関する研究」
H17年度 5070万円
H18年度 5070万円
H19年度 5070万円
「アトピー性皮膚炎のかゆみの解明と治療の標準化に関する研究」
平成20年度 5000万円
平成21年度 5000万円
平成22年度 4375万円
と毎年多額の研究事業の主任研究者となっていますが、その研究報告書を見ますと、その研究内容の多くが、HPの整備に費やされているのがわかります。
平成11年度研究報告書
平成12年度研究報告書
平成13年度研究報告書
平成14年度研究報告書
平成15年度研究報告書
平成16年度研究報告書
平成17年度研究報告書
平成18年度研究報告書
平成19年度研究報告書
平成20年度研究報告書
平成21年度研究報告書
とくに、平成15年、16年は、上の長谷川研究者のケースと同じく、HPの製作以外の「研究」はなされていないようです。
わたしは、これは、二つの点で問題だと考えます。
ひとつは、上にも記しましたように、HPの整備は「研究」とは言いがたいという点です。厚労省の図にもあるように、これは研究推進事業の範疇にあるべきで、また、これだけの内容に数千万円といった巨費が投じられるのはおかしいです。
たとえば平成15・16年度研究報告書も見ますと、古江先生含め12名が分担して、11のテーマについて「EBMによる評価」と題した総説が執筆されています。これは、内容・仕事量から考えて、通常の医学雑誌の稿料で考えると、1本あたりせいぜい10万円程度のものです。文献検索してレヴューしただけなので、経費はかかりません。12×10万=120万円に、これをHPにUPする作業代、仮に外注したとしても、100万円もあれば引き受けてくれるところがあるのではないでしょうか?総額220万円、高く見積もっても300万円程度の仕事です。これに対して総額5700万円の支給は不当です。内容もまた、医学雑誌の特集号程度のレベルです。
二つめは、研究と広報とを、同じひとたちが担うことは、一般国民への啓蒙内容に偏りが生じる恐れがある、という点です。たとえばステロイド外用剤依存のような、皮膚科医の中でも議論のあるテーマに関しては、トップである古江先生が否定的な姿勢であれば、それに関する研究も広報も、厚労省予算では一切なされない、という結果になってしまいます。これは、国民が、科学的知識を偏り無く知る権利を侵しています。
昨日示したように、横浜市大の池澤先生のようにステロイド依存や抵抗性について肯定する皮膚科の大学教授もいるという客観的情報は、国民や患者には隠蔽され、「ステロイド依存などというものは、アトピービジネス業者の作り話だ」という誤ったあるいは偏った印象操作を、厚労省が行っているという結果となります。
研究のトップが古江先生であれば、研究員は古江先生と似た考え方のひとが集まったとしても仕方ありませんが、啓発・普及を担うのは、研究事業にまったく関与していないひとが、厚労省研究事業の成果をも含めた、その分野の研究全体から、偏りなくまとめたほうがいいです。まして「研究」自体が、HPの製作やアップデートそのものであったというのは、呆れて言葉もありません。研究員のかたがたの多くは、「研究」ではなく、古江先生の意向にそった原稿を提出して「研究費」を受け取っていたというのが実態ではないでしょうか。
「古江先生の意向」とは、「ステロイド依存や抵抗性について、語るな、論ずるな」に尽きます。大矢先生担当の「ステロイド外用薬のEBMによる評価」を読むとよくわかりますが、そこには、ステロイド依存や抵抗性の話は出てきません。EBMの評価とは、「ステロイド外用薬はアトピーの皮疹を抑えるか?」(抑えます。当たり前です。)「外用法や塗る回数は、どれが一番効率的か?」です。依存や抵抗性については否定も肯定もされていません。 もし、マスコミのかたが、古江先生に電話などで取材する機会がありましたら、「ステロイド依存についてどう考えるか?」と聞いてみてください。彼は、「そんなことは臨床をやっている皮膚科医なら誰でも承知しているわざわざ書くまでもない問題だ。われわれは、そういうことが起こらないように、患者にとって最適な治療法をEBMに即して標準治療としてガイドラインにまとめているのだ。」と答えるでしょう。標準治療にしたがって治療するとステロイド依存に陥らないというエビデンスはどこにもないんですけどね。
わたしは、このようなここ10年ほどの厚労省の科研費の使途は、日本の財政が困難で、役所の無駄遣いが「仕分け」されている昨今の現状をかんがみますと、与党が厚労省に対して見直しを指示するか、あるいは、野党が国会で質問する材料として十分な話であり、質であると考えます。厚労省の「科学研究」はここまで堕ちたのか、と感じます。
この十年ほどは、わたしは政治家のかたとは、お付き合いもなく、個人的に情報提供やお願いをするルートがありません。ここをご覧になって、わたしの意見にご賛同いただけるかたで、そういうルートをお持ちのかたいらっしゃいましたら、ぜひ情報提供してください。お願いいたします。
また、マスコミ関係のかたで、わたしと同じ問題意識を抱いてくださるかたがいらっしゃいましたら、ぜひさらに各方面に取材して記事にして、実態を広く国民、とくに患者たちに知らしめてください。重ねてお願いいたします。
追記)最近「皮膚病診療」という総説誌に「リバウンド」と題した金沢大・竹原先生の小文が掲載されました(2010年12月号→こちら)。「そしてもっと罪深いのは、そのような突拍子もない意見は自分にはにわかに信じがたいが、ちょっと面白そうだから学会のシンポジウムなどでステロイド使用派と論争させてみようなどという企画を組んだ人たちである 」この一文が目をひきます。これは、わたしたち皮膚科学会会員有志が、今年の3月に「ステロイド依存への警告をガイドラインに入れよ、修正せよ」と申し入れたことを受けて、全国の若手教授たち学会企画者に向けて、「くれぐれも学会で新たにシンポジウムを企画して『ステロイド依存』に関する議論をしようなどという気を起こすな」という号令だと解されます。 このような言論統制がなぜまかり通るかというと、ひとつには、上述したような厚労省科研費の配分があります。前にも記しましたが、大学教授というのは、医局員の研究費の確保が大きな仕事です。権威筋に睨まれてこの配分から干されるのは辛いでしょう。
それにしても、「議論するな。議論の場を与えるな。」という発想はすごいです。これを非科学的とい言わずして何と言おう。
2010.11.29