クロフィブラート軟膏のパイロットスタディ・ケース1(その2)
ケース1の方(→こちら)から連絡がありました。 「クロフィブラート軟膏中止後2日めくらいから湿疹が再燃し、5日めの現在、ほぼ元に戻ってしまった」とのことです。
それ自体は想定内のことで、私の予定としては、2週間ほど待って、リバウンド(元の状態より激しく多彩な悪化。ステロイドの場合、これが起きる人がいるので問題となる)の有無を確認した後に、長期連用の効果の確認に移ろうと考えていたのですが、彼としては、早く軟膏を再開したい様子でした。
少し迷いましたが、来院していただいた上で、早めに長期連用のプロトコールに入ることにしました。彼の場合、クロフィブラート外用は2週間で、それによってリバウンドが生じるとは考えにくいです(もし、これでリバウンドが生じるなら、クロフィブラートはステロイドよりも依存性が高い、という結論になってしまい、動物実験の結果と矛盾する)。早めに長期連用を開始しても、臨床報告的な価値は下がらないでしょう。
それで、急遽、「クロフィブラート軟膏の長期試用についての説明と同意書」を作製しました。現在治験に参加している方は参考になさってください(→こちら)。
かいつまんで記しますと、一年間、皮疹がある程度良くなっても、クロフィブラート軟膏(またはエマルジョンスプレー)を継続して毎日使用する、という治療計画です。その上で、一年後に中止し、「リバウンド」の有無を確認します。
研究デザインとしては、対照を置きませんから、前向きの小規模コフォート、もしくはケースシリーズに分類されると思います。
私の予想では、リバウンドは起きず、仮に悪化したとしても、一年前よりは軽度なものになるだろう、です。ただし、あくまで予想であり、外れるかもしれませんが。
さて、ケース1の方について、考察を続けます。これは、私が昔行っていた作業(治療)でもあります。わたしという「脱ステ医」が、どう考えて、患者に何をしていたのか?が、ご理解いただければと思います。
まず、皮疹の観察です。治験前の写真と対比してみます。「0 week」が外用前で、「6 days after discontinuance」が、クロフィブラート中止後6日めです。
それ自体は想定内のことで、私の予定としては、2週間ほど待って、リバウンド(元の状態より激しく多彩な悪化。ステロイドの場合、これが起きる人がいるので問題となる)の有無を確認した後に、長期連用の効果の確認に移ろうと考えていたのですが、彼としては、早く軟膏を再開したい様子でした。
少し迷いましたが、来院していただいた上で、早めに長期連用のプロトコールに入ることにしました。彼の場合、クロフィブラート外用は2週間で、それによってリバウンドが生じるとは考えにくいです(もし、これでリバウンドが生じるなら、クロフィブラートはステロイドよりも依存性が高い、という結論になってしまい、動物実験の結果と矛盾する)。早めに長期連用を開始しても、臨床報告的な価値は下がらないでしょう。
それで、急遽、「クロフィブラート軟膏の長期試用についての説明と同意書」を作製しました。現在治験に参加している方は参考になさってください(→こちら)。
かいつまんで記しますと、一年間、皮疹がある程度良くなっても、クロフィブラート軟膏(またはエマルジョンスプレー)を継続して毎日使用する、という治療計画です。その上で、一年後に中止し、「リバウンド」の有無を確認します。
研究デザインとしては、対照を置きませんから、前向きの小規模コフォート、もしくはケースシリーズに分類されると思います。
私の予想では、リバウンドは起きず、仮に悪化したとしても、一年前よりは軽度なものになるだろう、です。ただし、あくまで予想であり、外れるかもしれませんが。
さて、ケース1の方について、考察を続けます。これは、私が昔行っていた作業(治療)でもあります。わたしという「脱ステ医」が、どう考えて、患者に何をしていたのか?が、ご理解いただければと思います。
まず、皮疹の観察です。治験前の写真と対比してみます。「0 week」が外用前で、「6 days after discontinuance」が、クロフィブラート中止後6日めです。
クロフィブラート軟膏を使用する前にほぼ戻っていると言えます。
ここで気になるのは、悪化の程度が下肢>上肢である点です。また、もともとの彼の湿疹の分布が、躯幹部には少なく、四肢など、露出部に多い点も特徴です。 顔面にも湿疹は生じていますが、下肢ほどではありません。総じて外方>内方、下方>上方です。
彼の経過は、「その6」で記しましたが、ステロイド外用期間は短く、依存・リバウンド例ではないと私は判断します。現在の皮疹にも、リバウンドの特徴はありません。
ということは、この方は、アレルゲンの慢性暴露が原因で、それは下のほうから来る、ということです。
ここで気になるのは、悪化の程度が下肢>上肢である点です。また、もともとの彼の湿疹の分布が、躯幹部には少なく、四肢など、露出部に多い点も特徴です。 顔面にも湿疹は生じていますが、下肢ほどではありません。総じて外方>内方、下方>上方です。
彼の経過は、「その6」で記しましたが、ステロイド外用期間は短く、依存・リバウンド例ではないと私は判断します。現在の皮疹にも、リバウンドの特徴はありません。
ということは、この方は、アレルゲンの慢性暴露が原因で、それは下のほうから来る、ということです。
上は、私が1999年に、患者向けの書籍として著した「ステロイド依存」という本(→こちら)の一部です。やはり下肢に湿疹の強い症例が紹介されています。住居にチリダニが多く、転居によってすんなり改善した、という例でした。
ケース1の方は名古屋市内在住です。あまり知られていないと思うのですが、名古屋市の場合、生活衛生センターに依頼すると、環境アレルゲンの原因となるダニの調査をしてもらえます(→こちら)。名古屋市内在住の方であれば無料です。 まずは、この調査を市に依頼するよう彼に勧めました。
もうひとつ・・彼と家族にとっては、嬉しくない話だろうと思いますが、彼の家には猫が二匹います。「猫に触れると痒くなるような気がする」とのことです。
彼は高校のときに、現在の家に転居しました。中学生の頃は、部活のサッカーに熱中する健康な少年でした。猫は小学校の頃からいたようですが。
転居後、湿疹が出始めてステロイドを外用し、2年ほど経て中止。約4ヶ月間悪化(リバウンド?)がありましたが、その後約一年間はステロイドも使用せずに比較的良好でした。その後悪化を繰り返して今に至る、という経過です。
新しい住居が、猫のアレルゲンを室内に封じ込めるような構造である可能性が考えられます。
もし、名古屋市の調査で環境ダニがあまり多くなければ、私は、この方の悪化原因は、猫(フケや唾液などに含まれるアレルゲン)だと考えます。
猫を処分できればいちばん話は早いのですが、過去の私の診療経験から、そうしてくれた患者は1人もいません。たぶんこの方も、猫を保健所に持っていくといったことはしないでしょう。
次善の策として、この方が、どこか自宅近くに安いアパートを借りて、そこで生活する、という手があります。ただし、この方法は、それなりに経済的負担が生じます。
アトピー・アレルギーの治療というのは、こういうものです。
例えて言えば、プログラムのバグの修正のようなもので、肝心のところは一ヶ所だけです。そこを解除すれば、嘘のように話が変わりますが、そこに手を付けずに、ほかをどんなに一生懸命いじったところで、なかなかうまくは動きません。
よく、「アトピーの生活環境対策なんて、ありとあらゆることを私はやった」とおっしゃる患者がいますが、ありとあらゆることなんてしなくていいんです。鍵となっているバグは大抵一ヶ所なので、そこを見つけることが大切なんです。そこに手が付かなければ、他の何をどれだけ一生懸命してもしなくても、状況は変わりません。
たまたまそのバグがステロイドであった場合だけが「ステロイド依存」であり脱ステが真に有効と言えます。
私は、元々、脱ステロイドを主に診療していたわけではありません。このような「悪化要因探し」が始まりで、最初にステロイドを意識したのは、悪化要因の存在を覆い隠してしまう邪魔者としてでした。次いで依存・リバウンドの存在に気がついて、ステロイド自体が悪化要因であるケースが存在する、と考えるに至った医師です。最初に脱ステロイドありきではありません。
ほかの、それこそありとあらゆる要因を調べて、最後に猫しか考えられない、 というケースの経験ももちろんあります。その方(高校生でした)の家も結局猫を排除できなかったのですが、幸いというか、数年後に猫が寿命で亡くなって、すんなり軽快しました。入退院を繰り返し、網膜剥離の手術もしたのですが、軽快後、南のほうの大学に合格して、夏休みに日焼けして、まったく湿疹の無くなった肌を自慢気に見せにきてくれたのを覚えています。
猫のアレルゲンというのは非常に強く激烈です。家から猫が居なくなっても、半年くらいは、アレルゲン活性は残留するという報告があったはずです。
私の、以上のような「治療方針」は、正攻法だと思うのですが、 問題点があります。まず、1)収益性がありません。上記のような個別のアドバイスが出来るための、私の知識や経験は職人技だと自分でも思うのですが、それに対して相応の対価(金銭)を払おうという患者はあまり居ないでしょう。
また、2)患者が動かないことには、「治療」は始まりません。ケース1の方で言うなら、彼が猫をなんとかしてくれなければ、どうしようもないし、私にはそれを命じる権限はありません。また、私の見立てが必ず当たるとも限らない。もし外れていたら猫にとってはいい迷惑です。
結局、私の患者の治癒率の高い低いは、患者次第です。私にはどうしようもない。
そういったストレスが積み重なって、10年前に欝になって、アトピーの診療から離れた、という経緯です。
昔、ある小児科の先生と「全人的医療」という言葉を巡って議論になったことがあります。彼は、患者たちを引き連れてキャンプや海水浴に行ったりすることを「全人的医療」と称して、理想としていたようなイメージがあるのですが、私はそんなものは単なるサービスで、真の「全人的医療」とは、患者が仮に自分の身内だったら、あるいは自分自身だったらどうするか?を想定した医療を行うことであり、それは不可能だ、相手が他人である限り、干渉を許さない限界がある。だから臨床医が「全人的医療」などという言葉を用いるのはおこがましいし、欺瞞を感じる、という意見でした。
まあ、余談はこのくらいにして、ケース1の方は、クロフィブラート軟膏中止後の再燃が早い印象がありますが、依存・リバウンド例ではなく、悪化要因からも解除された状況にないためではないか?と思います。逆に考えると、そのような悪化要因に暴露された状況でも、クロフィブラート軟膏は効く、という確認が出来たということになります。
おそらく、依存・リバウンド例あるいは、アレルゲン暴露による悪化例の方でも、既にアレルゲンから解除されていて、ペリオスチンの悪循環に陥って遷延しているだけの方においては、クロフィブラート軟膏中止後、再燃までは、もう少しゆっくりか、あるいは再燃そのものが起こらないのではないか?と、私は予想します。しかし、まだ他の方々の経過が出ていないので判りません。
2012.08.19
ケース1の方は名古屋市内在住です。あまり知られていないと思うのですが、名古屋市の場合、生活衛生センターに依頼すると、環境アレルゲンの原因となるダニの調査をしてもらえます(→こちら)。名古屋市内在住の方であれば無料です。 まずは、この調査を市に依頼するよう彼に勧めました。
もうひとつ・・彼と家族にとっては、嬉しくない話だろうと思いますが、彼の家には猫が二匹います。「猫に触れると痒くなるような気がする」とのことです。
彼は高校のときに、現在の家に転居しました。中学生の頃は、部活のサッカーに熱中する健康な少年でした。猫は小学校の頃からいたようですが。
転居後、湿疹が出始めてステロイドを外用し、2年ほど経て中止。約4ヶ月間悪化(リバウンド?)がありましたが、その後約一年間はステロイドも使用せずに比較的良好でした。その後悪化を繰り返して今に至る、という経過です。
新しい住居が、猫のアレルゲンを室内に封じ込めるような構造である可能性が考えられます。
もし、名古屋市の調査で環境ダニがあまり多くなければ、私は、この方の悪化原因は、猫(フケや唾液などに含まれるアレルゲン)だと考えます。
猫を処分できればいちばん話は早いのですが、過去の私の診療経験から、そうしてくれた患者は1人もいません。たぶんこの方も、猫を保健所に持っていくといったことはしないでしょう。
次善の策として、この方が、どこか自宅近くに安いアパートを借りて、そこで生活する、という手があります。ただし、この方法は、それなりに経済的負担が生じます。
アトピー・アレルギーの治療というのは、こういうものです。
例えて言えば、プログラムのバグの修正のようなもので、肝心のところは一ヶ所だけです。そこを解除すれば、嘘のように話が変わりますが、そこに手を付けずに、ほかをどんなに一生懸命いじったところで、なかなかうまくは動きません。
よく、「アトピーの生活環境対策なんて、ありとあらゆることを私はやった」とおっしゃる患者がいますが、ありとあらゆることなんてしなくていいんです。鍵となっているバグは大抵一ヶ所なので、そこを見つけることが大切なんです。そこに手が付かなければ、他の何をどれだけ一生懸命してもしなくても、状況は変わりません。
たまたまそのバグがステロイドであった場合だけが「ステロイド依存」であり脱ステが真に有効と言えます。
私は、元々、脱ステロイドを主に診療していたわけではありません。このような「悪化要因探し」が始まりで、最初にステロイドを意識したのは、悪化要因の存在を覆い隠してしまう邪魔者としてでした。次いで依存・リバウンドの存在に気がついて、ステロイド自体が悪化要因であるケースが存在する、と考えるに至った医師です。最初に脱ステロイドありきではありません。
ほかの、それこそありとあらゆる要因を調べて、最後に猫しか考えられない、 というケースの経験ももちろんあります。その方(高校生でした)の家も結局猫を排除できなかったのですが、幸いというか、数年後に猫が寿命で亡くなって、すんなり軽快しました。入退院を繰り返し、網膜剥離の手術もしたのですが、軽快後、南のほうの大学に合格して、夏休みに日焼けして、まったく湿疹の無くなった肌を自慢気に見せにきてくれたのを覚えています。
猫のアレルゲンというのは非常に強く激烈です。家から猫が居なくなっても、半年くらいは、アレルゲン活性は残留するという報告があったはずです。
私の、以上のような「治療方針」は、正攻法だと思うのですが、 問題点があります。まず、1)収益性がありません。上記のような個別のアドバイスが出来るための、私の知識や経験は職人技だと自分でも思うのですが、それに対して相応の対価(金銭)を払おうという患者はあまり居ないでしょう。
また、2)患者が動かないことには、「治療」は始まりません。ケース1の方で言うなら、彼が猫をなんとかしてくれなければ、どうしようもないし、私にはそれを命じる権限はありません。また、私の見立てが必ず当たるとも限らない。もし外れていたら猫にとってはいい迷惑です。
結局、私の患者の治癒率の高い低いは、患者次第です。私にはどうしようもない。
そういったストレスが積み重なって、10年前に欝になって、アトピーの診療から離れた、という経緯です。
昔、ある小児科の先生と「全人的医療」という言葉を巡って議論になったことがあります。彼は、患者たちを引き連れてキャンプや海水浴に行ったりすることを「全人的医療」と称して、理想としていたようなイメージがあるのですが、私はそんなものは単なるサービスで、真の「全人的医療」とは、患者が仮に自分の身内だったら、あるいは自分自身だったらどうするか?を想定した医療を行うことであり、それは不可能だ、相手が他人である限り、干渉を許さない限界がある。だから臨床医が「全人的医療」などという言葉を用いるのはおこがましいし、欺瞞を感じる、という意見でした。
まあ、余談はこのくらいにして、ケース1の方は、クロフィブラート軟膏中止後の再燃が早い印象がありますが、依存・リバウンド例ではなく、悪化要因からも解除された状況にないためではないか?と思います。逆に考えると、そのような悪化要因に暴露された状況でも、クロフィブラート軟膏は効く、という確認が出来たということになります。
おそらく、依存・リバウンド例あるいは、アレルゲン暴露による悪化例の方でも、既にアレルゲンから解除されていて、ペリオスチンの悪循環に陥って遷延しているだけの方においては、クロフィブラート軟膏中止後、再燃までは、もう少しゆっくりか、あるいは再燃そのものが起こらないのではないか?と、私は予想します。しかし、まだ他の方々の経過が出ていないので判りません。
2012.08.19