クロフィブラート軟膏の将来的展望など
先日来、高脂血症の内服薬である、クロフィブラートを外用薬として、アトピー性皮膚炎や脱ステロイド後のリバウンドへの有効性を確認しようとパイロットスタディを行っています。一部の患者では、はっきりと有効性が確認されています。
ただ、私も、決してアトピー外来を再開しようと、この研究を始めたわけでもなく(私がこの研究を行っている理由も下記にまとめてあります)、仮に今回の結果から、クロフィブラートの有用性をアピールできた場合に、その後、この薬がどう展開していくか、について考えてみました。
製薬会社は、製品化してはくれないだろう
クロフィブラートは古い内服薬であり、特許も切れているため、製薬会社がこれを軟膏として厚労省の認可を得て売り出すことは多分無いでしょう。新薬でなければ、すなわち、特許=独占権が無ければ、他のメーカーがすぐに安価にジュネリックを作れるので、最初に申請認可を得た製薬会社は、その費用(治験などの費用を含むので高額です)を他社であるジュネリックのために拠出したようなことになって割りに合いません。また、クロフィブラート内服薬の薬価は安いので、軟膏を作っても高い薬価が設定できるはずもなく、利益そのものが見込めないでしょう。
念のため、クロフィブラート内服薬の製薬メーカーに問い合わせてみました(クロフィブラートは古い薬剤で特許が切れているので複数メーカーが製造しています。問い合わせたのはそのうちの一社です)。あわせて、クロフィブラート軟膏を製造販売できないか検討もお願いしてみました。
回答は、
==========
1)一般的には、内服薬を外用薬へと剤型変更する場合には、外用した場合の薬理作用、毒性、臨床効果等の確認が必要となります。また、厚生労働省の審議により、承認後一定期間の優先権(後発品が参入できない期間)が与えられる場合もあります。
2)弊社と致しましては、開発に要する時間やコスト等を考慮しまして開発には慎重にならざるをえません。
==========
でした。やはりなあ・・。
患者の視点からは、なかなか見えてこないことだと思いますが、医薬品というのは、患者にとって良い薬だから、製品化される、というものではありません。
製薬会社というのは企業ですから、利潤が見込める、すなわち、新薬で特許などで独占権が保護されて、薬価が高いものでなければ、投資はしません。
むしろ、古い薬は、製薬会社にとってお荷物となることが多く(特許が切れて後発メーカーが参入し、薬価も安く儲けが出ない)、製造中止になることも多いです。
30年も医者をやっていると、さすがにその辺りのことは、いろいろ経験します。たとえば、ある古い薬剤で副作用が新聞記事で取り上げられたあと、製薬会社がその製剤をさっさと製造中止してしまったことがありました。これは、患者(消費者)の視点からは、製薬会社が製造を自粛したように見えるでしょうが、そうではなく、これ幸いと不採算な品目を削除したのです。
医者としては、困ります。めったには生じない副作用のために、使えるアイテムが一つなくなってしまったわけですからね。
まあ、話は戻って、クロフィブラートのような古くて安い内服薬で、湿疹を抑えたりリバウンドに有効なことが、仮に今回の私の研究で確認され、医学論文になったとしても、製薬会社が動いてくれることは、以上の理由から有り得んわけですよ。それは、有効だからとか、科学的に立証されたからとかというのとはまったく別の、単純に製薬会社にとって利益が出るか?という問題です。
医者はその気になれば処方することは出来る
一方、内服薬であるクロフィブラートを軟膏に練って、これを患者に処方することは、医師であれば誰でも出来ます。外用薬として厚労省に認可されているかどうかとはまったく別で、合法です。日本の医師は、自ら診療した患者に対して自己の責任において行う限りは、厚労省の認可を得ていない薬剤ですら処方可です。内服薬として認可を得ているクロフィブラートを外用剤として用いることは当然できます。日本の医師は広い権限を付与されているのです(諸外国は必ずしもそうではない。国によって違います)。だから例えば日本の医師は海外の未認可の医薬品を個人輸入して患者に処方も出来ます(健康保険は通りませんが)。
私が今回やっている研究は、製薬会社が医薬品の認可を求めて主体となって行ってるものではないですから、正確には「治験」ではないです。製薬会社が行う治験に良く似た、医師による臨床研究ですね。
今回私がクロフィブラート軟膏の効果を確認しようとした目的の一つは、その結果を他の皮膚科医たちに納得してもらい、各自で調製して(そんなに難しくないです。調剤薬局にお願いすれば自分で練らなくてもいいし。)、活用してもらおうと考えてのことでした。保険診療で処方するなら、白色ワセリンだけの値段(クロフィブラートは算定できないので)ですが、臨床医は製薬会社ほどには利益第一ではないので、メリットが納得のいくものであれば、採算度外視で処方しようという先生も出てくるでしょう。自費診療の別カルテを作って保険外処方してもいいです。 当初はそう考えていました。
しかし、これは途中で気がついたのですが、万が一、自家製のクロフィブラート軟膏で、何かトラブル・副作用あった場合には、医薬品副作用被害救済制度(→こちら)の対象になりません。そういう意味で二の足踏む慎重な先生は多いだろうと思います。
医薬品を適正に(厚労省の認可を受けた用法・用量通りに)使用していても、副作用が生じることはあります。この場合、医師に過失があったとは言えませんから、医師に責任を問えません。患者は、医薬品副作用被害救済制度による救済を求めることになります。しかし、クロフィブラート軟膏は、内服薬を外用薬にしたもので「適正な」用法とは言えませんから、医薬品副作用被害救済制度は使えません。
そうなると、患者が救済を受ける手段は、医師の過失を主張して争うしかなくなります。矛先が医師に向きやすくなるわけです(追記参照)。
私は、美容外科の自由診療やってるお陰で、海外から未認可医薬品調達してきて、自分で調べて、自己責任でクリニックで使用する、という作業に慣れています。それらの医薬品は当然、医薬品副作用被害救済制度の対象ではありませんが、さほど苦にはなりません。要は、自分で論文などを調べて、慎重に行えば、リスクというのは余程回避できるし、リスクが大きい・自分の手に余ると判断したらやらければいいだけのことです(クロフィブラート軟膏はリスクはほとんど無いと私は判断したので、こうして研究をしています)。
この研究、最初は他の先生を窓口にしてやろうと(そのほうが二重盲験として完全なので)呼びかけたんですが、誰も手を挙げてくれませんでした。なぜなのか、最初わたしは気がつかなかったのですが、たぶん以上のような理由からでしょう。
ただし、この「リスク」、私が今回20例を無事に終えて、とくに問題が生じず、一部の患者においてであっても有効性が確認されれば、ずいぶん軽減するだろうと思います。誰も何もしなければ、何も始まりませんが、誰かが最初にやったあとなら、続く人もいるかもしれない。私は20人診た後はお休みしますが、将来への種蒔き的な役割は果たせるだろうという自負はあります。
では、患者は、クロフィブラート軟膏を入手することは永遠に出来ないのか?
もし、クロフィブラート軟膏を将来日本の患者のかたが、使用できるとしたら、海外からの個人輸入という形になるのかもしれません。
医薬品の個人輸入は、それを日本国内で転売せずに自身で用いる目的なら、自由です。医師の場合は、上記のように他人である患者への処方も認められていますが、非医師の場合は自分で使用する限りにおいては、自己責任のもと自由ということです。
クロフィブラート軟膏の原価は非常に安いです。白色ワセリンとあわせても100gで200円はしないでしょう。これを例えば1000円として、海外(例えば韓国)から国際宅急便が1500円くらいを加えて2500円。利益が800円なら、商売としては成り立ちます。さほど悪どくも無い。
日本で、医師が軟膏を自作して処方すれば、個人輸入などという煩雑な手間ははぶけるし、患者としては医師に診ていてもらえるという意味で安心でしょうが、非適正用法のため医薬品副作用被害救済制度保険の適用外となると、医者が尻込みします。また、万が一にそなえた経済的リスク対策として、処方価格を上げるかもしれない。そうすると、その医者はぼったくりだとそしられて、アトピービジネス扱いされる、それでは益々割りに合いません。だから、日本でこれ(クロフィブラート軟膏)処方しようという医師は現れないかもです。
もっとも、私がやりたくない一番大きな理由は、ぶっちゃけ正直に書きますが、たとえば二重瞼を埋没法で作る美容外科の手術が自費で9万円、15分ほどで終わります。加齢によるたるみを糸で引き上げる手術が30分くらいで24万円、だいたいこういう仕事を一日2~3件して、私は暮らしています。自分の技術を、それだけの価格で売れるということは、私の誇りでもある。医者なら誰でもできるって仕事じゃないんですよ。はっきり書きますが、私は器用なんです。 たまたまアトピー脱ステの問題にかかわってしまって、人生の一部をかなり消耗してしまいましたが、私の得意分野はアトピーだけじゃありません。これははっきり言いたい。
そういう診療(商売)をしながら、仮に、クロフィブラートを自費で患者に例えば100g千円で、利益800円で売って、それで「やっぱり深谷の正体はアトピービジネスだ」なんてそしられたら、すっごく嫌だ。私のプライドが許さない。儲けたいだけなら、もっと割の良い仕事をする能力が私にはある。だから誤解につながりそうなアトピーの自由診療は、絶対やりたくない。
仮に一部の患者に感謝されても、多くのほかの人たちに誤解されて嫌な思いをするなら、悪いけど私は遠慮します。昔、さんざんそういう目に合って、心身壊したので。
それで、クロフィブラート軟膏、有用でも、製薬会社は製品化しない、日本の医者はびびって処方しない、私も処方しない、となったら、仮に今回の研究で、科学的に一部の患者への有用性が確認されたとしても、患者は永遠にクロフィブラート軟膏を入手できないのでしょうか?そうでもないと私は思います。
それは、一つは、上で記したように、日本のアトピーの診療をしている医者のごく一部の方が、眼を留めて納得して、自己責任(医薬品副作用被害救済制度でカバーされないリスクを負うという意味)で、患者に処方するかもしれない可能性であり、もう一つは海外からの個人輸入です。
たとえば、韓国は医薬品認可が日本よりも簡単でコストが安いです。また、日本と異なり、韓国国内への日本の医薬品の個人輸入は、自国製薬企業保護のために一切禁止です(日本は海外医薬品の個人輸入は禁止されていない)が、韓国の薬の日本への輸出は可です。韓国以外にも、医薬品の製造販売認可コストが安い国はあるでしょう。
日本の患者は、それを個人輸入して各自試すことができます。クロフィブラート軟膏に限らず、日本の近未来の医療の一つの形かもしれないですね。 日本の、新規医薬品の認可がコストがかかる一方で海外医薬品の個人輸入は自由という事情ならではです。
しつこいようですが、念押しておきますが、将来そういうクロフィブラート軟膏の海外通販が登場しても、わたしがその上前はねてるなんてことは有り得ないです。だって、クロフィブラート軟膏作るの簡単で誰でも出来るし、私特許も何も持ってるわけじゃないから、私にロイヤリティー払う必要なんて無いから。変に疑う人が出てこないとも限らないから釘刺しときます。私が、この研究やってる目的は、ただ、クロフィブラート軟膏は効くのか?を確認したい、それだけです。
海外在住の方(とくに韓国)、その国の医薬品認可の仕組み調べて、日本向けにクロフィブラート軟膏の個人通販するといいかもですよ。わたしは、上記のように、いまの美容外科の仕事で満足してるので、わざわざ煩雑で細かいビジネスを、アトピービジネス呼ばわりされてまで手掛ける予定はないですが、そういうこだわりの無い普通の方であれば、小規模なビジネスとしては、上記のように利益率的に成り立つだろうし、社会的に有用だと思います。韓国などに在住で、ご自身あるいは家族がアトピーの、薬剤師さんあたりが向いてると思います。もしご覧になってたらコメント欄通じて連絡ください。作成ノウハウなど、協力いたします。そのくらいの手間は惜しみません。
クロフィブラート軟膏の有効性が科学的に確認されたら、日本の「診療ガイドライン」は変わるか?
仮に、海外でクロフィブラート軟膏が作られ使われるようになって、科学的エビデンスも確認されたら、日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に、クロフィブラート軟膏が加えられるでしょうか?というと、NOでしょうね。なぜかというと、「診療」ガイドラインだから。
医師が診療で用いる薬剤についてのガイドラインであって、医師の診療が予定されていない海外通販の軟膏について触れる必要も義務も無いですからね。
なぜ、私はクロフィブラート軟膏の有効性確認に、強い関心をいだいているのか?
クロフィブラート軟膏というのは、ステロイド軟膏よりも皮膚炎を抑える力は弱いです。しかし、リバウンドを起こさない、あるいはリバウンドに効くかもしれない、というメリットがあります。
ですから、「ステロイド軟膏に依存やリバウンドはありません」という立場からは、クロフィブラート軟膏のメリットは認められません。クロフィブラートは「ステロイドよりも皮膚炎を抑えない、弱くて臨床的に無価値な薬」、でしかないです。
逆に言うと、クロフィブラート軟膏の上記のメリットを確認してアピールすることは、ステロイド依存・リバウンドの存在を訴えることでもあるわけですね。
クロフィブラートの最大の特質は、「免疫を抑えない」という点だろうと考えます。ステロイドは無論、プロトピックにしろ、シクロスポリンにしろ、免疫抑制剤です。現在開発中のNFκBデコイもステロイドと似たところに作用点を持ちます。しかし、クロフィブラートの場合は、純粋に表皮細胞だけに効いているはずです。クロフィブラート内服で、免疫抑制は起きないからです。
この点(免疫系に作用しない点)が、クロフィブラート軟膏が奏効するケースとそうでないケースとを分けているのだろうと推測します。また、ステロイドのようなリバウンドを起こさない(動物実験で確認されています)理由なのでしょう。
私が強く関心を抱いて、自ら研究を行っている理由は、以上のような点が非常に興味深いからです。本音を言うと、誰かが、私の代わりにこれやって、論文にしてくれると、私はそれ読むだけでいいから、一番楽でいいんだけどな・・。
(追記)
ほとんどの医師は、医師賠償責任保険(医賠責)に入っています。「医療行為によって生じた身体の障害につき損害賠償を請求された場合に、賠償金等を補填する」ものです。
クロフィブラート軟膏のような、厚労省の認可を経ない薬剤によって、万が一「身体の障害」が生じた場合に、医賠責は使えるのでしょうか?
ちょっとよく判らなかったので、調べてみました。多分使えそうです。
==========
一般医師賠償責任保険の免責事項は、例示しますと次の通りです。(1)海外での医療行為による事故、(2)被保険者が故意に起こした事故、(3)美容を唯一の目的とする医療行為による事故、(4)医療の結果を保証することによって加重された賠償責任、(5)名誉棄損または秘密漏泄に起因する賠償責任、(6)戦争、天災地変に関連のある事故、(7)他人から借りたり預かっている財物の損傷、紛失または盗難事故、(8)医師・看護婦・薬剤師その他の使用人が就業中に被った身体障害、(9)医師の家族に対する賠償責任、(10)自動車の所有、使用または管理に起因する事故、(11)所定の免許を持たない医師の医療行為に起因して生じた事故等です。なお、当然のことながら、刑事事件の罰金等に対しての適用はありません。
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とあり、「厚労省未認可の医薬品を使用したことによる合併症」は、免責事項に含まれていなさそうだからです(保険約款や判例を全て確認したわけではないですが)。
ただし、この保険から賠償金を支払ってもらうためには、医師側の落度が認められなければなりません。落度が無ければ賠償の根拠が無いからです。保険会社から交渉役の弁護士が来るわけですが、医師の落度が認められないように、すなわち保険金が支払われなくても良いように、全力を尽くします。保険会社の弁護士ですから保険会社の利益を考えれば当然そうなります。医師は、弁護士に無断で勝手に患者と交渉してはいけない決まりです。なぜなら、医師の中には、自分の患者が気の毒なことになって申し訳ない、保険を使えば、自分の懐が痛むわけでもないし、自らの落度を積極的に認めて、なるべく多額の賠償金を払ってもらおう、と考える人もいるかもしれないからです。
医薬品副作用被害救済制度の場合は、一定の要件が満たされていれば、医師にまったく落度が無くても支払われます。ですから、救済制度で支払ってもらうのと、医師に(すなわち医賠責から)払ってもらおうというのでは、患者側の労力が大きく違います。
ちなみに私はこの医賠責保険には加入していません。なぜなら、上記の通り、「(3)美容を唯一の目的とする医療行為による事故」は、免責であり、現在美容外科医である私にとっては、まったくメリットが無いからです。
ですから、今回の研究で、今のところまだ、何も副作用というか、有害事象は出ていないですが、もし何か生じた場合には、救済制度も医賠責も使えませんから、まったくの私個人との交渉ということになります。
また、もし将来、日本のお医者さんどなたかが、クロフィブラート軟膏を作製して処方して、万が一何か有害事象生じたときには、たぶんアトピー性皮膚炎を日常的に診療している先生は普通に医賠責に加入しているだろうから、患者は保険会社の弁護士さんと交渉することになるでしょう。
ですから、クロフィブラート軟膏のような、非認可の薬剤を処方しようとする場合には、医師は「落ち度のないように」すなわち、考えうる限り、どのような副作用が生じる可能性があるのか、を、文書で明示し、それを患者が理解・了解したうえで使用に同意した、という署名を得ておく必要があるでしょう。この作業は、まさに私が毎日の美容外科診療で行っていることです。
以上、将来的に、クロフィブラート軟膏の自院での処方を検討していらっしゃる医師の方のために付記しました。ご参考までに。
2012.09.13
ただ、私も、決してアトピー外来を再開しようと、この研究を始めたわけでもなく(私がこの研究を行っている理由も下記にまとめてあります)、仮に今回の結果から、クロフィブラートの有用性をアピールできた場合に、その後、この薬がどう展開していくか、について考えてみました。
製薬会社は、製品化してはくれないだろう
クロフィブラートは古い内服薬であり、特許も切れているため、製薬会社がこれを軟膏として厚労省の認可を得て売り出すことは多分無いでしょう。新薬でなければ、すなわち、特許=独占権が無ければ、他のメーカーがすぐに安価にジュネリックを作れるので、最初に申請認可を得た製薬会社は、その費用(治験などの費用を含むので高額です)を他社であるジュネリックのために拠出したようなことになって割りに合いません。また、クロフィブラート内服薬の薬価は安いので、軟膏を作っても高い薬価が設定できるはずもなく、利益そのものが見込めないでしょう。
念のため、クロフィブラート内服薬の製薬メーカーに問い合わせてみました(クロフィブラートは古い薬剤で特許が切れているので複数メーカーが製造しています。問い合わせたのはそのうちの一社です)。あわせて、クロフィブラート軟膏を製造販売できないか検討もお願いしてみました。
回答は、
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1)一般的には、内服薬を外用薬へと剤型変更する場合には、外用した場合の薬理作用、毒性、臨床効果等の確認が必要となります。また、厚生労働省の審議により、承認後一定期間の優先権(後発品が参入できない期間)が与えられる場合もあります。
2)弊社と致しましては、開発に要する時間やコスト等を考慮しまして開発には慎重にならざるをえません。
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でした。やはりなあ・・。
患者の視点からは、なかなか見えてこないことだと思いますが、医薬品というのは、患者にとって良い薬だから、製品化される、というものではありません。
製薬会社というのは企業ですから、利潤が見込める、すなわち、新薬で特許などで独占権が保護されて、薬価が高いものでなければ、投資はしません。
むしろ、古い薬は、製薬会社にとってお荷物となることが多く(特許が切れて後発メーカーが参入し、薬価も安く儲けが出ない)、製造中止になることも多いです。
30年も医者をやっていると、さすがにその辺りのことは、いろいろ経験します。たとえば、ある古い薬剤で副作用が新聞記事で取り上げられたあと、製薬会社がその製剤をさっさと製造中止してしまったことがありました。これは、患者(消費者)の視点からは、製薬会社が製造を自粛したように見えるでしょうが、そうではなく、これ幸いと不採算な品目を削除したのです。
医者としては、困ります。めったには生じない副作用のために、使えるアイテムが一つなくなってしまったわけですからね。
まあ、話は戻って、クロフィブラートのような古くて安い内服薬で、湿疹を抑えたりリバウンドに有効なことが、仮に今回の私の研究で確認され、医学論文になったとしても、製薬会社が動いてくれることは、以上の理由から有り得んわけですよ。それは、有効だからとか、科学的に立証されたからとかというのとはまったく別の、単純に製薬会社にとって利益が出るか?という問題です。
医者はその気になれば処方することは出来る
一方、内服薬であるクロフィブラートを軟膏に練って、これを患者に処方することは、医師であれば誰でも出来ます。外用薬として厚労省に認可されているかどうかとはまったく別で、合法です。日本の医師は、自ら診療した患者に対して自己の責任において行う限りは、厚労省の認可を得ていない薬剤ですら処方可です。内服薬として認可を得ているクロフィブラートを外用剤として用いることは当然できます。日本の医師は広い権限を付与されているのです(諸外国は必ずしもそうではない。国によって違います)。だから例えば日本の医師は海外の未認可の医薬品を個人輸入して患者に処方も出来ます(健康保険は通りませんが)。
私が今回やっている研究は、製薬会社が医薬品の認可を求めて主体となって行ってるものではないですから、正確には「治験」ではないです。製薬会社が行う治験に良く似た、医師による臨床研究ですね。
今回私がクロフィブラート軟膏の効果を確認しようとした目的の一つは、その結果を他の皮膚科医たちに納得してもらい、各自で調製して(そんなに難しくないです。調剤薬局にお願いすれば自分で練らなくてもいいし。)、活用してもらおうと考えてのことでした。保険診療で処方するなら、白色ワセリンだけの値段(クロフィブラートは算定できないので)ですが、臨床医は製薬会社ほどには利益第一ではないので、メリットが納得のいくものであれば、採算度外視で処方しようという先生も出てくるでしょう。自費診療の別カルテを作って保険外処方してもいいです。 当初はそう考えていました。
しかし、これは途中で気がついたのですが、万が一、自家製のクロフィブラート軟膏で、何かトラブル・副作用あった場合には、医薬品副作用被害救済制度(→こちら)の対象になりません。そういう意味で二の足踏む慎重な先生は多いだろうと思います。
医薬品を適正に(厚労省の認可を受けた用法・用量通りに)使用していても、副作用が生じることはあります。この場合、医師に過失があったとは言えませんから、医師に責任を問えません。患者は、医薬品副作用被害救済制度による救済を求めることになります。しかし、クロフィブラート軟膏は、内服薬を外用薬にしたもので「適正な」用法とは言えませんから、医薬品副作用被害救済制度は使えません。
そうなると、患者が救済を受ける手段は、医師の過失を主張して争うしかなくなります。矛先が医師に向きやすくなるわけです(追記参照)。
私は、美容外科の自由診療やってるお陰で、海外から未認可医薬品調達してきて、自分で調べて、自己責任でクリニックで使用する、という作業に慣れています。それらの医薬品は当然、医薬品副作用被害救済制度の対象ではありませんが、さほど苦にはなりません。要は、自分で論文などを調べて、慎重に行えば、リスクというのは余程回避できるし、リスクが大きい・自分の手に余ると判断したらやらければいいだけのことです(クロフィブラート軟膏はリスクはほとんど無いと私は判断したので、こうして研究をしています)。
この研究、最初は他の先生を窓口にしてやろうと(そのほうが二重盲験として完全なので)呼びかけたんですが、誰も手を挙げてくれませんでした。なぜなのか、最初わたしは気がつかなかったのですが、たぶん以上のような理由からでしょう。
ただし、この「リスク」、私が今回20例を無事に終えて、とくに問題が生じず、一部の患者においてであっても有効性が確認されれば、ずいぶん軽減するだろうと思います。誰も何もしなければ、何も始まりませんが、誰かが最初にやったあとなら、続く人もいるかもしれない。私は20人診た後はお休みしますが、将来への種蒔き的な役割は果たせるだろうという自負はあります。
では、患者は、クロフィブラート軟膏を入手することは永遠に出来ないのか?
もし、クロフィブラート軟膏を将来日本の患者のかたが、使用できるとしたら、海外からの個人輸入という形になるのかもしれません。
医薬品の個人輸入は、それを日本国内で転売せずに自身で用いる目的なら、自由です。医師の場合は、上記のように他人である患者への処方も認められていますが、非医師の場合は自分で使用する限りにおいては、自己責任のもと自由ということです。
クロフィブラート軟膏の原価は非常に安いです。白色ワセリンとあわせても100gで200円はしないでしょう。これを例えば1000円として、海外(例えば韓国)から国際宅急便が1500円くらいを加えて2500円。利益が800円なら、商売としては成り立ちます。さほど悪どくも無い。
日本で、医師が軟膏を自作して処方すれば、個人輸入などという煩雑な手間ははぶけるし、患者としては医師に診ていてもらえるという意味で安心でしょうが、非適正用法のため医薬品副作用被害救済制度保険の適用外となると、医者が尻込みします。また、万が一にそなえた経済的リスク対策として、処方価格を上げるかもしれない。そうすると、その医者はぼったくりだとそしられて、アトピービジネス扱いされる、それでは益々割りに合いません。だから、日本でこれ(クロフィブラート軟膏)処方しようという医師は現れないかもです。
もっとも、私がやりたくない一番大きな理由は、ぶっちゃけ正直に書きますが、たとえば二重瞼を埋没法で作る美容外科の手術が自費で9万円、15分ほどで終わります。加齢によるたるみを糸で引き上げる手術が30分くらいで24万円、だいたいこういう仕事を一日2~3件して、私は暮らしています。自分の技術を、それだけの価格で売れるということは、私の誇りでもある。医者なら誰でもできるって仕事じゃないんですよ。はっきり書きますが、私は器用なんです。 たまたまアトピー脱ステの問題にかかわってしまって、人生の一部をかなり消耗してしまいましたが、私の得意分野はアトピーだけじゃありません。これははっきり言いたい。
そういう診療(商売)をしながら、仮に、クロフィブラートを自費で患者に例えば100g千円で、利益800円で売って、それで「やっぱり深谷の正体はアトピービジネスだ」なんてそしられたら、すっごく嫌だ。私のプライドが許さない。儲けたいだけなら、もっと割の良い仕事をする能力が私にはある。だから誤解につながりそうなアトピーの自由診療は、絶対やりたくない。
仮に一部の患者に感謝されても、多くのほかの人たちに誤解されて嫌な思いをするなら、悪いけど私は遠慮します。昔、さんざんそういう目に合って、心身壊したので。
それで、クロフィブラート軟膏、有用でも、製薬会社は製品化しない、日本の医者はびびって処方しない、私も処方しない、となったら、仮に今回の研究で、科学的に一部の患者への有用性が確認されたとしても、患者は永遠にクロフィブラート軟膏を入手できないのでしょうか?そうでもないと私は思います。
それは、一つは、上で記したように、日本のアトピーの診療をしている医者のごく一部の方が、眼を留めて納得して、自己責任(医薬品副作用被害救済制度でカバーされないリスクを負うという意味)で、患者に処方するかもしれない可能性であり、もう一つは海外からの個人輸入です。
たとえば、韓国は医薬品認可が日本よりも簡単でコストが安いです。また、日本と異なり、韓国国内への日本の医薬品の個人輸入は、自国製薬企業保護のために一切禁止です(日本は海外医薬品の個人輸入は禁止されていない)が、韓国の薬の日本への輸出は可です。韓国以外にも、医薬品の製造販売認可コストが安い国はあるでしょう。
日本の患者は、それを個人輸入して各自試すことができます。クロフィブラート軟膏に限らず、日本の近未来の医療の一つの形かもしれないですね。 日本の、新規医薬品の認可がコストがかかる一方で海外医薬品の個人輸入は自由という事情ならではです。
しつこいようですが、念押しておきますが、将来そういうクロフィブラート軟膏の海外通販が登場しても、わたしがその上前はねてるなんてことは有り得ないです。だって、クロフィブラート軟膏作るの簡単で誰でも出来るし、私特許も何も持ってるわけじゃないから、私にロイヤリティー払う必要なんて無いから。変に疑う人が出てこないとも限らないから釘刺しときます。私が、この研究やってる目的は、ただ、クロフィブラート軟膏は効くのか?を確認したい、それだけです。
海外在住の方(とくに韓国)、その国の医薬品認可の仕組み調べて、日本向けにクロフィブラート軟膏の個人通販するといいかもですよ。わたしは、上記のように、いまの美容外科の仕事で満足してるので、わざわざ煩雑で細かいビジネスを、アトピービジネス呼ばわりされてまで手掛ける予定はないですが、そういうこだわりの無い普通の方であれば、小規模なビジネスとしては、上記のように利益率的に成り立つだろうし、社会的に有用だと思います。韓国などに在住で、ご自身あるいは家族がアトピーの、薬剤師さんあたりが向いてると思います。もしご覧になってたらコメント欄通じて連絡ください。作成ノウハウなど、協力いたします。そのくらいの手間は惜しみません。
クロフィブラート軟膏の有効性が科学的に確認されたら、日本の「診療ガイドライン」は変わるか?
仮に、海外でクロフィブラート軟膏が作られ使われるようになって、科学的エビデンスも確認されたら、日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に、クロフィブラート軟膏が加えられるでしょうか?というと、NOでしょうね。なぜかというと、「診療」ガイドラインだから。
医師が診療で用いる薬剤についてのガイドラインであって、医師の診療が予定されていない海外通販の軟膏について触れる必要も義務も無いですからね。
なぜ、私はクロフィブラート軟膏の有効性確認に、強い関心をいだいているのか?
クロフィブラート軟膏というのは、ステロイド軟膏よりも皮膚炎を抑える力は弱いです。しかし、リバウンドを起こさない、あるいはリバウンドに効くかもしれない、というメリットがあります。
ですから、「ステロイド軟膏に依存やリバウンドはありません」という立場からは、クロフィブラート軟膏のメリットは認められません。クロフィブラートは「ステロイドよりも皮膚炎を抑えない、弱くて臨床的に無価値な薬」、でしかないです。
逆に言うと、クロフィブラート軟膏の上記のメリットを確認してアピールすることは、ステロイド依存・リバウンドの存在を訴えることでもあるわけですね。
クロフィブラートの最大の特質は、「免疫を抑えない」という点だろうと考えます。ステロイドは無論、プロトピックにしろ、シクロスポリンにしろ、免疫抑制剤です。現在開発中のNFκBデコイもステロイドと似たところに作用点を持ちます。しかし、クロフィブラートの場合は、純粋に表皮細胞だけに効いているはずです。クロフィブラート内服で、免疫抑制は起きないからです。
この点(免疫系に作用しない点)が、クロフィブラート軟膏が奏効するケースとそうでないケースとを分けているのだろうと推測します。また、ステロイドのようなリバウンドを起こさない(動物実験で確認されています)理由なのでしょう。
私が強く関心を抱いて、自ら研究を行っている理由は、以上のような点が非常に興味深いからです。本音を言うと、誰かが、私の代わりにこれやって、論文にしてくれると、私はそれ読むだけでいいから、一番楽でいいんだけどな・・。
(追記)
ほとんどの医師は、医師賠償責任保険(医賠責)に入っています。「医療行為によって生じた身体の障害につき損害賠償を請求された場合に、賠償金等を補填する」ものです。
クロフィブラート軟膏のような、厚労省の認可を経ない薬剤によって、万が一「身体の障害」が生じた場合に、医賠責は使えるのでしょうか?
ちょっとよく判らなかったので、調べてみました。多分使えそうです。
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一般医師賠償責任保険の免責事項は、例示しますと次の通りです。(1)海外での医療行為による事故、(2)被保険者が故意に起こした事故、(3)美容を唯一の目的とする医療行為による事故、(4)医療の結果を保証することによって加重された賠償責任、(5)名誉棄損または秘密漏泄に起因する賠償責任、(6)戦争、天災地変に関連のある事故、(7)他人から借りたり預かっている財物の損傷、紛失または盗難事故、(8)医師・看護婦・薬剤師その他の使用人が就業中に被った身体障害、(9)医師の家族に対する賠償責任、(10)自動車の所有、使用または管理に起因する事故、(11)所定の免許を持たない医師の医療行為に起因して生じた事故等です。なお、当然のことながら、刑事事件の罰金等に対しての適用はありません。
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とあり、「厚労省未認可の医薬品を使用したことによる合併症」は、免責事項に含まれていなさそうだからです(保険約款や判例を全て確認したわけではないですが)。
ただし、この保険から賠償金を支払ってもらうためには、医師側の落度が認められなければなりません。落度が無ければ賠償の根拠が無いからです。保険会社から交渉役の弁護士が来るわけですが、医師の落度が認められないように、すなわち保険金が支払われなくても良いように、全力を尽くします。保険会社の弁護士ですから保険会社の利益を考えれば当然そうなります。医師は、弁護士に無断で勝手に患者と交渉してはいけない決まりです。なぜなら、医師の中には、自分の患者が気の毒なことになって申し訳ない、保険を使えば、自分の懐が痛むわけでもないし、自らの落度を積極的に認めて、なるべく多額の賠償金を払ってもらおう、と考える人もいるかもしれないからです。
医薬品副作用被害救済制度の場合は、一定の要件が満たされていれば、医師にまったく落度が無くても支払われます。ですから、救済制度で支払ってもらうのと、医師に(すなわち医賠責から)払ってもらおうというのでは、患者側の労力が大きく違います。
ちなみに私はこの医賠責保険には加入していません。なぜなら、上記の通り、「(3)美容を唯一の目的とする医療行為による事故」は、免責であり、現在美容外科医である私にとっては、まったくメリットが無いからです。
ですから、今回の研究で、今のところまだ、何も副作用というか、有害事象は出ていないですが、もし何か生じた場合には、救済制度も医賠責も使えませんから、まったくの私個人との交渉ということになります。
また、もし将来、日本のお医者さんどなたかが、クロフィブラート軟膏を作製して処方して、万が一何か有害事象生じたときには、たぶんアトピー性皮膚炎を日常的に診療している先生は普通に医賠責に加入しているだろうから、患者は保険会社の弁護士さんと交渉することになるでしょう。
ですから、クロフィブラート軟膏のような、非認可の薬剤を処方しようとする場合には、医師は「落ち度のないように」すなわち、考えうる限り、どのような副作用が生じる可能性があるのか、を、文書で明示し、それを患者が理解・了解したうえで使用に同意した、という署名を得ておく必要があるでしょう。この作業は、まさに私が毎日の美容外科診療で行っていることです。
以上、将来的に、クロフィブラート軟膏の自院での処方を検討していらっしゃる医師の方のために付記しました。ご参考までに。
2012.09.13