ステロイド拒否はマスコミ報道とは無関係
Why Do Patients with Atopic Dermatitis Refuse to Apply Topical Corticosteroids? Mototsugu Fukaya, Dermatology 2000;201:242–245
これは、わたしが書いた論文です。別に、自分の論文を披露して、自己顕示したいわけではありません。こういった書物で、ステロイド依存のことなどを情報発信していると、「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」という意見が必ず出てくると思うので、それに対する反論としてデータを提示しておきたいというのが目的です。この論文は、1998~1999にかけて、18の病院およびクリニック、11の患者団体の協力を得て、3047枚のアンケートをアトピー性皮膚炎の患者に配布し、1558人から回収した結果を解析したものです。 アンケートの内容のうち関連部分を抜粋すると、
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あなたはアトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用剤を用いることに抵抗がありますか?
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
<上で(1)(2)(3)と答えた方にお聞きします。>
その抵抗感はなぜ生じたと思いますか?以下の要因それぞれについてお答え下さい。1.塗っても効かなくなってきたから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
2.一時的にしか効果がなく、やめると再燃するから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
3.副作用を経験したから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
4.医師が信用できないから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
5.家族の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
6.知人の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
7.マスコミ(テレビ・新聞・雑誌)から情報を得たから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
8.医師の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
9.非医師(民間療法など)からの助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
10.患者団体からの助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
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というものです。
これを、現在ステロイドを使っている人と、使っていない人とで、比較して、ステロイドを使っていない患者たちの「抵抗感」が何に由来すると患者たちは感じているのか、を検討しました。
これは、わたしが書いた論文です。別に、自分の論文を披露して、自己顕示したいわけではありません。こういった書物で、ステロイド依存のことなどを情報発信していると、「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」という意見が必ず出てくると思うので、それに対する反論としてデータを提示しておきたいというのが目的です。この論文は、1998~1999にかけて、18の病院およびクリニック、11の患者団体の協力を得て、3047枚のアンケートをアトピー性皮膚炎の患者に配布し、1558人から回収した結果を解析したものです。 アンケートの内容のうち関連部分を抜粋すると、
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あなたはアトピー性皮膚炎の治療にステロイド外用剤を用いることに抵抗がありますか?
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
<上で(1)(2)(3)と答えた方にお聞きします。>
その抵抗感はなぜ生じたと思いますか?以下の要因それぞれについてお答え下さい。1.塗っても効かなくなってきたから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
2.一時的にしか効果がなく、やめると再燃するから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
3.副作用を経験したから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
4.医師が信用できないから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
5.家族の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
6.知人の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
7.マスコミ(テレビ・新聞・雑誌)から情報を得たから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
8.医師の助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
9.非医師(民間療法など)からの助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
10.患者団体からの助言(警告)があったから。
(1)多いにある (2)ある (3)少しある (4)無い
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というものです。
これを、現在ステロイドを使っている人と、使っていない人とで、比較して、ステロイドを使っていない患者たちの「抵抗感」が何に由来すると患者たちは感じているのか、を検討しました。
結果は表の通りで、有意差があったのは、「塗っても効かなくなってきたから」「副作用を経験したから」の2つのみで、他では、差はありませんでした。ステロイド外用を拒否する患者の「抵抗感」は、よく言われるように「マスコミ(テレビ・新聞・雑誌)から情報を得たから」生じているのではありませんし、「医師の助言(警告)があったから」でもない、ということです。彼らは何も信用せず(出来ず)、ただ、自らの体験から拒否しているのだということが解ります。
(マスコミの報道でよく引用されるのは、1992の久米宏のニュースセンターですが、実際、こんな古いテレビ番組の影響が今の今まで尾をひくでしょうか?集計データはありませんが、「ステロイドの害」のマスコミ情報よりも、「マスコミによってステロイドの害が過剰に報道された」というマスコミ情報のほうが、現時点では回数は多いのじゃないかと思います。)
この集計をしている経過で、興味深いことに気が付きました。 アンケートの「医師が信用できないから」の部分と、「医師の助言(警告)があったから」とをクロス検定してみると、「医師の助言(警告)があったから」の要因が強いほど、「医師が信用できないから」の要因は低くなる、という傾向が有意でした。すなわち、患者に対して、ステロイドの副作用の警告をすればするほど、医師への信頼は回復するということです。
(マスコミの報道でよく引用されるのは、1992の久米宏のニュースセンターですが、実際、こんな古いテレビ番組の影響が今の今まで尾をひくでしょうか?集計データはありませんが、「ステロイドの害」のマスコミ情報よりも、「マスコミによってステロイドの害が過剰に報道された」というマスコミ情報のほうが、現時点では回数は多いのじゃないかと思います。)
この集計をしている経過で、興味深いことに気が付きました。 アンケートの「医師が信用できないから」の部分と、「医師の助言(警告)があったから」とをクロス検定してみると、「医師の助言(警告)があったから」の要因が強いほど、「医師が信用できないから」の要因は低くなる、という傾向が有意でした。すなわち、患者に対して、ステロイドの副作用の警告をすればするほど、医師への信頼は回復するということです。
これは、実感とも合います。たとえば、私たちが、金融商品を購入しようとするとき、その商品のメリットばかりを説明する販売員は信用されるでしょうか?リスクをはっきりと説明してくれる販売員のほうを信用するのではないでしょうか。
それで、話は、最初に戻ります。こういった書物で、ステロイド依存のことなどを情報発信していると、「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」という意見が必ず出てくると思います。それは以上に記した根拠から、間違っていると言えます。ステロイド依存の存在について情報発信することこそが、皮膚科医が患者の信頼を取り戻す道です。患者から「わたしはステロイド依存に陥っているのでしょうか?」と聞かれたとき、その場しのぎの誤魔化しではなく、依存や離脱がどういうものかを正しく説明できる皮膚科医こそが求められています。
「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」とおっしゃる皮膚科医に私は言いたい。それは、あなたが気が付いているかいないかは別として、「偽善」という、人間のもつ最も醜い一面なのだと。そうやって蓋をすることによって、安心させたいのは、患者ではなく、あなた自身の心なのだと私は思います。
一方的に非難しているわけではありません。わたしの心にもたぶん「偽善」は隠れています。ひとは誰もが、自分が「善い人」でありたいと願う。それは美しい感情として花咲くこともあれば、気が付かないうちに一人よがりとなって、他者に害悪をもたらしていることもある、そういうことだと思うのです。
2009.10.21
それで、話は、最初に戻ります。こういった書物で、ステロイド依存のことなどを情報発信していると、「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」という意見が必ず出てくると思います。それは以上に記した根拠から、間違っていると言えます。ステロイド依存の存在について情報発信することこそが、皮膚科医が患者の信頼を取り戻す道です。患者から「わたしはステロイド依存に陥っているのでしょうか?」と聞かれたとき、その場しのぎの誤魔化しではなく、依存や離脱がどういうものかを正しく説明できる皮膚科医こそが求められています。
「必要以上に患者を不安がらせるのは良くない」とおっしゃる皮膚科医に私は言いたい。それは、あなたが気が付いているかいないかは別として、「偽善」という、人間のもつ最も醜い一面なのだと。そうやって蓋をすることによって、安心させたいのは、患者ではなく、あなた自身の心なのだと私は思います。
一方的に非難しているわけではありません。わたしの心にもたぶん「偽善」は隠れています。ひとは誰もが、自分が「善い人」でありたいと願う。それは美しい感情として花咲くこともあれば、気が付かないうちに一人よがりとなって、他者に害悪をもたらしていることもある、そういうことだと思うのです。
2009.10.21