フィラグリン遺伝子の異常について(2)
先回、フィラグリン遺伝子の発現が弱くて、アトピー性皮膚炎を発症しやすい素因をもったひと(フィラグリン遺伝子の繰り返し数が少ないタイプ)は、これを増加させる(upregulate)ような努力というか情報をあつめて試してみるといい、といったことを記しました。
それでは、塩基配列の異常のあるタイプの患者では、どう考えればいいのでしょうか?こういう患者たちは、「治癒」は望めないのでしょうか?
先回紹介した、ロンドンのKing’s CollegeのDr. McGrathは、2011にこう展望を記しています。
ーーーーー(ここから引用)-----
Alternatively, some drugs are currently being examined that can increase FLG in a different manner − by increasing read-through of a FLG gene mutation and thereby increase FLG messenger RNA and FLG protein levels. This approach is suitable for nonsense mutations in the FLG gene.30 Compounds such as gentamicin can have this property in being able to increase FLG expression in skin, although alternative less toxic preparations are currently being investigated.The unifying goal is to try to develop topically applied FLG-promoting compounds that could surpass current therapies based on moisturizers, corticosteroids and other anti-inflammatory compounds.
ある種の薬剤が現在研究されている。それは異なる方法、すなわち、フィラグリン遺伝子の塩基配列異常部分を「読み飛ばす」ことによって、mRNAや蛋白質としてのフィラグリンを増加させるという薬剤だ。この方法だと、フィラグリン遺伝子の塩基配列レベルの異常にも対処できる。ゲンタマイシンなど、30の化合物がこのような機序で皮膚のフィラグリンを増加させる能力があることがわかっている。さらに毒性の少ない物質が探索中である。我々のゴールは、外用で効果のあるフィラグリン増加物質を開発することであり、それによって現在の保湿剤、ステロイド、その他の抗炎症剤の使用を減らすことである。
ーーーーー(ここまで引用)-----
(Hong Kong J. Dermatol. Venereol. (2011) 19, 116-122、
http://www.medicine.org.hk/hksdv/journal/2011v19n03-03.pdfで無料で読めます)
以下解説します。
Ataluren(PTC124)という薬剤があります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症という遺伝子疾患のためのオーファンドラッグ(薬を必要とする患者数は少ないが医療上の必要性は高い医薬品)ですが、これは、塩基配列レベルの遺伝子異常の治療薬です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ataluren
それでは、塩基配列の異常のあるタイプの患者では、どう考えればいいのでしょうか?こういう患者たちは、「治癒」は望めないのでしょうか?
先回紹介した、ロンドンのKing’s CollegeのDr. McGrathは、2011にこう展望を記しています。
ーーーーー(ここから引用)-----
Alternatively, some drugs are currently being examined that can increase FLG in a different manner − by increasing read-through of a FLG gene mutation and thereby increase FLG messenger RNA and FLG protein levels. This approach is suitable for nonsense mutations in the FLG gene.30 Compounds such as gentamicin can have this property in being able to increase FLG expression in skin, although alternative less toxic preparations are currently being investigated.The unifying goal is to try to develop topically applied FLG-promoting compounds that could surpass current therapies based on moisturizers, corticosteroids and other anti-inflammatory compounds.
ある種の薬剤が現在研究されている。それは異なる方法、すなわち、フィラグリン遺伝子の塩基配列異常部分を「読み飛ばす」ことによって、mRNAや蛋白質としてのフィラグリンを増加させるという薬剤だ。この方法だと、フィラグリン遺伝子の塩基配列レベルの異常にも対処できる。ゲンタマイシンなど、30の化合物がこのような機序で皮膚のフィラグリンを増加させる能力があることがわかっている。さらに毒性の少ない物質が探索中である。我々のゴールは、外用で効果のあるフィラグリン増加物質を開発することであり、それによって現在の保湿剤、ステロイド、その他の抗炎症剤の使用を減らすことである。
ーーーーー(ここまで引用)-----
(Hong Kong J. Dermatol. Venereol. (2011) 19, 116-122、
http://www.medicine.org.hk/hksdv/journal/2011v19n03-03.pdfで無料で読めます)
以下解説します。
Ataluren(PTC124)という薬剤があります。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや嚢胞性線維症という遺伝子疾患のためのオーファンドラッグ(薬を必要とする患者数は少ないが医療上の必要性は高い医薬品)ですが、これは、塩基配列レベルの遺伝子異常の治療薬です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ataluren
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者では、健常人(Normal)で産生されているDystrophinという蛋白質を作ることができません。Dystrophinの遺伝子に塩基配列異常があって、その部分で転写が止まってしまうからです(Stop Codon Mutation)。この患者にPTC124を投与すると、PTC124が遺伝子に作用して異常な塩基配列部分を「読み飛ばす」ようになるために、Dystrophinが産生されるようになります。Dr. McGrathは、こういった薬剤が、遺伝子異常のあ るアトピー性皮膚炎でも、今後見つかるのではないか、という楽観的?展望を記しているわけです。
ゲンタマイシンが具体的な薬剤として例示されています。ゲンタマイシンなど、アミノグリコシド(aminoglycoside)系の抗生物質は、核に作用して細菌を破壊しますが、この核への作用というのが、mRNAの遺伝子情報を修飾して、誤ったアミノ酸を蛋白質に組み込んでしまうということです。
ゲンタマイシンが具体的な薬剤として例示されています。ゲンタマイシンなど、アミノグリコシド(aminoglycoside)系の抗生物質は、核に作用して細菌を破壊しますが、この核への作用というのが、mRNAの遺伝子情報を修飾して、誤ったアミノ酸を蛋白質に組み込んでしまうということです。
たとえば、上図のmRNAの情報は「CGC」で、対応するリボゾームRNAは「GCG」でなければならないのですが、「GAG」がくっついています。「near match」が起こって、この部の塩基配列異常が見逃され、アミノ酸一つ違うものではあるけれども、目的の蛋白質に近いものが産生されるわけです。
このメカニズムを利用して、塩基配列異常の治療薬としよう、という発想です。
PTC124やゲンタマイシンの例示は、塩基配列レベルの遺伝子異常であっても、なんらかの介入でリカバリーが可能かもしれない、ということを意味します。アトピー性皮膚炎は自然治癒傾向のある疾患です。遺伝子異常が、リスク要因として生来的にあったとしても、まだ私たちの知らないメカニズムで、自ずから、あるいは、何らかの「偶然」によって、フィラグリン遺伝子の発現が回復あるいはUpregulateされて、健常な皮膚へと向かっているのかもしれない、それを私たちは「自然治癒」と呼んでいるのかもしれない、ということです。「自然治癒傾向がある」ということは、自然界にそういったチャンスが多い疾患であるということを示しています。
仮に、あなたのアトピー性皮膚炎が、塩基配列レベルのフィラグリン遺伝子異常が基礎にあって発症したものであったとしても、「自然治癒」はありうる、気休めではなく、希望を捨ててはいけません。そういうお話でした。
2011.12.20
このメカニズムを利用して、塩基配列異常の治療薬としよう、という発想です。
PTC124やゲンタマイシンの例示は、塩基配列レベルの遺伝子異常であっても、なんらかの介入でリカバリーが可能かもしれない、ということを意味します。アトピー性皮膚炎は自然治癒傾向のある疾患です。遺伝子異常が、リスク要因として生来的にあったとしても、まだ私たちの知らないメカニズムで、自ずから、あるいは、何らかの「偶然」によって、フィラグリン遺伝子の発現が回復あるいはUpregulateされて、健常な皮膚へと向かっているのかもしれない、それを私たちは「自然治癒」と呼んでいるのかもしれない、ということです。「自然治癒傾向がある」ということは、自然界にそういったチャンスが多い疾患であるということを示しています。
仮に、あなたのアトピー性皮膚炎が、塩基配列レベルのフィラグリン遺伝子異常が基礎にあって発症したものであったとしても、「自然治癒」はありうる、気休めではなく、希望を捨ててはいけません。そういうお話でした。
2011.12.20