プロアクティブ治療の論文から見えるもの
アトピー性皮膚炎のプロアクティブ治療の論文は、私の知る限り、1999年のVan Der Meerのものが始まりです。先日記したように、プロアクティブ治療というのは、ステロイドやプロトピックに反応の良い患者をスクリーニング(選別)するところから始まります。
これは、裏を返すと、アトピー性皮膚炎の患者群から、ステロイドやプロトピックによるコントロール不能群の率を弾き出す作業でもあるわけです。
この観点から、プロアクティブ治療の論文をいくつか振り返ってみましょう。
これは、裏を返すと、アトピー性皮膚炎の患者群から、ステロイドやプロトピックによるコントロール不能群の率を弾き出す作業でもあるわけです。
この観点から、プロアクティブ治療の論文をいくつか振り返ってみましょう。
悪化や無効(維持療法基準に達せず)の率は、だいたい1割、多く見積もって2割のようです。
ここで、九州大学・古江先生の2004年の調査結果を振り返ってみます。
プロアクティブ療法の論文は、思春期以降の成人のものばかりですから、古江先生の調査のAdolescent&Adult(13才以上)に当たります。初期療法前は、中等症または重症で、維持療法に移行するためには、軽症未満にまで抑えられていなければいけませんから、下表の青枠と赤枠がそれに当たります。(青枠―赤枠)/青枠が、ドロップアウトの率です。74%くらいです。
ここで、九州大学・古江先生の2004年の調査結果を振り返ってみます。
プロアクティブ療法の論文は、思春期以降の成人のものばかりですから、古江先生の調査のAdolescent&Adult(13才以上)に当たります。初期療法前は、中等症または重症で、維持療法に移行するためには、軽症未満にまで抑えられていなければいけませんから、下表の青枠と赤枠がそれに当たります。(青枠―赤枠)/青枠が、ドロップアウトの率です。74%くらいです。
(2+21+92)/(15+2+6+65+6+7+58+161+2+21+92)=115/435=0.26
プロアクティブ療法の論文でのドロップアウト率は1~2割で、古江先生の調査表でそれにあたる率を計算すると74%になります。この違いはどう解釈すればよいのでしょうか?
1)研究デザインの違いによる。例えば、プロアクティブ療法の患者は、悪化を来たして来院して、初期治療を開始したケースが多く、悪化時をスタートとしてフォローしているため、初期治療終了時に有効例が多いが、古江先生のは、皮膚科外来での一般調査なので、スタートは必ずしも悪化時ではない、など。
2)古江先生の調査の患者はステロイドの外用量が足らない。
3)古江先生の調査の患者は、依存や抵抗性などに陥っている例が多く、治療に反応しにくい。
の3つが考えられます。 古江先生の調査の、小児および1才以下の乳児の表を振り返ってみます。
プロアクティブ療法の論文でのドロップアウト率は1~2割で、古江先生の調査表でそれにあたる率を計算すると74%になります。この違いはどう解釈すればよいのでしょうか?
1)研究デザインの違いによる。例えば、プロアクティブ療法の患者は、悪化を来たして来院して、初期治療を開始したケースが多く、悪化時をスタートとしてフォローしているため、初期治療終了時に有効例が多いが、古江先生のは、皮膚科外来での一般調査なので、スタートは必ずしも悪化時ではない、など。
2)古江先生の調査の患者はステロイドの外用量が足らない。
3)古江先生の調査の患者は、依存や抵抗性などに陥っている例が多く、治療に反応しにくい。
の3つが考えられます。 古江先生の調査の、小児および1才以下の乳児の表を振り返ってみます。
(1+17+141)/(3+2+5+27+3+5+44+155+1+17+141)=159/403=0.39
小児では、プロアクティブ療法のドロップアウト率にあたる数値は、61%です。
小児では、プロアクティブ療法のドロップアウト率にあたる数値は、61%です。
(6+57)/(8+2+9+41+6+57)=63/123=0.51
乳児では、49%です。
乳児で、依存や抵抗性に陥っている患者は、ありえなくはないですが、非常に少ないと思います。小児、成人と罹病期間、ステロイド外用期間が長くなるにつれて増えるはずです。
そこで、乳児における49%の値は、上の1)+2)の和にあたると考え、小児や成人でも同じ値とします。すると、小児での3)は、61%-49%=12%、思春期成人の3)は、74%-49%=25%です。
だいたい、プロアクティブ療法でのドロップアウト率に近付きます。
以上から、わたしは、あくまでも大雑把な計算ですが、欧米でのステロイド依存・抵抗性例の率は、思春期以降のステロイド治療中の成人患者の10~20%、日本ではやや多く、20~30%くらいと推計します。
「プロアクティブ療法」と「アトピー性皮膚炎」のキーワードで検索すると、日本では、小児科の先生がたの関心が強いようです。欧米のプロアクティブ療法の論文はいずれも成人を対象としたものであるにもかかわらずです。
これについてはどう考えればいいのでしょうか?
欧米でプロアクティブ療法の考え方が小児を対象としていないのは、おそらく、小児の場合には、結果的に過剰のステロイド外用量になるりうる(注:先回示したようにプロアクティブ療法によってステロイドの総外用量が減らせるわけではありません)点が、成長発達などの観点から欧米人の心理として受け入れにくいからかと想像します。
日本では、3)の依存・抵抗性例の成人患者が多いため、2)のステロイド忌避の幼児小児の親が多く、その対策として、週二回の外用ならば、副作用はおきにくい、という説明がわかりやすいので、小児科の先生がたに受け入れられるのだと思います。
プロアクティブ療法の考え方が、一番向いている成人患者は、脱ステ後のアトピー患者だとわたしは思います。脱ステして、最初のリバウンドが過ぎて、まだ皮膚の過敏性が回復していない状態で、何らかの悪化因子に晒されて、いわゆる2回目、3回目のリバウンドをきたした場合や、脱ステして数年たって皮膚がステロイドへの反応性を取り戻した場合に、プロアクティブ療法の初期治療と維持療法、または維持療法(週2回外用)のみのデザインで、半年から一年程度のスケジュールで乗り切るというのは、理にかなっています(もちろん、使いたくなければ使わなくてもいいです。また、皮膚科医はそのようなステロイド拒否の患者をもステロイドを使わず診る義務があります)。
実際、わたしが脱ステの診療を行っていた頃にも、離脱後、自己判断で、週1回程度のステロイド外用で上手に日常生活をこなしている患者は、少なからずいました。もし、わたしが、皮膚科医を続けていたら、「脱ステロイド後の患者におけるプロアクティブ治療の有用性」といった学会報告をしていたかもしれません。
繰り返し何度も記しますが、わたしは決してステロイドが絶対悪と考えているわけではないし、そんなことはこれまで一度も言ったことも書いたこともありません。依存・抵抗性例への対処の体制が皮膚科医側に取られていない現状が問題なのであり、これから目をそむけ続けるガイドライン策定者たちの意識こそが絶対悪です。その意味でステロイド薬害は人災です。
2011.08.28
乳児では、49%です。
乳児で、依存や抵抗性に陥っている患者は、ありえなくはないですが、非常に少ないと思います。小児、成人と罹病期間、ステロイド外用期間が長くなるにつれて増えるはずです。
そこで、乳児における49%の値は、上の1)+2)の和にあたると考え、小児や成人でも同じ値とします。すると、小児での3)は、61%-49%=12%、思春期成人の3)は、74%-49%=25%です。
だいたい、プロアクティブ療法でのドロップアウト率に近付きます。
以上から、わたしは、あくまでも大雑把な計算ですが、欧米でのステロイド依存・抵抗性例の率は、思春期以降のステロイド治療中の成人患者の10~20%、日本ではやや多く、20~30%くらいと推計します。
「プロアクティブ療法」と「アトピー性皮膚炎」のキーワードで検索すると、日本では、小児科の先生がたの関心が強いようです。欧米のプロアクティブ療法の論文はいずれも成人を対象としたものであるにもかかわらずです。
これについてはどう考えればいいのでしょうか?
欧米でプロアクティブ療法の考え方が小児を対象としていないのは、おそらく、小児の場合には、結果的に過剰のステロイド外用量になるりうる(注:先回示したようにプロアクティブ療法によってステロイドの総外用量が減らせるわけではありません)点が、成長発達などの観点から欧米人の心理として受け入れにくいからかと想像します。
日本では、3)の依存・抵抗性例の成人患者が多いため、2)のステロイド忌避の幼児小児の親が多く、その対策として、週二回の外用ならば、副作用はおきにくい、という説明がわかりやすいので、小児科の先生がたに受け入れられるのだと思います。
プロアクティブ療法の考え方が、一番向いている成人患者は、脱ステ後のアトピー患者だとわたしは思います。脱ステして、最初のリバウンドが過ぎて、まだ皮膚の過敏性が回復していない状態で、何らかの悪化因子に晒されて、いわゆる2回目、3回目のリバウンドをきたした場合や、脱ステして数年たって皮膚がステロイドへの反応性を取り戻した場合に、プロアクティブ療法の初期治療と維持療法、または維持療法(週2回外用)のみのデザインで、半年から一年程度のスケジュールで乗り切るというのは、理にかなっています(もちろん、使いたくなければ使わなくてもいいです。また、皮膚科医はそのようなステロイド拒否の患者をもステロイドを使わず診る義務があります)。
実際、わたしが脱ステの診療を行っていた頃にも、離脱後、自己判断で、週1回程度のステロイド外用で上手に日常生活をこなしている患者は、少なからずいました。もし、わたしが、皮膚科医を続けていたら、「脱ステロイド後の患者におけるプロアクティブ治療の有用性」といった学会報告をしていたかもしれません。
繰り返し何度も記しますが、わたしは決してステロイドが絶対悪と考えているわけではないし、そんなことはこれまで一度も言ったことも書いたこともありません。依存・抵抗性例への対処の体制が皮膚科医側に取られていない現状が問題なのであり、これから目をそむけ続けるガイドライン策定者たちの意識こそが絶対悪です。その意味でステロイド薬害は人災です。
2011.08.28