免疫系の関与
Corticosteroids Enhance the Capacity of Macrophages to Induce Th2 Cytokine Synthesis in CD41 Lymphocytes by Inhibiting IL-12 Production HD Rosemarie et al. The Journal of Immunology, 1998, 160: 2231–2237
----(ここから引用)-----
Although administration of corticosteroids may benefit acute asthma or allergic disease by directly inhibiting cytokine synthesis in T cells, enhanced production of Th2 cytokines by corticosteroid therapy may indirectly exacerbate allergicdisease, which is caused by the overproduction of Th2 cytokines in allergen-specific CD41 T cells. This deleterious effect would result from a reduction in IL-12 synthesis by corticosteroids, thereby enhancing the production of Th2 cytokines, and limiting the production of Th1 cytokines.
(副腎皮質ステロイドの投与は、喘息やアレルギー疾患の急性期には、直接にT細胞のサイトカイン合成を(全体的に)抑えるので有効だが、その一方で、間接的な機序によって、CD41陽性の抗原特異的T細胞におけるTh2系のサイトカインだけは過剰に産生させてしまうので、疾患を悪化させてしまうかもしれない。この有害な効果はコルチコステロイドによってIL-2産生が抑えられることによる。IL-2が抑制されると、Th2系サイトカインは過剰産生されTh1系サイトカインの産生は制限されるからである。)
-----(ここまで引用)-----
著者はスタンフォード大学の小児科の先生(というか研究者)です。免疫系の話は、どうしても複雑になりますが、まず用語というかキーワードをご理解ください。
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Although administration of corticosteroids may benefit acute asthma or allergic disease by directly inhibiting cytokine synthesis in T cells, enhanced production of Th2 cytokines by corticosteroid therapy may indirectly exacerbate allergicdisease, which is caused by the overproduction of Th2 cytokines in allergen-specific CD41 T cells. This deleterious effect would result from a reduction in IL-12 synthesis by corticosteroids, thereby enhancing the production of Th2 cytokines, and limiting the production of Th1 cytokines.
(副腎皮質ステロイドの投与は、喘息やアレルギー疾患の急性期には、直接にT細胞のサイトカイン合成を(全体的に)抑えるので有効だが、その一方で、間接的な機序によって、CD41陽性の抗原特異的T細胞におけるTh2系のサイトカインだけは過剰に産生させてしまうので、疾患を悪化させてしまうかもしれない。この有害な効果はコルチコステロイドによってIL-2産生が抑えられることによる。IL-2が抑制されると、Th2系サイトカインは過剰産生されTh1系サイトカインの産生は制限されるからである。)
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著者はスタンフォード大学の小児科の先生(というか研究者)です。免疫系の話は、どうしても複雑になりますが、まず用語というかキーワードをご理解ください。
点線で仕切られたそれぞれは、左から、Uninvolved(健常)→Acute(急性)→Chronic(慢性)のアトピー性皮膚炎の皮膚で起きている炎症の様子です。「急性期」では、アレルゲンの刺激によって、Th2細胞が誘導されIgEが産生されています。「慢性期」ではIDECという細胞(抗原提示細胞のひとつです)からIL-12が産生されて、Th1細胞が優位になっています。
この論文が書かれた1998頃は、ステロイドがT細胞のサイトカイン産生にどう関与しているのか?が研究されていた時代で、ステロイドは他のほとんどのサイトカインは抑制に働くのに、Th2系のIL-4だけは増加させるという奇妙な現象に研究者の関心が向いていました。 著者のローズマリー先生は「これは(IL-4を抑える)IL-12の産生がステロイドによって抑制されて、その結果IL-4が増えるのだ」と考えて、それを実験で確認して証明しました。引用した文章は、その実験結果を踏まえての考察です。わかりやすく意訳すると、「ステロイドは短期的には炎症を抑えるように見えるが、実はTh2→Th1への移行を阻害するので、結果的に自然治癒のメカニズムの妨げになっている可能性がある」といったようなことです。
ただ、これは、非常に解釈の難しいところで、その後2000年にスイスの先生が、
Down-regulation of IL-12 by topical corticosteroids in chronic atopic dermatitis Nikhil Yawalkar etc. J ALLERGY CLIN IMMUNOL Volume 106, Issue 5, Pages 941-947
という、やはりIL-12に関する論文を書いていらっしゃるのですが、そこでは「ステロイド外用剤はIL-12を抑制することによって、アトピー性皮膚炎の慢性期すなわちTh1優位の炎症への移行を抑え、湿疹の慢性化を防止する」というステロイドに好意的な解釈に変わっています。 これは結局、Th2(液性免疫)からTh1(細胞性免疫)への炎症の移行を、自然治癒の過程とみるか、慢性化(難治化)とみるか、の違いだと思います。
ともかく、ステロイドがIL-12を抑制する件についての、1998年のローズマリー先生の懸念は、その後振り返られていないようです。 免疫応答というのは、一連の流れですから、そのなかの一部を取り出しても、それが良いことなのか悪いことなのか、なかなか解釈が難しいです。それに比べると、Cork先生の皮膚バリア破壊説は、非常に明快でわかりやすいです。
しかし、現在は、Steroid addictionやリバウンドの解釈として、皮膚バリア破壊説が優勢ですが、わたしは、ローズマリー先生の1998年の懸念もまた、間違ってはいないような気がします。 それはなぜかというと、Steroid addictionの患者が離脱すると、IgEや好酸球といった免疫系の一部が、極端に上昇することが多いからです。それまで正常範囲内(500未満)であったIgEが、数万、ときには数十万にまで上昇したり、好酸球が全白血球の50%以上を占めるなんてことは、離脱中(リバウンド)の患者においては珍しいことではありません。これは、Cork先生のバリア破壊説で、アレルゲンが侵入しやすくなったからだ、という説明だけでは、解釈がしにくいと思うのです。IgE・好酸球系の「サイトカイン・ストーム」のような状況が起きるのです。何か、免疫系の関与による補足説明が必要と思われます。
IgEや好酸球は、アトピー性皮膚炎の病勢のマーカーと言われますが、脱ステロイド後しばらくは上昇したままで、病勢のマーカーとしては役に立ちません。唯一、ステロイド再投与によってだけ低下します(だからといってステロイドを再投与して治ったなんてことにはもちろんなりません)。その後、リバウンドの皮膚症状が治まってくると、IgEは徐々に低下し、アレルゲンなど悪化要因への暴露による皮疹増悪に応じて増減し、病勢のマーカーに戻っていきます。この時期までくると、Cork先生のバリア破壊説は、脱ステロイドの臨床経験に合致します。「脱ステロイド後の過敏性の亢進」と呼ばれる現象です。 しかし、離脱直後のIgEや好酸球の急激な動きは、表皮バリア破壊説に加え、なにか免疫系の関与で説明を追加したほうが、適切なように思うのです。
2009.10.21
この論文が書かれた1998頃は、ステロイドがT細胞のサイトカイン産生にどう関与しているのか?が研究されていた時代で、ステロイドは他のほとんどのサイトカインは抑制に働くのに、Th2系のIL-4だけは増加させるという奇妙な現象に研究者の関心が向いていました。 著者のローズマリー先生は「これは(IL-4を抑える)IL-12の産生がステロイドによって抑制されて、その結果IL-4が増えるのだ」と考えて、それを実験で確認して証明しました。引用した文章は、その実験結果を踏まえての考察です。わかりやすく意訳すると、「ステロイドは短期的には炎症を抑えるように見えるが、実はTh2→Th1への移行を阻害するので、結果的に自然治癒のメカニズムの妨げになっている可能性がある」といったようなことです。
ただ、これは、非常に解釈の難しいところで、その後2000年にスイスの先生が、
Down-regulation of IL-12 by topical corticosteroids in chronic atopic dermatitis Nikhil Yawalkar etc. J ALLERGY CLIN IMMUNOL Volume 106, Issue 5, Pages 941-947
という、やはりIL-12に関する論文を書いていらっしゃるのですが、そこでは「ステロイド外用剤はIL-12を抑制することによって、アトピー性皮膚炎の慢性期すなわちTh1優位の炎症への移行を抑え、湿疹の慢性化を防止する」というステロイドに好意的な解釈に変わっています。 これは結局、Th2(液性免疫)からTh1(細胞性免疫)への炎症の移行を、自然治癒の過程とみるか、慢性化(難治化)とみるか、の違いだと思います。
ともかく、ステロイドがIL-12を抑制する件についての、1998年のローズマリー先生の懸念は、その後振り返られていないようです。 免疫応答というのは、一連の流れですから、そのなかの一部を取り出しても、それが良いことなのか悪いことなのか、なかなか解釈が難しいです。それに比べると、Cork先生の皮膚バリア破壊説は、非常に明快でわかりやすいです。
しかし、現在は、Steroid addictionやリバウンドの解釈として、皮膚バリア破壊説が優勢ですが、わたしは、ローズマリー先生の1998年の懸念もまた、間違ってはいないような気がします。 それはなぜかというと、Steroid addictionの患者が離脱すると、IgEや好酸球といった免疫系の一部が、極端に上昇することが多いからです。それまで正常範囲内(500未満)であったIgEが、数万、ときには数十万にまで上昇したり、好酸球が全白血球の50%以上を占めるなんてことは、離脱中(リバウンド)の患者においては珍しいことではありません。これは、Cork先生のバリア破壊説で、アレルゲンが侵入しやすくなったからだ、という説明だけでは、解釈がしにくいと思うのです。IgE・好酸球系の「サイトカイン・ストーム」のような状況が起きるのです。何か、免疫系の関与による補足説明が必要と思われます。
IgEや好酸球は、アトピー性皮膚炎の病勢のマーカーと言われますが、脱ステロイド後しばらくは上昇したままで、病勢のマーカーとしては役に立ちません。唯一、ステロイド再投与によってだけ低下します(だからといってステロイドを再投与して治ったなんてことにはもちろんなりません)。その後、リバウンドの皮膚症状が治まってくると、IgEは徐々に低下し、アレルゲンなど悪化要因への暴露による皮疹増悪に応じて増減し、病勢のマーカーに戻っていきます。この時期までくると、Cork先生のバリア破壊説は、脱ステロイドの臨床経験に合致します。「脱ステロイド後の過敏性の亢進」と呼ばれる現象です。 しかし、離脱直後のIgEや好酸球の急激な動きは、表皮バリア破壊説に加え、なにか免疫系の関与で説明を追加したほうが、適切なように思うのです。
2009.10.21