医師に過失がなくてもステロイド皮膚症には陥るー川崎ステロイド訴訟(2)
川崎ステロイド訴訟では、東京女子医大皮膚科の川島教授が鑑定書を提出して、判決に大きな影響を与えました。下に全文を示します。
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原告の顔面皮膚病変及びその他の部位の皮膚病変に対する当時の開業医の医療水準に照らした診断並びに治療方法。
アトピー性皮膚炎 (以下本症) の診断は、痒みと特徴的な皮疹と慢性の経過に着目すれば、皮膚科診療を専門とする医師にとっては容易である。当時の医療水準においても十分な研修期間を有する皮膚科開業医であれば、その診断を誤ることはなかったと考える。ただし。昭和五十年代後半から患者数の増加がみられた顔面の紅斑が目立つ例においては、本症であることの診断は他部位の皮疹を参考に可能ではあるが、顔面の病変は (一) ステロイド外用剤による副作用であるのか、 (二) 本症と副作用の混在か、(三) 本症の症状のみか、については、必ずしも統一さ.れた見解はなく、その臨床症状を仔細に観察し、経過を追い、それまでの病歴、薬剤使用歴を参考に判断することが必要であった。当時、 この顔面の紅斑は、化粧の下地としてステロイド外用剤を健常な皮膚に使用していた者に生じる事が多かった酒さ様皮膚炎が疑われていたわけであるが、本症の顔面の皮疹と酒さ様皮膚炎とは異なり、前者は湿疹病変であり、後者はざ瘡様の膿疱を混じる、痒みよりむしろ灼熱感が強ぃ皮疹を特徴としている。当時から問題とされていた本症の顔面の症状の多くは前者であり、アトピー性皮膚炎そのものの症状ととらえられるべきものであったと思われる。 ただし、ステロイド外用剤による毛細血管拡張からなるステロイド潮紅をも酒さ様皮膚炎に含めるとすれば、本症の顔面の皮疹のごく一部には酒さ様皮膚炎が混在しているとも言えよう。 いずれにせよ、本症の顔面の皮疹はステロイド外用剤の副作用としての狭義の酒さ様皮膚炎は当時も現在も少ないといえる。 しかしながら、学会のなかでも一時期は見解の統一が見られなかったことも事実であり、個々の皮膚科医の独自の考えに基づいて、ステロイド外用剤を顔面には一切使用しないとの方針が採られたこともあった。
顔面の皮疹に限らず、成人の本症患者の増加は、ステロイド外用剤の副作用ではないかとの意見が 一部の皮膚科医あるいは他科の医師から提出され、十分な検証のないままにマスコミ報道がなされ、患者および家族に不安感を与え、ステロイド忌避の風潮が生まれ、ステロイド外用剤の使用により、適切にコントロールされていた患者が、ステロイド外用剤を自己判断により中止して、当然起こり得る急激な悪化を来たし、引きこもり、退学、退職などの問題が生じてしまったことは、日本皮膚科学会の対応が遅きに失した感もあり誠に遺憾に思う。しかし、当時から起こってきた成人例の増加にはもうひとつの原因があることも明らかにされつつある。 それは、近年の社会的問題とも無関係ではなく、青年期から成人期にある者たちの抱える心理社会的因子、つまりストレスと本症との関連である。
この年代の者が抱える問題として、家族内、特に両親の問題、兄弟間の葛藤、学校生活のなかでのいじめの体験、友人関係、学業成績、進学の悩み、就職難、職場での人間関係、自立、結婚を含めた将来設計の不安などのストレスに、上手に対処できない者が増加しているのは指摘されている通りである。その者たちは しばしば嗜癖的行動に走ることがあり、酒、タバコ 、摂食障害、ドラッグを含め、 依存的に身体の障害をもたらず行動を行うこともまれではない。本症患者で そのような心理社会的因子を抱える患者でみられる行動に、嗜癖的掻破行動と呼称されるものがある。すなわち、痒みによる掻破ではなく、精神的ストレスを感じるとその心的不快感を、掻破行動で解消しょうとするものであり、掻破が長時間にわたり、繰り返し習慣的に行われることから、特徴的な重症化した皮疹が形成される。その特徴的な皮疹を有する例はかなり多く、またそのような患者との対話から心理社会的因子の存在、内容、掻破行動の異常を聞き出すことがしばしば可能である。皮膚科医がその解決に向けて患者に協力することはもちろん必要であるが、時には精神科医とのチーム医療の必要性までもあり、近年の本症の治療は精神的ケアまでもが必要な疾患となっている。患者に共感を持って接し、その抱える精神的ストレスを理解し、その解消法となっている掻破行動の異常を指摘し、是正することにより、劇的に症状の改善をみる患者は極めて多い。本症は従前にも増して、患者との対話が必要な疾患となってきている。
本症はこのような精神的ケアが必要な疾患となっているが、日本皮膚科学会編アトピー性皮膚炎治療ガイドラインで述べられているように、その基本的治療は、皮疹の重症度、部位に応じた適切なステロイド外用剤による炎症の鎮静と、その後の保湿剤などによるスキンケア、痒み軽減のための抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の補助療法としての併用であり、多くの例ではこの治療法が指示通りに行われれば、自然寛解も望めるし、ほぼ寛解した状態を維持できるという、治療の目標を達成しうる。それが達成できない場には、悪化因子の検索を行う必要があるが、その決定は必ずしも容易ではなく、またアレルゲン除去のみで本症の治癒が期待されるものではない。なお、本症での白内障の合併については、ステロイド外用剤によるものではなく、眼囲の皮疹を掻破、殴打することによるとの結論は眼科医より出されている。
以上のアトピー性皮膚炎に関する、病態のとらえ方、治療法の推移を考慮して、昭和六一年ころから平成二年ころまでの本症の診断および治療法について、開業医としての水準から判断すると、本症の診断は、皮膚症状に基づいて行われ、痒みの存在と慢性の経過から判断されてかまわない。診断上は特に検査を行う必要はない。治療に関しては、ステロイド外用剤を皮疹の程度、部位に応じて選択し、副作用の発生に留意して、定期的に観察しながら使用し、寛解した部位には保湿剤などのステロイド外用剤以外の外用剤を用いて維持することを目標とする。 また抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を痒みを抑えるために補助的に使用する。それでも寛解しない場合には、悪化因子の検索を考慮するが、外用剤の接触皮膚炎の合併は当然考慮されるべきであるが、その他のアレルゲンに関しては、血液検査、パッチテストなどからは結論しえないものであり、経過から明らかな悪化因子と考えられるもののみを除去することを試みる。明らかな酒さ様皮膚炎は別として、顔面の皮疹に関しては適切なステロイド外用剤を十分に観察しながら、継続使用することもありうるし、一部の考え方に従って、使用を中止することも許容されるであろう。ステロイド内服に関しては、急激な悪化を来たした場合、外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用する場合、結婚式などを控え、一時的にせよ寛解を期待する場合、などが考えられるが、その使用法について一定のものはなく、個々の患者において、その使用量、期間は担当医師により決定されるものである。
二 B医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか
調書から判断すると、 B医師は皮疹の特徴と痒みの存在からアトピー性皮膚炎と診断しており、 顔面の皮疹に関しても、症状から酒さ様皮膚炎とは異なる湿疹性病変と判断しており、診断は適切であったと考える。
2 治療は適切であったか。
顔面を含め、すべてアトピー性皮膚炎の症状と判断した上で、部位に応じてステロイド外用剤が選択され使用されており、抗ヒスタミン剤の併用も適切と思われる。毛嚢炎に対しての抗生物質の投与も妥当である。抗生物質含有ステロイド外用剤の毛嚢炎に対する予防的使用の効果については、十分には検証されていないが、不適切とする根拠もない。ステロイド外用剤の使用量は、顔面で一日あたり多くて、3 g程度、顔面以外で多い時期で3 g、通常は1g程度と判断さ.れ、症状に応じた使用量であったと判断する。
三 C医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか。
乙C第一号証にみられる昭和63年1月23日の症状の記載から判断すると、顔面の症状が特に重症化しているアトピー性皮膚炎と判断され、診断は適切であったと思われる。酒さ様皮膚炎の合併を思わせる膿疱などの存在は見られず、ステロイド外用剤の副作用はなかったものと思われる。 .
2 治療は適切であったか。
ステロイド外用剤に関しては、初診時及び再診時においても症状、部位に応じて適切な強さのものが選択されている。使用量についても症状の強い時期と軽快時での違いはあるが、妥当な量と判断される。 ストロンゲストのステロイド外用剤が処方されていた時期もあり、重症例であったことが推察される。ステロイド剤の内服の適応に関しては、重症例で外用剤に十分な反応がみられなかったことから、選択されたと思われ、不適切と結論することはできない。一日量で4錠のプレドニゾロンは初期量としては上限と考えられるが、重症例では短期間 (2週間前後) の使用は止むを得ない場合も十分に推測される。 総投与量200錠は確かにアトピー性皮膚炎としては多いと考えられるが、処方日数90日、実際245日で聞歌的に200錠が内服されたと考えれば、 その量は重大な副作用を懸念させる量ではない。 担当医師の責任において決定される範囲にあると考える。
四 F医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか。
D大学皮膚科からのアトピー性皮膚炎で軽快しているとの紹介状とは症状が異なり、顔面を中心に悪化した状況での初診と思われるが、調書から症状を判断すると診断、重症度の判定とも妥当と思われる。
2 治療は適切であったか。
平成2年8月24日までの治療に関しては、症状、部位に応じたステロイド外用剤をはじめとした外用剤の選択、使用には問題はなく、使用量についても妥当と判断する。抗アレルギー剤、漢方薬の投与も問題となるものはない。
3 副腎皮質ステロイド剤の外用薬の使用中止は適切であったか。
結果として、ステロイド外用剤の中止は患者の自己判断によるもののようであるが、その点では中止は医師の管理下においてなされるべきであり、不適切であったといえよう。その責をだれが負うかは判断し難いところがあるが、きっかけを与えたのは、平成2年7月5日のF医師のステロイド外用剤を中止して様子をみることにするとの説明であることは間違いなかろう。 それでは、この中止して様子をみるという判断が妥当であったかが問題となる。 調書にあるようにF医師は原告の顔面の皮疹をステロイド外用剤による副作用と考えていたわけではなく、アトピー性皮膚炎の皮疹と判断してぃたようである。その時点であえて中止を提言したのは、以前に自分の学んだ教室でもあり、患者の紹介元でもあるD大学皮膚科での治療方針の変更に影響されて、顔面の皮疹にはステロイド外用剤をなるべく使用しないこととする方針に変えたことによると思われる。その時点での症状、その後の経過から考えると、酒さ様皮膚炎などの副作用を生じていたとは思われず、中止を提言する必要はなかったとも考えられるが、皮疹が軽快していた時期でもあり、ステロイド外用剤の顔面への長期連用は可能な限り避けるべきとの基本に沿い、医師の管理下での中止を考慮し、提言したのは責められないと判断する。
五 平成2年8月27日当時の原告の顔面の皮膚病変の実態及びその原因について
少なくとも平成2年8月27日までの経過中に原告の顔面にステロイド外用剤の副作用を思わせる症状を認めたことはなかったと思われる。 同日の診察時に観察された症状はステロイド外用剤を中止し、 代替となる治療を施していなかったことによるアトピー性皮膚炎そのものの悪化である。 なぜならば、 もし酒さ様皮膚炎のリバウンドとするならば、 ステロイド外用剤の中止以前に酒さ様皮膚炎の診断が当然なされていたはずである。 明らかなリバウンドを生じるような酒さ様皮膚炎 (単にステロイド潮紅のみではなく膿疱を混じるような酒さ様皮膚炎) が存在していれば、 いかにアトピー性皮膚炎と混在していても皮膚科専門医に判断がつかないとは考えられない。また、△医師の診断書の顔面の発赤、腫脹がステロイド外用剤中止後約3年経過しても存続していることは、少なくとも酒さ様皮膚炎ではあり得ず、よって酒さ様皮膚炎が存在していた根拠にはなり得ない。 すなわち、平成2年8月27日当時も平成5年8月当時もいずれも、アトピー性皮膚炎そのものの症状であったと判断される。
六 その他参考事項
原告に肉体的にも精神的にも多大なる苦痛を与える結果となり、訴訟に至ったことは、アトピー性皮膚炎の診療に当たる者として誠に遺憾に堪えない。そこには、本疾患の病態、治療目標、ステロイド外用剤の効用などに関する誤解が広まったことが一因としてあるが、それ以上に患者の抱える身体的問題とともに心理社会的因子を含めた総合的な理解が、診療に携わる皮膚科医に不足していたことも問題であると強く感じる。患者との対話を重視し、皮膚を診るのみならず心を診ることが重要であり、それが患者と医師の間の信頼関係の構築に繋がり、治療経過にも良好な結果をもたらすものと考える。
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短くまとめますと、「ステロイドを処方した、Bクリニック、C皮膚科、E皮膚科にはいずれも過失は無い。最後に受診していたE皮膚科のF医師は、ステロイドの中止を勧めたが、それはアトピー性皮膚炎の治療の一環としてであって、副作用を疑っていたのではない。原告がF医師の下でステロイドを中止していたならば適切であったが、自己判断で中止して悪化したから不適切であった。ステロイド外用中に膿疱が出ていなければ、自分は「狭義の酒さ様皮膚炎」とは診断しない。狭義の酒さ様皮膚炎以外に、中止後リバウンドを生じて良くなってしまう「ステロイド皮膚症」の存在など認めないから、言及もしない。仮に原告がステロイド中止後どんなに良くなったとしても、ステロイドの副作用であったのではなく、たまたまアトピー性皮膚炎がその時期に良くなっただけだ。」となります。
裁判官は、この鑑定書に基づき、以下のように判断しました。
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3 被告Bの責任について
(1)原告は,ステロイド外用剤の顔面への長期連用は,副作用により皮膚症状を悪化させ,ステロイド皮膚症を発生させるとともに,その離脱時には薬理作用としての離脱皮膚炎を発生させるため禁止されているにもかかわらず,被告Bが,これを怠り,約3年間にわたってステロイド外用剤を処方した旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,被告Bは,原告に対し,昭和59年12月14日の初診時から昭和62年10月30日の最終診療日までの間,原告が受診する都度(原告は,ほとんど毎月通院していたが, その回数は定期的ではなく, 1か月に1回程度ということもかなりあった。), 外来で躯幹・四肢にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を塗布したほか, 顔面用にミディアムクラスのステロイド外用剤を5グラム, 躯幹及び四肢用にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を通常10グラム処方(ただし, 15グラムあるいは合計30グラムを処方することもあった。)していたことが認められる。
しかしながら, 原告がBクリニックで治療を受けていた期間中, アトピー性皮膚炎の重い症状が続き, ステロイド外用剤による治療の必要性があったこと, ステロイド外用剤は対症療法であり, その当時, その使用期間などを限定する見解もあったが, 一定期間が経過すれば中止するというものではなく, 症状などから見て判断するものであり, 治療が必要な症状がある期間は, 酒さ様皮膚炎が生じないように観察しながら, 年余にわたってステロイド外用剤を使用することもありうること, 上記認定のステロイド外用剤の使用量については, 通院回数, 間隔などからすると, 医師の裁量を逸脱したとまでいえないこと, ステロイド外用剤を使用期間中, 酒さ様皮膚炎などの副作用の発症をうかがわせる症状は見られなかったこと(もっとも, 乙B1のカルテには, 原告にpustel(膿疱)が発生した旨の記載があるものの, 鑑定の結果によれば, これのみでは酒さ様皮膚炎の症状と診断することはできず, ざ瘡, 毛のう炎などの症状を想起させるものであることが認められる。)などの諸事情に照らすと, その処方期間が必要の程度を超えていたとまでいうことはできない。
以上によれば, 被告Bのステロイド外用剤の処方期間に過失があった旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は, 被告Bがステロイド外用剤の使用法などに対する知識を有していなかったため, 外来処置時に顔面と両腕関節の内側にストロンゲストやベリーストロングの外用剤を塗布し, 症状に必要なランクよりも強いステロイド外用剤を処方するとともに, その使用法について適切な指導をしなかった旨主張する。
そこで, この点について検討するに, 前記認定のとおり, 被告Bは, 外来時には躯幹・四肢にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を塗布する処置をし, 顔面にはミディアムクラスのステロイド外用剤を処方するなど部位に応じてステロイド外用剤を処方しており, その使用方法については, 概ね1日に2回と指導していること, 外来では, 原告が顔面に処置することを希望しなかったため, 顔面にはステロイド外用剤を塗布する処置を行っていないこと(なお, 原告は, 顔面にも塗布された旨供述するが, 被告Bの供述に照らし, 採用できない。)などに照らすと, その使用方法などに不適切な点があったと認めることはできない。
(3)原告は, アトピー性皮膚炎の治療のためには, アレルゲンの検査を行い, 悪化原因を知って生活指導を行うことが必要であるにもかかわらず, 被告Bが, その検査を行わなかった上, 悪化原因の手掛かりとなるカルテを廃棄し, 原告に対し, 生活指導を行わなかった旨主張する。
そこで, この点について検討するに, 前記認定のとおり, 薬物療法により治療の目的を達成することがせきない場合には, アレルゲンの検索を行う必要があるが, その決定は必ずしも容易ではなく, これを明らかにし得た場合でも, アトピー性皮膚炎は多因子性であり, アレルゲン除去は薬物療法の補助療法であり, これのみで完治が期待されるものではないことが認められるから, その当時, 医師の法的義務として, アレルギー検査などによりアレルゲンの検索を行う注意義務があるとまでいうことはできない。したがって, 被告Bがアレルギー検査を行わなかったとしても, 治療上の過失はないというべきである。また, 「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」によれば, アトピー性皮膚炎の患者に対しては生活指導を行うことが必要であるとされているところ, 被告Bは, 治療開始時に, すべての患者に対し, 毛類を避け, 刺激の少ない衣類を着用する, 熱いタオルや蒸しタオルでこするようなことをしないなどと症状を悪化させないよう注意を行って生活指導をしてきたことが認められる(被告B)。したがって, 被告Bが生活指導を行わなかった旨の原告の主張は採用できない。
4 被告Cの責任について
(1)原告は, 被告Cが, ステロイド内服薬を投与すべき適応がなかったにもかかわらず, 原告に対し, ステロイド内服薬であるプレドニゾロンを処方したものであり, 仮に適応ケースであったとしても, 症状を抑制し得る十分量を初期値とし, 症状の改善とともに減量し, 数週間で中止すべきであったと主張する。
そこで、この点について検討するに, 上記認定のとおり, ステロイド内服薬の使用については, 急激な変化を来した場合, 外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用する場合, 結婚式などを控え, 一時的に寛解しなければならない必要性がある場合などにその使用の適応性があると考えられている。また,アトピー性皮膚炎の重症例の場合,体重1キログラム当たり0.5ミリグラムのプレドニンを1ないし2週間使用し,軽快した時点から徐々に1ないし2週間の単位で5ミリグラム程度の減量を行って中止を目指すのが通常であり,長期にステロイド内服薬を連用することは通常ないが,重症例でステロイド外用剤による効果が十分得られない場合には,ステロイド内服薬を少量継続することにより寛解を目指すことも例外的に容認し得るものであり,その使用量,期間は担当医師により決定されていることが認められる。
これを本件についてみるに,被告Cは,昭和63年1月23日の初診時において,かなり長期を要する難治性のアトピー性皮膚炎と診断し,ステロイド外用剤であるビスダームクリーム(ベリーストロング)5グラムをフェナゾールに混合して処方し,同月26日の診療時には投薬せず,同年2月1日には初診時と同様に処方したが,発疹が悪化したため,同月6日にはステロイド外用剤であるキンダベート軟膏(ミディアム)5グラムに変更して処方し,同月9日にキンダベート軟膏10グラムを処方したこと,同月17日にはキンダベート軟膏10グラムを継続して処方したが,顔面には強いステロイド外用剤を処方すると,その離脱が困難なため,ステロイド内服薬であるプレドニゾロンを間欠的に併用する方針を立て,4錠(1日2回)を5日分処方したこと,その後,キンダベート軟膏の処方を継続しながら,同年2月26日にはプレドニゾロン4錠(1日2回)を5日分処方し,同年3月2日にはプレドニゾロン2錠(1日2回)に減量して10日分を処方した後,同年5月2日には1日置きに使用するよう指示してプレドニゾロン2錠(1日2回)を5日分処方し,同年9月17日までの間,プレドニゾロン2錠を間欠的に処方していたことが認められる。
そうすると,被告Cは,ステロイド外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用したものと考えられるから,ステロイド内服薬を投与すべき適応がなかったいうことはできない。また,原告が主張するように症状を抑制し得る十分量を初期量とし,症状の改善とともに減量し,数週間程度で中止すべき義務はなく,プレドニゾロンを継続使用することにより寛解を目指すことも例外的に容認されているところ,鑑定の結果によれば,その使用量は重大・な副作用を懸念させるものではなく,担当医の裁量の範囲内にあることが認められる。
したがって,プレドニゾロンの使用について被告Cに過失がある旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は,ステロイド内服薬を処方する場合,重篤な副作用が出現する可能性があるから,患者に対し,使用の必要性及び副作用について理解できるよう説明し,その承諾を得るべきであったにもかかわらず,被告Cがこれを怠った旨主張する。
そこで,この点について検討するに,原告が主張するとおり,被告Cがステロイド内服薬を処方するに当たり,原告に対し,使用の必要性及び副作用について説明しなかったとしても,その義務違反により原告にその副作用が生じたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Cに対し説明義務違反があったことを理由に損害賠償を請求することはできない。
5 被告Eの責任について
(1)原告は,F医師が,原告の顔面に発症していた酒さ様皮膚炎を見落とし,昭和63年12月15日の初診時から平成2年8月27日までの約1年8月間,原告の顔面にステロイド外用剤を連用した旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,原告は,A病院,Bクリニックでステロイド外用剤を処方され,さらに,C皮膚科でステロイド外用剤及びステロイド内服薬を処方されており,ステロイド外用剤などの処方通算期間が長期間にわたっている症例ほどその副作用が出現する可能性が高いこと,昭和63年9月26日にD大学病院皮膚科で診察を受けた際,担当医師から,アトピー性皮膚炎,ステロイド酒さと診断されていることが認められる。
しかしながら,D大学病院皮膚科におけるその後の経過をみるに,原告は,同年11月15日まで通院して治療を受けているが,初診時以外には,「ステロイド酒さ」の症状はなく,この期間中,ステロイド外用剤を処方されたこと,また,この症状は非常に軽いものであり,最終診療日にはまったく心配のいらない状態になっていたこと(証人△医師),D大学病院皮膚科作成の同日付けのE皮膚科あての紹介状には,一時悪化していたが,現在はリンデロンDPなどの処方により軽快している旨の記戟がなされているものの,ステロイド外用剤の副作用をうかがわせる記載がないこと(乙D1),E皮膚科における初診当時,顔面の乾燥状態が非常に強く認められるところ,これは酒さ様皮膚炎ではあり得ない高度の乾燥状態である上,E皮膚科に通院期間中,原告の顔面には浮腫が認められたが,酒さ様皮膚炎は,境界鮮明な浮腫を伴った紅斑上に多発の膿庖が見られ,強い灼熱感を伴うのが通常であり,これらを総合して診断すべきところ,E皮膚科に通院期間中,原告の顔面に膿庖がない上,顔面の浮腫はアトピー性皮膚炎の顔面の急性炎症の症状として通常見られるものであるから,浮腫の存在のみで酒さ様皮膚炎の存在を診断すべきでないこと(鑑定の結果)などからすると,原告がE皮膚科で通院していた期間中にステロイド外用剤の副作用である酒さ様皮膚炎が生じたと認めることはできない。
もっとも,○医師作成の平成5年8月13日付けの診断書(甲4)には,「特に顔面はステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹を認めた。」との記載があるが,ステロイド外用剤による副作用である酒さ様皮膚炎は,その使用中止により,1年以内には通常消失すること(鑑定の結果), 上記診断書にいう発赤,腫脹は,ステロイド外用剤による接触皮膚炎又はその中止によるリバウンドのいずれかであると考えられるが,ステロイド外用剤の中止により,数週間ないし数か月で消退するので,ステロイド外用剤を数年間使用していないならば,発赤,腫脹は別の原因によるものであること(乙D25)が認められ,これらの事情に照らすと,同日の受診時, 原告の顔面にステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹が認められた旨の上記診断書の記載は採用できない。
したがって,F医師が原告の顔面に発症していた酒さ様皮膚炎を見落とし,初診時以降約1年8月間にわたってステロイド外用剤を連用した旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は,ステロイド外用剤を中止すると,急激な皮膚症状の悪化が起こるから,原告を診察していたF医師としては,ステロイド外用剤の使用中止に当たり,適切な説明を行うべきであったが,F医師が,これを怠り,原告に対し,十分な説明をしなかった旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,F医師は,昭和63年12月15日の初診時以降,原告に対し,ステロイド外用剤を処方していたが,D大学病院皮膚科では,なるべくステロイド剤を使用しないで治療するという方針に変わったので,平成2年5月ころ,F医師も,長期間これを投与している患者に対し,なるべく使用しない方針を立てたこと,同年7月5日の診療時,原告の皮膚症状が比較的良かったので,原告に対し,ステロイド外用剤を中止して様子を見ることとし,急にその投与を中止すると,リバウンド現象が生じアトピー性皮膚炎も悪化するので,定期的に通院してほしい旨説明したところ,原告が,今は忙しくて通院できないと答えたので,同年8月からステロイドの投与を中止する計画を立てたことが認められる。
以上によれば,F医師は,原告に対し,ステロイド外用剤を中止により,急激な皮膚症状の悪化が起こるから,定期的に通院するよう説明していたものというべきであるから,十分な説明を受けなかった旨の原告の主張は採用できない。
6 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
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川島鑑定書のキモは、
①顔面へのステロイド外用の副作用で中止後リバウンドを経てよくなってしまうとすれば、それは『狭義の酒さ様皮膚炎』であって、そのためには膿疱が必須条件だ。
②膿疱を伴わない悪化や軽快は、全てアトピー性皮膚炎の悪化や軽快である。
③アトピー性皮膚炎の顔に膿疱が出来た場合は、酒さ様皮膚炎ではなく、毛のう炎を第一に疑うべきである(注:下記鑑定事項(補充)の四)。
と、裁判官に強く印象付けた点だと思います。 ①②③に従えば、要するにアトピー性皮膚炎の顔には、ステロイド外用剤によってリバウンドを起こすような副作用は生じない、となります。
なぜなら、健常人であれば、軽度の酒さ様皮膚炎であっても気が付きやすいでしょうが、アトピーの場合は、重症化して膿疱が出現するまでは、酒さ様皮膚炎の診断はできないということになるし、膿疱が出現しても、毛のう炎の合併と診断すべきだ、ということになるからです。
川島氏を納得させられる「酒さ様皮膚炎を合併したアトピー性皮膚炎」の臨床像を、私はイメージできません。Kligmanが「Steroid addictionはアトピー性皮膚炎においてこそ生じやすい」と記したのとは正反対の結論が導かれます。
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原告の顔面皮膚病変及びその他の部位の皮膚病変に対する当時の開業医の医療水準に照らした診断並びに治療方法。
アトピー性皮膚炎 (以下本症) の診断は、痒みと特徴的な皮疹と慢性の経過に着目すれば、皮膚科診療を専門とする医師にとっては容易である。当時の医療水準においても十分な研修期間を有する皮膚科開業医であれば、その診断を誤ることはなかったと考える。ただし。昭和五十年代後半から患者数の増加がみられた顔面の紅斑が目立つ例においては、本症であることの診断は他部位の皮疹を参考に可能ではあるが、顔面の病変は (一) ステロイド外用剤による副作用であるのか、 (二) 本症と副作用の混在か、(三) 本症の症状のみか、については、必ずしも統一さ.れた見解はなく、その臨床症状を仔細に観察し、経過を追い、それまでの病歴、薬剤使用歴を参考に判断することが必要であった。当時、 この顔面の紅斑は、化粧の下地としてステロイド外用剤を健常な皮膚に使用していた者に生じる事が多かった酒さ様皮膚炎が疑われていたわけであるが、本症の顔面の皮疹と酒さ様皮膚炎とは異なり、前者は湿疹病変であり、後者はざ瘡様の膿疱を混じる、痒みよりむしろ灼熱感が強ぃ皮疹を特徴としている。当時から問題とされていた本症の顔面の症状の多くは前者であり、アトピー性皮膚炎そのものの症状ととらえられるべきものであったと思われる。 ただし、ステロイド外用剤による毛細血管拡張からなるステロイド潮紅をも酒さ様皮膚炎に含めるとすれば、本症の顔面の皮疹のごく一部には酒さ様皮膚炎が混在しているとも言えよう。 いずれにせよ、本症の顔面の皮疹はステロイド外用剤の副作用としての狭義の酒さ様皮膚炎は当時も現在も少ないといえる。 しかしながら、学会のなかでも一時期は見解の統一が見られなかったことも事実であり、個々の皮膚科医の独自の考えに基づいて、ステロイド外用剤を顔面には一切使用しないとの方針が採られたこともあった。
顔面の皮疹に限らず、成人の本症患者の増加は、ステロイド外用剤の副作用ではないかとの意見が 一部の皮膚科医あるいは他科の医師から提出され、十分な検証のないままにマスコミ報道がなされ、患者および家族に不安感を与え、ステロイド忌避の風潮が生まれ、ステロイド外用剤の使用により、適切にコントロールされていた患者が、ステロイド外用剤を自己判断により中止して、当然起こり得る急激な悪化を来たし、引きこもり、退学、退職などの問題が生じてしまったことは、日本皮膚科学会の対応が遅きに失した感もあり誠に遺憾に思う。しかし、当時から起こってきた成人例の増加にはもうひとつの原因があることも明らかにされつつある。 それは、近年の社会的問題とも無関係ではなく、青年期から成人期にある者たちの抱える心理社会的因子、つまりストレスと本症との関連である。
この年代の者が抱える問題として、家族内、特に両親の問題、兄弟間の葛藤、学校生活のなかでのいじめの体験、友人関係、学業成績、進学の悩み、就職難、職場での人間関係、自立、結婚を含めた将来設計の不安などのストレスに、上手に対処できない者が増加しているのは指摘されている通りである。その者たちは しばしば嗜癖的行動に走ることがあり、酒、タバコ 、摂食障害、ドラッグを含め、 依存的に身体の障害をもたらず行動を行うこともまれではない。本症患者で そのような心理社会的因子を抱える患者でみられる行動に、嗜癖的掻破行動と呼称されるものがある。すなわち、痒みによる掻破ではなく、精神的ストレスを感じるとその心的不快感を、掻破行動で解消しょうとするものであり、掻破が長時間にわたり、繰り返し習慣的に行われることから、特徴的な重症化した皮疹が形成される。その特徴的な皮疹を有する例はかなり多く、またそのような患者との対話から心理社会的因子の存在、内容、掻破行動の異常を聞き出すことがしばしば可能である。皮膚科医がその解決に向けて患者に協力することはもちろん必要であるが、時には精神科医とのチーム医療の必要性までもあり、近年の本症の治療は精神的ケアまでもが必要な疾患となっている。患者に共感を持って接し、その抱える精神的ストレスを理解し、その解消法となっている掻破行動の異常を指摘し、是正することにより、劇的に症状の改善をみる患者は極めて多い。本症は従前にも増して、患者との対話が必要な疾患となってきている。
本症はこのような精神的ケアが必要な疾患となっているが、日本皮膚科学会編アトピー性皮膚炎治療ガイドラインで述べられているように、その基本的治療は、皮疹の重症度、部位に応じた適切なステロイド外用剤による炎症の鎮静と、その後の保湿剤などによるスキンケア、痒み軽減のための抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の補助療法としての併用であり、多くの例ではこの治療法が指示通りに行われれば、自然寛解も望めるし、ほぼ寛解した状態を維持できるという、治療の目標を達成しうる。それが達成できない場には、悪化因子の検索を行う必要があるが、その決定は必ずしも容易ではなく、またアレルゲン除去のみで本症の治癒が期待されるものではない。なお、本症での白内障の合併については、ステロイド外用剤によるものではなく、眼囲の皮疹を掻破、殴打することによるとの結論は眼科医より出されている。
以上のアトピー性皮膚炎に関する、病態のとらえ方、治療法の推移を考慮して、昭和六一年ころから平成二年ころまでの本症の診断および治療法について、開業医としての水準から判断すると、本症の診断は、皮膚症状に基づいて行われ、痒みの存在と慢性の経過から判断されてかまわない。診断上は特に検査を行う必要はない。治療に関しては、ステロイド外用剤を皮疹の程度、部位に応じて選択し、副作用の発生に留意して、定期的に観察しながら使用し、寛解した部位には保湿剤などのステロイド外用剤以外の外用剤を用いて維持することを目標とする。 また抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を痒みを抑えるために補助的に使用する。それでも寛解しない場合には、悪化因子の検索を考慮するが、外用剤の接触皮膚炎の合併は当然考慮されるべきであるが、その他のアレルゲンに関しては、血液検査、パッチテストなどからは結論しえないものであり、経過から明らかな悪化因子と考えられるもののみを除去することを試みる。明らかな酒さ様皮膚炎は別として、顔面の皮疹に関しては適切なステロイド外用剤を十分に観察しながら、継続使用することもありうるし、一部の考え方に従って、使用を中止することも許容されるであろう。ステロイド内服に関しては、急激な悪化を来たした場合、外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用する場合、結婚式などを控え、一時的にせよ寛解を期待する場合、などが考えられるが、その使用法について一定のものはなく、個々の患者において、その使用量、期間は担当医師により決定されるものである。
二 B医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか
調書から判断すると、 B医師は皮疹の特徴と痒みの存在からアトピー性皮膚炎と診断しており、 顔面の皮疹に関しても、症状から酒さ様皮膚炎とは異なる湿疹性病変と判断しており、診断は適切であったと考える。
2 治療は適切であったか。
顔面を含め、すべてアトピー性皮膚炎の症状と判断した上で、部位に応じてステロイド外用剤が選択され使用されており、抗ヒスタミン剤の併用も適切と思われる。毛嚢炎に対しての抗生物質の投与も妥当である。抗生物質含有ステロイド外用剤の毛嚢炎に対する予防的使用の効果については、十分には検証されていないが、不適切とする根拠もない。ステロイド外用剤の使用量は、顔面で一日あたり多くて、3 g程度、顔面以外で多い時期で3 g、通常は1g程度と判断さ.れ、症状に応じた使用量であったと判断する。
三 C医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか。
乙C第一号証にみられる昭和63年1月23日の症状の記載から判断すると、顔面の症状が特に重症化しているアトピー性皮膚炎と判断され、診断は適切であったと思われる。酒さ様皮膚炎の合併を思わせる膿疱などの存在は見られず、ステロイド外用剤の副作用はなかったものと思われる。 .
2 治療は適切であったか。
ステロイド外用剤に関しては、初診時及び再診時においても症状、部位に応じて適切な強さのものが選択されている。使用量についても症状の強い時期と軽快時での違いはあるが、妥当な量と判断される。 ストロンゲストのステロイド外用剤が処方されていた時期もあり、重症例であったことが推察される。ステロイド剤の内服の適応に関しては、重症例で外用剤に十分な反応がみられなかったことから、選択されたと思われ、不適切と結論することはできない。一日量で4錠のプレドニゾロンは初期量としては上限と考えられるが、重症例では短期間 (2週間前後) の使用は止むを得ない場合も十分に推測される。 総投与量200錠は確かにアトピー性皮膚炎としては多いと考えられるが、処方日数90日、実際245日で聞歌的に200錠が内服されたと考えれば、 その量は重大な副作用を懸念させる量ではない。 担当医師の責任において決定される範囲にあると考える。
四 F医師の診療について
1 初診時の診断は適切であったか。
D大学皮膚科からのアトピー性皮膚炎で軽快しているとの紹介状とは症状が異なり、顔面を中心に悪化した状況での初診と思われるが、調書から症状を判断すると診断、重症度の判定とも妥当と思われる。
2 治療は適切であったか。
平成2年8月24日までの治療に関しては、症状、部位に応じたステロイド外用剤をはじめとした外用剤の選択、使用には問題はなく、使用量についても妥当と判断する。抗アレルギー剤、漢方薬の投与も問題となるものはない。
3 副腎皮質ステロイド剤の外用薬の使用中止は適切であったか。
結果として、ステロイド外用剤の中止は患者の自己判断によるもののようであるが、その点では中止は医師の管理下においてなされるべきであり、不適切であったといえよう。その責をだれが負うかは判断し難いところがあるが、きっかけを与えたのは、平成2年7月5日のF医師のステロイド外用剤を中止して様子をみることにするとの説明であることは間違いなかろう。 それでは、この中止して様子をみるという判断が妥当であったかが問題となる。 調書にあるようにF医師は原告の顔面の皮疹をステロイド外用剤による副作用と考えていたわけではなく、アトピー性皮膚炎の皮疹と判断してぃたようである。その時点であえて中止を提言したのは、以前に自分の学んだ教室でもあり、患者の紹介元でもあるD大学皮膚科での治療方針の変更に影響されて、顔面の皮疹にはステロイド外用剤をなるべく使用しないこととする方針に変えたことによると思われる。その時点での症状、その後の経過から考えると、酒さ様皮膚炎などの副作用を生じていたとは思われず、中止を提言する必要はなかったとも考えられるが、皮疹が軽快していた時期でもあり、ステロイド外用剤の顔面への長期連用は可能な限り避けるべきとの基本に沿い、医師の管理下での中止を考慮し、提言したのは責められないと判断する。
五 平成2年8月27日当時の原告の顔面の皮膚病変の実態及びその原因について
少なくとも平成2年8月27日までの経過中に原告の顔面にステロイド外用剤の副作用を思わせる症状を認めたことはなかったと思われる。 同日の診察時に観察された症状はステロイド外用剤を中止し、 代替となる治療を施していなかったことによるアトピー性皮膚炎そのものの悪化である。 なぜならば、 もし酒さ様皮膚炎のリバウンドとするならば、 ステロイド外用剤の中止以前に酒さ様皮膚炎の診断が当然なされていたはずである。 明らかなリバウンドを生じるような酒さ様皮膚炎 (単にステロイド潮紅のみではなく膿疱を混じるような酒さ様皮膚炎) が存在していれば、 いかにアトピー性皮膚炎と混在していても皮膚科専門医に判断がつかないとは考えられない。また、△医師の診断書の顔面の発赤、腫脹がステロイド外用剤中止後約3年経過しても存続していることは、少なくとも酒さ様皮膚炎ではあり得ず、よって酒さ様皮膚炎が存在していた根拠にはなり得ない。 すなわち、平成2年8月27日当時も平成5年8月当時もいずれも、アトピー性皮膚炎そのものの症状であったと判断される。
六 その他参考事項
原告に肉体的にも精神的にも多大なる苦痛を与える結果となり、訴訟に至ったことは、アトピー性皮膚炎の診療に当たる者として誠に遺憾に堪えない。そこには、本疾患の病態、治療目標、ステロイド外用剤の効用などに関する誤解が広まったことが一因としてあるが、それ以上に患者の抱える身体的問題とともに心理社会的因子を含めた総合的な理解が、診療に携わる皮膚科医に不足していたことも問題であると強く感じる。患者との対話を重視し、皮膚を診るのみならず心を診ることが重要であり、それが患者と医師の間の信頼関係の構築に繋がり、治療経過にも良好な結果をもたらすものと考える。
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短くまとめますと、「ステロイドを処方した、Bクリニック、C皮膚科、E皮膚科にはいずれも過失は無い。最後に受診していたE皮膚科のF医師は、ステロイドの中止を勧めたが、それはアトピー性皮膚炎の治療の一環としてであって、副作用を疑っていたのではない。原告がF医師の下でステロイドを中止していたならば適切であったが、自己判断で中止して悪化したから不適切であった。ステロイド外用中に膿疱が出ていなければ、自分は「狭義の酒さ様皮膚炎」とは診断しない。狭義の酒さ様皮膚炎以外に、中止後リバウンドを生じて良くなってしまう「ステロイド皮膚症」の存在など認めないから、言及もしない。仮に原告がステロイド中止後どんなに良くなったとしても、ステロイドの副作用であったのではなく、たまたまアトピー性皮膚炎がその時期に良くなっただけだ。」となります。
裁判官は、この鑑定書に基づき、以下のように判断しました。
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3 被告Bの責任について
(1)原告は,ステロイド外用剤の顔面への長期連用は,副作用により皮膚症状を悪化させ,ステロイド皮膚症を発生させるとともに,その離脱時には薬理作用としての離脱皮膚炎を発生させるため禁止されているにもかかわらず,被告Bが,これを怠り,約3年間にわたってステロイド外用剤を処方した旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,被告Bは,原告に対し,昭和59年12月14日の初診時から昭和62年10月30日の最終診療日までの間,原告が受診する都度(原告は,ほとんど毎月通院していたが, その回数は定期的ではなく, 1か月に1回程度ということもかなりあった。), 外来で躯幹・四肢にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を塗布したほか, 顔面用にミディアムクラスのステロイド外用剤を5グラム, 躯幹及び四肢用にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を通常10グラム処方(ただし, 15グラムあるいは合計30グラムを処方することもあった。)していたことが認められる。
しかしながら, 原告がBクリニックで治療を受けていた期間中, アトピー性皮膚炎の重い症状が続き, ステロイド外用剤による治療の必要性があったこと, ステロイド外用剤は対症療法であり, その当時, その使用期間などを限定する見解もあったが, 一定期間が経過すれば中止するというものではなく, 症状などから見て判断するものであり, 治療が必要な症状がある期間は, 酒さ様皮膚炎が生じないように観察しながら, 年余にわたってステロイド外用剤を使用することもありうること, 上記認定のステロイド外用剤の使用量については, 通院回数, 間隔などからすると, 医師の裁量を逸脱したとまでいえないこと, ステロイド外用剤を使用期間中, 酒さ様皮膚炎などの副作用の発症をうかがわせる症状は見られなかったこと(もっとも, 乙B1のカルテには, 原告にpustel(膿疱)が発生した旨の記載があるものの, 鑑定の結果によれば, これのみでは酒さ様皮膚炎の症状と診断することはできず, ざ瘡, 毛のう炎などの症状を想起させるものであることが認められる。)などの諸事情に照らすと, その処方期間が必要の程度を超えていたとまでいうことはできない。
以上によれば, 被告Bのステロイド外用剤の処方期間に過失があった旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は, 被告Bがステロイド外用剤の使用法などに対する知識を有していなかったため, 外来処置時に顔面と両腕関節の内側にストロンゲストやベリーストロングの外用剤を塗布し, 症状に必要なランクよりも強いステロイド外用剤を処方するとともに, その使用法について適切な指導をしなかった旨主張する。
そこで, この点について検討するに, 前記認定のとおり, 被告Bは, 外来時には躯幹・四肢にベリーストロング又はストロンゲストクラスのステロイド外用剤を塗布する処置をし, 顔面にはミディアムクラスのステロイド外用剤を処方するなど部位に応じてステロイド外用剤を処方しており, その使用方法については, 概ね1日に2回と指導していること, 外来では, 原告が顔面に処置することを希望しなかったため, 顔面にはステロイド外用剤を塗布する処置を行っていないこと(なお, 原告は, 顔面にも塗布された旨供述するが, 被告Bの供述に照らし, 採用できない。)などに照らすと, その使用方法などに不適切な点があったと認めることはできない。
(3)原告は, アトピー性皮膚炎の治療のためには, アレルゲンの検査を行い, 悪化原因を知って生活指導を行うことが必要であるにもかかわらず, 被告Bが, その検査を行わなかった上, 悪化原因の手掛かりとなるカルテを廃棄し, 原告に対し, 生活指導を行わなかった旨主張する。
そこで, この点について検討するに, 前記認定のとおり, 薬物療法により治療の目的を達成することがせきない場合には, アレルゲンの検索を行う必要があるが, その決定は必ずしも容易ではなく, これを明らかにし得た場合でも, アトピー性皮膚炎は多因子性であり, アレルゲン除去は薬物療法の補助療法であり, これのみで完治が期待されるものではないことが認められるから, その当時, 医師の法的義務として, アレルギー検査などによりアレルゲンの検索を行う注意義務があるとまでいうことはできない。したがって, 被告Bがアレルギー検査を行わなかったとしても, 治療上の過失はないというべきである。また, 「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」によれば, アトピー性皮膚炎の患者に対しては生活指導を行うことが必要であるとされているところ, 被告Bは, 治療開始時に, すべての患者に対し, 毛類を避け, 刺激の少ない衣類を着用する, 熱いタオルや蒸しタオルでこするようなことをしないなどと症状を悪化させないよう注意を行って生活指導をしてきたことが認められる(被告B)。したがって, 被告Bが生活指導を行わなかった旨の原告の主張は採用できない。
4 被告Cの責任について
(1)原告は, 被告Cが, ステロイド内服薬を投与すべき適応がなかったにもかかわらず, 原告に対し, ステロイド内服薬であるプレドニゾロンを処方したものであり, 仮に適応ケースであったとしても, 症状を抑制し得る十分量を初期値とし, 症状の改善とともに減量し, 数週間で中止すべきであったと主張する。
そこで、この点について検討するに, 上記認定のとおり, ステロイド内服薬の使用については, 急激な変化を来した場合, 外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用する場合, 結婚式などを控え, 一時的に寛解しなければならない必要性がある場合などにその使用の適応性があると考えられている。また,アトピー性皮膚炎の重症例の場合,体重1キログラム当たり0.5ミリグラムのプレドニンを1ないし2週間使用し,軽快した時点から徐々に1ないし2週間の単位で5ミリグラム程度の減量を行って中止を目指すのが通常であり,長期にステロイド内服薬を連用することは通常ないが,重症例でステロイド外用剤による効果が十分得られない場合には,ステロイド内服薬を少量継続することにより寛解を目指すことも例外的に容認し得るものであり,その使用量,期間は担当医師により決定されていることが認められる。
これを本件についてみるに,被告Cは,昭和63年1月23日の初診時において,かなり長期を要する難治性のアトピー性皮膚炎と診断し,ステロイド外用剤であるビスダームクリーム(ベリーストロング)5グラムをフェナゾールに混合して処方し,同月26日の診療時には投薬せず,同年2月1日には初診時と同様に処方したが,発疹が悪化したため,同月6日にはステロイド外用剤であるキンダベート軟膏(ミディアム)5グラムに変更して処方し,同月9日にキンダベート軟膏10グラムを処方したこと,同月17日にはキンダベート軟膏10グラムを継続して処方したが,顔面には強いステロイド外用剤を処方すると,その離脱が困難なため,ステロイド内服薬であるプレドニゾロンを間欠的に併用する方針を立て,4錠(1日2回)を5日分処方したこと,その後,キンダベート軟膏の処方を継続しながら,同年2月26日にはプレドニゾロン4錠(1日2回)を5日分処方し,同年3月2日にはプレドニゾロン2錠(1日2回)に減量して10日分を処方した後,同年5月2日には1日置きに使用するよう指示してプレドニゾロン2錠(1日2回)を5日分処方し,同年9月17日までの間,プレドニゾロン2錠を間欠的に処方していたことが認められる。
そうすると,被告Cは,ステロイド外用剤のみでは十分に寛解しない際に補助的に使用したものと考えられるから,ステロイド内服薬を投与すべき適応がなかったいうことはできない。また,原告が主張するように症状を抑制し得る十分量を初期量とし,症状の改善とともに減量し,数週間程度で中止すべき義務はなく,プレドニゾロンを継続使用することにより寛解を目指すことも例外的に容認されているところ,鑑定の結果によれば,その使用量は重大・な副作用を懸念させるものではなく,担当医の裁量の範囲内にあることが認められる。
したがって,プレドニゾロンの使用について被告Cに過失がある旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は,ステロイド内服薬を処方する場合,重篤な副作用が出現する可能性があるから,患者に対し,使用の必要性及び副作用について理解できるよう説明し,その承諾を得るべきであったにもかかわらず,被告Cがこれを怠った旨主張する。
そこで,この点について検討するに,原告が主張するとおり,被告Cがステロイド内服薬を処方するに当たり,原告に対し,使用の必要性及び副作用について説明しなかったとしても,その義務違反により原告にその副作用が生じたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告Cに対し説明義務違反があったことを理由に損害賠償を請求することはできない。
5 被告Eの責任について
(1)原告は,F医師が,原告の顔面に発症していた酒さ様皮膚炎を見落とし,昭和63年12月15日の初診時から平成2年8月27日までの約1年8月間,原告の顔面にステロイド外用剤を連用した旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,原告は,A病院,Bクリニックでステロイド外用剤を処方され,さらに,C皮膚科でステロイド外用剤及びステロイド内服薬を処方されており,ステロイド外用剤などの処方通算期間が長期間にわたっている症例ほどその副作用が出現する可能性が高いこと,昭和63年9月26日にD大学病院皮膚科で診察を受けた際,担当医師から,アトピー性皮膚炎,ステロイド酒さと診断されていることが認められる。
しかしながら,D大学病院皮膚科におけるその後の経過をみるに,原告は,同年11月15日まで通院して治療を受けているが,初診時以外には,「ステロイド酒さ」の症状はなく,この期間中,ステロイド外用剤を処方されたこと,また,この症状は非常に軽いものであり,最終診療日にはまったく心配のいらない状態になっていたこと(証人△医師),D大学病院皮膚科作成の同日付けのE皮膚科あての紹介状には,一時悪化していたが,現在はリンデロンDPなどの処方により軽快している旨の記戟がなされているものの,ステロイド外用剤の副作用をうかがわせる記載がないこと(乙D1),E皮膚科における初診当時,顔面の乾燥状態が非常に強く認められるところ,これは酒さ様皮膚炎ではあり得ない高度の乾燥状態である上,E皮膚科に通院期間中,原告の顔面には浮腫が認められたが,酒さ様皮膚炎は,境界鮮明な浮腫を伴った紅斑上に多発の膿庖が見られ,強い灼熱感を伴うのが通常であり,これらを総合して診断すべきところ,E皮膚科に通院期間中,原告の顔面に膿庖がない上,顔面の浮腫はアトピー性皮膚炎の顔面の急性炎症の症状として通常見られるものであるから,浮腫の存在のみで酒さ様皮膚炎の存在を診断すべきでないこと(鑑定の結果)などからすると,原告がE皮膚科で通院していた期間中にステロイド外用剤の副作用である酒さ様皮膚炎が生じたと認めることはできない。
もっとも,○医師作成の平成5年8月13日付けの診断書(甲4)には,「特に顔面はステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹を認めた。」との記載があるが,ステロイド外用剤による副作用である酒さ様皮膚炎は,その使用中止により,1年以内には通常消失すること(鑑定の結果), 上記診断書にいう発赤,腫脹は,ステロイド外用剤による接触皮膚炎又はその中止によるリバウンドのいずれかであると考えられるが,ステロイド外用剤の中止により,数週間ないし数か月で消退するので,ステロイド外用剤を数年間使用していないならば,発赤,腫脹は別の原因によるものであること(乙D25)が認められ,これらの事情に照らすと,同日の受診時, 原告の顔面にステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹が認められた旨の上記診断書の記載は採用できない。
したがって,F医師が原告の顔面に発症していた酒さ様皮膚炎を見落とし,初診時以降約1年8月間にわたってステロイド外用剤を連用した旨の原告の主張は採用できない。
(2)原告は,ステロイド外用剤を中止すると,急激な皮膚症状の悪化が起こるから,原告を診察していたF医師としては,ステロイド外用剤の使用中止に当たり,適切な説明を行うべきであったが,F医師が,これを怠り,原告に対し,十分な説明をしなかった旨主張する。
そこで,この点について検討するに,前記認定のとおり,F医師は,昭和63年12月15日の初診時以降,原告に対し,ステロイド外用剤を処方していたが,D大学病院皮膚科では,なるべくステロイド剤を使用しないで治療するという方針に変わったので,平成2年5月ころ,F医師も,長期間これを投与している患者に対し,なるべく使用しない方針を立てたこと,同年7月5日の診療時,原告の皮膚症状が比較的良かったので,原告に対し,ステロイド外用剤を中止して様子を見ることとし,急にその投与を中止すると,リバウンド現象が生じアトピー性皮膚炎も悪化するので,定期的に通院してほしい旨説明したところ,原告が,今は忙しくて通院できないと答えたので,同年8月からステロイドの投与を中止する計画を立てたことが認められる。
以上によれば,F医師は,原告に対し,ステロイド外用剤を中止により,急激な皮膚症状の悪化が起こるから,定期的に通院するよう説明していたものというべきであるから,十分な説明を受けなかった旨の原告の主張は採用できない。
6 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
ーーーー(ここまで)ーーーー
川島鑑定書のキモは、
①顔面へのステロイド外用の副作用で中止後リバウンドを経てよくなってしまうとすれば、それは『狭義の酒さ様皮膚炎』であって、そのためには膿疱が必須条件だ。
②膿疱を伴わない悪化や軽快は、全てアトピー性皮膚炎の悪化や軽快である。
③アトピー性皮膚炎の顔に膿疱が出来た場合は、酒さ様皮膚炎ではなく、毛のう炎を第一に疑うべきである(注:下記鑑定事項(補充)の四)。
と、裁判官に強く印象付けた点だと思います。 ①②③に従えば、要するにアトピー性皮膚炎の顔には、ステロイド外用剤によってリバウンドを起こすような副作用は生じない、となります。
なぜなら、健常人であれば、軽度の酒さ様皮膚炎であっても気が付きやすいでしょうが、アトピーの場合は、重症化して膿疱が出現するまでは、酒さ様皮膚炎の診断はできないということになるし、膿疱が出現しても、毛のう炎の合併と診断すべきだ、ということになるからです。
川島氏を納得させられる「酒さ様皮膚炎を合併したアトピー性皮膚炎」の臨床像を、私はイメージできません。Kligmanが「Steroid addictionはアトピー性皮膚炎においてこそ生じやすい」と記したのとは正反対の結論が導かれます。
酒さ様皮膚炎は、「事案の概要」で原告が主張している「ステロイド皮膚症」とは、まったく異なるものです。裁判所は、川島鑑定によって、原告が主張していた、アトピー性皮膚炎におけるステロイド皮膚症の問題を、酒さ様皮膚炎と混同してしまったのであろうと、私は考えます。
さて、このケースは、経過から、私はステロイド皮膚症、すなわちKligmanの言うSteroid addiction(ステロイド依存)があっただろうと考えます。D大学病院やE皮膚科のF医師が「ステロイド酒さ」と診断し、離脱を勧めていたことも、そう考える大きな根拠です。
現在、この方が、どうお過ごしなのかは知りません。1992年のニュースステーション取材時には、かなり良くなっていたようですが、「平成5年(1993年)8月13日付けの診断書(甲4)には,特に顔面はステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹を認めた。」とありますから、再燃があったのかもしれません。しかし、D大学病院およびE皮膚科通院時には、ステロイド皮膚症の状況にあり、脱ステロイド以外に選択肢は無かったと思います。
原告は控訴、上告し、2004年と2005年にそれぞれ棄却されました。
この判決は、日本の皮膚科医に大きな教訓を残しました。それは、自分が診ている患者にステロイド依存の疑いがあっても、そう診断し、離脱を勧めることは、自らの非を認めることとなり、最悪、このケースのように、その患者から訴えられることもある、というものです。脱ステロイドを実践しようという若い皮膚科医が現れないのも当然でしょう。
また、日本皮膚科学会が、頑としてステロイド依存の存在を認めず、若手の皮膚科医たちへの統制を敷いているのも、この訴訟の経験が大きいと私は思います。日本皮膚科学会から見ると、この訴訟は、一つの成功モデルであるわけです。
私が昔呼びかけた「この問題は皮膚科がかかえる不良債権のようなものだから、皆で手分けをして診ていこう」という提案よりも、「徹底的にしらを切り通せばうまくいくみたいだ」という方に落ち着いた、ということです。
患者の皆さんにとっての教訓は、記事表題の通り、「医師に過失が無くてもステロイド皮膚症には陥る」です。
背筋に水かけられたみたいな気持ちになる怖い話だと思いますよ。
とにかく、ステロイド外用について、現実問題として、医者が責任を取ってはくれない、責任を取らせるのは難しいのですから、自己責任の自己判断で道を進んでいくしか無いということです。
鑑定事項 (補充)
ー mediumないしweakクラスのステロイド外用剤を顔面に継続して使用した場合、 どの程度の期間継続使用するとステロイド外用剤の副作用は生じるのでしょうか。 また、期間について明確な回答が困難な場合、鑑定人自身は、当時顔面にmediumないしweakクラスのステロイド外用剤を使用するに際し、その継続使用可能な期間にっいて、どのような基準を持っていたのでしょうか。 '
(理由) 甲一四によると、「薬効上mediumといえどもステロイド外用剤 (ロコイド、キンダベートなど) が顔面に連日ーか月以上使用されている場合には、その副作用、特に酒さ様皮膚炎を念頭において同部へ の外用を中止させなければならない。」 「顔面へのステロイド外用は5 g、10日間までというのがーつの目安」との記載がある。甲三一には、「顔面、頸部・・・では皮膚が薄く、吸収性が高いため、mild, weakのステロイド剤をできるだけ短期間、少量用いる方がよい。酒さ様皮膚炎は顔面に長期ステロイド剤を外用した結果生じるものである。」「mild以下のステロイド剤でも長期に使用すると、皮膚萎縮、毛細血管拡張や局所の感染症を誘発する。」 との記載があり、連用期間についてのおおよその基準は想定できるのではないかと思われるため。
ステロイド外用剤を継続使用した場合に酒さ様皮膚炎、皮膚萎縮、血管拡張などの副作用をみる までの期間については、外用量、外用方法 (連用か、間欠か)、皮疹の性状、患者個人の皮膚の性状 などの要素により異なり、一概には言えない。ミディアムクラスで、連日1日2回外用したとすると、1ヶ月以上継続すると皮膚萎縮、血管拡張を生じる例が一部ではみられると思われるが、酒さ様皮膚炎はさらに長期の運用で生じるものであり、3ヶ月程度の運用の結果と考える。なお、酒さ様皮膚炎は、20年前ころにしばしば遭遇した副作用であり、健常人が化粧の下地として連日使用して生じたものがほとんどである。近年のアトピー性皮膚炎患者の顔面の皮疹が酒さ様皮膚炎であるとする考え方は否定的である。 その理由としては、酒さ様皮膚炎はステロイド外用剤の中止により、1年以内には通常消失するものであり、近年の顔面の症状は、ステロイド外用中止後も数年にわたって軽快が見られないものがほとんどであること。 さらには、アトピー性皮膚炎患者の顔面の皮疹の多くが、タクロリムス軟膏の外用で速やかに軽快することからも、アトピー性皮膚炎そのものの症状であるととらえられている。
二 鑑定補充書の二に 「接触皮膚炎などの合併は看過されることはないと思われる。」 とありますが、 アトピー性皮膚炎のみの皮膚症状と、アトピー性皮膚炎と接触性皮膚炎を合併した場合の皮膚症状は、 視診上どのように相違するでしょうか。また、視診上明確な相違がないとしたら、両者の鑑別は、ステロイド外用剤を中止して経過を観察するしか方法はないのでしょうか。
接触皮膚炎などの合併を皮膚科診療を専門とする医師が看過することは考えにくい。なぜなら、アトピー性皮膚炎に接触皮膚炎を合併すると、左右非対称性に急激に湿潤した浮腫性紅斑が生じてくることから、臨床症状の観察を継続的に行っていれば、その変化に気づくことは当然と思われるからである。
三 鑑定補充書の四において、ステロイド内服に関しては体重1kg当たり0.5mg/日を目安とすべきとありますが、その場合、どの程度の期間ならば連続使用してよいのでしょうか。その基準に照らすと、本件のC医師の行ったステロイド内服薬の投薬量及び期間は適切といえるでしょうか。
重症例で考慮される体重1k g当たりプレドニン0.5 m gの初期量は、1,2週間で通常は症状の軽快が得られる量であり、その時点から徐々に減量する。その後は1, 2週間の単位で5 m g程度の減量を行い、中止を目指すのが通常である。長期にステロイド内服を連用することは通常はないが、欧米では、 ステロイド内服剤と同様な免疫抑制剤であるシクロスポリンの長期内服療法がアトピー性皮膚炎の重症例に行われており、本邦でも治験中であり、本症の重症例で外用剤での十分な効果が得られない場合には、ステロイドないしシクロスポリンなどの免疫抑制剤の少量内服を継続することで寛解維持を目指すことも、例外的ではあるが、容認しうるものであろう。すでに鑑定書に述べたように、C医師の245日で200錠のプレドニン内服は、 その投与量から判断すると寛解維持量として過量とは思われない。
四 鑑定補充書の五の1に、「酒さ様皮膚炎を思わせる症状 (灼熱感、膿疱、浮腫など) の記載は明らかではない」 とありますが、被告Bの診療録 (乙B一) に散見される 「pustule(膿疱)」の記載及び被告Eの診療録 (乙D一) に散見される「浮腫」の記載は、酒さ様皮膚炎の症状ではないのでしょうか。
酒さ様皮膚炎は、境界鮮明な浮腫を伴った紅斑上に膿疱の多発をみるものであり、強い灼熱感を 伴うのが通常であり、これらを総合して診断する。すなわち、膿疱の存在、浮腫の存在のみで酒さ様皮膚炎と診断するものではなく、膿疱はざ瘡 (にきび)、毛嚢炎などをまずは想起させるものであり、浮腫はアトピー性皮膚炎の顔面の急性炎症症状として通常みられるものである。 よって、これらの存在のみで酒さ様皮膚炎の存在を想起させるものではない。
五1 鑑定補充書の五の3に、「外来処置で顔面に使用する際には、1回の処置で高々2 g程度を外用することが通常であろう。」 との記載がありますが、これは、被告Bが、外来処置において、ダイアコートCゃマイザーC等のstrongestやvery strongに当たる強いステロイド外用剤を顔面に使用したことを前提とし た回答でしょうか。
顔面の面積を考慮すれば、すべての外用剤について言えることであるが、高々2gで十分に全体の皮疹を治療し得るという意味であり、ステロイド外用剤の強弱には関係しない。強いステロイドを選択するか否かは、症状の程度によるものであり、原則的にはストロング以下のステロイド外用剤を選択するが、 それでは十分な軽快が得られないと判断した場合には、ベリーストロング以上のクラスを1, 2週間程度十分な観察を行いながら使用することは起こり得る。その場合、皮疹が顔面全体にみられるとしたら、2 g程度を外用することは生じうる。
2 原告は、被告Bが、外来処置でstrongestやvery strongに当たる強いステロイド外用剤を原告の顔面と両腕の関節から下の内側部分のみに塗り、原告が家では主に顔面に使用することを知りながら、strongestやvery strongに当たるステロイド外用剤を五~10日分として五~10グラム処方したと主張していますが、仮にこのことを前提とすると、被告B医師は、ステロイド外用剤を適切に選択し使用していたといえるでしょうか。
1日当たり1g程度の処方量は、症状の強い急性期であれば過量ではない。ステロイド外用剤の強さについては、症状の程度によるために適切か否かは与えられた資料では十分には判断できないが、前述したように十分な観察のもとであれば、使用することは容認される。
六 鑑定書の九頁一行目及び鑑定補充書の六に、「調書」の記載から判断とありますが、具体的には誰の調書の何頁部分を指すのでしょうか。
鑑定書の九頁一行目の 「調書」 とは、第25回口頭弁論調書21頁から23頁を指し、鑑定補充 書の六の「調書」とは、第25回口頭弁論調書22頁の 「顔面は乾燥症状が非常に強く」 という、酒さ様皮膚炎ではありえない、高度の乾燥症状を指摘していることからである。
2012.11.05
さて、このケースは、経過から、私はステロイド皮膚症、すなわちKligmanの言うSteroid addiction(ステロイド依存)があっただろうと考えます。D大学病院やE皮膚科のF医師が「ステロイド酒さ」と診断し、離脱を勧めていたことも、そう考える大きな根拠です。
現在、この方が、どうお過ごしなのかは知りません。1992年のニュースステーション取材時には、かなり良くなっていたようですが、「平成5年(1993年)8月13日付けの診断書(甲4)には,特に顔面はステロイド剤長期外用によると思われる発赤,腫脹を認めた。」とありますから、再燃があったのかもしれません。しかし、D大学病院およびE皮膚科通院時には、ステロイド皮膚症の状況にあり、脱ステロイド以外に選択肢は無かったと思います。
原告は控訴、上告し、2004年と2005年にそれぞれ棄却されました。
この判決は、日本の皮膚科医に大きな教訓を残しました。それは、自分が診ている患者にステロイド依存の疑いがあっても、そう診断し、離脱を勧めることは、自らの非を認めることとなり、最悪、このケースのように、その患者から訴えられることもある、というものです。脱ステロイドを実践しようという若い皮膚科医が現れないのも当然でしょう。
また、日本皮膚科学会が、頑としてステロイド依存の存在を認めず、若手の皮膚科医たちへの統制を敷いているのも、この訴訟の経験が大きいと私は思います。日本皮膚科学会から見ると、この訴訟は、一つの成功モデルであるわけです。
私が昔呼びかけた「この問題は皮膚科がかかえる不良債権のようなものだから、皆で手分けをして診ていこう」という提案よりも、「徹底的にしらを切り通せばうまくいくみたいだ」という方に落ち着いた、ということです。
患者の皆さんにとっての教訓は、記事表題の通り、「医師に過失が無くてもステロイド皮膚症には陥る」です。
背筋に水かけられたみたいな気持ちになる怖い話だと思いますよ。
とにかく、ステロイド外用について、現実問題として、医者が責任を取ってはくれない、責任を取らせるのは難しいのですから、自己責任の自己判断で道を進んでいくしか無いということです。
鑑定事項 (補充)
ー mediumないしweakクラスのステロイド外用剤を顔面に継続して使用した場合、 どの程度の期間継続使用するとステロイド外用剤の副作用は生じるのでしょうか。 また、期間について明確な回答が困難な場合、鑑定人自身は、当時顔面にmediumないしweakクラスのステロイド外用剤を使用するに際し、その継続使用可能な期間にっいて、どのような基準を持っていたのでしょうか。 '
(理由) 甲一四によると、「薬効上mediumといえどもステロイド外用剤 (ロコイド、キンダベートなど) が顔面に連日ーか月以上使用されている場合には、その副作用、特に酒さ様皮膚炎を念頭において同部へ の外用を中止させなければならない。」 「顔面へのステロイド外用は5 g、10日間までというのがーつの目安」との記載がある。甲三一には、「顔面、頸部・・・では皮膚が薄く、吸収性が高いため、mild, weakのステロイド剤をできるだけ短期間、少量用いる方がよい。酒さ様皮膚炎は顔面に長期ステロイド剤を外用した結果生じるものである。」「mild以下のステロイド剤でも長期に使用すると、皮膚萎縮、毛細血管拡張や局所の感染症を誘発する。」 との記載があり、連用期間についてのおおよその基準は想定できるのではないかと思われるため。
ステロイド外用剤を継続使用した場合に酒さ様皮膚炎、皮膚萎縮、血管拡張などの副作用をみる までの期間については、外用量、外用方法 (連用か、間欠か)、皮疹の性状、患者個人の皮膚の性状 などの要素により異なり、一概には言えない。ミディアムクラスで、連日1日2回外用したとすると、1ヶ月以上継続すると皮膚萎縮、血管拡張を生じる例が一部ではみられると思われるが、酒さ様皮膚炎はさらに長期の運用で生じるものであり、3ヶ月程度の運用の結果と考える。なお、酒さ様皮膚炎は、20年前ころにしばしば遭遇した副作用であり、健常人が化粧の下地として連日使用して生じたものがほとんどである。近年のアトピー性皮膚炎患者の顔面の皮疹が酒さ様皮膚炎であるとする考え方は否定的である。 その理由としては、酒さ様皮膚炎はステロイド外用剤の中止により、1年以内には通常消失するものであり、近年の顔面の症状は、ステロイド外用中止後も数年にわたって軽快が見られないものがほとんどであること。 さらには、アトピー性皮膚炎患者の顔面の皮疹の多くが、タクロリムス軟膏の外用で速やかに軽快することからも、アトピー性皮膚炎そのものの症状であるととらえられている。
二 鑑定補充書の二に 「接触皮膚炎などの合併は看過されることはないと思われる。」 とありますが、 アトピー性皮膚炎のみの皮膚症状と、アトピー性皮膚炎と接触性皮膚炎を合併した場合の皮膚症状は、 視診上どのように相違するでしょうか。また、視診上明確な相違がないとしたら、両者の鑑別は、ステロイド外用剤を中止して経過を観察するしか方法はないのでしょうか。
接触皮膚炎などの合併を皮膚科診療を専門とする医師が看過することは考えにくい。なぜなら、アトピー性皮膚炎に接触皮膚炎を合併すると、左右非対称性に急激に湿潤した浮腫性紅斑が生じてくることから、臨床症状の観察を継続的に行っていれば、その変化に気づくことは当然と思われるからである。
三 鑑定補充書の四において、ステロイド内服に関しては体重1kg当たり0.5mg/日を目安とすべきとありますが、その場合、どの程度の期間ならば連続使用してよいのでしょうか。その基準に照らすと、本件のC医師の行ったステロイド内服薬の投薬量及び期間は適切といえるでしょうか。
重症例で考慮される体重1k g当たりプレドニン0.5 m gの初期量は、1,2週間で通常は症状の軽快が得られる量であり、その時点から徐々に減量する。その後は1, 2週間の単位で5 m g程度の減量を行い、中止を目指すのが通常である。長期にステロイド内服を連用することは通常はないが、欧米では、 ステロイド内服剤と同様な免疫抑制剤であるシクロスポリンの長期内服療法がアトピー性皮膚炎の重症例に行われており、本邦でも治験中であり、本症の重症例で外用剤での十分な効果が得られない場合には、ステロイドないしシクロスポリンなどの免疫抑制剤の少量内服を継続することで寛解維持を目指すことも、例外的ではあるが、容認しうるものであろう。すでに鑑定書に述べたように、C医師の245日で200錠のプレドニン内服は、 その投与量から判断すると寛解維持量として過量とは思われない。
四 鑑定補充書の五の1に、「酒さ様皮膚炎を思わせる症状 (灼熱感、膿疱、浮腫など) の記載は明らかではない」 とありますが、被告Bの診療録 (乙B一) に散見される 「pustule(膿疱)」の記載及び被告Eの診療録 (乙D一) に散見される「浮腫」の記載は、酒さ様皮膚炎の症状ではないのでしょうか。
酒さ様皮膚炎は、境界鮮明な浮腫を伴った紅斑上に膿疱の多発をみるものであり、強い灼熱感を 伴うのが通常であり、これらを総合して診断する。すなわち、膿疱の存在、浮腫の存在のみで酒さ様皮膚炎と診断するものではなく、膿疱はざ瘡 (にきび)、毛嚢炎などをまずは想起させるものであり、浮腫はアトピー性皮膚炎の顔面の急性炎症症状として通常みられるものである。 よって、これらの存在のみで酒さ様皮膚炎の存在を想起させるものではない。
五1 鑑定補充書の五の3に、「外来処置で顔面に使用する際には、1回の処置で高々2 g程度を外用することが通常であろう。」 との記載がありますが、これは、被告Bが、外来処置において、ダイアコートCゃマイザーC等のstrongestやvery strongに当たる強いステロイド外用剤を顔面に使用したことを前提とし た回答でしょうか。
顔面の面積を考慮すれば、すべての外用剤について言えることであるが、高々2gで十分に全体の皮疹を治療し得るという意味であり、ステロイド外用剤の強弱には関係しない。強いステロイドを選択するか否かは、症状の程度によるものであり、原則的にはストロング以下のステロイド外用剤を選択するが、 それでは十分な軽快が得られないと判断した場合には、ベリーストロング以上のクラスを1, 2週間程度十分な観察を行いながら使用することは起こり得る。その場合、皮疹が顔面全体にみられるとしたら、2 g程度を外用することは生じうる。
2 原告は、被告Bが、外来処置でstrongestやvery strongに当たる強いステロイド外用剤を原告の顔面と両腕の関節から下の内側部分のみに塗り、原告が家では主に顔面に使用することを知りながら、strongestやvery strongに当たるステロイド外用剤を五~10日分として五~10グラム処方したと主張していますが、仮にこのことを前提とすると、被告B医師は、ステロイド外用剤を適切に選択し使用していたといえるでしょうか。
1日当たり1g程度の処方量は、症状の強い急性期であれば過量ではない。ステロイド外用剤の強さについては、症状の程度によるために適切か否かは与えられた資料では十分には判断できないが、前述したように十分な観察のもとであれば、使用することは容認される。
六 鑑定書の九頁一行目及び鑑定補充書の六に、「調書」の記載から判断とありますが、具体的には誰の調書の何頁部分を指すのでしょうか。
鑑定書の九頁一行目の 「調書」 とは、第25回口頭弁論調書21頁から23頁を指し、鑑定補充 書の六の「調書」とは、第25回口頭弁論調書22頁の 「顔面は乾燥症状が非常に強く」 という、酒さ様皮膚炎ではありえない、高度の乾燥症状を指摘していることからである。
2012.11.05